特集 ● 2025年11月・秋

見えない左、右への落石は山体崩壊の兆か

継続する参政党現象とN党の凋落、石丸新党は消滅へ

大阪公立大学人権問題研究センター特別研究員 水野 博達

はじめに~時代の転換が若い世代の思考に表出か

米ソ対立の体制間矛盾がありながら、戦後世界は国連などの国際機関の機能によって何とか曲がりなりにも「安定」を保ってきた。ソ連崩壊後、世界を新自由主義・グルローバリズムが席巻した。新型コロナ感染症パンデミックにより、その黄昏が明らかとなった。ヨーロッパに右翼政党が跋扈し、トランプが米国大統領に再選された。国連の安全保障理事会は機能不全となり、世界の平和と安全・安定に寄与してきた各種の国際機関も十分な役割を果たせなくなっている。今やトランプ大統領は、国際法と世界秩序を無視する最大の「ならず者国家の暴君」よろしく国の内外で振る舞っている。

混迷と動揺の中にある国際政治。日本の社会・政治状況も、世界的な時代の転換の波と無縁ではありえない。自民党は、長引く経済停滞と物価高、「政治とカネ」の問題で、国民の支持をなくし、衆参両院の選挙で敗退し、自公政権は「小数与党」に転落した。しかし、立憲民主、国民民主、維新の会などの主要野党は、自民党政権を倒して政権交替を勝ち取る共通の意思を形成できず、悪戯に「多党化」の中で、一番に政権に近づくことを狙って泳ぐだけであった。日本の政治が「中道」から右へと流れる中で、左の旗が、見えないのだ。

公明党が連立政権から離脱すると、高市・自民党は、維新の会を連立に組み入れる。自・維連立政権は、安倍政権の経済政策を踏襲し、「中道保守」を捨て右へ。憲法改正、国防強化、国家情報局創設・スパイ防止法制定、外国人への規制強化など排外的な国家主義と、男系の天皇制強化・選択制夫婦別姓反対など復古主義の政治基調の進行である。

政権の右へのシフトだけに留まらない。SNS等を多用した新興小政党が、従来の規範を破る選挙への関りも生まれ、超保守主義の参政党が躍進をはじめた。国民民主党や維新の会、れいわ新撰組などのポピュリズム的政策は、社会の改革の展望を欠いた「細切れ提案」であった。これらのことは、本誌前号(注1)で筆者が指摘したことである。

現状の高市・右派政権への高い支持率は、世論の右傾化とも言える政治状況でもある。若い世代ほど右派的な政党・政権へ支持を寄せている。この日本の政治の現在地をどう見るか、改めて検討することが必要だ。

公明党が一方的に連立から離脱したのか?

10月10日、公明党が連立政権離脱。26年間続いた自公政権に終止符が打たれた。

高市早苗総裁の連立交渉について、自民党国対委員長を務め、衆議院議長も務めた大島理森は、「自公を前提に野党とも連立を模索するのは必然でした。ただ外から見て、手順にはいささか慎重さと深慮が欲しかったとも思います。長年連携してきた公明へのリスペクトが少し欠けていた感は否めません」(朝日新聞10月24日、「多党化時代の野党」)と述べている。

公明党との連立が危機的な様相を呈すると、高市総理は、「公明党との連立は前提であり、欠くことのできないことと考えてきた」と述べ、公明との連立は、前提で最重視していると繰り返し強調した。

しかし、この表明は高石総裁・自民党の本音であったかどうかは、極めて疑わしい。

公明党と連立継続の協議をする前に、秘密裏に国民民主党・玉木雄一郎と連立交渉を行っていた。この事実は、自民党が国民民主党を連立に引き込むことで、公明党の政権の内での影響力を抑制することを意味した。実際、麻生太郎が、キングメーカーとなって高市を自民党総裁に押し上げ、自民党の執行部中枢に麻生を副総裁として据えた。そして、旧安倍派の裏金に責任がある萩生田光一を幹事長代行に登用した。

麻生派は、従来から公明党との連携については否定的であり、萩生田幹事長代行の登用は、「政治とカネ」の問題をなかったことにする自民党の姿勢を示したことになる。高市総裁の自民党執行部選定の人事と「連立協議」の動きは、公明党からすれば、「連立パートナーを平手打ちするような対応」であったのである。

高市総裁は、「公明党から一方的に連立離脱を告げられた」と、離脱は、公明党の一方的な決定であると述べているが、それは、政治の表の話で、実際は、巧みに公明党が、連立政権から離脱するように仕向けたのである。自民党の政策展開に対して、「平和と福祉」を党是とする公明党から受ける「歯止め」を外し、右への政策展開のために、公明党を切ったと見るべきであろう。

先の参議院選挙で、自民党が敗退した一方で、参政党が躍進した。このことは、自民党内の右派から見れば、自民党が「リベラル化」した結果、自民党を支えて来た保守層のかなりの部分が、参政党に流れた結果である、という総括になる。自民党内の一連の「石破降ろし」や、自民党総裁選挙で高市への「票集め」の動きは、「旧安倍派」の巻き返しという「派閥間の権力闘争」というよりは、まさに、リベラル化した自民党を右へ取り戻すための動きであったのだ。

維新と連立した高市政権を支持する「民意」の中味は

高市総裁は、公明党の連立離脱を受けて、小数与党政権を脱するために国民民主党との連立を求める働きかけを強めたが、国民民主党は、「公明党が抜ければ国会で過半数にならない」という理由を立て、連立に応じなかった。連立に入るより、与党との政策協議で自党の政策実現を目指す党の立ち位置を改めて明確にした。党の最も有力な支援団体である「連合」が、自民党との連立政権に入ることに強く反対していたこともあったが、野党の立場で、小数与党政権に圧力をかけ、党の政策実現を目指す方が有権者の支持を拡大し、「野党第1党」の確たる位置を獲得することが、得策であると考えたのである。

国民民主に先を越された維新の会は、呼びかけに急いで応じ、連立交渉に臨んだ。かねてから検討してきた「副首都構想を自民党が同意すれば、連立に参加も」と言う考えに、社会保障費の減額と、「議員定数1割削減」(「政治とカネ」の課題のすり替え)の二つを加えて交渉に臨んだ。 

自民党と維新の12項目の「連立政権合意書」を見れば、自民・維新連立政権の政治基調は、国家主義、復古主義の右翼・保守主義であることは明らかである。

さて、高市政権に対する世論調査の結果は、概ね好意的である。その中味を検討すると、幾つかの矛盾と課題も見えてくる。朝日新聞が10月25,26日実施した世論調査を見てみよう。

① 高市内閣の支持率は68%で、男女別では、男性は73%、女性は63%と男性の方が高い。年代別に見ると30代以下の男性は支持が9割にのぼる。女性や高齢者層の支持が高めだった石破政権とは対照的で、男子や若年層の支持が高かった安倍政権と似ている結果となった。

② 女性初の首相の誕生に対する評価を見ると、「よかった」は85%で、「そうは思わない」は7%。「よかった」と答えた人の内閣支持率は74%で、全体の支持率68%を上回っている。年代別に見ると50代以下は「よかった」が9割前後を占め、70歳以上は73%と少し低めとなる。「女性初の首相の誕生」ということが好評価を生む理由の大きな一つとなっている。

③ 他方、男女格差をなくす取り組みが進むと思うかの問いには、「進む」は45%、「進まない」は41%と評価は割れている。「進む」は、男性が50%に対して、女性は、41%と少し厳しい評価をしている。
 なお、女性の首相の誕生が「よかった」という人でも「進む」は50%にとどまっている。これまでの首相の男系天皇の皇統を守れ、伝統的な家族制度を壊す選択的夫婦別姓に反対等ジェンダー平等に反する発言や主張から、「進まない」と考える人が多いことを示している。

④ 首相の保守的な政治姿勢については、「評価する」は57%で、「評価しない」は25%。「評価する」は、男性が64%で、女性は50%と男性の方が高かった。「評価する」は、若年層では多く、30代以下の男性では8割と高い。

⑤ 高市内閣を支持する理由を4択(「首相が高市さん」「自民党中心の政権」「政策の面」「他よりよさそう」)を選んでもらうと、「政策の面」が25%で最多となった。菅内閣、岸田内閣、石破内閣では、「他よりよさそう」が最多であった。「政策の面」を選んだ人は、菅内閣で13%、岸田内閣で8%、石破内閣で7%にとどまっていた。高市首相の経済政策に「期待できる」と答えた人は65%で、「サナエノミクス」が期待された結果であろう。
なお、「自民党中心の政権だから」は、菅内閣9%、岸田内閣10%、石破内閣6%で、高市内閣では、5%と低い。(*1)

⑥ 自民党は、「政治とカネ」の体質を変えられるかという問いに、「変えられない」は69%、「変えられる」は23%であった。高市内閣支持層でも「変えられない」は63%で、不支持層では92%と高い数値だ。(*2)

⑦ 政治に関するSNSや動画サイトの情報を「重視している」と答えた人の高市内閣支持は83%で、不支持は12%であった。発足直後の石破内閣では、「重視している」という人の支持率は42%、不支持は43%と大きな違いがある。

この調査による⑤⑥の(*1)(*2)のことは、高市内閣に対する好感度は高いのに、自民党への支持は20数%と低いままである。この落差は、「裏金問題(政治とカネ)は、解決済み」と言わぬばかりの高市政権と自民党にとって、アキレス腱であり続けることを示している。

しかし、この世論調査で最も注目すべきことは、④の「首相の保守的な政治姿勢について」である。「評価する」は、若年層では多く、30代以下の男性では8割と高い結果をどう見るか。また、⑦のSNSや動画サイトの情報を「重視している」というメディアの問題である。この点については、以下の節で順次検討することにする。

新興政党、N党は凋落、石丸新党は消滅へ、そして参政党は

2024年7月の都知事選挙で候補者を乱立させた「NHKから国民を守る党」立花孝志らは、次いで、2024年11月の斎藤元彦兵庫県知事の県議会での不信任⇒再選挙で、自らの当選は目指さず、斎藤候補を当選させる「2馬力選挙」で話題をさらった。ネット上に不確かで意図的な虚偽情報を大量に流し、県議会を「既得権者」の悪者集団とし、斎藤知事を「改革者」として対立的に描き、斎藤候補の再選を演出した。この地方自治体選挙への「介入作戦」の成果を踏まえ、その後、幾つかの地方自治体首長選挙に臨んだが、立花は、すべて落選。以降、凋落の道を歩んでいる。

10月15日には、参議院自民党会派「自民党・無所属の会」にNHK党の斉藤健一郎参議院議員が入会した。斉藤健一郎は、これまで旧統一教会の支援を受けた経緯がある。この参院・自民党合同会派入りは、N党の自民党への吸収・消滅の道を開くものであるとともに、自民党が旧統一教会との癒着を新たに広げる可能性をはらんでもいる。 

なお、静岡県伊東市の田久保真紀市長が、市議会で再度の不信任となったが、彼女が市長選挙に立候補すれば、N党による兵庫県知事選挙と同様の「2馬力選挙」による介入も想定される。しかし、「柳の下の鰌はいない」であろう。N党のやり口は、もはや見透かされているからだ。

他方、石丸伸二は、都知事選で蓮舫候補を追い抜いて次点に昇りつめ、華やかなデビューを飾った。その勢いに乗って、地域政党「再生の道」を立ち上げ、2025年6月22日の都議会選挙に、35選挙区で候補者42人を擁立して挑戦。しかし、一人も当選者を出せず、落選した候補者は次々と離党した。続く参議院選挙も、完敗。石丸自身が「再生の道」の代表を降り、組織を離れることで、「消滅の道」を辿っている。

こうした二つの新興政党に比して、参政党は、7月20日の参議院選挙で、全国区7人、選挙区7人、計14人が当選し、大躍進。次いで、参政党は、「宮城県知事選挙は、国政を転換させるターニングポイント」と、神谷宗幣代表を先頭に、10月26日の宮城県知事選挙に介入した。

自民、公明(後に維新も)が支援する現職知事の村井嘉浩に対して、参政党は、元自民党参議院議員・和田政宗と政策協定を結び、宮城県以外からも党員・支持者を大動員し、全面的に支援した。

和田政宗は、宮城県で問題となっていた大規模ソーラパネル発電事業に反対であり、元々政治信条が保守的であったことに着目した参政党は、和田と政策協定を結んで、彼を全面的に支援することにした。和田候補の地元は、宮城県ではなく、地元の支援は薄く、選挙戦は、自民党籍を持つ候補というより、大動員して支援する「参政党の候補者」と言われてもおかしくない状態であった。 

選挙の争点の一つは、先に上げたソーラパネル事業であったが、最も関心を引き付けた争点は、宮城県が水道事業の運営を民間に委ねたことであった。委託企業の一つに外資系企業があることを大々的に取り上げ、「水道を外国に売った」と、排外主義大宣伝を行った。また、宮城県が、「土葬」の習慣のある外国人のために、土葬ができる墓地の開発を計画したことを問題にした。反グローバリズム、外国の文化・習慣の忌避という彼らの国粋主義に基づく煽動政治の展開であった。

選挙の結果は、当初、現職の村井候補が順当に当選すると思われていたが、和田候補との差は、僅か1万6千票弱で、かろうじて村井候補の勝利であった。「もし公明党が、もう少し早く連立政権から離脱していたら、和田候補が勝利したかも知れない」との声が聞かれる程、薄氷を踏む勝利であった。 

付け加えれば、保守分裂選挙でありながら、立憲と共産が支援した遊佐美由紀候補は、村井候補と和田候補の激しい選挙戦の中で、浮かび上がることができなかった。

これらの結果は、参政党にとって大勝利であった。参政党・神谷代表は、「知事選挙は、国政を転換させる契機となる」との確信を強め、北海道や沖縄など他の知事選にも候補者を立てる準備に入る模様である。

さて、ここからは、3つの新興政党の比較・検討をする。

3つの新興勢力の共通点は、SNSや動画サイトを多用することによって、従来、政治に関心の薄かった有権者、とりわけ、若者の支持を掘り起こすことに力を入れて来たことにある。

まず、N 党の宣伝・煽動の特徴を見よう。

その特徴は、兵庫県知事選挙でハッキリと表れた。既得権層によって隠された事実・真実、あるいは、秘密を暴露する形で人々を引き付けた。それは、売れっ子のYouTuberが、閲覧回数を稼ぎ、金銭的な利益拡大を積み上げる手法である。また、右翼団体が企業や行政、労組等に宣伝カーを乗りつけ、大音響で脅迫的な街宣を行うことを模倣することも伴っていた。

県の100条委員会では、公益通報を行った幹部職員を斎藤県知事が先導して懲戒処分にしたこと等について検討されていたが、通報者の個人的問題に関するメール内容は、プライバシーに関わるとして公表されていなかった。ところが立花孝志は、それを密かに入手し、そのプライバシーの内容を暴露し、スキャンダラスにSNSなどで投稿し続けた。100条委員会の中心議員を特定し、知事を追い詰めた「犯人」に仕立て上げ、自宅に押し掛け、生命の危険を感じさせるような街宣をおこない、その議員を自死に追いやった。そうした行動を画像配信することもした。人々の関心を引き付けるために、表出される言葉や行動は、粗野で、暴力的なものになり易い。

逆に言えば、スキャンダルになる材料が乏しい場合は、彼らの宣伝力、つまり、政治的力は十分発揮できない。兵庫県知事選挙の後、幾つかの地方自治体首長選挙に臨んだが、N党・立花は、すべて落選した。彼らの政治宣伝と政治力を発揮できる条件に掛けていたので、N党の特性を発揮できなかったからだ。

石丸伸二は、都知事選では、「政治の再建」「都市開発」「産業創出」の3つの目標を立てたが、「都市開発」と「産業創出」は、極めて抽象的で具体性に欠けていた。実際の選挙戦では、「政治屋がはびこる危機的な政治を変えよう」、そのためには「一人ひとりが自分の意思をもって政治に参加する(選挙の投票を行う)ことが、政治の再建に繋がる」と繰り返し訴えた。現状の政治に期待も関心も持てない人、とりわけ、若者に狙いを定めた訴えである。続く都議選では、新党「再生の道」を結成し、「議員の任期を2期8年までとする」との制限のみで、都民の生活と密接につながる都政に関わる政策は掲げない異例の方針をとった。 「何をしたいのか分からない」という当然の批判に「目的は政治参加を促すこと」であると反論し、「当選した議員がそれぞれ政策は考えていけばよい」とまで言い放っていた。

世界的にも、20代〜30代の若年層は、候補者の過去の実績よりも、人柄や発信内容に強く引き寄せられる傾向があり、具体的な政策よりも映像・SNSでの見せ方に依存する傾向が強いと言われる。実際、ある研究の調査では「映像の印象」で支持を決めたと答えた若年層が58.2%に上ったという。 石丸は、都議候補の選抜について、YouTubeで候補者への面接をSNSで公開し、候補者の年収や職歴を強調する手法を取った。政治の中身よりも演出が先行し、法制度や都市政策といった政策議論からは、距離を置いた。

石丸新党の選挙における有権者の支持獲得方法は、新しく見えて、実は、選挙は演出次第で勝ち負けが決まるイベント、と見なす傲慢かつ軽薄な政治思想を体現していた。日本政治の危機を語り、「政治の再建」を主張する石丸伸二こそが、人々の生活に寄り添うことをしない、独りよがりの「新手の政治屋」であったのだ。

NHK党、石丸新党と躍進する参政党との差異を考える

さて、参政党である。彼らの政治宣伝の方法も、SNSや動画サイトを多用する。この点は、N 党や石丸・新党とも共通である。参政党のその内容については、参議院選挙と宮城県知事選で述べたので、繰り返さない。

ここでは、N 党と石丸・新党が、人々の耳目を一時期賑わせるが、その後、急速に凋落と消滅の道を歩んだ。これに対して参政党は、それ以降も党勢を維持し、次なる政治目標に向かって、さらなる躍進を目指している。なぜそれが可能になっているのか。

N 党は、政治表現とその内容は、売れっ子のYouTuberと同質のものであり、党が実現しようとする政治目標は、もはやはっきりしない。それらは、もうどうでも良いように見える。ただただ、人びとの注目を集め、世間で目立つこと。それによって彼らの情報発信が金になることなのだ。彼らは、確かな政治的組織を持たず、流動する不特定多数から注目を集めることに関心があるからだ。

石丸新党は、東京ニュービジネス協議会のメンバーなどから5000万円の資金を借り受けるとともに、クラウドハンティングで政治資金を集めた。都議選の候補者を募集したが、応募者の内で合格した者のほとんどは、金融やIT関係の民間企業勤務者や経営者などで、合格者の77パーセントが年収800万円以上、64パーセントが1000万円以上で、政治経験のない人材であったと言う。石丸の職業歴と所属階層にも近しい者たちから、候補者を選んだことになる。つまり、石丸新党は、新自由主義が都市で大量に産み出した「新中間層」に依拠した集団形成であったことを物語っている。

石丸新党・「再生の道」は、都政に関わる政策を掲げなかった。党の政策とは、有権者の支持を獲得するために訴える中味であるが、それは、同時に、支持をしてくれる有権者との「約束」であり、「契約」の中味である。つまり、打ち出した政策は、有権者との契約・約束なのだから、党は、その政策に縛られることになる。都政の政策を掲げなかったと言うことは、都民に対して、石丸新党とその候補者へ無条件の全面支持を求めたことを意味する。

都知事選では、5000人超と言われる選挙ボランティアが集まったと言われるが、「再生の道」は、多数の都議選の候補希望者を集めたが、政党としての組織は、形作れなかった。都民の生活に直結する都政の政策がない(=都民との約束がない)中で、「目的は政治参加を促すこと」を主張しても、政治の凝集力は、生まれない。若年層だけでなく、一般に有権者は、候補者の人柄や発信内容に強く引き寄せられる傾向があるが、人口23、700人弱の広島県安芸高田市では通用したかも知れないが、党の代表・石丸伸二の発信力だけに依存した「再生の道」は、大都市・東京では、通用しなかったのである。

N 党と石丸・新党は、ともに政党としての政治的目標は(綱領的な文書などで)しっかりと定められていないこと。その都度、SNSや動画サイトを多用して支持を集めるが、その支持の波は、流動的で持続性に欠けており、政党としての組織実態は脆弱であること。この二つが両者に共通している。

他方で、参政党は、2025年参議院選挙前に、全国で287の支部を持ち、150人を超える地方議員を抱えており、全国政治の組織土台を持っていた。また、2025年5月には、「参政党が創る新日本憲法(構想案)」(注2)を作成していた。その内容は、一言で言えば、明治憲法を彷彿させる極めて復古的で、国権主義、国粋主義、排外主義であるが、一応、彼らは、党の国家観を創ろうとしているのだ。

ところで、兵庫県知事再選挙において、新聞やテレビの「オールド・メディア」は、SNSなどの「ニュー・メディア」に敗北したと言われた。確かに、情報媒体の問題は、政治意思の形成にとって大きな位置を占める。ドイツのナチ党は、当時の「ニュー・メディア」であった、ラジオと映像や、感覚にシャープに訴える印象的なポスターによって、党への支持と国民を戦争に動員することに成功していった。

今日のニュー・メディアであるSNSや動画サイトを多用した政治の宣伝・煽動は、人々の視覚、聴覚、皮膚感覚への刺激を通じて行われる。情報の受け手の側では、表出された映像・事柄等との距離感が取りにくく、表出された「世界」との一体化を引き起こし易い。しかし、それは瞬発的な感覚次元への作用が強いので、受け取った情報の背景にある様々な社会的な、あるいは歴史的な関連性と意味を内省的に捉えることができ難い特性を持つ。つまり、「映像の印象」で賛成・反対の選択をしてしまう危険性を孕んでいるのだ。現に、「日本人ファースト」なる参政党の政治主張の底辺に、先に挙げた彼らの国家観や政治的イデオロギーがあることまで考えたり、見抜いたりできる若者は、多くはなかったはずである。

時代は、若者を巻き込んで右へと巻き返されている。しかし、地域で、職場で、学校で、あるいは公共空間で無数の社会的課題に取り組む活動は、存在している。問題は、それらの取り組みや活動を社会変革に結び付けていく大きな物語がないことである。社会改革を推し進める左が見えないのだ。左の物語を紡ぎだす創造的な営為が求められている。

(追記)
 ニューヨーク市長選、民主社会主義者ゾーラン・マムダニの圧勝を祝す (2025年11月5日)

 

 

(注1) 「現代の理論」(デジタル版(42号、2025年8月)「2025参院選―組織された細切れの「民意」

(注2) 「参政党が創る新日本憲法(構想案)」は、復古的な国権主義、国粋主義、排外主義
 前文では、「八百万の神と祖先を祀り・・・心を一つにして伝統文化を継承し、産業を発展させ、調和のとれた社会を築いてきた。天皇は、いにしえより国をしらすこと悠久であり・・・これが今も続く日本の國體である」
 第4条では、「国は、主権を有し、独立して自ら決定する権限を有する。暦及び元号は、天皇が決定する権限を有する。国語は日本語、国歌は君が代、国旗は日章旗である。公文書は、必ず元号及び国語を用い・・」第5条では「国民の要件は、父または母が日本人であり、日本語を母国語とし、日本を大切にする心を有することを基本」、第19条では「外国人の参政権は、これを認めない。帰化した者は、3世代を経ない限り、公務に就くことができない。帰化の条件は、国柄の理解及び公共の安全を基準に、法律で定める」 第9条(教育)では3に「国語と古典素読、歴史と神話、修身,武道及び政治参加の教育は必修とする」 4に「教育勅語など歴代の詔勅、愛国心、食と健康、地域の祭祀や偉人、伝統行事は、教育において尊重しなければならない」等など。

みずの・ひろみち

名古屋市出身。関西学院大学文学部退学。労組書記、団体職員、フリーランスのルポライター、部落解放同盟矢田支部書記などを経験。その後、社会福祉法人の設立にかかわり、特別養護老人ホームの施設長など福祉事業に従事。また、大阪市立大学大学院創造都市研究科を1期生として修了。2009年4月同大学院特任准教授。2019年3月退職。大阪の小規模福祉施設や中国南京市の高齢者福祉事業との連携・交流事業を推進。また、2012年に「橋下現象」研究会を仲間と立ち上げた。著書に『介護保険と階層化・格差化する高齢者─人は生きてきたようにしか死ねないのか』(明石書店)。

特集/2025年11月・秋    

第42号 記事一覧

ページの
トップへ