コラム/発信
東京・杉並区政と区議会のいま―2025年秋
杉並区議会議員 奥山 たえこ
岸本カラーの区政を着々と進める
岸本聡子さんが杉並区長になって3年が経った。
遠くからは”羨ましく”見えるであろう杉並区政も、その内実は、議会(定数48名)最大会派の自民党(8名)、無所属+都民ファーストの会派(=無都、4名)、それに一人会派のうちの数名が、予算や決算に反対し、時には敵対的な発言をする。就任当初「議会との対話」を打ち出した新しい区長にとって、議会は毎回試練の場となっていると思える。
だが、その中にあって岸本区長は着々と自分の政策を形にしている。
・多文化共生基本方針作成
R6(2024)年4月から「杉並区多文化共生推進懇談会」を設置し、R7年1月に『杉並区多文化共生基本方針』 https://www.city.suginami.tokyo.jp/documents/19479/kihonhousin.pdf を発表した。この冊子の鏡文には、「私は区長に就任する前から、この魅力あふれる杉並区で、皆さんと多文化共生について考えていきたいと思っていました。」と、自らがヨーロッパで20年以上外国人として暮らし働いてきた来歴と動機について触れている。なお、方針の発行で終わることなく、その後バスツアーをするなどして、共生の実践をおこなっている。
・杉並区子どもの権利に関する条例
https://www.city.suginami.tokyo.jp/s053/kodomokenri/zyourei.html条例は2025(R7)年3月に成立した(賛成31、反対16)。
制定までにはまず、「杉並区子どもの権利擁護に関する審議会」を設置する(令和5年8月)ことから始まった。同時に子どもたちに直接意見を聞くなど特に丁寧に進行した(「子どもの権利に関する条例 制定までの取組」 https://www.city.suginami.tokyo.jp/s053/kodomokenri/index.html )。子どもワークショップも数回開催した。審議会答申をもとに検討した条例が出来た後は、「子どもの権利救済委員(区長の附属機関)」を設置(令和7年4月)、「子どもの権利相談・救済窓口」を同年9月に設置した。
なお同種のものは2000年頃から各地で制定されており、杉並区議会でも早い時期から、子どもの権利に関する質問が何度もなされていた。しかし当時の区政ではそれを実現する素地がなかった。岸本氏の就任と時代の趨勢により実現したと言える。
・杉並区ジェンダー平等に関する審議会
https://www.city.suginami.tokyo.jp/s001/533.html 答申出る
2025(R7)年9月の答申を受けて今後は条例の策定に進む予定である。数回の審議会を傍聴した議員からは、充実したやり取りがなされたと評価する感想が続いた。杉並区は「男女共同参画」ではなくて、1997(平成9)年「男女平等推進センター」が設置される(この名称の違いは大きな意味があります)など、それなりの動きはあった。しかし23区の中でも条例制定への取組みは遅かった。それが岸本氏の就任により条例制定の目処が立ったと言える。なお審議会設置議案(R6年9月。R6年議案59号)については、賛成31、反対16名だった。
まちづくりの難問続く
・阿佐ヶ谷駅北東地区まちづくり
前区長の計画のまま進めることを2024年1月に岸本氏がビデオメッセージで発表して一応落着した(反対する住民からは依然として批判されている)。2025年7月には新しい病院棟での開院にこぎつけた。この後は、病院の古い建物を撤去してその跡地に小学校を建設することになる。
ところが最近、大きな問題が表面化して先行きが見えなくなってきた。まずここの地盤は水脈の流れる地域であり水害の危険性のある軟弱地盤であること。また河北病院の土中には霊安室などの地下構造物があり、まだ環境基準などもない時代から続く病院には注射針などの廃棄がされており土壌汚染の危険が指摘されているなどは事前に分かっていた。区との協定では、病院側が構造物を撤去し汚染物を除去して土壌を入れ替えることになっている。ところが河北病院は地下構造物があった方が軟弱地盤の補強になるから、残したままで区に渡したいと主張しだした。議員には、河北の経営状況は楽ではない事情もあるから除去にこだわらないようにと主張する質問もあり、答弁では除去が約束になっているという平行線であった。土地の受渡しが今後どのように発展するのか、現時点では読めていない。
・善福寺川上流地下調節池建設工事
善福寺池を源流として杉並区を流れる善福寺川は古くから豪雨により氾濫してきた。特に2005(平成 17) 年9月4日の集中豪雨では1時間当たり100mmを超える記録的雨量により、周辺の住宅は冠水し駐車自動車などにも多大な被害を及ぼした。東京都は抜本的な対策として75mmまで対応できる地下トンネル式調節池を計画した。ところがこれは家屋の立退き(20世帯ほど)を伴うものであるのに、肝心の住民に知らされたのは、2023年8月の説明会チラシでだった。「もう決まりました」の直前である。工事区域の地上にある公園は10年間閉鎖されることになることにも住民は驚愕した。住民は声を上げて東京都に要請に動いた。
住民の主張では、すでにこれまでさまざまな対策がとられており、それなりに効果を上げていること、予算が1,000億円以上かかるとされていること。さらにこの事業のこの区間のB/C(ビーバイシー。費用対効果で1.0を超える必要がある)を明らかにしない東京都の不誠実な姿勢を追及している。岸本区長は、前区長の時代に区から要請した事業であり都の事業でもあって、すでに都市計画事業が決定していることから、反対を唱えることはしないものの、東京都に住民説明会の開催などを要請している。
選挙公約の検証に対する批判
区のサイト「区長のしごと」には、区長公約である「さとこビジョン」の実現に向けた取り組み」のコーナー https://www.city.suginami.tokyo.jp/s001/533.html がある。
2023(R6)年に、公約を項目に落とし、実現済み時期や予定などで分類して、その達成率と実現時期予想を発表した。すると、自民党会派などが反発を強めた。
まず、杉並区は「基本構想」を作成し、議会の議決を経た上でそれを基に総合計画・実行計画を作成する仕組みになっている。これが区の正式な政策である。一方、区長個人の選挙公約を区の職員が進捗状況をはかるなどは行政の中立性、公平性に欠けており、それは区政の私物化であるという主張である。それに対して区は、これまでもそれぞれの区長の政策について同様の検証を行ってきたのです。公表という形はとりませんでしたがという主張をしているが。溝は埋まっていない。
第三定例会
9月に、スマホを初めて購入する人600名に各3万円助成する事業を含む補正予算が提案された。財源は都からの補助金1200万円に区の負担600万円。これに対して、必要な人はすでに購入しているだろうし、スマホはランニングコストが月5千円ほどかかる(格安スマホは対象外とされている)ので、経済的なメリットはほぼないなどの反対意見が相次いだ。私奥山は修正案を作成し委員会に提出して反対したが、反対少数のため委員会では否決された。結局議案には、自民党など(奥山含む)15名が反対したものの少数であるので、可決となった。
決算特別委員会では、決算(一般会計)の認定に、27名が賛成、自民党他が19名が反対した結果認定された。
区長選挙動向
来年2026年6月に予定されている杉並区長選挙。前回187票差で惜敗した前区長田中良氏が立候補準備をしている。そのほかに保守系区議の出馬が噂されている。この人が出れば、これまでの選挙結果から見てかなり得票するだろうから、三つ巴の厳しい戦いになると思える。
おくやま・たえこ(妙子)
1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。東京都立大学法学部卒業。金融会社、派遣社員、出版社勤務。2003年杉並区議に初当選(無所属)。 23年5月から5期目、単身高齢者の貧困問題に取組む。趣味は焼き鳥屋で読書。
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