特集 ● 2025年11月・秋

ヨーロッパにおけるポピュリズムの進展を読む

公共政策決定における影響の有無

龍谷大学法学部教授 松尾 秀哉

はじめに

近年ヨーロッパにおけるポピュリズム政党の進捗が著しい。かつてから単一争点を掲げて既成政党に対抗する政党が選挙で支持されて連立政権に加わる現象はみられたが、そうした政党は政権に加わりその単一争点を政策とすることで役目を終えたとみなされたり、また政権党として様々な業務にかかわることで当該争点を政策化することができなかったりして、次の選挙では支持を失う「成功のゆえの失敗」がみられた。しかし、2015-16年あたりからヨーロッパを騒がしているポピュリズム政党は、それぞれに紆余曲折はありながらも生き残り続け、現在ではむしろ政権の一部に定着して「主流化」したとまでいわれるようになってきた。一瞬の泡沫政党と一蹴するわけにはいかなくなったことは認めざるをえない。

同様に、いったん選挙で負けながらも再び大統領として支持されたのはアメリカのドナルド・トランプである。おそらくヨーロッパで現在移民排斥などを謳うポピュリスト政党が支持されている背景に、トランプの「自国中心主義」が影響していることは間違いがない。アメリカが自国中心主義であるならば、どの国も自国中心主義でいかねば負ける。少なくとも「トランプ2.0」現象は、そうした他国のポピュリズム政党の「自国中心主義」を正当化しているようだ。そしていよいよ日本も「自国中心主義」の裏返しである外国人排斥政策を掲げる政党や人物が支持されているように映る(アメリカ大統領には従順のようだが)。

本稿では、ヨーロッパのポピュリズムの現状を改めて概観し、この先のヨーロッパ政治を、なお不明確なことだらけであることは承知で、展望してみたい。筆者の関心は、右派ポピュリスト政党が政権に就いたり、政権に影響するような状況になったりした現在、ではポピュリストはヨーロッパ各国の政策に影響しうるのかという点である。

本考察の結論は、まだ十分にポピュリズム政党は政策決定に影響を及ぼしうる状況にはなく、むしろその影響は既成政党次第である。現状、公共政策決定に影響を及ぼすのは既成政党で、もしポピュリズム政党が影響を及ぼすとしても、それは逆にポピュリズム政党の命運を左右することになるのではないか、というものである。

ヨーロッパの現状

特に注目しなければならないのは、トランプの再選(いわゆる「トランプ2.0」)のヨーロッパに対する影響だろう。トランプの再就任のころ、ハンガリーのヴィクル・オルバン首相は、「ドナルド・トランプ大統領の就任により欧州全土の右派政治勢力が勢いづくだろう」として「ブリュッセルを征服する」と公言していたThe Guaudian 20 Jan 2025 )。果たしてそのとおりになっているか。現時点の評価は難しい。以下、Rosa Balfourらの論考「トランプ2.0時代のヨーロッパ極右」に基づいて評価してみよう。

アメリカにおける第2期トランプ政権の発足がヨーロッパ政治に及ぼす影響は、この一年を見ても否定できない。熟慮ない(ように映る)矢継ぎ早の国内ならびに外交政策、特に中欧の安全保障に対する政策と国際的な貿易戦争の引き金を引いた政策のインパクトは大きかった。そして(因果関係が不明ではあるが)ヨーロッパのポピュリスト政党は2024年から2025年にかけて、一定の成功を収めているといっていいだろう。

具体的に列挙していこう。最も印象に残るのはドイツにおける「ドイツにおける選択肢」の伸長で、現在ドイツ下院で第2党の位置を占めるようになった。フランスではルペンの国民連合がフランスの国民議会で142議席を獲得しており、オーストリアでは昨年9月に行われた選挙でオーストリア自由党が勝利し第一党となった(ただし紆余曲折を経て、自由党を排除した3党連立政権が今年1月に発足した)。オランダでは、よく知られるように、自由党が連立に加わっていたが移民政策などを理由に政権を離脱し再び選挙となった。自由党の政権奪取を危ぶむ声もあったが、この10月29日の選挙で中道とされるD66が勝利し、おそらく党首ロブ・イェッテンが首相になると目されている。

ポルトガルでは、今年5月の選挙で右派ポピュリスト政党シェーガ(Chega 「もうたくさんだ」の意味)が22.8%を獲得するまでに急成長し最大野党となった。東欧でもルーマニアでは極右のジョルジェ・シミオンが大統領選の第一回投票で1位となり注目されたが、結局5月の決選投票で敗れた。逆にポーランドでは6月の大統領選の決選投票で、イリベラルな立場の最大野党「法と正義(PiS)」が支持するカロル・ナブロツキが50.89%の得票を獲得し、ドナルド・トゥスク首相が率いる中道右派の与党「市民プラットフォーム(PO)」のラファウ・トシャスコフスキ候補を破って当選することになった。今年10月にはチェコにおいて、オルバンと連携する最大野党ANOが下院選挙で(再び)第一党となっている。

現時点では、クロアチア、フィンランド、ハンガリー、イタリア、スロバキアの5つのEU諸国で右派ポピュリストは政権に加わっている。特にポーランドのオルバンとイタリアのジョルジア・メローニの存在感が抜きんでているが、一年前とその数が変わらない。もしベルギーのバルト・デ・ウェーバーを右派ポピュリストに含めれば、微増というところか。

微増に過ぎないという評価はあるが、われわれの感覚として、もはやこうした右派政党が政権に加わっていることが、Balfourいわく「タブーではなくなっている」というのも事実であり、結局(連立政権であれば特に)政権が不安定化しているというのが現状である。

では、こうした「ポピュリストの政権入り」をどう評価するか。Balfourらは、右派ポピュリスト政党の選挙結果に比して、政権入りが難しい点を指摘している。それは他の主流政党が自然に政権入りを望む結果であり、公的に、そうでなくとも自然に、ポピュリズム政党に防疫線をはっているからだという。ただし、こうした政権における経験の無さ(=政権運営に失敗していていないこと)がゆえに、ポピュリズム政党が選挙で支持されるともいえる。こうしてBalfourらは、いずれ右派ポピュリスト政党がEU各国の選挙でブレイクスルーを果たすことを危惧している。

こうした状況で、では、ポピュリスト政党が何らか公共政策に影響を及ぼしているのかという考察が、今後のポピュリスト政党の動向を考えるときに有益ではないだろうか。連立政権に加わったり政権を奪取したりしたポピュリスト政党は果たして政策に――選挙結果ほど――影響を与えているだろうか。それ次第で――逆説的に――ポピュリズム政党は、政策に失敗した場合に支持を減らす可能性があるからだ。以下で Journal of European Public Policy, 2025, Vol.35, no.5 “The impact of ‘populism’ on European Public Policy” の諸論考を手掛かりに検討してみたい。

ポピュリストと公共政策の決定過程

(1)アジェンダ・セッティングへの影響

本特集は、ポピュリズム研究は今や政治学の最も重要なトピックになりつつあるが、ポピュリズムの性質、政党システムや議会の変化との関係、投票行動との関係、そして異なる文脈、文化(国家)における成功の要因などに注力しており、政策決定への影響が十分に検討されていないという問題を検討する。たとえばVivien Schmidtは、ポピュリズム政党の反システム的な「われ対なんじ」のメッセージが、「そのリーダーは、リベラル・デモクラシーの諸制度を介することなく『国民』の名のもとに行動し語る」というデモクラシーのある特定のヴィジョンを具現化しているという。そして、こうしたメッセージはしばしばタブーを打ち破り、人びとの感情に訴え、既成政党のリーダーがポピュリストの言説に合わせようとした場合には特に破壊的なインパクトをもってリベラル・デモクラシーにおける言説的寛容を弱体化してしまう。他方で人びとの不満という点では「ありのままを伝える」ことで、逆にリベラル・デモクラシーを活性化することにもなり改革を促進させる。すなわち、ポピュリストのメッセージは「物語を作り出す」ことによって、アジェンダ・セッティングに影響するというのである。

Schmidtによれば、ここでは2つのメカニズムが働いている。1つは「アイデンティフィケーション」である。これはUKIPの離脱キャンペーン時の「コントロールを取り戻す」や「ブレグジットはブレグジットを意味する」(テレーザ・メイ)などの単純なフレーズによって、利益の異なる人びとをひとつに結びつけるプロセスである。もう一方は、以前にあった概念の諸要素を再統合して修繕し新しい概念を作り出す「再発明」のプロセスである。

これらのプロセスはポピュリズム政党ないしリーダーに限ったことではないが、やはりポピュリストにも用いられて、反システム的な物語、フレームそしてイメージを作られる。そして、これらの主張が既成政党に採用されるとき、「議論が形成される」。すなわちアジェンダ・セッティングに影響する。こうしてポピュリズム政党は公共政策決定に影響しうる、というのである( Schmidt, Vivien A. (2025) Populist agenda-setting. Shaping the narrative, framing debate, captivating the ‘people’, upending the mainstream, capturing power,” Journal of European Public Policy, Vol.35, no.5, pp.1073-1096.なお本論文の論点はもう少し多岐にわたるが、本稿に必要と思われる論点を限定して抜粋している。以下も同様 )。逆に言えば、他の政党が取り上げない場合、議論はなされず、すなわち政策決定のアジェンダに乗ることはないということでもあろう。

(2)公的調達政策(経済ナショナリズムへの影響)

他方で、Miriam Hartlappは、政策決定におけるポピュリズム政党の影響は限定的だとしている。この論文では、ポピュリズム政党が「経済的ナショナリズム」を強調することを前提にして、フランスとドイツを事例に、公的調達(public procurement)政策にポピュリストがどの程度影響を有しているか検討する。この論文の知見は、大きく分けると、第一に「経済ナショナリズム」を強調していることと比べて、ポピュリズム政党は「公的調達」政策に注目しておらず、結果的に「経済ナショナリズム」に本当に重きを置いているかが疑われる点、第二に、本研究におけるポピュリスト政党の政策に対する影響力は他の政党との連携においてようやく発揮される。すなわち、他の文化的な争点は別にして、この政策におけるポピュリズム政党(のみ)の影響は限定的であると述べている( Hartlapp, Miriam(2025)”Beyond ‘economic nationalism’? The (limited)influence of populist parties on pubic procurement in France and Germany, Journal of European Public Policy, Vol.35, no.5, pp.1197-1223 )。

以上の二つの論文をおしなべて一応の結論を出すとすれば、ポピュリズム政党が、その声がいくら大きくなろうとも、少なくとも現状において政策に影響力をもつのは、たとえどれだけ選挙で支持されても、他の政党との連携が可能な場合ないし他の政党が当該争点を取り上げた場合であるということになろう。すなわち、ポピュリズム政党が、選挙での進展に比して、政権に就いた場合、またそうでなくても公共政策に及ぼす影響はまだ研究途上であるが、以上の議論から共通して見えてくるものは、繰り返すが、既成政党の態度である。

この点は、ここではとりあげなかった文化的な争点についても同様であろう(おそらく、だが、そうした争点がかつては有権者の「感情に訴える」可能性が大きかったのではないか。ただし現在ではウクライナ紛争後の経済的な苦境から、「経済ナショナリズム」が重要な争点になりつつある)。すなわち、ポピュリスト政党の伸長を恐れて、既成政党がその政策を受け入れる限りにおいて、ポピュリスト政党は公共政策に影響を及ぼしうる。ということは、もし既成政党がそれを受け入れなければ、ポピュリズム政党は公共政策に影響を及ぼすことはない。

そして本稿の問う点であるが、もしポピュリズム政党が各国公共政策にそれほど影響していないというのであれば、逆に、各国公共政策の(失敗の)責任は既成政党に向けられ、その分ポピュリスト政党が、跳ね返りの支持を一層獲得するということになるだろう。しかし換言すれば、現状では――経済、文化、さらに戦争など――困難な課題が山積するなかでも、まだヨーロッパの政策は既成政党に頼られているとみるべきだろう。

おわりに――EUの役割

先のBalfourらの論考では、トランプ2.0の時代におけるヨーロッパ極右政党の将来については、「はっきりしない」と論じられていた。大きな理由は、確かにオルバンが述べたように極右政党はトランプの再登場によって一喜したかもしれないが、その後のウクライナへの対応(の遅さやEUへの責任転嫁)、「トランプ関税」では一憂させられたことにある。また、もうひとつの検討点はEUの存在である。やはり公共政策へのインパクトという点にかかわるが、EU加盟国においては、その財政的また人権など政策面での縛りを受けるからだ。それゆえヨーロッパのポピュリズム政党の将来についてBalfourらは明言できていない。その点は筆者も同じである。

ただしEUの存在が、ポピュリズム政党を活性化する点があるということを最後につけくわえて総括としたい。というのもEU諸国で台頭するポピュリズム政党のほとんどが「反ユーロ」「反EU」を掲げて支持されてきたからだ。すなわち、たとえ政権に就いたポピュリズム政党が政策に失敗した場合でも、それを「EUのせい」にすれば、責任転嫁できるからだ。逆に「EUがポピュリズム政党を守っている」状態が生まれる。

ポピュリズム政党にとっては、選挙においては格好の標的でもあるが、政策決定過程にかかわる際には、大きな政策転換の際の邪魔者でもあり、諸刃の剣である。なおポピュリズム政党は選挙で支持を得るであろうが、連立政権が常態化している多くのヨーロッパ諸国においては、特に公共政策決定という点に注目するのであれば、鍵は既成政党にある。ポピュリズム政党の主張をうけいれないことが、ポピュリズム政党に対する最大の防御である。恐れず王道を歩むべきである。

まつお・ひでや

1965年愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、東邦ガス(株)、(株)東海メディカルプロダクツ勤務を経て、2007年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。聖学院大学政治経済学部准教授、北海学園大学法学部教授を経て2018年4月より龍谷大学法学部教授。専門は比較政治、西欧政治史。著書に『ヨーロッパ現代史 』(ちくま新書)、『物語 ベルギーの歴史』(中公新書)など。

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