コラム/時々断想
これってブラックジョークだよね!
本誌コラムニスト 頑童 山人
今年になって、何故か有名ミュージシャンの訃報が相次いだ。イングランド出身のヘヴィーメタル・ミュージシャン、シンガーソングライターのオジー・オズボーンもその一人であった。ハードロックだ、ヘヴィメタだという少しばかりマニアックな世界の話になるので、オジー・オズボーンといってもよくわからないという人の方が多いかもしれない。また、知っているといっても、ステージ上で、生肉をかじる、コウモリを食いちぎるなどの過激かつグロテスクなパフォーマンスで有名な人物程度の認識にとどまる人も少なくないかもしれない。
しかし、オジーには、厳しい社会批判、政治批判、反戦の強烈な意志を示す一面があった。彼の代表曲の一つ、”Black Rain” は次のような歌詞から始まる。
黒い雨が降っている
それは大地を汚染する
人類は滅びようとしている
あたりには死者が散乱している
弾丸はいったいいくらだ
また一つ頭に穴が開いた
棺の上に旗が掛けられる
また一人兵士が亡くなった
あと何人死ななければならないのか
死者を悼み、戦争に憤るオジーの思いが伝わってくる。このオジーの歌は、2007年ブッシュ大統領による対テロ戦争によって中東の緊張が続いている時期に作られたと思われるが、ブラックサバスのリードボーカルをつとめていた1970年ベトナム戦争のさなかにも激しい反戦歌を歌っていた。それは “War Pigs” という8分近くの大作で、その中には次のような歌詞が含まれていた。
政治家達はさっと身を隠し
そして戦争を始める
どうして彼らは戦争に出ていかないのか
戦いの役割は貧乏人に放り出す
時は、権力者の心について言うだろう
彼らはたのしみのためにだけ戦争をする
そして、人々を将棋の歩のように扱うと
彼らの裁きの日が来るのを待とう
こう、政治家・権力者の身勝手さを告発していた。この歌を発表してから37年、政治家・権力者の身勝手さは少しも裁かれることなく続いている。オジーは、その間、戦争を憎み、身勝手な政治家達への怒りの心を失うことなく、反戦の歌を歌い続けてきたのである。
1970年前後の時代は、ベトナム戦争に対する反戦運動が世界中に広がり、そういう中でフォークソングといわず、ロックといわず反戦を訴える楽曲が多く作られた。ハードロックやヘヴィーメタルの世界も例外ではなく、少なくないバンドが社会批判・戦争反対の歌詞を強烈なリズムにのせた独特なしゃがれた高音でシャウトしていた。ブラックサバスはその代表格というところだが、他にもディープパープルの “Child in Time” などもそういう楽曲として高く評価されていた。
さらに、ヘヴィーメタルはロック界の流行の浮き沈みの影響を被りながらも、腐敗や不平等がなくならない社会への反逆の音楽として生き残っていった。ブラックサバスやディープパープルよりも10年近く後に登場し、現在も活動を続けているアイアンメイデンなどはその筆頭にあげられるバンドであろう。
そのアイアンメイデンの代表作の一つに、”2 Minutes to Midnight” という楽曲がある。これは、日本で発売されたCDでは「悪夢の最終兵器(絶滅二分前)」という邦題がつけられていた。最終兵器とはいうまでもなく核兵器のことで、絶滅2分前は、核戦争の危機を訴えるための「終末時計」の針が2分前をさしているということである。ようするにその楽曲は核戦争の危険性を警告する意図で作られた。
ところで、ここであげたブラックサバス、ディープパープル、アイアンメイデンというバンドの名前は、偶然にあるいは任意に選びだしたものではない。最近総理大臣になった政治家が、かつてよく聞き、愛好し、影響を受けたバンドとして口にしたものである。その政治家は、若き日にバイクを乗りまわし、ヘヴィーメタルのバンドを組み、ドラムをたたいていたというから、たんなる若者受けを狙った知ったかぶりの言ではないであろう。相当入れあげていたのでなければ、そこまでは言えるはずはない。
ところが、その政治家は、内閣総理大臣の所信表明演説で、軍事費2 %へ増額の前倒し実施、国家安全保障戦略など関連三文書の改訂によって防衛力の抜本的強化をはかるという。維新との連立合意ではスパイ防止法の制定や日本版CIA(情報局)の設置なども検討中とか。他方、この間の総理大臣の発言には、核廃絶や軍縮というような非戦・反戦にかかわる言葉は一切出て来ない。訪日中の米国大統領トランプとは、大統領専用ヘリコプターに同乗し、米軍横須賀基地に停泊中の原子力空母ジョージ・ワシントンに乗艦し、集合した乗員達に向かってトランプと並んでうれしそうに親指をたてるサムアップを繰り返す。
こんな政治家に自分のファンだといわれて、あの世に行ったオジーはどう思うだろうか。きっとこういうに違いない。「これってブラックジョークだよね」と。
がんどう・さんじん
本誌編集委員
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