編集委員会から

編集後記(第40号・2025年冬号)

どこへ行く右傾化止まらぬ欧米――たそがれの日本はどうか/春闘の季節―問われている連合は自省し奮起を!

▶確かタレントのタモリさんの言葉だったか「新しい戦前」。この言葉が何か重くのしかかってくる新年ではないだろうか。二度の痛苦の世界戦争を経験して人間は、それなりの“知性”に基づいて人権や他国の領土の尊重などに留意してきた。あの東西冷戦の時代でもそうであったといえようか。しかし現在はどうか。暗澹たる気持ちになる。欧州に見る雪崩を打つかのような“右傾化”の波。片やアメリカはトランプの再登場で社会の分裂は一層の深刻さを増している。この男のアメリカ第一主義はナチスもびっくりの“帝国主義”そのものであり、その傍若無人な振る舞いは打倒あるのみだが、こんなのに選挙で負けたアメリカ民主党の責任も重い。都市インテリ層だけでなく生活に窮する民衆に寄り添う政策と行動の復活が急務である。

 松尾秀哉さんは「どこへ行くか 2025年のヨーロッパ――むしろポピュリストが定着へ?」と分析。福澤啓臣さんからは、ベルリン発「ショルツ政権の崩壊とポピュリズム下の総選挙」と緊迫のレポートを頂いた。早川行雄さんは「創造的知性の復権――なぜ左派・リベラル知識人は迷走するのか」を論じる。 

 また、どうなるか気になる隣国の韓国政情であるが、寄稿願っている李昤京(リ・リョンギョン)さんが韓国に帰られての第一寄稿を近日追加発信します。乞うご期待。

▶目を転じて日本。黄昏る日本であるが、どこか牧歌的な雰囲気ではないだろうか。衆院で少数政権に転落した自公。確かに立憲民主党の国対委員長であった安住淳さんが予算委員会委員長を担うのは画期であろう。少し変化した予算委での論戦が進行中であり、一方では与野党連立が取りざたされる。

 どうなる日本の政治状況で多彩な論客に登場願った。巻頭の「深掘り対談」で山口二郎さん×中北浩爾さんは「政党政治のグローバルな危機の時代―石破少数与党政権と立憲民主党などの野党は、国民の不安にどこまで答えられるか」で大いに語って頂いた。金子勝さんはトランプも見据え「日本は知識経済化――イノベーティブ福祉国家へ/トランプ・IT長者のフェイクファシズムに抗して」を論じ、尾中香尚里さんは「立憲民主党は政権運営の準備を急げ」と訴えてます。皆さん是非熟読を。

 「現代日本のイデオロギー批判」を連載する本誌の橘川俊忠さん(前編集委員長)は今号では「トランプ2.0、パワーアップの秘密を剥ぐ――21世紀も4分の1が過ぎてなお混迷する世界を憂う」を提起する。

 さらに留意すべきは日本の軍事大国化に対峙することである。一部野党も推進しており危ない。「軍事費削って福祉に回せ」の懐かしいスローガンがリアリティーを持ってくる。

▶また春闘の季節がやって来た。その昔はやはり賃上げへのほのかな期待を総評やその後の連合にかけた読者も多くいただろう。しかし今や、春闘は政府と経団連がやっているかのごとし。メディアもその一翼を担っている。賃金は労使の交渉で決定するものは法的にも常識であったが・・・。さらには非正規雇用者問題など、自らの身を切る取り組みが必要だ。やはり連合の責任は重い、自省し奮起せよ連合!である。

 本誌編集委員の池田祥子さんがユニークなコラム「ある幼稚園の「うふふのふ」(園長だより)」。重要かつ深刻な保育の現場から苦闘しながらもホットする園長さんの言葉や日々の姿を紹介。ご一読をお勧め。(矢代 俊三)

 

▶春闘が始まっている。経営者や政府から「賃上げ」を言う一方で、労働組合の声は小さい。本誌に何度も登場された水野和夫さんの『シンボルエコノミー』(祥伝社新書)によれば、労働組合は正当な権利を放棄しているという。要するに、経営者が「生産性に見合った賃金」と言い続けているのだから、連合は今年の賃上げを要求するだけでなく、過去の生産性に見合った分も要求すべきだ、と。そこで企業の601兆円の内部留保を吐き出させることが必要になる。企業の儲けから、労働者の賃金を削った分と超低金利で利払いが減った分(つまり庶民の受け取るべき利息)で少なくとも130兆円は取り戻すべきで、これを税金として取って、社会保障費に回すなどすべきだ、とのことだ。

▶さらに、実質賃金と春闘賃上げ率の関係は1997年を境に大きく変化した、とも。96年まではおおむね両者には強い相関があり、春闘賃上げ率が決まれば、実質賃金の上昇率もわかった。ところが97年以降、両者はほぼ無相関で、春闘賃上げ率は労働者全体の実質賃金を決める要因ではなくなったという。連合がもっと力を発揮せよとの意見だろう。

▶「連合は組合員だけを守るのではなく、労働者全体の暮らしを守るべきだ」というのが一般の意向だ。労働組合の役員としては連合にのみ責任を押し付けるわけにはいかないが、それでも、自戒をも込めながら、もう少し連合は世の中の人々のためを考えるべきだと思う。労基法までが変えられようとする現在、今一度労働組合の役割が問われている。(大野 隆)

季刊『現代の理論』 [vol.40]2025年冬号
  (デジタル40号―通刊69号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2025年2月8日(土)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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