コラム/発信
東京・杉並区政と区議会のいま―2024年秋冬
杉並区議会議員 奥山 たえこ
さとこビジョン(公約)の達成率報告 / 児童館の方向性―公約の実現 / まちづくり他――荻外荘公園の開園―総事業費は59億円余 / 気候変動対策と西荻のご神木の伐採問題 / 議会内部の動き―議長の任期 / 伊賀市、国立市で、40歳の市民派市長が誕生 / 『杉並は止まらない』
さとこビジョン(公約)の達成率報告
かねてより岸本聡子区長は、就任後2年がたったところで、区長公約の達成状況を報告すると表明しており、8月末杉並区サイトで、「さとこビジョン」の実現に向けた「取り組み」を発表した。
https://www.city.suginami.tokyo.jp/s001/533.html
まずは、公約を7つのカテゴリーに分け、同時に全体を101の項目に分類。次にそれぞれに達成時期を貼付けていった。それらを、まず2年目となる2024年6月末の実績数、さらに翌年2025年3月の達成予想数をカウントする。全体の101に対して、それが幾つになるかで、パーセントを出した。
なお、101の中には、岸本さん就任時にはすでに実現していたものがあるので、それらはそれとして分類している。余計な話だが、なぜそんなものを公約に上げるのか、おかしいではないかという見方があるかもしれない。しかしそれは十分あり得ると思う。まだ就任していない候補者が杉並区の施策全般に精通していることは一般的に言ってかなり困難だからである。実際、岸本さんは、この日(2024年9月10日)、「全く行政経験のない新人候補者である私が当時得られる情報には自ずと限りがありました」と答弁している(就任最初の議会でも同様答弁あり)。素人すぎるという見立ても可能である一方、正直・率直な発言だと解することもできると思う。
達成率は、・「区長就任以前にすでに実現しているもの」と「令和6年6月末までに一部実現したもの」を除いた達成率。つまり、・令和5年度までに実現したものと、・令和6年6月末までに実現したものは、38.8%になると表明している。期間を2025年3月末にすると、58.8%になる。
なお項目ごとの達成状況をわかりやすくして欲しいという議会からの指摘を受けてその後、達成率の算出方法を修正したものに差し替えている。
児童館の方向性―公約の実現
一般質問に対して、0歳から18歳までのすべての子どもを対象としたサードプレイスを、 機能強化を図った上で措置していく。現在児童館がない地域では新たな児童館の整備をしていくと答弁している。これは明確な、さとこビジョン実現への方向切り替えである。
まちづくり他――荻外荘公園の開園―総事業費は59億円余
39号で紹介した荻窪3庭園のうち開園が延期されていた、近衞文麿氏の旧宅である荻外荘(てきがいそう)公園は、2024年12月8日開園した(日米開戦の日であるが、特にそれに合わせたわけではない由)。
公園は、JR中央線荻窪駅(杉並区)から南方向へ1kmほど行った住宅街の中にある。文麿氏の息子が亡くなり相続が発生した時、近隣の町会長たちの要望があり、杉並区が土地を購入することになった(田中良前区長の就任時)。当時建物の一部は豊島区の方に移築されていたのだが、それを取得して杉並に移築した。そうして「(仮称)荻外荘公園の追加用地整備基本計画」を策定し、復原整備工事に取組んだ(復原は復元とは異なり、元の姿に戻すこと)。
さらに2024年6月には、(仮称)杉並区立国指定史跡「荻外荘(近衞文麿旧宅)」展示休憩施設棟建設契約を締結した。隈研吾氏建築で、鉄筋コンクリート造、一部鉄骨造、地上2階建て。契約額は279,191,000円(税抜)。規模に比してかなりの高額物件である。
また、3庭園へのアクセスのため、グリーンスローモビリティを走らせている。1周約2.5kmの路線、1日24便巡回、乗車定員5名、運賃100円。運転手もいるので、相当な赤字運営となる予定である(現在は本格契約の前段階)。
荻外荘公園の設置に係るそもそもの事業費の大きさに加えて、こうやって後からも費用が嵩んでくる。運営は指定管理者に任せるので、その費用も毎年つぎ込むことになる。運営業者の選定はじめ、前の区長の時代から仕込みがなされていたとは言え、岸本区長だからと言っても、抑えが効かない状況である。
気候変動対策と西荻のご神木の伐採問題
岸本さんの大きなテーマの1つに気候変動対策がある。
2023年6月5日の本会議一般質問で、浅井くにお議員(会派:杉並区議会自由民主党)は、屋敷林が全面的に伐採された実例を引いて、「自然的環境を杉並の財産として積極的に保全努力をすべきだ」と訴えた。
岸本区長は「農地や緑地が、相続税対策などで否応なく少なくなってしまっているのは周知のとおり」と述べた上で、世界の他都市の対策例として、「例えばパリ市では、2026年までに新たに17万本の樹木を街中に植えるという計画」と紹介した。「樹木は、都市の温度を下げる自然のクーラーと言われており」、「区民と共に手を携えて」「みどり豊かな 住まいのみやこ」の実現に精力的に取り組」むと答弁した。
さて、JR中央線西荻窪駅から東、荻窪方面に向かう線路の北側に見事なけやきの大木が、つい最近まであった。三峯神社と称し、祠(ほこら)があり、「ご神木」と呼ばれていた。ところがこの敷地に相続が発生し、相続人は大手建設会社に売却。マンション建築のため伐採するという話が近隣住民に伝わった。2023年8月のお盆の頃にも伐採という話であり急を要した。住民たちは会を作り、署名を集めた。
住民たちは、私有地だということは理解した上で、建設会社に、木を切らないでほしい、説明会を開いてほしい、さらに樹木の診断をしてほしい、と要請した。どれもスムーズには行かなかったが、住民の声に応えて区長が指示をし、担当者が建設会社に対し要望したところ実現した。当初の伐採予定時期は延期され、住民は粘り強く運動を続けた。
樹木の伐採問題は都内23区でも各地で起こっている。保存を求める住民たちは専門家の力を求めた。千葉大学名誉教授で園芸学の藤井英二郎氏は、各地で一緒に現地を歩きながら講演を行ってくれている。
西荻の場合、建設会社が依頼した樹木診断では、空洞ができており倒木の危険があるとのこと。藤井氏の診断では、「空洞はない」であった。
緑の保存に関する杉並区の制度では、保護樹林への助成制度があり、1本当たり年間8千円が支給されるが、わずかでしかない。みどりの条例はあるものの伐採への制限力を持たない。西荻のご神木のケースでは、区は要望することしかできなかった。2023年9月12日の本会議で「早い段階から緑の保全について方策を講ずることができるように、諸制度の在り方について議論して」行くと答弁している。
当初計画からかなり遅れたものの、2024年12月に伐採が行われ、その様子はネットにアップされている。大きな切り株には空洞はなかった。
なお保存運動発足から伐採への詳しい経緯は、記者・編集者の亀松太郎さんがYahoo!ニュースに『東京・西荻窪「もう一つのトトロの樹」が伐採へ: スーパーゼネコンvs住民「反対運動」が広がる』と題してレポートしている。
https://news.yahoo.co.jp/expert/articles/9508a0fcd6880d1df349daed71799f7957da1bf2
議会内部の動き―議長の任期
38号で、2023年5月、議長選を岸本シンパ側が獲得したことを書いた。
議長職は地方自治法では、「議員の任期による」とされており、つまり4年である。 ところが多くの議会は、毎年議長が変わる。4月の年度初め、5月頃に臨時議会が開催され、「一身上の都合により」議長辞職願が提出され受理されて、すぐに議長選挙となる。杉並区でも同様である。しかし、2024年度は、議長は辞職せずに継続し、一方副議長は辞職により別の同じく公明党の議員が就いた。現在の議長は以前にも2年連続して 議長を務めたことがある。しかし、3年続けた人はいない。議長人事は議会にとって最重要案件であるが、2025年度がどうなるかは見えていない。
なお杉並区の場合、議長の報酬は無役の議員の約1.5倍である。また、 各種行事に参加する機会が多いので、多くの区民に接することができる=顔を売ることができるというメリットがあるかもしれない。
伊賀市、国立市で、40歳の市民派市長が誕生
岸本氏が世話人をしている、Local Initiative Network (LIN-Net) https://lin-net.wraptas.site/ ローカルイニシアティブネットワークは、新しく首長となった2人を招いて、2月2日にオンライントークイベントを開催する。タイトルは「伊賀市でできた! 国立市でできた! あなたの地域でもできる。<40歳の市民派市長はなぜ誕生できたのか>」。昨年2024年11月に三重県伊賀市で稲森としなおさん(市議会議員、県議会議員として15年務める)、 同年12月には東京都国立(くにたち)市の、はまさき真也さん(元国土交通省勤務)。二人とも40歳で新人、現職や他候補を破って初当選した。二人ともLIN-Netに加わったとのこと。なお、稲森さんは「LIN-Netの呼びかけに呼応して立候補を決意してくれた」とサイトに記載がある。
日本には1700を超える自治体があって、毎週どこかで選挙が行われている(選挙ドットコム https://go2senkyo.com/local が詳しい)。首長選挙では無所属で立候補することがならいとなっている(幅広く投票してもらうためだと思う)ものの、実際は政党の推薦や支援を受けて選挙を戦う。その際、国政与党と野党が相乗りすることは日常風景である。勝つのはほぼこちらの陣営で、現職であればまず盤石。ところがごく稀に、政党の支援のない方の候補が勝つと、月曜日の新聞で報道されることになる。例えば「『与野党相乗り』が大敗、〇〇市長選の衝撃」といった具合に。
思うに、市民派首長の誕生は、政策+候補者の良さだけでは足りずに、候補者間の切磋琢磨やその時々の時代背景や政治的空気(今だと、裏金問題で自民党が劣勢にある)などが必要である。運も実力のうちと言えようか。二人の選挙についてどんな話が聞けるか楽しみである。
『杉並は止まらない』 地平社刊、2024年11月
岸本さんは、ヨーロッパのNGO在籍時『水道、再び公営化!』を刊行している。区長に就任後も単著・共著を出している。
今回、区長2年目を機に上記を刊行した。「はじめに」では「 それから2年。児童館を守り育てる道筋が見えてきた」との件があって、「杉並での現在進行形の挑戦が、一人でも多くの人に、一つでも多くの地域に、勇気を共有できることを願っている」で結ばれている。
おくやま・たえこ(妙子)
1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。東京都立大学法学部卒業。金融会社、派遣社員、出版社勤務。2003年杉並区議に初当選(無所属)。 23年5月から5期目、単身高齢者の貧困問題に取組む。趣味は焼き鳥屋で読書。
コラム
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