コラム/ある視角
ある幼稚園の「うふふのふ」(園長だより)から
本誌編集委員 池田 祥子
このコラムについて
下記は、千葉市若葉区のある幼稚園の園長による「うふふのふ!」(園長だより)からの抜粋・紹介である。
園長は、丹野
生まれは、1945年。まさに「戦後」とともに生きてきて、確かに「ご高齢」! しかし、現在も乞われて「園長」に就任し(実際はもちろん心身ともにいろいろご事情はあるだろうが・・・ともあれ)日々、生き生きと子どもたち・職員たちと接しているパワフルウーマンである。
ところで、日本では、著しい「少子化」時代に突入しているにも関わらず、乳幼児期の教育・保育制度は、明治時代からの「幼稚園/保育所」という二元体制を、今なお基本的には踏襲している。ここで、制度問題を論じるのは主旨ではないが、ひと言確認しておこう。
2003年から始まる小泉純一郎首相のリーダーシップの下で指向された、幼稚園と保育所を一体化した「総合施設」構想。それは結局は「認定こども園」の制度化となり(内実は、幼保連携型・幼稚園型・保育所型・地方裁量型などの多様な類型化)、その後、2009年発足の民主党政権下では、完全な(一本化された)「総合こども園」が構想されながら、ここでもまた、自民党・公明党との妥協を余儀なくされ、「認定こども園法」に落着するのである(2012年8月)。
さらに、2015年4月からは、安倍晋三内閣の下で「子ども・子育て支援新制度」が開始され、今後の方向として「幼保連携型認定こども園」の拡充が基軸に据えられる。従来の「幼稚園/保育所」の「二元化」は、内部的に構造化されながら・・・である。
また、直近の岸田文雄内閣の下では、2023年4月「こども家庭庁」が発足し、保育所を管轄する厚労省の子ども関連事業は、これまでの「内閣府」からそのまま「こども家庭庁」に移管されるものの、幼稚園を管轄する文科省は、なお「こども家庭庁」との共管という形を維持したままである。
今回の「園長だより」の紹介の場で、以上のような「幼・保」制度の歴史と現状、そこでの問題性の記述は煩瑣になるばかりとも思ったが、しかし、スルーする訳にはいかず、あえて記すことにした。
ただ、現実には、子ども達が、それぞれ個別の「家庭」の中での育ちを踏まえながらも、その後、どのような保育施設に居ようとも、さらにまた、いま「流行」のAIや英語教育・あそびが導入されていなくても、「子ども同士の関わり」「子どもと保育者との関わり」が、一人ひとりの子どもの育ちにとって、まさしく「要」であり、不可欠な要因であることを、以下の「園長だより」(抜粋)を通して再確認してもらえれば、と思っている。(池田祥子)
いろいろ変身の朝
「お早う!おばあちゃんだ!」とCくん。「えっ!この人、新しい園長先生だよ」とDくん。「わかった、ゴジラだ!!」とEくん。「火、吹こうかな??」と私。時々はゴジラになっちゃうかもよ、へへ」と私。(2024年4月13日)
ちいさなママ
年少組をのぞいたら、小さなママ発見。「ワーンワーン」、泪を振り飛ばして泣き、鼻水だらけのJちゃんに、ティッシュ箱を持ってきて、鼻水と泪を拭いてあげるKちゃん。手つきもそりゃあ慣れたもの。
「やさしいね、Kちゃん、ちいさなママみたい」と言うと、「うん」とニッコリ笑った。(同上)
だれか~~たすけて~~
「あ~!!だれか~!!たすけて~~!!」ふり返って見るとQくん。
「あ~だれかたすけて、おばけのイスにつかまってしまったの。おばけがはなしてくれないの!!」
「助けに来てくれる王子様はいないの?」「イナイヨ~~ここにいるのはみんなおばけなの」「アーどうしたらいいの・・・」と声も女の子っぽく発音している
どんどん物語りは進んでいきます。Qくんの頭の中は次々と湧き上がる言葉とイメージでいっぱいなのでしょう。
4歳の頃は、現実とイメージの世界を行ったり来たりできる翼を持つ時代です。
こんな姿を大切に見守りながら、参加してみるのも楽しいデスヨ!!(4月23日)
すずめばちはね・・・
博物館で「すずめばち」の展示を見た後、Rくんが「ぼくさ~すずめばちのす、みつけたことあるよ」「わー、こわいよ~スズメバチ!!」「つちのなかにす(巣)があるんだよ。いたずらしなければだいじょうぶ、あいつらさ、じゅえき(樹液)がすきだからさ・・・」としばらく「すずめばち談義」。・・・う~ん、昆虫図鑑のページそのままの解説・・・すごーい、くわしい・・・。するとそこへ小さなハチがブーンとやってきて、周りの子は「ハチだー!」「にげろ!」「さされちゃうよ」と大騒ぎ。ジーッとそれを見ていたRくん、冷静に、「へいきだよ、こいつ、はり(針)ないから、さ(刺)さないよ」だって・・・。虫博士でした、すご~い。(同上)
できるじゃん!!
3歳児がそとに出るので靴のはき替えをしていました。それを、ちょっと離れて見ている4歳児の2人。ジーッと見ていると思ったら、自分たちでどうにかはき替えている姿を見て、「ちゃんとできてるじゃん」と言って、二人で顔を見合わせて、ニコッと笑いながらその場を離れていきました。出来ない子がいたら、手伝ってあげようとおもったのかな?去年の自分を思い出したのかな?
年中組さん、心配してくれてありがとう!あなたたち、大きくなったんだね!(同上)
I need !
アイニード、マミー!! 困りごとがあると、Cちゃんが言う言葉。まだまだ日本語で語るにはボキャブラリーが少なくて、うまく表現できないけれど、一生懸命自分の気持ちを表現しようとしているCちゃん。大人より子どもの方が早く言葉を習得します。過去にも日本語が話せないまま入園した子が、1年経ったらママに通訳していてびっくりしました。世界中にある、日本と違う言語と出会えるのはステキ、と思います。
子どもは園生活の中で、日本語のシャワーを浴びながら、言葉をすごい勢いで、必要に応じて覚えていきます。
子どもの持つ力ってすごいですね。(5月1日)
キャー、イヤダー!
「キャー、ダンゴ虫!」「きもち悪い」「キャーさわれない」「イヤダー!!」「わたし、まるまってるのならさわれるよ」・・・女子3人寄れば姦しい。
ダンゴ虫は、子ども達が目の色を変えて探しまくる場合が多く、ポケットの中にいっぱい入ってるなんてことも・・・。(ただ)女の子は年令が上がると、だんご虫との関わりはなくなり、「ちょいとイヤなもの」に変わっていく・・・なぜだろうと思うのですが・・・。でも男の子は大きくなってもダンゴ虫と友達。なぜ??(5月9日)
おいかける、にげる!
みんなと一緒はイヤ、とばかりに外遊びを拒否するFくん。ベランダのスノコに座って、クラスの子が遊んでいるのを見学?
「ねー、一緒にお庭にいこう!」「イヤダ!」「おもしろそうだよ。」「ヤダ!」「ねー行こう!」「イヤダ~!」・・・その内に、私の背中をツンツンしたり、手を引っ張ったりし始めました。「コラ待て待て」と言うと「ワー!」と逃げ、追いかけると逃げる、を繰り返し、気がつけば逃げる範囲が広がり、その内に友だちの輪に入っていきました。キッカケが欲しかったのね。(5月17日)
ミルク動物園がやってきた!
【年長さん】さすが3年目の年長さん。自分から「3回目だからもう恐くないよ」と積極的にヘビを首に巻きたがる子、多し。ビックリ
うさぎやモルモットも追いかけたりしないで、目的のうさぎの所にサッと行って、スッと抱く。エサを口元に持ってきて、ダッコして食べさせる。年に一回のことだけど、動物とのつきあい方が身に付いている。
Gくんが、朝、2階に行こうとした足を止めて「ぼくね、今日はね、さわってみる」と決意表明。「無理しなくていいんだよ。・・・でも自分の思ってること、伝えたのはすごくステキなことだよ」と言うと、ニッコリと笑って階段をかけのぼって行きました。
そして、動物とかかわった後、「うさぎ、あったかかったよ」とのこと。そーっと近づいてナデナデしながらエサを食べさせていたから、あたたかさも分かったんだね。「勇気だしたね」と言うと、「うん」と、ニッコリ笑いました。(5月17日)
色の黒いのが甘いよ!
桑の実が色づいてきました。白から紫・・・そして黒紫色に・・・小さい実ですが甘酸っぱいなつかしい味。年中さんは桑の実取りに夢中。ヒョロッと伸びた枝を引っ張って、色とりどりの実の中から黒紫の実を見つけます。一つ摘み取るとうれしくて見せにくる子、たくさん集めたくて袋に集める子、すぐに口へ持っていく子、それぞれ真剣な顔です。
「園長先生、食べて!」と黒紫の実を差し出してくれたJちゃん。「ありがとう、小さい時、私のオヤツだったのよ」とパクッと口に入れると、「どう?食べられた?」「うん・・・」私はお毒見係り??
桑の木は、もともと園の敷地内にあって、お隣に実が落ちて生えたそうです。そんなことで、子ども達が摘むのをOKしていただいています。残念ながら、園にあった木は枯れてしまっています。(5月23日)
君の名は?マーミーコート?
年中組さんがポットに種まきをしていました。
「何ていう名前の花?」と聞くと、Hくんがすかさず「メリーゴート」。するとIちゃんが「マレーゴールド」。「もう一回、言ってみて」「メリーゴールド!」
「うーん、ちょっと残念、『マリーゴールド』です。」というと、「ふ~ん」という感じ。「ところで、この花はどんなのが咲くのかな?」「ちゅりっぷみたいな花で、赤白黄色!」「あら、ちゅうりっぷの歌の歌詞そのままね~」「違うよ、赤と黒!!」(しゃれてるね)「みどりの花だよ!」・・・種がはいっていた袋に写真がついていたんだけどね。・・・さて、どんな形でどんな花が咲くか楽しみね。(5月23日)
赤ちゃんだったとき
年長組さんの部屋で、こども達と話していた時、「赤ちゃんの時、どんな子だった?」という話題になりました。
Iくんが、「ぼくはよく泣く赤ちゃんだったって・・・」「え~、今は泣いてるの見た事ないな~」「うん、今は泣かないよ」「赤ちゃんは泣くのが仕事よ。泣くとおなかがすくので、オッパイいっぱい飲むから大きくなるよ」「フーン」
「ぼくはね、寝てばかりの赤ちゃんだったって、ママ言ってた!!」「あのね、昔から寝る子は育つって言うの。だからグングン大きくなったんだね」「いまもいっぱい寝るよ」「いい子だね。大人になっても寝るのは大切・・・」「フーン」とJくん。
「わたしね、大泣き虫だったのよ。赤ちゃんの時もフギャフギャ泣いてばかり。幼稚園でも<エ~ン、エ~ン>泣いてばかり。『ワーンワーン』泣いてばかりで『泣き虫トットちゃん』ってあだ名をつけられたのよ」(と私、園長)「へー、いろいろあったんだね」と大人びた口調でJくん。
お家で、赤ちゃんの時の話を聞いたことや、過去の自分を思い出したりしながら、大きくなった今の自分を感じているんでしょうね。(6月14日)
(以上、園長便り「うふふのふ」からの抜書きです。この後、暑い夏の7月、夏休み、2学期、冬休み、そして3学期・・・と現在進行中です。もっともっと、子ども達の姿、「おばあさん園長先生」との関わりなど、抜書きしたいことばかりです。
ほんの少しの紹介だけですが、そして、世の中的には、子ども達の痛ましいニュース・事件が目につきますが・・・改めて、「子どもが、大人や仲間と関わる力」そして、そこから「子どもたちの育つ力」が培われる現場を、私たちは、忘れないでいたいと思います。)
いけだ・さちこ
1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。元こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。
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