編集委員会から
編集後記(第41号・2025年春号)
トランプの暗雲は全世界を覆い他人ごとではない。曲がりなりにも構築されてきた現代の知性が問われている/日本では労働者保護法制解体の危機が迫る
▶トランプが大統領選で勝利し再登場して100日が経過した。この間に矢継ぎ早に発出した大統領令は140を超える。その中身たるや内政、対外政策などどれを見ても、誰しもが“なんやそれ”と思うものばかり。独裁者とはこういう奴のことを言うのかと思い、世界政治においては帝国主義とはかようなものの悪しき見本であり、ヒットラーも顔負けの所業だ。トランプ一人に世界が振り回されており暗澹たる気持ちになる。それは同時にアメリカ人の民度とは、アメリカの民主主義の内実とは、人権擁護とは、が深刻に問われる分裂社会になっている。その背景には強い宗教感があるそうだ。今なお南北戦争や奴隷制、西部劇の時代かと揶揄されるのもアメリカの現実だ。本号特集のタイトルを「どう読むトランプの大乱」とし、各氏から貴重な分析論稿を寄せて頂いた。
▶巻頭で遠藤乾さんは「20世紀の文明史的遺産を再構築する――トランプ×プーチンに抗して」と題して分析、「日本ができること、日本が転換しなければならないこと」を論じる。金子勝さんは、トランプ政治が一過性のものではなく、世界の転換点で起こっている。重要なのはこの時に日本の経済・社会をどのようにするか、展望をはっきりさせること。トランプへの貢物は、無策を通り越して私たちの生活を破壊する所業と。橘川俊忠さんは「トランプ政権の暴政を正当化する論理を撃つ――未来への禍根は断たねばならない」と、トランプの表層だけでなく、その深層にある論理を抉りだしどのように読み解くべきかに迫る。金子敦郎さんは「トランプ政権に100日目の壁」で142に及ぶ大統領令を詳しく論じ切開する。環境論の松下和夫さんは「トランプ大統領の再登場で岐路に立つ国際気候変動対策――各国は実効性ある脱炭素政策実施と国際連携枠組みの再構築を」と訴える。
▶団塊の世代が後期高齢者の時期を迎える。介護問題は現代の最大の社会問題かもしれない。その中で巷間、在宅介護問題で事業者が事業困難を訴える事例が増えている。これからの高齢社会で重要な在宅介護問題が危機にさらされると言っていいのではないか。果たしてどうなのか、水野博達さんが大阪の事例をつうじて迫る。小黒純さんに「なぜ、『週刊文春』だけなのか?――14年間のトップ記事を分析すると・・・」のユニークなコラムを頂いた。是非一読下さい。(矢代 俊三)
▶労働基準関係法制研究会報告と労基法解体の動きについては前号までに報告しているが、労働法制は大転換期を迎えている。上記労基研報告を受けて労政審労働条件分科会が3月までに4回開催され、法案化が具体化されようとしている。さらに「労働基準法における『労働者』に関する研究会」が始まり、1985年以来の労働者概念の変更が行なわれる。
▶一方労政審の「職業安定分科会 雇用環境・均等分科会 同一労働同一賃金部会」が今年2月から6年ぶりに再開され、4月までに既に5回開催されている。フリーランス法が昨年施行され、現在下請法改訂も検討が始まっているという。労災制度についても「研究会」が開かれ、制度の根幹を揺るがすような意見が飛び出している。現代の奴隷労働・技能実習制度を焼き直す「育成就労制度」についても、有識者の懇談会が続いており、法整備が進んでいる。これらのすべての動きが、労基法改悪の2027年を狙ってまとめて進んでいるかのようだ。
▶狙われているのは労働者保護法制の解体で、保護レベルの低い「二流労働者」のカテゴリーを作り出すことではないかと思う。私は上記の労政審などの3分の1ほどは傍聴しているが、厚労省のやり口は、まず学者だけで議論し、それを厚労省が政府方針としてまとめ、労政審で労使代表の意見を聞いた形をとって法律にするというものである。何よりも労働現場の実情が議論されるべきだと思うが、連合の代表も現場労働とはほとんど無縁なので、それは叶わない。多少乱暴な言い方をすれば、労働法学者も労働者の味方になる人が極端に少ないので、正直なところ、先行きは暗いと感じてしまう。
▶春闘時、毎年私の所属する全国一般労働組合全国協議会の「バス部会」が厚労省・国交省に要請行動をしている。実際にハンドルを握るバス運転手が10名ほど出て現場の過酷さを正せと詰め寄るが、若い官僚も初めて聞く話が多く、驚いているような始末だ。そのように現場を知ることから労働法制の議論をすべきだと思う。ただ、この間の政府・資本の動きは進行のテンポが速いので、追いつくのも大変なのが実際だ。労働法制の危機を訴えるべく、次号以降、もっと詳細な報告をしたいと思う。(大野 隆)
季刊『現代の理論』 [vol.41]2025年春号
(デジタル41号―通刊70号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2025年5月9日(金)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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