コラム/ある視角
ある幼稚園の園長だより「うふふのふ」の続編
本誌編集委員 池田 祥子
前回「40号」で紹介した丹野禧子園長による「園長だより:うふふのふ」の続編です。
前々から、日本の小学生の自殺が増えている・・・というニュースを目にする度に、私は、どうして⁈という切ない問いや思いを抱いてきたが、ついに4月21日(月)の夕刊では、「日本を含む主要7カ国(G7)の10代の死因で、自殺が1位となっている国は日本しかない」と報道された(「朝日新聞」)。
また、やや時間が経っているが、昨年度末(2024.⒒1)の文科省調査では、「不登校」(年30日以上登校しない)とされた小中学生が34万6482人で、過去最多だったと報道されている。この内、中学生は21万6112人(前年度比2万5258人増)、小学生は13万370人(前年度比2万5258人増)である。
もちろん、一人ひとりの内実はそれぞれ多様であるのだろうが、しかし、この世に生まれてまだ間もない子どもたちが、「友達と集い、学び、遊ぶ」時空間の「楽しみ」を感じる事も出来ず、むしろ苦痛ゆえに「ひとり」に籠ってしまう・・・
これは、やはり由々しいことだ。すぐにでも、本気で、社会全体で、その対応に当たらなければならないことだ!・・・と、息んで腰を上げたとしても、さて、何をすればいいのか、何ができるのか・・・。
そういう重い問いを抱えながら、それでも子どもたちの「命の躍動」「仲間と居る楽しさ」、そういうことを日々感じられる「保育の場」や「学校」であってほしいと願わないではいられない。(池田祥子)
空気、入れる?!
ボールの空気が抜けたので、「空気を入れてください」と、年中の子ども達がやってきました。「ハイハイ、ボールに空気を入れるには、ボールのおへそに針をギューツと刺してからポンプを動かすよ・・・」と話しながら空気を入れていたら、年長組のKくんが傍で、真剣な顔で見ていました。
「ああKくん、Kくんのオヘソに針を突っ込んで空気入れてあげようか?プーツて、身体がふくらんで空にフワフワ浮かぶかも・・・」と言うと、ビックリした顔をして数歩後ずさり、「え・・・えんりょしておく!」と、サッとその場を去って行きました。
彼には予期しない言葉かけでビックリしたんでしょうね。オドロカシテごめんなさい!言葉遣いは大人っぽいけど、何だか可愛い・・・(2024年6月17日)
泰山木の花
園庭の泰山木の白い花が次々に開いています。枝から離れた花ビラがヒラヒラ、風に乗って落ちてきます。花びらを手にした年少組のLちゃん、「ねぇ、園長先生! これ私のくつ箱に入れておいて!」と。
「Lちゃんのくつ箱はどこ?」「わたしはさくらマークなの。・・・ほら、ここよ」と指さします。ちょうど時は「朝の体操の時間」です。
花びらを手に持っていたら体操ができない、でも花びらは大切・・・そこでLちゃんは「しまっておこう!」と考えたのね。
私はくつ箱のシャッターを開けて、「ここにしまっておくね」と言って、シャッターを閉めました。Lちゃん、考えたね。(同上)
ひみつだよ(その1)
「あのさ、知ってる?うわさなんだけど、本当のことなんだよ」と年中組のQくん。
「それって、何のうわさ?」「あのさ、空から魚がいっぱい降ってきたんだって」
「へーすごいね。どうして空から降ってきたんだろう・・・不思議???」
「でもさ、これ本当の事なんだ・・・うわさなんだけど・・・」「ふーん・・・」
「ひみつだからね」とQくん。「わかりました」と私。
イーケナインダ、ここに書いちゃって・・・ヒミツ、ばらしちゃった。ゴメンQくん。(6月20日)
ひみつだからね(その2)
「ひみつだよ、はずかしいから、みんなには教えないでね!でもね、ママやうちの家族には言ってもいいよ」と年長組のAちゃん。その「ひみつ」とは・・・「わたしの声、ちびまる子ちゃんの友達のたまちゃんに似てるって言われてるの」との事。「残念だよ・・・。ちびまる子ちゃんの声のタラコも、つくった人のさくらももこも死んじゃったんだって・・・でもね、まだやってるから、見てるの」との事でした。(7月1日)
このタマゴ、なんのタマゴだ!!
年中組のCくんが、カップいっぱいに泰山木の花の軸を集めています。「これさ、恐竜のタマゴなんだ!」とCくん。「どんな恐竜が生まれるのかな?」「こわい恐竜と可愛い恐竜だよ。」「どれがこわい恐竜になるの?」「このブツブツのやつ!」とCくん。
「じゃ、可愛い恐竜は・・・?」「これ!」と、Cくん、小さい茶色い軸を指さします。「タマゴがかえったら見せてね」と言うと、「うん!」とのこと。何だかちょっと楽しみ・・・デス。(7月5日)
いもほり、あれこれ
「あっ!ヤキイモがある!」
畑の畝から芋が出てきたら、感動のひと言。年中組さんでした。
「取れないよ、重いよ、ダメダヨ~」とNくん。土もモジョモジョ掻いているだけで、「掘る」という感じではありません。「こうするんだよ!」と、Lくん、やって見せるのですが、Nくんは「ヤメター!」と掘るのを止めてしまいました。すると、Lくん、「あきらめたらダメだよ、最後までがんばらなくっちゃ!」・・・これ年少(3歳児組)同士の会話・・・。小さければ小さい程、経験差や個人差が大きいですね。
「これはパパ、これはママ、これはお兄ちゃん」、掘ったオイモを見せながら、「みんなAちゃんのオイモ、食べたいんだって、ウフフ・・・」
「おうちの人たち、大喜びだね」と私。するとAちゃん、「うん、でも重い!!」
今年のイモは豊作で、昨年より大きく育っていると農家のオジさんも言ってました。たしかに一つ一つが大きい。3歳だと持て余しそうな大きさのものがいっぱい。このおイモは「紅はるか」なのです。(10月24日)
やっぱり気になる園長先生
あなたは?・・・年中組さんの部屋に行ったら、Pくんが、「ねーねーあなたはおじいちゃんですか?」と笑いながら言います。「ちょっとまって・・・私は女の人です」と言うと、「ソーカ!じゃ、おばあちゃん!」「そうね、年取ってるからね、おばあちゃんだね」と言うと、「わかった、えんちょうばあちゃんだ!」。それで、「ばーちゃん、ばーちゃん」と大笑い。私、「よかった、じいちゃんじゃなくて・・・」髪の毛、短く切ったからかな・・・(10月9日)
ところでどうしておばあさんなの?・・・トコトコと年少組のDくんが、私のところにやって来て、「あのさ、ところでどうしておばあさんなの?」と真剣な顔をして聞くのです。「う~ん、年とったからおばあさんになった」と言うと、私の顔をしげしげと見て、「そうか・・・」と帰っていきました。私にもDくんと同じ年で、可愛い時があったのよ。(10月30日)
園長は男子?女子?どっちかな・・・私が女なのか、男なのか、ばあさんなのか、じいさんなのかが、年中の子たちのギモン?らしい。
「ねー、じいさんだよね」とHくん。「え~わたし女だからばあさんです!」
「やっぱりじいさんじゃないかな~」とIくん。Jくんは私の膝に腰かけてちらりと胸にさわって、「あっオッパイがあるからばあさんだ」「え~えんちょうばあさん??」とKちゃん。「ふ~ん、女か・・・」
「集まりますよ!」と先生の声。みんな一斉に先生の所に駆け出したのですが、Hくんは、踵を返して私の所に来て、「やっぱりじいさんだ!!」とのこと。
「やっぱり」の中身は何だったのかな?? Hくんの認識の中の「おじいさん」の範囲に私は入るのでしょうか。言わせてください、私は、女で、ばあさんです!(10月31日)
大きい音!
年少組さんが合奏をしていました。タンバリン、カスタネット、鈴、木琴・・・いろいろな楽器をピアノに合わせて奏しているのですが・・・
Eくん、木琴を打つ時、飛びあがって打つので、「どうして飛び上がりながら打つの?」と聞くと、「大きい音にしたいから!」「そうか・・・考えたんだね。・・・でもね、この楽器は、大きい音よりきれいな音を出した方がステキなんじゃないかな・・・」「ふ~ん」。次からは、やさしく打っていました。(10月30日)
きっと、ママがいいんだよ
登園の時、泣きながらやって来た年少組のPくん。泣いて、泣いて、なかなか門から入ろうとしません。「お母さん、大丈夫、おあづかりします!」と言って連れて行こうとしましたが、身体を堅くして動きません。
同じクラスのQちゃんが来たので、「Qちゃん、一緒にお部屋に行って」と声をかけ、QちゃんもPくんと手をつなごうとしたのですが・・・なかなか手もつなごうとしません。するとQちゃん、つぶやくように、「きっとママがいいんだよ」・・・その時、Pくん、Qちゃんと手をつないで部屋の方へ歩き出しました。
Qちゃんが、自分の気持ちを分かってくれたんだと、Pくんは思ったのでしょう。Qちゃんのひと言は「値、千金」でした。Qちゃん、ありがとう。(11月20日)
(この辺りでお終いにしますー池田)
いけだ・さちこ
1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。元こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。
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