特集 ● トランプの末路

構造主義的視点からみた西欧のポピュリズムとその後――(2)

龍谷大学法学部教授 松尾 秀哉

1.ポピュリズムの台頭とホストイデオロギー

前号で筆者は、ポピュリズムとは一体何かという問題に改めて取り組んだ。そして、ポピュリズムの本質を「敵 VS 味方」などの二項対立的な、イデオロギー的な「薄さ」から求めるのではなく、特定の政策やイデオロギー(ホスト・イデオロギー)があり、それを先の対抗軸に結びつけてアピールするといったハンスペーター・クリージ(Hanspeter Kriesi)の見方に依拠して、特徴の構造主義的な分析を試みた。この見方が構造主義であるというのは、クリージがリプセット&ロッカンで知られる社会的亀裂といった社会構造に目を向けて政党を検討しようとしているからである。

そして、そこでの議論において、一方ではグローバル化の進展による「地位の喪失」が労働者階級に生じていること、他方では知識社会の到来により新中間層が台頭することで、従来の社会的亀裂を横断する形で新しい亀裂が生じていることが論じられた。それは新中間層が先取りしてきた「静かなる革命」とポスト物質主義の流れに対して、労働者階級の文化的反発が移民などの外集団に向けられているとする。これが新しい構造的亀裂となっていると論じたのが前号であった。

今号ではそれを受けて、これらの不満をもった新しい勢力が台頭する要因を、やはりクリージの議論に依拠して、機会構造論を用いて論じることとする。

2.ポピュリストと機会構造

クリージはキッチェルトの議論に依拠して、主流政党の政策が収斂していくことを示している(Kitscelt, Herbert 2007 “Growth and Persistence of the Radical Right in Postindustrial Democracies: Advances and Challenges in Comparative Research, ”West European Politics 30(5),pp.1176-1206. )。すなわちグローバル化の進展やEUによる統合の進展が経済問題について主流政党の政策を収斂させ、欧州裁判所などによる政治の司法化の進展により各国政府の政策の裁量の余地を制約してきた。こうした制約は政党の競合の効果を低下させるし、へリングによれば、有権者にマクロ経済政策に対する政府の統制能力の信頼性を低下させる( Helling, Timothy 2014 “Balancing Demands: The World Economy and the Composition of Policy Preferences," The Journal of Politics, 76:1,pp.1-14, )。

代表的な例は、経済不況時には政策は緊縮政策に向かうという点である。しかし緊縮経済は労働者の保護機能を弱体化させるために国民の不満を高めてポピュリストの台頭を招きやすくなる。よって緊縮財政政策を行う地域の方がポピュリズムへの支持は高まる(ただし右派ポピュリズムのみ)。また低学歴など脆弱な個人は一層強くポピュリズムを支持する傾向が強くなる。

以上のような経済的危機よりも政治的危機の方がポピュリストを支持することが高いとする指摘もある。メアの指摘する「代表制の欠如」は、超国家機関の存在や国際的ガバナンスの進展、政治のメディア化の進展により、主流政党の政治家が責任ある行動を取ろうとしても、有権者に対する応答性を損ない、有権者を政治過程から排除することにつながる。既成政党はいずれも差がなく似たり寄ったりで、結局国民を裏切り、次の選挙では制裁を受けるに値いすると感じるようになると述べている(Mair, Peter 2013 "Ruling the Vold: The Hollowing of Western Democracy. London:Verso.)メアは、すでに主流政党による「政党なき民主主義」と、システムの周縁に位置する恒常的な挑戦者政党によって動員される「抗議的ポピュリズム」の間に一定の分業的な体制まで見出している。

重要な点は、主流政党が有権者の要求を代表していないという点にある。代表例として挙げられるのが、新自由主義に譲歩した「第三の道」である。ただし、こうした説明は、まだ概論的で、各国の差を十分に説明しきれていない。例えば議院内閣制か大統領制か、それとも半大統領制か、また選挙制度が多数派か比例代表制かという点、現職か否かという点が論じられるが、現職を罰しようとする有権者がポピュリスト支持にまで到達する過程は案外と複雑である。そこで以下ではポピュリストによる動員のほうに目を向けてみたい。

挑戦者による動員

ポピュリスト政党という挑戦者が動員に成功するかどうかを、党の指導者とその人物が大衆と直接接触する能力に求めることが一般的であろう。よく知られた人物の知名度を利用し、伝統的なニュース・メディアを避けて、コメディ・ショーやブログ、通りでの活動などを通じてメッセージを増幅させるような手段を確立させることを通じて有権者と接触し一定の支持を得る。特に代表制のギャップを埋めるようなメッセージの場合はこれが妥当する。すなわちポピュリストのメッセージ自体の効果ではなく、メッセージが有権者との接触に成功した場合にのみ動員に成功するのである。

またベッツは、ネイティヴィズムが急進右派による動員に果たす役割を、社会的公正を渇望する人びとに対して、その感情に働きかける点に求める(Betz, Hans-George 2025 Populism. Cheltenham: Edward Elgar)。ネイティヴィズムの核心は、「われわれの人民」が第一であるべきだという考え方であり、よそ者がすべてを手に入れているという印象を人々に訴えかける。他の人が自分たちの列に割り込んでくるのと同じ感情である。しかもこの割り込んでくる人たちは人種や性の差別の犠牲者なのだから同情すべきだと言われている。自分たちが歩んできた苦労が顧みられることはない。

ネイティヴィズムの核心にはノスタルジアへの渇望もあるだろう。すなわち不快な現実に向き合うことを拒否して、理想化された過去を感情的に渇望することである。ベッツが述べるように、こうしたノスタルジアは、集合的な被害者意識や屈辱のナラティブと結びついたとき、ポピュリストを動員する強力な原動力となる。これはクルト・ドゥブーフのいう「トライバル化」にも相通ずる議論である(松尾秀哉編『「トライバル化」の時代 揺らぐ民主主義、変容する世界』、吉南堂)。ただしクリージによれば、ポピュリズム分析におけるホストイデオロギーを強調することと、こうした感情を強調することは別である。感情に訴えることはどの政党でも行うことで、その成功の度合いが異なるからである。

同様に、自身の不幸の原因をエリートに帰することも、必ずしも急進右派のホストイデオロギーの不可欠な構成部分にはならないという。確かに、人間の主体性(邪悪な行為者)を持ち出し単純な因果連鎖を提示し、構造的過程に目を向けず、主体にのみ原因を求めること、そして単純な即効薬を提案することはポピュリスト急進右派の戦略ではある。しかしこうしたレトリックは、ポピュリスト急進左派にも見られるし、このような戦略はポピュリストが選挙で成功をおさめる初期段階において顕著であるが、長期的には左右を問わず組織的な発展の結果として、こうした訴えが影響力を失している可能性が高いとクリージは述べている。すなわち、ポピュリスト側の動員の効果は単純なものではなく、その接触、イデオロギー的な核心に、特に中長期的には左右されて、各国の差の強弱が生まれているということになる。では、これを政党システムという点から俯瞰すると何が見えるだろうか。

政党システムにおけるポピュリスト台頭の影響

クリージによると、ポピュリズムの台頭は、政党システムを脱構造化させるという効果を有するという。ポピュリスト政党の指導者は、政治危機における政党間競争の脱構造化によって利を得る。また自ら個人的なカリスマ的政党を創設して脱構造化を促進する。すなわちポピュリストの指導者はアウトサイダーであり、個人に依拠した戦略を用いることで国民との直接的関係を築こうとする。イタリアのベルルスコーニに典型的なように、むしろ非構造的な運動の指導者として権力を掌握した。またオランダのヘールト・ウィルダースの台頭、ベルギーの新フランデレン同盟のバルト・デウェーヴァ―の政権取得も同様であろう。こうした政党は個人化が既成政党よりも強く、その結果組織の内的な民主主義の度合いは低いものである。自らの政党を創設するか、既存の政党を完全に掌握し内部の反対派を排除して、党を高度に中央集権的な形にするか。

確かにこうして非民主主義的な権威主義体制を作り出した例(オルバンなど)もあるが、多くの場合、こうした指導者は自滅するか、あるいは政党がより通常の組織へ変容していく傾向がある。個人主義的な指導者が政権に就き、約束していた体制の変革等を実行できないことが明らかになれば、そうした政党ないし政権の崩壊は不可避である。

ただし西欧においては、連立政権が主であることから、こうした崩壊が起こりにくいのも確かである。成功したポピュリスト政党は、通常連立パートナーと権力を共有する。クリージはこの点をもって「自滅のリスクは限定的」とする。さらにキッチェルトを引用し、「カリスマとは運動や政党の中で持続させることが困難な個人的な権威の性質である。遅かれ早かれカリスマ的指導者、あるいはその後継者は、権威関係を日常化(routinise)し、それを土台の上に置かねばならなくなる」という(Kitschelt, Herbert 2000 Linkages between Citizens and Politicians in Democratic Politics,’ Comparative Political Studies, 33:6-7, pp.845-879. )。そしてその土台は高い確率でプログラム化し、政党システムの再構造化に資することになる。

こうした現象はとりわけ急伸右派のポピュリスト政党に当てはまる。結果的にネイティヴィズムの極を構成することによって西欧政党システムの安定的な再構造化に貢献するというのである。そうして再構造化された政党システムの不可欠な一部となるにつれて、ポピュリスト政党はその主張をやわらげ、主流派政党に近づく傾向がある。こうして通常の民主化過程への包摂と選挙ダイナミクスおよび政権への参加は、急進的な挑戦政党を穏健化させる機能を有する。

この時の政党システムは前提として三極構造をとる。つまり、新たな亀裂の勝者である新中間層から支持を得る主流政党に――社会文化的専門職は左派ブロックに、別の一部(管理職や技術者)は中道右派ブロックに――投票する。また技術革新などから利益を得ている大規模な有権者層は主流政党を支持して、既存の状態を維持する傾向があるという。そしてこうした主流政党は、右派ポピュリスト政党が成功に直面する中で、文化的領域へ競合の軸を移すという対応を示し始めている。

かつて緑の党が選挙で成功し、社会民主主義政党をよりコスモポリタン/普遍主義的な方向へ移動させ、この過程で西欧のほとんどの国で社会民主主義政党を中間層の政党とした。同様に、急伸右派政党の成功は、中道右派の主流政党の一部に、移民に対してより制限的な立場へ綱領上の位置を移動させるよう促している。こうして政党システム全般へ影響を及ぼしている。

こうしてクリージは亀裂の形成とポピュリズムに関する先行研究に依拠しながら、ポピュリズム台頭の要因を社会変容の結果とする。とくに重要な社会的変化は知識社会の台頭とグローバル化であった。これらは労働者階級の衰退を強めると同時に、高学歴者からなる新しい中間層の形成に寄与している。

そしてこうした構造変化に対する主観的認識が、「敗者」たる労働者階級において地位の喪失などにともなう不寛容、不満さらにはネイティヴィズムなどのイデオロギーを生み出す。「勝者」たる中間層においては対抗的にコスモポリタン/普遍主義的イデオロギーが形成される。こうして労働者階級の敗者と新中間層の勝者とを対置する、新たな構造的亀裂が形成されつつある。そしてポピュリズムの動員は、いわゆる「ポピュリズム」という薄いイデオロギーに依拠したわけではなかった。構造的変化がその根拠にあったのである。

クリージは以上の検討を通じて、過去同様にポピュリズムが一時的な現象であるとする。新しい亀裂の出現に伴う現象であることを考えると、これらが新しい政党システムの一部として定着するにつれてポピュリズムは次第に消えていくだろうとする。すなわち主流化するにつれてポピュリスト的なアピールを放棄していくという。他方でもちろんより悲観的な見方もありえ、ポピュリストが権力を握ると、「人民」が腐敗した権力に勝利することを意味するから、不可逆的に憲法制定会議などを準備したりして制度化する。こうした制度化がいったんなされると、たとえ民衆の熱狂が一瞬のものだったとしても、制度化などの政治変化が残り続け、戦争などの大きな戦いによって逆転されない限り残り続けると危惧する。

以上のように主にクリージに依拠してポピュリズムとその対等の本質を理論的に解明することを本稿は目的とした。通常とは異なるポピュリズム支持の要因を構造主義的な立場から論じつつ、しかしながらそれが主流化するにつれて、やはりそれは恒常的ではありえないと論じる。

クリージの議論自体は、文化的領域の主張の必然性や、三極構造の必然性についての説明を欠いている点で不十分な点は多いが、ポピュリスト定義を亀裂から読み解き、そのネイティヴィズム的イデオロギーに見ようとしている点で他と一線を画すものと言える。筆者はここまで約2年ほどポピュリズムについての議論を進めてきたが、「ポピュリズムとはなにか」という点について改めて問題提起するつもりでクリージのレビューを取り上げた。まだ議論を続けねばなるまいが、いったんここで筆をおいてこの問題を静観してみたいと思う。

まつお・ひでや

1965年愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、東邦ガス(株)、(株)東海メディカルプロダクツ勤務を経て、2007年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。聖学院大学政治経済学部准教授、北海学園大学法学部教授を経て2018年4月より龍谷大学法学部教授。専門は比較政治、西欧政治史。著書に『ヨーロッパ現代史 』(ちくま新書)、『物語 ベルギーの歴史』(中公新書)など。

特集/トランプの末路

ページの
トップへ