コラム/ある視角
ある幼稚園の園長だより「うふふのふ」(その3)
本誌編集委員 池田 祥子
現代の理論第40号と第41号において、すでに丹野禧子さんの「うふふのふ」(園長だより)からの、「抜き書き」を紹介させていただいた。
日々の子どもたちの、飾ることのないありのままの姿のスケッチは、ともすると塞ぎがちになる現代の「政治・経済」あるいは「教育」の状況下でも、やはり前向きな「希望」や「夢」を持たせてくれる。
ところで、丹野禧子さん、80歳を超えられたそうだ。幼児教育の現場に関わり続け来られて57年。今年2026年3月をもって退職!と、聞くことになった。年齢や状況を考えるとやむを得ないことではあるが、やはり、一人の友人としても寂しいことである。ということで、2025年4月から2026年3月までの「うふふのふ」(園長だより)が「最終版」となってしまった。貴重な「最終版」である。
すでに四分の一は過ぎてしまったが、これからの21世紀になお「夢」を持ち続けられるよう、現在の子どもたちへの「信頼」と「希望」のためにも、「最終版うふふのふ」(園長だより)から、1年分を2回に渡っての「抜き書き」紹介を、どうしても残しておきたいと思った。
イヤダ‼
「エンチョウ先生はどうしてオバアチャンになったの?」「あら、わたしだって、ようちえんにいってた子どもの頃だってあったのよ。Dちゃんは、オバアチャンにはならないけど、オジイチャンになるわよ」と言ったところ、「イヤダー‼」だって・・・(2025.4.15)
ボクはライオンだから
年少組のEくん、ニコニコ笑いながら事務室に入ってきました。
「これは何?」「あれ、これは・・・」もの珍しそうに探索している。・・・
「あのね、ここは先生達がお仕事する部屋だから、遊べないのよ」と言うと、四つ足歩きになって、「ウオーウオー、ぼくはライオンだからだいじょうぶ」と、職員机の周りを行ったり来たり。「すみません、ライオンさん、ここはライオンさんのお散歩道ではありません」。
こんな会話をしている所に、担任が探しにきました。
「お部屋にいくよー」と言われると、「ハーイッ」とEくんにもどって、チュウリップ組のお部屋に帰ってゆきました。(4.18)
お弁当はね
年長組さんの遠足の日、朝、元気よく登園してきたEくんに、「このリュックの中においしいお弁当入ってるんだね。クンクン、なんだか、いいにおい‼」
「うん、おべんとう、はいってるよ」「遠足のお弁当は、いったい何かな~?」と言うと、あっさりと「いつもとおんなじ‼」。大人っぽく答えて、門の方に消えました。(4.21)
おっ!今日の声は・・・
朝、年少組から泣き声が聞こえますが、はじめて聞く声の様で、なんだか、なんだか「ウェーン、ウェーン」。ちょっと赤ちゃんぽくて可愛い。思わず見にいくとFちゃんが先生にぴったりと抱かれ、ほっぺたを肩に乗せて泣いていました。泣くという表現をしているけれど、何だか幸せそうでイイナ・・・と思ってしまいました。幼稚園のお母さん、みーつけた!(4.21)
ありがとうをいうんだよ!
年長さんになったAちゃんとBくん。Bくんが上靴を忘れてきたと、上靴を借りにやってきました。足に合う靴が見つかって、事務室を即時に出ようとしたBくんに、「あのね、ありがとうを言わなくっちゃね!」とAちゃん。「あっそうか」とBくん。「ありがとう」のあと、二人はほほ笑みながら事務室を出ていきました。(4.21)
自分の異変をことばで説明する
お昼近く、Eちゃんのクラスからお知らせがあり、「熱を計ってみたら37.5度少々高く、本人はノドが痛くってアゴから首が「かゆい」と言ってますが、お家にTEL入れてください」とのこと。
事務室にやってきたEちゃん。
「わたしね、少しお熱があるみたい。おでこが熱い気がする。37度5分だって。・・・朝から頭いたかったの、今もだよ。それからね、ノドも痛い‼・・・それからアゴの下から肩までなんだかかゆいの‼これって朝からだよ。」
Eちゃんは、今の自分の身体の変化をしっかりと言葉で伝えてくれました。さすが年長(組)さん‼自分だけで黙っているのではなく、変だなと思うところを自分の言葉で、説明をきちんとできたのがすごいですね。
それだけではありません。「きょう、お母さん、お手伝いに会社に行っていそがしいの。待っていられるからダイジョウブ」と、忙しいお母さんの心配をしていましたが、連絡が通じ、お母さんがお迎えに来てくれると、本当にうれしそうな顔になって、早帰りしました。
よかったね。どんなに忙しくても、大切なEちゃんが一番のお母さんでした。(4.25)
いま、M先生が話し合ってくれてるから・・・
年長組の女の子、Nちゃんがちょっぴり涙ぐんで、クラス集団からはずれて、事務室の前に座り込んでいます。
「Nちゃん、なにがあったの?」
「うん、S先生がわかってくれないの・・・」
「じゃ、泣いてないで、S先生にちゃんと話した方がいいんじゃない?」
「いま、Mせんせいが話しあってくれてるからダイジョウブ・・・」
クラスの固まりの中に、たしかに担任のS先生と話し合ってるM先生の姿・・・。
後で聞いてみると、いろいろあって、もめて、「ああ言えばこう、こう言えばああ・・・」と接点がなくなってしまったらしい。そうだね、そんな時、第三者が整理してくれるといい時もあるね。
M先生にお願いしたNちゃん、かしこい。さすが年長さん‼
心配したクラスの子が声をかけに来てくれて、クラスの固まりの中に入っていったNちゃん。何事もなかったように、クラスのみんなと活動していました。(5.21)
かわりに、あやまってあげる⁈
入園してから仲良くなったUくんとVくん。VくんがWくんと二人でグズグズ泣いています。
「VくんがWくんとぶっつかったの」とUくん。「それでね、Wくんがころんだの、だからね、かわりにね、『ごめんなさい』って、ぼくがね、かわりにあやまった!」
Uくんは、仲良くなったVくんのこの現状をどうにかしたいと思ったのね。Vくんがわざとやったんじゃなくて、偶然起こったことだと、言いたかったんだね。
年少組さんでした。(6.2)
予約??
「体操終わったら、Aちゃん、遊ぼうね!」とBちゃん。Aちゃんは「うん‼ わかった」「予約、とっておくね」とBちゃん。
大人の生活の中に、「予約」という言葉や行動が、けっこうあふれるようになりましたね。年長組さんでした。(6.2)
なんだか、変だな~~。さみし~い
空は晴れて風は吹いている。たしかに気温は高く、風もなまぬるいけれど・・・
夏休みに入る前もそうだったけれど、晴れれば晴れるほど、子どもたちの遊ぶ声が聞こえず、姿も見えない。何ということでしょう。
暑すぎて外で遊べない。熱中症アラートが出っぱなし・・・。子どもたちも慣れたもので、クーラーの効いた涼しい屋内で、静かに遊んでいます。
汗びっしょりかいて走り回っている子どもの姿を見なくなりました。日本は熱帯になってしまったのでしょうか・・・。
だんだん四季がなくなりつつある感じがして、なんだかさみしい。(8.29)
(続く)
いけだ・さちこ
1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。元こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。
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