コラム/発信

東京・杉並区政と区議会のいま

2026年初夏

杉並区議会議員 奥山 たえこ

最近の地方選挙では、与党自民党+日本維新の会の推薦による首長候補が破れるケースが目立っている。3月には東京都清瀬市で、共産党党籍のある女性候補(市議6期)が2期目を目指す現職に勝った。4月には多摩市の阿部裕行氏が5期目の当選。東京都練馬区では推薦を全く受けない無所属の吉田健一氏が初当選。この後6月には、3期目を目指す中野区の酒井直人氏、杉並区の岸本聡子氏の選挙が控えている。
 今回は前44号に引き続き、岸本聡子さんが区長選挙を目指す頃、表面化していなかった問題をご報告する。

いじめ問題の対応不備と解決の遅延

2026年2~3月の議会では、あるいじめ問題ケースを何人もの議員が取り上げ、区長と教育委員会(教委)の対応を非難した。

きっかけは4年ほど前、小学生男子たちが一人の女子の腕を引っぱっているのを見た男児が、それを止めに入ったところ、男子6名から顔を殴るなどの暴力を受けた。暴力はその後もあって、登校しても教室に入れなくなった男児はやがて登校をやめた。

弁護士である保護者がこれはいじめではないですかと指摘したことを受け、発生から一か月経って校長はやっと教委に報告した。「重大事態」(▼)に認定されたのは、もっと後になる。

▼:2011年10月大津市でのいじめによる死亡事件をきっかけに策定され2013年に公布された「 いじめ防止対策推進法」では、「重大事態」として「児童等の生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認めるとき」など、3類型を定めて、その際学校は「調査を行うものとする」(28条)として、対応を義務づけた。

「 杉並区いじめ問題対策委員会」(第三者委員会)は、調査報告書を保護者に示したものの、不備があるとして再調査を求めている。しかしスムーズに進まないまま4年近くが経った(委員会が抱える件数=現在11件に比してマンパワーが足りないと指摘されている)。

議会では、他自治体の実例を挙げて、区長のリーダーシップが足りない。また、当事者にそのことも含めて謝るべきであるとの追及がなされた。しかし岸本区長は、いじめ問題にあたるのは第一義的に教委である(区長と教育委員会は別々の行政機関である)との立場から、対応体制の説明に終始した。しかし、度重なる議会質問に対して、答弁を変えて、自分が先頭に立って取組むことをお約束しますと言って、重大事態になる前から区長部局も連携する仕組みを作るなどと3点を明言した。そうして4月6日には、ホームページに、「いじめの重大事態への対応に関する教育長・区長メッセージ」を発したhttps://www.city.suginami.tokyo.jp/news/26054.html )。区長は、「これらのいじめの重大事態への対応の遅れにより、いじめの被害にあわれたご本人とご家族をはじめとする関係する皆さまに長期間にわたり多大なご不安とご心痛をおかけしていることを、区政運営の最終責任者である区長として、心から深くお詫び申し上げます。」と表明した。併せて杉並区における「いじめを防ぎ、いじめから子どもを守る取組」を詳しく説明するページを発表した。
 落着とは到底言えないが、当事者たちに伝わることを祈っている。

障害者会館清掃業務の労働者性認定

杉並区は長いこと、障害者会館の清掃業務を、杉並区障害者団体連合会(任意団体)に委託していた。作業は、連合会が雇用する清掃指導員のサポートのもと、障害者本人の特性に合わせて従事してもらっていた。それは訓練就業であって、労働基準法に言う”労働”ではないと、区も連合会も考え、本人への賃金は最低賃金額以下で支払っていた。しかし新宿労働基準監督署が契約書など各種書類等を確認した結果、その形態は労働者であるからとして、連合会は労働基準法等違反の是正勧告を受けた。勧告には法的拘束力はないとはいえ、連合会は従うこととし、賃金の差額分を遡って支払うことにした。区は弁護士2名に検証を依頼した(緊急性があるので、第三者委員会の設置はしなかった)。それによると賃金額の判断は連合会であるから、区は法的責任はないものの道義的責任があると指摘された。そこで、連合会と区で半分ずつ負担することにして、区の分は補正予算を立て(過去において労働者性を認めていれば、区はその分の賃金を支払うべき立場にあるので)、議会も承認することで決着を見た。

*杉並区障害者団体連合会に対する労働基準監督署からの是正勧告と区の対応について(令和7年9月2日)https://www.city.suginami.tokyo.jp/22761.html

河北病院跡地埋蔵物撤去問題

これは大変な難問題で、岸本区長は今回の任期中に当面の対応方針を表明したものの、その後の見通しは見えていない。

現地建替えから病院跡地への移転建替えに

杉並第一小学校は、JR阿佐ヶ谷駅からけやき通りを2分くらい北に進んだ東側、交通至便な一等地にある。校舎の老朽化に伴い建替えの計画があり、基本設計も済ませていた。ところが、現地ではなくて移転改築するという案が浮上した。まず、この一帯は主に小学校(敷地の大半は杉並区所有)、江戸時代から続く広いけやきの森、そして二次救急医療機関である河北総合病院(地主は森の所有者)の大きく3区画に分けられる。新しい案は、病院が森の中に移り(樹木はかなりが伐採された)、学校は病院の場所に移転し、ここの土地を取得する。学校の跡地は、森の地主のものとなるが、その使途は未定(通りの並びには大型スーパーと銀行がある)。この移動は売買ではなくて「換地」で行う。この区画整理事業は、通常の組合施行方式ではなくて、なぜか3者による個人施行の枠組みで行われた。そのため契約は、協定書などを結んでいるものの、議会への報告もほとんどなく(換地に際して不動産鑑定を行うが、区は開示請求に対して、通常は公開される鑑定士の名前を非公開とした。請求者が不服申立て裁判を行ない勝訴したので開示された)、非難の的であった。なお歴史的な経緯があり、都市計画での議決に相当する”決定”は、議会ではなくて都市計画審議会(東京都、杉並区それぞれにある。対象地域の規模により、管轄が分けられている)が行う。その点でも議会の監視は届きづらい。

この移転については、学校の卒業生や議会からも大きな反対が出された。理由の一つは土壌汚染。病院は診療の際、例えば病原菌に汚染されたガーゼなどを排出する。注射針などは危険物とも言える。百年近い歴史の中、まだ環境汚染という概念もない時代に廃棄されたものが埋設されている可能性が高い。さらにそもそも地下室(霊暗所など)の構造物の杭なども残っている。もう一つは、この地域は水が潤沢で(近所に銭湯がある)数十年前には冠水が起きた。よって災害時の避難場所として不適当であると懸念された。なお、岸本聡子さんの区長選挙において、この計画を白紙に戻してほしいと願う区民の声が多数あった(公約では見直しはうたっていない)ものの、すでにここまで進行している計画は変更できないと、24年1月にビデオメッセージで表明した。

協定書の読換えで構造物の撤去に齟齬

懸念が示されている地下構造物や土壌埋設物については、土地の明渡しに際して全てを撤去し、きれいな状態にして引渡すということを議会答弁で何度も確認してきた。ところが、病院財団側は、協定書の7条1項を「土地利用に支障とならない障害物の除去まで求めていない」と解釈を示し、杭はむしろ残した方が地盤が安定するとまで主張するに至った。予想外の見解に対して、杉並区は反論を試みるも有効な抗弁をなすに至っていない。一方、学校の建設予定時期は諸事情ですでに遅れており、これ以上の猶予はないと考えている。結局、地下に埋設物を残したまま土地の明渡しを受け、建設をする。土地の価値は減価するので、その分の請求は留保するとしている(財団は減価することを認めていない)。なお全てを撤去するための費用は13~16億円。今回財団の主張する方法での費用は10億円ほどでとのことである。

2月の総務財政委員会で私 奥山への答弁に、この間の話合いには、病院の顧問である吉田氏(杉並区の元副区長。岸本氏就任の日に辞職した。なお河北病院には元区長田中良氏の立看板が設置されている関係にある)が参加していたこと、この件に関する数回の話合いの内容は録音していないことが判明している。なお現在の副区長は「区民の財産である土地の価値を毀損することはありません」と答弁している。しかし病院側の主張を見るところ、たとえ差額の請求訴訟をしたとしても、その請求権原の主張は困難であると言わざるを得ない。訴訟も含め、区がどう出るかは現在見通せない。

2026年第一定例会

今回は、予算委員会であった。一般会計は、26対20で可決した。

2025年2月に議場の演台を叩いて、懲罰を受けた田中ゆうたろう議員は、今議会で3回目の演台叩きを行った。2回目は警告決議であったが、今回は問責決議とし、「なお、今後同様の行為が繰り返される場合には、本議会として、これまでの経過を踏まえ、厳正に対処することを、ここに明示する。」と表明した。

区長選挙

4月になって、3人目が立候補の記者会見を行なった。

2025年の都議選に、「再生の道」(代表石丸伸二氏・当時)から立候補した増田よしひこ氏(国際ビジネスコンサルタント)である。今回は推薦を受けるという。「みどりで稼ぐ杉並」を掲げ、区内の樹木を増やす政策を打ち出している。樹木を増やすという点では、岸本氏と重なる点がある。

岸本氏は、4月23日、区内の会議室で「杉並NEXT、始動! 政策で決める未来へ~岸本さとこが区民の皆様へ実績と政策をご報告します~」と題して支持者向け集会を開いた。

その会で、田中ゆうたろう議員を提訴したことを公表した。田中氏は議会の場で、岸本氏の大学卒業について質問した。岸本氏は卒業したと明確に答弁したにもかかわらず、田中氏は自身の X アカウント、ブログ、フェイスブックにて「岸本聡子区長の学歴詐称疑惑」と題して、投稿を重ねた。岸本氏の削除と謝罪要請にも全く応じていない。岸本氏は、政治家への誹謗中傷や悪意あるデマが横行している現状と泣き寝入りとなる状況を見て、「私一人の名誉毀損にとどまらない社会的な意味があると判断し、提訴を決めました。」と述べている。

この会において岸本氏は「前区政との一番大きな違いは」と尋ねられて即座に、「透明性です」と答えた。確かにその通りだ。政策の遂行に当たって、決定する前、その意思形成過程からの経緯を明らかにして、区のホームページで公表している。この流れはもう後戻りできないものとなっている。

おくやま・たえこ(妙子)

1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。東京都立大学法学部卒業。金融会社、派遣社員、出版社勤務。2003年杉並区議に初当選(無所属)。 23年5月から5期目、単身高齢者の貧困問題に取組む。趣味は焼き鳥屋で読書。

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