論壇

一体誰のための再開発か?

東京板橋・大山商店街に迫る危機

フリーランスちんどん屋・ライター 大場 ひろみ

既にタワマンが建設中

前号までの筆者連載を読んでいただいた方にはお分かりかと思うが、みどりやというちんどん屋の仕事に関する記録を基に、社会史との接点を見て来た私は、商店街がちんどん屋にとって大事なクライアントであり、その浮沈と共にちんどん屋の仕事も左右されてきたことも考察した(本誌第32号)。

東京都・板橋区にある大山商店街(ハッピーロード大山)は、私がちんどん屋として何度もお世話になった場所であり、現在まで繁栄を誇っている東京有数の商店街として知られている。その大山が、大規模再開発によって姿を大幅に変えつつあるという情報に接して、決して他人事ではないという思いに駆られて行ってみた。

商店街を歩き始めてすぐに、商店街を挟んで向かい合う巨大なマンション2棟の建設が進んでいるのを目の当たりにした。住友不動産が売主となる「シティタワーズ板橋大山」で、24年12月の竣工を目ざしている。この地区は「クロスポイント周辺地区」と呼ばれ、タワマン2棟の間を都道補助26号線が通過する予定。つまりこの26号線が商店街を斜めに大きく分断してしまう。実はこの道路計画は、いまだ着工の見通しすら立っていないが、真っ先に商店街のアーケードの一部を解体するのだという。

その日(4月7日)は、昨年11月に続く、第2回目の「再開発反対!アーケード解体反対!」デモの日で、出発点であるスーパー「コモディイイダ」前には、三々五々様々な人々が集まった。コモディイイダは再開発のもう一つのタワマン2棟建設予定地、「ピッコロ・スクエア周辺地区」に当たっており、立ち退きを迫られている。当日の参加者は主催者発表で約280名。途中から列に加わる街の人々の姿もあり、ハッピーロード大山を突き抜けて、踏切を渡ると、向かいの商店街、「遊座大山商店街」に入る。大山駅を挟んで東武東上線の一部が高架化し、また駅東地区に駅前広場と称する道路を整備する予定。つまり2か所、合わせて4棟のタワマン建設と、都道補助26号線の道路建設、線路と駅の高架化、駅前広場化と、5つの都市計画が一挙に進められており、既に1か所のタワマン2棟は着々と建設中という状況だ。(以下板橋区HPより)

デモ隊は遊座大山を過ぎ、板橋区役所に向かった。この再開発は、東京都と板橋区の認可を得て行われている。板橋区役所前では「行政はみんなの声をもっと聞けー」とシュプレヒコール。ゴールの四ツ又公園でコモディイイダの飯田武男社長と、反対運動を牽引する「大山問題を考える会」の皆さんがそれぞれ声を上げた。

「幸せにつづくなが~い屋根」

そもそもは都道補助26号線である。1946年、戦後すぐに決定され、長いこと塩漬けになっていた道路計画。1972年、再浮上した商店街を分断する道路計画に対し、「大山地区縦断反対期成同盟」が結成される。1977年には、それまであまり仲の良くなかった「大山銀座商店街」と「大山銀座美観街」が合併し、1978年、アーケードを築いて、「ハッピーロード大山商店街」が誕生。道路を作らせず、商店主や住民が手を結び、繁栄を導く象徴が「幸せにつづくなが~い屋根」(当時のキャッチフレーズ)だった。つまり、商店街とアーケードの歩みは道路建設との闘いの歴史も刻んでいるのだ。

その道路計画がまたぞろ再々浮上した。どうも契機は東京五輪だったようだ。「2017年3月に板橋区が配布した「大山駅周辺地区まちづくりのお知らせ」では、2015年事業認可、2020年に完成予定だった。東京都が事業主体で延焼遮断帯を作る、つまり防災が名目だが、なんで五輪なんだろう。26号線は通称環状6.5号線とも呼ばれ、環状6号線と7号線の間に鮫洲から大山まで走るバイパスのようなものだが、今更なんで貫通させなければならないのかとなると、64年の東京五輪で道路やら鉄道やらを作って大発展・大儲け、五輪に乗っかれば無理強いが通る、みたいな夢よもう一度、なんだろうが、これはまあ推測である。しかし、この付近の工事としてはハッピーロード大山のすぐ横を通る川越街道との交差点まで、26号線拡幅工事は完了している。道路事業者にとって喉元に引っかかった骨のようなものがハッピーロードだった。

再開発の経緯

しかし再開発に対して何が何でも反対だというわけではない。反対の声が大きくなるには理由があった。“身の丈にあった再開発”が当初計画されており、当時大山商店街振興組合の役員だった石田栄二氏(「大山問題を考える会」)や、店舗の移転を持ちかけられたコモディイイダの飯田社長(当時常務)も、当初の身の丈再開発には理解を示していた。

2014年3月、板橋区が策定した『大山まちづくり総合計画』によると、まず板橋区の基本構想と東京都の東京都市計画があった。両方の計画を合わせて、住民参加としては「大山周辺地区まちづくり協議会」(町会・商店街推薦、公募委員で構成、2009年6月結成)が『大山周辺地区まちづくりマスタープラン』(2012年3月)を提言し、『大山まちづくり総合計画』が策定されたことになっている。が、石田氏によると、「街づくり協議会」に振興組合の役員として交代制で参加していたが、なぜか「補助26号道路」や「鉄道立体化」の話は禁句事項となり、それに触れると区職員に却下されるので、具体的な提案などはなく、住民参加の既成事実作りに参加させられたという体であった。『マスタープラン』は区側の都合で、区側のコンサルタントが独自に作成したものであり、「出席者の声はほとんど反映されていない」と断言している。

この段階でも十分問題があるが、『総合計画』には何度もどの再開発地区に対しても「交流とにぎわいの拠点」という表現が繰り返され、例えば26号線に関しては、「沿道におけるまちづくりの促進と商店街の人の流れを妨げないような配慮について、地域の皆様と協議をしながら」進めていくとし、クロスポイント地区については整備の方向性として「商店街の人の行き来をつなげる場」とし、ピッコロ地区には「オープンスペースの確保」と「補助26号線の整備にあたり移転される方の代替地としての機能」もうたっていた。まちづくりのルールについては、「検討を行う際は、計画の対象地区にお住まいの皆様に参加いただきながら進めていきます」と明記。地区計画に定めることの出来るルールとしては、「建築物の規模の制限(高さ・容積率・敷地規模・壁面の位置など)」が挙げられ、この両方のルールはあちこちに記述がみられる。つまり、この『総合計画』は、商店街の維持と繁栄を目的に含み、住民無視の行政手法やタワマンの建設などあり得ないように見えるのだ。

2014年9月、東京五輪までに都道補助26号線の開通を目指すにあたって、店舗の移転を伴う再開発計画(ピッコロ・スクエア周辺地区)の話し合いを、商店街振興組合や区の関係者らと持ったコモディイイダの飯田武男社長(当時常務)は、現在の店舗が建つ区の土地を立ち退く代わりに、すぐ裏にある都の土地(“ピッコロ広場”と呼ばれ、昼間は住民に開放されている空き地)に建つ建築物に移転する計画を聞かされ、承諾していた。そもそもコモディイイダが大山に出店した経緯も、26号線計画と深く関わっている。現在店舗の立つ土地は、26号線計画に伴って移転させられる人々の代替地として、長年区が所有しながら何も建たずに隔壁で閉鎖されていたため、「嘆きの壁」と呼ばれていたのを、商店街振興組合がスーパーを誘致、結果、コモディイイダが建設費を負担して振興組合が所有する形を取り、コモディイイダと振興組合事務所が入居して「ハロープラザ」という建物となっている。2003年出店以来、商店街の繁栄に貢献してきた。

2014年段階の説明では、コモディが移転した後の区の土地は先ほどの『総合計画』にある通り、「補助26号線の整備にあたり移転される方の代替地としての機能」がうたわれ、更にこの時の添付資料には、コモディが移転する先の建物はコミュニティ銭湯や図書館のような本屋さん、イベントホール、そして「ピッコロの森」という緑化公園も描かれており、このような“身の丈に合った再開発”のイメージ、「1日も営業を休むことなく移転できる」という説明に社長は納得していたのである。

裏切られた計画

その後、コモディイイダ側は商店街振興組合に何度も再開発計画の進捗について尋ねたが、再開発にはまだ長くかかるの他、その後も何も説明はないので、コモディは2020年8月に3億円かけて店舗の改装工事を行った。その直後の2020年12月に初めてピッコロ地区における高層マンション計画を聞かされたという。さらに2022年12月には、23年12月末で建物を明け渡せと振興組合から告げられる。まさに「寝耳に水」。再開発後の都の土地の建物に入店する話もなかったことにされ、コモディの移転後の区の土地が26号線で立ち退きを迫られる人の代替地になる予定も消え失せていた。

ここで商店街振興組合の存在に、はて?と、疑問符が浮かぶ方が多かろうと思う。商店街振興組合とはアーケードを作って守り、商店街の振興を担う主体ではないか?それがなんでタワマン計画の推進者になっているのか?

振興組合といっても一枚岩ではなく、利害が分かれるということがある。悲しいことだが、成田闘争など例を挙げるまでもなく、どんな地域でも起こり得る分断の構図である。どちらが正しいわけでもない。地権者であってみれば土地に価値が付くことは得になり、自分にとって正しいことになる。

が、ここで問題なのは、地権者やディベロッパー、行政だけが関与して、多くの住民や利用者に情報公開や意見を求めることなく、すべてが決められていった過程にある。『総合計画』発表以後の情報開示で、クロスポイント地区について見れば、2019年6月認可の『事業計画書』があり、20年、23年の2回変更が加えられているが、この書類でタワマン建設予定が確認出来る。

先の「大山問題を考える会」の石田氏に、タワマン計画浮上までどのような住民参加の機会があったか尋ねてみた。要約すると、

「・近隣住民参加による会合は、私が知る限り一切ありませんでした。(*建設工事の事前説明会等はありました。)

・タワマン計画は、再開発準備組合(引用者注:有志の地権者と事業協力者⦅参加企業⦆が事業計画の立案・検討を行う任意団体。クロス地区は2015年結成)の理事会内でのみ(ディベロッパー主導にて)協議されています。(クロス地区:住友)(ピッコロ地区:積水)

・理事会には、板橋区職員も必ず出席しています。区の職員は理事会で『第一地権者である板橋区としては』と豪語して意見を述べ、ディベロッパーと事前協議をした結論を、再開発組合の理事に、説き伏せているという状態でした。」

つまり、「板橋区と大手ディベロッパーとが、結託し」「タワマン計画立案について、近隣住民の意見が反映されるような場は、全くありませんでした」(石田氏が多少なりとも経緯を知り得ているのは、商店街振興組合の役員の一人として何回か出席したため)。

住友のタワマン、「シティタワーズ板橋大山」は2020年10月に「建築計画のお知らせ」を設置し、21年9月から着工した。ほとんどの近隣の者にとっても「寝耳に水」だったはずである。

タワマンありきの行政手法

このようなことが何故可能なのかを、もう一つのタワマン建設予定地、ピッコロ・スクエア地区の経過で見てみよう。コモディの飯田社長が2020年12月、初めてタワマン建設について聞かされた翌2021年7月、区による「大山町ピッコロ・スクエア周辺地区都市計画素案」に関する説明会はコロナで中止。動画の配信のみで質疑応答はなかった。同年9月には、区による「都市計画原案説明会」は開催されたが、質問には「今後の検討課題」「未定」などで中身を欠く回答。同年11月、「第189回板橋区都市計画審議会」が行われたが、山内えり委員が質問で、区・都有地を1/3含むのに合意形成がないまま進めている、一部の地権者には周知せず、土地利用を予定している、“第一種市街地再開発事業”とすることによって107mの高さまで建築可能と変更しているのに住民らと協議が無い等、問題点を指摘しているのに「事業としては進めていけるもの」と返答するに留まっている。

この“第一種市街地再開発事業”が曲者である。これは地域の老朽化や緻密化などを理由に、タワマンを建設して地権者や借地人を強制的に追い出すことが可能な事業で都道府県知事が認可を行う。“第一種”は権利変換方式という、建物の床の権利を売却することによって費用を賄うので高さが高ければ高いほど儲かる。地権者は元の価値に見合う建物床の権利を得る。この計画変更によって区とディベロッパーは“いける”と思ったのだろう。

「第191回板橋区都市計画審議会」は2022年3月、ピッコロ地区再開発計画を採決・決定する会だった。これに先立ち、1月の2週間に都市計画案の縦覧と意見書の提出、つまり住民に情報公開し、意見を集める期間が設けられ、提出通は20通、19名だった。

ここにうたう都市計画の概要、「土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ることにより、補助第26号線の西側地域の交流とにぎわいの拠点の形成を目指すため、第一種市街地再開発事業の都市計画決定を行う」とは、要はハッピーロードを挟んで100mを超す2棟のタワマンが聳え立つということである。

山内えり委員はここでも鋭く質問した。そもそものきっかけである都道補助26号線の土地買収率はこの時点で42%で、事業完成が見込まれないのに何故この計画を進めるのか、には、あくまで都が2025年完成予定なのでそれに基づくと答えるのみ。

意見書で“自分の住む所は計画区域に加えないでほしい”という人はどうするんだという質問には、「都市計画決定をしますと、区域としては決定されます。」と、つまり有無を言わさず従えということ。

総事業費の補助金について決まっているのかと聞くと、「今現在は固まっているものではございません」。大事な金の話が分からないという。

この計画の目的の大きな一つが、「防災の向上とにぎわいの創出」と説明されてきたが、どうやってこのにぎわいを創出するのか、経済効果は試算しているのかとの質問に、「経済効果については算定しているところではございません」。意見書の多くが「タワマンが建ってなんでにぎわうんだ」という疑問を投げかけているのに、書類上でも、区は「にぎわいを形成するため計画を推進する」と、自己の前提を繰り返すのみで答えになっていない。

防災については、坂本あずまお委員から武蔵小杉のタワマンの水害(2019年10月)を例に挙げ質問があったが、クロス地区についても電気室を上に持って行く変更をしているところと返答。山内委員からは板橋区で震度4の地震があった時、区内で4520件の停電が起きた例を挙げ、停電の際タワマンは非常に災害に弱いのではないかとも指摘(回答はなし)。

稲垣道子委員からは、武蔵小杉の例から「停電が起きたり、台風が起きたり、何かが起きたときに、超高層というものの需要といいますか、評価というものががた落ちするような、結構不安定なところがある住宅の住み方だ」と指摘があったが、区は「高度利用することによってプラスのほうでまちづくりを進めていきたいと考えている」と回答。"高度利用地区“に変更することによって、小さな建物の建設に制限を加え、集約された大きな建築物しか建てられなくなるようにしておいて、それは”プラスのまちづくり“なのだという前提を繰り返しているに過ぎず、またもや回答になっていない。

誰のための再開発か?

しかしこの審議の中で、最も重要なのは、住民の合意が形成されているのか、住まいや営みに大きな変更を余儀なくされる人々に対して、どのような補償がなされるのかといった疑問についてである。先の通り、「大山問題を考える会」の石田氏によれば、「タワマン計画は、再開発準備組合の理事会内でのみ(ディベロッパー主導にて)協議されています」で、住民の参加はない。よしんば、地権者のみの参加で決められるとしても、ピッコロ地区では、区と都の土地が1/3近くを占めるので、山内委員は、“都民や区民、周りの地域住民にもすごく影響があるので、情報開示というのはすべきだが、情報開示要求した区民に対して、ほとんど黒塗りで、内容が開示されていない”、と質問した。

しかし区は、「公有財産をどう権利行使していくかというのは区民の皆さんの関心も高いところでございますので、方針を確定次第また御報告させていただきたい」、情報公開は「決定を行っているところ」とうそぶいた。全て決めてから後出しジャンケンみたいに公開しても遅いのにだ。

山内委員はさらに、建設中のクロス地区について、「こちらも非常に多くの方の心配や懸念がある中で、私が心配しているのは、住民の皆さんがこの地域に住み続けられなくなっているという現状がクロスポイントで既に起きています。それから、少なく見積もっても40店舗を超える人たちが、店を移転するか廃業している状況です。様々なお店がなくなり、会社がなくなり、皆さんが使っていた施設がなくなっていく中で、戻れる方が二、三店舗と聞いています、再開発事業の中に」と、重大な問題点を指摘、ピッコロ地区でも同じ事態になるのではないか、クロスポイントの事業の検証は区として行っているのか、と質問。区は、「事業認可後、令和2年6月に権利変換計画の認可が下りているところ」と、もうタワマンは建ちつつあるのに、追い出された人らの権利は定まっていないという。

ここで、もう一度戻って、さきほど公有地以外では、再開発準備組合の理事会で「地権者のみの参加で決められるとしても」と仮定したが、この合意形成で決定していいとは、私は思っていない。

都市再開発法の第11条では、再開発組合が所有権者と借地権者の5人以上から都道府県知事の認可を得て設立され、事業計画を進めることが出来る。第14条では、組合設立の認可は、対象地域の所有権者と借地権者の3分の2の合意を得なければならないと規定されている。

「大山問題を考える会」の田原佳幸氏は、FB上の「《再開発は誰のため》シリーズ」で、板橋区に情報公開請求していた「大山町再開発地区の組合設立に同意した地権者の数とその同意率」について、公開された情報によると、「クロス地区 権利者合計34人 同意者合計26.69人 同意率合計78.5%」「ピッコロ地区 権利者合計57人 同意者合計42.4人 同意率合計74%」で、3分の2の合意要件を満たしているが、地権者は両地区合わせて91人、同意者70人未満で作られた再開発組合によって、大山の町がタワマン4棟が林立するまちにつくり変えられていいのか、と異議を唱えている。

田原氏は大山の町周辺を生活基盤にする人口を5万人くらいと見積もって、「その5万人は、91人の地権者を除いて、この大山駅周辺地区の大改造計画に対して意見を言うことはもちろん、満足な説明を受けることすらほとんどないというのが現状なのである」と憤る。さらに「同意しなかった3分の1弱の地権者で最後まで立ち退きを拒む者は強制執行によって追い出されることになる」と。私も田原氏と共に憤りを覚えるものである。

審議会の段階では、この地権者の同意も山内委員の質問によって、口頭での確認に過ぎないものが含まれていることが明らかになった。区は準備組合から組合への設立段階で同意書を取ると弁明している。

何にしても、議論は尽くさないまま、賛成挙手の多数によって、ピッコロ地区事業計画は決定された。あとは坂本健区長のハンコだけ。決定ありきの審議だったのである。ピッコロ地区再開発組合は2023年9月都知事より設立認可を受け、現在は権利変換計画が進行中である。

水神様の祠から

繰り返すようだが、「大山問題を考える会」の面々は何が何でも再開発反対と唱えてきたのではない。大山の町がよくなるように、一緒に考える場があれば違っていたはずだ。石田氏は、本来の順番は「①ピッコロ再開発(集客施設)」の成功例を構築後「②クロス再開発(大山のシンボル)」を作成、同時に「駅前地区」を含む3拠点のゾーニング(業態調整等)を実施して大山全体の魅力を高め、商店街の活性化を図るというものでした。」(大山まちづくり委員会)ところが、「補助26号の開通を焦るばかりに、クロスの再開発(道路の用地買収)を先行し、アーケード施設(商業環境悪化⇒用地買収)も異常なスピードで進めようとしています。とにかく、最も大切な、地元住民・各生活者の声が届かない仕組み、声を聞かずに無視できる行政手法に、大きな問題があると考えます。」と冷静に分析する。

さらに石田氏は、公共が負担する、つまり税金の投入額を問題に挙げている。そもそものきっかけである、防災が名目の補助26号線(大山中央地区)の事業費は東京都都市整備局の資料(2015年)によれば178.3億円。22年の審議会では不明だった、ピッコロ地区の再開発に投じられる補助金などは173億円(2023年1月再開発準備組合事業説明会資料)。都や区が計画した事業を実際には再開発組合という法人、つまり民間事業として行い、それに立ち退きなどの強制力を持たせられるのは、ひとえに都市再開発法(1969年~)によるものである。

民間事業といいながら、そこには多額の公金が投じられる。公金が使われるなら、都や区は住民の声を聞く義務がある。タワマンという金儲けの種を建て、都合のいいように民間、公共と使い分け、お金のキャッチボール(還流)をして、住民を追い出し弄ぶ。この根拠となる都市再開発法はディベロッパーの期待を受けて、近年ますます規制緩和されてきた(例えば再開発会社など)。見逃しには出来ない。

6月29日、訪れた大山商店街のアーケードは、26号線が突き抜ける予定の部分の一部が解体され、ぽっかりと口を開けている。

それでもいいではないかという方もおられようが、タワマン4棟が並び立ち、補助26号線が突き抜ければ、商店街を中心としてきた街の導線は大きく変えられてしまう。「大山問題を考える会」

私はこれを、今、パリ五輪でも進められるジェントリフィケーション(町の富裕層化)の一つと考える。元々の住民を追い出して富裕層に入れ替えていく手法だ。しかし富裕層どころか、投資目的ばかりで誰も住まず、町が空洞化していく可能性さえある。東京では現在、小池百合子都知事(3期目)の元に都のあちこちでタワマン認可が出され、住民が悲鳴を上げている。再開発にまつわる様々な欠陥のある法や制度と、利権と結びついた自治体の長によって、推し進められる再開発だが、もう一度考えよう、再開発は誰のためのものか?

大山商店街の手前まで来ている補助26号線の下には、千川上水の暗渠がある。元禄時代から明治まで、飲料水や農業用水として長く活躍した水資源である。このように何百年も先まで見越した土地開発を見習うべきではないか?水神様の祠から、竣工間近のタワマン2棟を眺めて、目先の利権にしか目が無い今の人間のあり方を思う。

おおば・ひろみ

1964年東京生まれ。サブカル系アンティークショップ、レンタルレコード店共同経営や、フリーターの傍らロックバンドのボーカルも経験、92年2代目瀧廼家五朗八に入門。東京の数々の老舗ちんどん屋に派遣されて修行。96年独立。著書『チンドン――聞き書きちんどん屋物語』(バジリコ、2009)

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