コラム/発信

東京・杉並区政と区議会のいま(その2)

――2024年夏

杉並区議会議員 奥山 たえこ

「杉並ですか、いいですねぇ」。会合などで会った人に名刺を出すと、そう言われることがある。市民団体が擁立して当選した岸本聡子杉並区長の存在は、関心ある人にはよく知られている。ではどのような活動をしているのか。議会との関係はどうか。前回の38号ではその一端をご報告した。今号はその続きである。

前区政の計画見直しなかなか出来ず

住民思いの杉並区長をつくる会が、「区長を変えたい」と切に願う契機となったテーマは、施設再編計画と道路建設計画の見直しである。ちなみに杉並区の施設再編計画は、児童館と「ゆうゆう館(高齢者専用施設)」を廃止して、「コミュニティふらっと」に統合するというものである。けれども区長が変わったからと言って計画が白紙になったわけではないことは前の38号でも言及した。

それとは別件で、23年6月、議会に岸本区長名で提出された「2023(令和5)年議案第37号 杉並区立コミュニティふらっと条例の一部を改正する条例」。これは2つの区民集会所と「ゆうゆう館(高齢者専用施設)」を廃止して、「コミュニティふらっと本天沼」を新設する内容である。この複雑な議案内容と委員会審査の様子について、フリーランスの記者である亀松太郎さんが「波乱が続く『杉並区議会』 33年ぶりに『区長提出の議案』が委員会で否決」がYahoo!ニュースに掲載されている。(なお議案は、本会議での採決では可決された)。

道路建設計画については、区が権限を持つ区道(補助132号線。青梅街道から南下し、西荻窪駅を越えて神明通りに達する道路の拡幅)に関しても、すでに用地買収が進んでいるので、いまから白紙に戻すことはできないという理由で、引き続き買収を進めている。

前区政の残滓 ― 出来レース業者選定

2024(令和6)年議案第27号「杉並区立荻外荘公園外2公園の指定管理者の指定について」。これは区立荻外荘公園、大田黒公園、角川庭園の3園を一括して管理する事業者を決定するものである。杉並区が設定した選定委員会で決定したのは「虎玄(こげん。羊羹の虎屋の100%子会社)」。2月22日の都市環境委員会で問題となったのは、選定委員5名のうちの1人であるお菓子などのエッセイストが、以前からこの虎玄と付き合いがあり、委員会設置の5か月前に、虎玄が運営管理する会場で講演会を行っていたことが判明したこと、などである。

区は事前に著書やブログのチェックはしていなかったし、講演会開催のような関係にあることは委員任命後に気がついたとうそぶいた。そこで、選定の公平性にほとんどの会派から疑義が示された。さらに荻外荘を所管する課長は、この選定の4年前に虎玄の管理施設を見学していた。虎玄の関係者が荻窪に見学に来た際には、当時の田中良区長が案内をしている。また角川庭園の管理を受託しているNPO法人は、区の「杉並地域大学」で養成された区民たちが受託のためにNPOを設立したものであるのに、今回の選定結果により、その仕事を失うことになる。なお区はかねてより、地域の団体と連携しながら公園の管理を行なっていくと発言していたが、それに反する結果ともなる。

さらに区は、 自民党会派の質疑に対して、この議案が否決されると選定のやり直しになるので、予定の4月からの開園が半年ほど遅れるかもしれないと答弁した。これは議案を否決されないための牽制である。なお実際にはそんな懸念のないことを、私奥山が答弁を引き出した(現在公園を管理している業者に、4月にも引き続き管理をお願いする事は不可能ではないとの答弁。選定委員会はやり直すことになる)。

そのような状況が判明していたので、区長与党である共産党、立憲も冒頭から厳しい質疑を繰り出した(自民、公明は反対の姿勢ではない)。全員の質疑が終わり、これから意見開陳(意見を付して賛否の表明をする)となる段階で、区長が委員長に発言の許可を求めた(執行部は議会の質疑に応えて答弁するものであり、問いがないのに発言することは、通常はしない)。

区長は「指定管理選定の際には透明性を確保することは当然であり、公正で健全な区政運営を実現するために、公務員倫理や内部統制に関する職員研修を重ね、今回の質疑も踏まえて服務規程をさらに向上してまいる所存でございます」、「御理解をいただき、皆さんの最後の御判断をお願いしたいと思います」と説明した。その直後、休憩の動議が出された。

1時間後の再開時には、なぜだか与党会派は、 疑義は払拭されていないと言いながらも賛成に回り可決した。岸本区長に厳しい立場をとる前区長派と目される会派は反対した。 ちなみに、3月18日の最終日の本会議では賛成36、反対11で可決された。私奥山は反対した。前区長時代に仕込まれたこのような出来レースの裏事情を、岸本区長は知らなかったのかもしれない。だから今後は透明性を持って行うので今回はご寛恕願いたいと言っているように聞こえたが、私には到底看過できるものではない。

前区政の残滓 ― 大規模地下工事

杉並には妙正寺川、善福寺川が流れている。2005年9月4日には1時間100mmを超える集中豪雨により氾濫して、付近は溢水し大きな被害が出た。23区の大半は、汚水と雨水を同じ一つの管で流す合流式なので、溢水が引いた後は下水の残渣が路上にあって、はなはだ不潔な状態となり消毒が必要になる。特に現在のような短時間に大量の雨が降るゲリラ豪雨の時期、付近の住人は心配が絶えない。

それに対し東京都は、善福寺川上流の地下にシールドマシン方式で地下トンネル式調節池を建設する計画を持っていることが、最近になって判明した。それは10年超の工事期間中、周辺住民が日常的に利用している公園2か所が閉鎖され木が切られ、20軒以上が立ち退きを迫られることになる。工事費用は100億円とされている。完成した後、公園には、取水管理施設が建てられるので様相は一変する。 以前と同じようには使えない。工事期間中は、騒音、振動が発生し、工事用車両の流入による交通渋滞も発生する。

そんな計画のあることを突然知らされた周辺住民は署名を集め反対運動を展開し、2023年12月6日には都庁で記者会見を行なった。しかし翌年2024年1月16日には杉並区の都市計画審議会が開催されて計画は決定とされた。杉並区は東京都に強く働きかけて、都は区役所で住民説明会を開催した(予定時間を大幅に超えて紛糾した)。2月6日には都の都市計画審議会が開催され、ここで決定となった。

なお、区は都の照会に対する回答書として、計画案には異議なしとした上で、都の周知不足を指摘し、丁寧な説明を求めると共に湧水の保全に努めるよう強く求めている。このような要望が担保されるかは不明だが、岸本区長ならではの回答だと思う。なお気候変動対策は岸本区長の関心事であり、グリーンインフラ(自然を活かした治水対策)の専門家を招いての研究などを進めている。住民は諦めずに署名を集め続け、国会議員を招いての学習会などを開催している。

地方自治法改悪案成立

6月19日参議院で可決・成立した。これは、法律に個別規定なくても、国が自治体に指示ができるというもので、憲法に緊急事態条項を設定しようという動きの先取りだと言われている(内容は「地方自治体に国への従属強いる地方自治法改定案 改憲の緊急事態条項を先取り 被災地放置しながら法改正に利用する厚かましさ」『長周新聞』2024年5月15日に詳しい)。

区長はすでに議会では、2月15日、ほらぐちともこ議員に答えて、「この改正案は、コロナ禍を教訓に、緊急時に迅速に対応することが狙いと理解しておりますが、地方分権の流れや地方の自主性を損なうことのないよう、国と地方の役割分担など、地方自治体の意見も聞きながら丁寧に議論すべき問題であると考えております」と答弁している。

また、自身が世話人となって設立した、Local Initiative Network (LIN-Net) ローカルイニシアティブネットワーク共催の、5月23日院内集会「緊迫!28日(火)傍聴へ行こう。地方自治法「改正」案、衆議院通過か!?」に参加して発言した。LIN-Netとは、2022年12月に、保坂展人世田谷区長、岸本聡子杉並区長、阿部裕行多摩市長たちが立ち上げたもので、「首長と自治体議員と市民が互いに理解を深め、政治の選択肢を示していくために言葉と政策を共有して、新たな潮流として可視化できる準備のための議論を始めます」と謳っている。

また、杉並区が9自治体と結成している「自治体スクラム支援会議」(岸本 聡子:幹事)で、2024年5月11日「地方自治法改正法案に対する声明」を発表し、「国の補充的な指示については、事前に地方公共団体との間で十分な協議・調整等を行い、現場の実情を適切に踏まえた措置となるようにすること」などと表明した。

自治体スクラム支援会議とは、2011年東日本大震災の際、災害時相互援助協定を締結していた福島県南相馬市が被災して連絡が取れなかったのを、当時の田中良区長が直接電話連絡して、国・県の支援や指示を待っていられない一刻を争う状況であることがわかり、杉並区のネットワークを利用して支援したことから立ち上げたもの。今回国はコロナ禍を奇貨として国から指示を出そうとしているけれど、3.11では、むしろ自治体間の連携の方がよほど迅速で効果的だったことを杉並区はよく知っている。(杉並区所有の保養施設を避難先として提供し、のちに国から費用の精算をしてもらった)

その他(報告のみ)

① 男女共同参画担当課長を公募、就任

区では、「職務内容男女共同参画に関すること(杉並区立男女平等推進センターの業務を含む)」などの用件で課長を公募、今年2024年4月1日に就任した。読売新聞に勤務していた女性である(記者職ではない)。

また、住民票の続柄表示を、同性間でも「妻(未届)」とする自治体が出現している。杉並区でも「検討する」との区長答弁を得ている(奥山の質問に対して)。

② 岸本区政2年の成果報告会

岸本聡子後援会は、就任からちょうど2年目となる2024年7月13日(土)、イベント「岸本区政の2年、新たなステージへ」を開催した。岸本区長からこの2年間の報告、および各地の区民からの活動報告。さらにテーマ(一人暮らしの生活など)を選んでグループを作り、どんな活動ができるかの話し合いを行い、その発表を行なった。2年の報告となる大判チラシをお披露目した(サイトから入手可能)。

おくやま・たえこ(妙子)

1957年別府市生まれ。実家は八百屋で看板娘。東京都立大学法学部卒業。金融会社、派遣社員、出版社勤務。2003年杉並区議に初当選(無所属)。 23年5月から5期目、単身高齢者の貧困問題に取組む。趣味は焼き鳥屋で読書。

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