コラム/経済先読み

経団連がグローバルサウスと連携提言

「供給網の強靭化」

グローバル総研所長 小林 良暢

経団連が4月15日、国際社会で存在感を増すグローバルサウス(新興国・途上国)との連携強化に向けた提言を公表した。

グローバルサウスとの連携強化

米中対立やロシアのウクライナ侵攻など世界の分断が進むなかで、経済安全保障上のリスクに対処しつつ、食料や資源・エネルギーを安定的に確保するため、「サプライチェーン(供給網)の強靭化をはかるには、グローバルサウスの国々との連携を広げていく必要がある」と、世界に向けて発信した。

この提言は、政府が今春をめどにまとめるグローバルサウス諸国との連携に向けた方針を高度に反映させたいと経団連は考えているという。

2050年に世界の人口の3分の2を占めると予測されるグローバルサウスの活力を取り込めるか否かは、「日本にとって死活的」とも指摘している。岸田外交の展開を中心に位置づけられるよう、これからも岸田首相や閣僚の外遊などを通じて対話や交流を増やし、そうした機会に日本企業が参加できる経済外交の推進を求めた。「諸外国が日本を上回るスピード感で連携を強化していることに留意すべきだ」としている。

主要20カ国・地域(G20)に加わるブラジルやインド、インドネシアなど、重点的に連携を強化する国との間で、「限られた政策資源を集中投下することが重要」だと提案している。なかでもインドとの連携強化は「自由で開かれたインド太平洋の実現に不可欠」なものとして最重要課題としている。

メルコスール(南米南部共同市場)

日本にとって経済連携協定(EPA)や自由貿易協定(FTA)のもとでも、「空白地域」となっている中東やアフリカ、締結国が少ない南米の諸国と協定を結ぶ可能性を探る必要があるとも指摘されている。ブラジルがG20の議長国を務める今年中に、メルコスール(南米南部共同市場)とのEPA交渉を始められるかがグローバルサウスとの連携強化の「試金石」になるとされる。

日本がグローバルサウスから「必要な国」として選ばれるには、相手国の社会課題を把握し、その解決に官民が連携して関与する「オファー型協力」が必要だとされている。

岸田内閣は、4月に経済財政諮問会議(議長・岸田文雄首相)を開いて、東南アジアやインド、アフリカなど「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携強化策を議論している。民間議員は、日本の生産性引き上げや経済安全保障の強化を図るため、民間投資拡大に向けたインフラ整備の支援や高度人材の一段の受け入れを政府に提言した。

政官労の共同事業へ

岸田首相はこの官民会議で、人口減少下での持続的な経済成長を実現するため、「グローバルサウスとの関係強化を戦略的に進める」と強調した。

民間議員は、政府開発援助(ODA)を通じて港湾や物流などのインフラを一体整備することで、現地の社会課題解決とともに日本企業が進出しやすくなると指摘している。しかしながら、この提言は、経済安保強化の観点から、重要鉱物の長期的な権益確保などが強く出過ぎているところがあるので、政労使に加えて広く民間の声が届く共同事業として取り組むことが重要であろう。

こばやし・よしのぶ

1939年生まれ。法政大学経済学部・同大学院修了。1979年電機労連に入る。中央執行委員政策企画部長、連合総研主幹研究員、現代総研を経て、電機総研事務局長で退職。グローバル産業雇用総合研究所を設立。労働市場改革専門調査会委員、働き方改革の有識者ヒヤリングなどに参画。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)の他、共著に『IT時代の雇用システム』(日本評論社)、『21世紀グランドデザイン』(NTT出版)、『グローバル化のなかの企業文化』(中央大学出版部)など多数。

ページの
トップへ