特集●安倍政治の黄昏と沖縄

沖縄県の辺野古埋立承認撤回の法理

安倍政権―「自作自演」の茶番、新基地はできない

弁護士(沖縄弁護士会) 金高 望

翁長知事の遺志―公有水面埋立承認撤回

本年8月8日、翁長雄志沖縄県知事が膵臓がんのため急逝した。享年67歳の早すぎる死であった。4月に膵臓腫瘍がみつかり、同月21日には切除手術、その後、5月15日には膵臓がんとの診断結果を公表していた。病気が病気なだけに心配ではあったが、今年11月に予定されていた県知事選に2期目の出馬をすると目されていたから、手術は成功し、当面は大丈夫と考えていた人が多かったのではないだろうか。8月8日午後の「意識混濁」報道後、次々入ってくる情報に「まさか」と思っているうちに、同日夜、死去の報道に接することになった。

その翁長知事は、7月27日に、仲井眞知事のした辺野古公有水面埋立承認の撤回を表明していた。そして沖縄県は、8月31日、埋立承認を撤回した。翁長知事が自らやり遂げたいと語っていた承認撤回は、謝花喜一郎副知事によって成し遂げられた。

これまでの経過

混迷を極める手続きの発端は、2013年12月27日、仲井眞弘多知事が、沖縄防衛局が申請していた辺野古公有水面埋立を承認したことにさかのぼる。

公有水面を埋め立てるためには、公有水面埋立法上、事業者が私人であれば知事の「免許」を、事業者が国である場合は知事の「承認」を要するとされている。

公有水面埋立法4条は、埋立免許(承認)の要件として、①国土利用上適正かつ合理的であること、②その埋立が環境保全及び災害防止につき十分配慮されたのものであること、③埋立地の用途が土地利用又は環境保全に関する国又は地方公共団体の法律に基づく計画に違背しないこと等を求めている。仲井眞知事の埋立承認は、公約違反であるとともに、沖縄県環境生活部の「周辺の生活、自然環境の保全への懸念が払拭できない」との意見を無視するものであり、その経過に照らし極めて政治的な判断であった。

2014年11月の県知事選で、辺野古新基地建設反対を公約に掲げて圧勝した翁長知事は、県知事に就任するとすぐ、仲井眞知事による埋立承認手続きに瑕疵がなかったかを検討するための第三者委員会を立ち上げた。そして、翁長知事は、第三者委員会の「瑕疵あり」との報告に基づいて、2015年10月、公有水面埋立承認を取り消した。

しかしその後、国と県との間でいくつもの法的手続きが行われた。その経過は複雑であり、ここで詳述することは避けるが、最終的に、国が沖縄県を相手に提訴した承認取消の違法確認訴訟において、最高裁判所で沖縄県敗訴が確定したことを受けて、翁長知事は、2016年12月、承認取消を取り消した。その後、国は新基地建設工事を再開した。

翁長知事が承認取消を取り消さざるを得なくなった後、次の県知事権限として注目されたのが、埋立承認の「撤回」である。

若干解説するに、行政処分の「取消」は、そもそも行政処分に瑕疵があった、違法があったことを理由として行政処分当時に遡って効力を喪失させる行為である。これに対し、行政処分の「撤回」は、行政処分後の事情変更等を理由として、将来に向かって行政処分の効力を喪失させる行為である。埋立承認取消は裁判の結果取り消さざるを得なくなったが、埋立承認後の事情変更を理由に、埋立承認を「撤回」することができる。埋立承認の「撤回」は、工事を停止させる切り札と位置づけられ、翁長知事がいつこのカードを切るかが注目されたのである。

そして冒頭述べたとおり、翁長知事は、他界するわずか約2週間前に埋立承認撤回を表明し、翁長知事の死後、謝花副知事によって撤回は実行された。

沖縄防衛局による審査請求と執行停止申立

沖縄県が沖縄防衛局にあてた撤回の通知書には、25頁に及ぶ理由が付されているが、理由の最たるものは、埋立承認後に判明した「マヨネーズ並み」とも形容される超軟弱地盤の存在である。沖縄県は、超軟弱地盤の存在が明らかになったことから、公有水面埋立法第4条第1項第1号の「国土利用上適正且合理的なること」、2号の「災害防止に付十分配慮」の要件を欠くことになったと指摘している。その他、活断層の存在が明らかになったこと、沖縄防衛局が埋立承認の条件として付されていた沖縄県との「協議」を行わなかったことや、沖縄防衛局が沖縄県からの再三にわたる行政指導に従わなかったこと等も撤回の理由とされている。 

沖縄県知事の埋立承認撤回に対して、国がとるであろう法的対抗措置にはいくつかの手続きが考えられた。しかし国は、翁長知事の死去に伴って9月30日に実施されることになった沖縄県知事選への影響を懸念して、直ちに対抗措置をとることはなかった。そして、翁長知事の遺志を継いだ玉城デニー候補が知事選で圧勝した後も、10月14日の豊見城市長選挙、10月21日の那覇市長選挙と重要選挙が続き、国の対抗措置は当面先送りかとも思われていた。ところが10月17日になって、沖縄防衛局は、国土交通大臣に対し、行政不服審査法に基づいて、埋立承認撤回処分の取消を求める審査請求と、撤回の効力執行停止申立を行った。

2015年10月の翁長知事による埋立承認取消に対して政府がとった対抗措置から、今回の埋立承認撤回に対する対抗措置も何パターンか想定された。沖縄防衛局が国交大臣に対して審査請求と執行停止申立をすることは、想定された措置の1つではあるが、前回各方面から強く批判されたが故に、さすがに今回はとらないのではないかとも言われていた手続きである。

また、那覇市長選直前というタイミングも、沖縄では驚きをもって受け止められた。これまで政府は、沖縄での大型選挙の直前は、辺野古その他の工事を停止するなどして、県民感情を逆なでするような行為は避けてきたからである。那覇市長選挙ではオール沖縄陣営の現職城間幹子市長が優勢で、自民・公明・維新・希望推薦の新人は劣勢が明らかであり、政府はもはや選挙に気を遣うまでもないと判断したのではないかと言われている。結局、那覇市長選挙はオール沖縄の現職城間幹子市長が圧勝した。

審査請求・執行停止申立の問題点

沖縄防衛局の審査請求等は、地方自治法255条の2第1号(いわゆる「裁定的関与」)が「行政不服審査法による審査請求をすることができる。」と定めていることに基づくものである。

【地方自治法第255条の2】

 他の法律に特別の定めがある場合を除くほか、法定受託事務に係る処分又は不作為に不服のある者は、次の各号に掲げる区分に応じ、当該各号に定める者に対して、行政不服審査法による審査請求をすることができる。

 一  都道府県知事その他の都道府県の執行機関の処分又は不作為 当該処分又は不作為に係る事務を規定する法律又はこれに基づく政令を所管する各大臣

実は、この地方自治法の規定自体、批判が強い。法定受託事務は、地方公共団体の事務であるため、国は地方公共団体の上級行政庁には当たらない。上級行政庁でもない国が、なぜ、地方公共団体の判断を覆せるのかという問題があり、批判的な行政法学者も多い。これは、審査請求人が一般私人であったとしても生じる問題である。

今回は、沖縄防衛局は、自分は一事業者(一私人)であると称して、審査請求・執行停止申立を行っている。国の組織である沖縄防衛局が、沖縄県の判断を不服として、国の組織である国交大臣に審査請求をしているのである。

地方自治法255条の2が引用する行政不服審査法は、「行政庁の違法又は不当な処分その他公権力の行使に当たる行為に関し、国民が簡易迅速かつ公正な手続の下で広く行政庁に対する不服申立てをすることができるための制度を定めることにより、国民の権利利益の救済を図るとともに、行政の適正な運営を確保することを目的とする。」法律である(第1条)。すなわち、行政不服審査法は、国民の権利利益救済を図ることを目的とする法律であり、国が同法の手続きを利用して申立人となることなど、法は予定していないというべきである。

玉城知事は、沖縄防衛局の国交大臣に対する審査請求・執行停止申立を受けて、「国が行政不服審査制度を用いることは制度の趣旨をねじ曲げた、違法で、法治国家においてあるまじき行為だ」「仮に国交省により執行停止決定がされれば、内閣内部における自作自演の極めて不当な決定となる。」等とコメントしたが、安倍政権が強行していることは、玉城知事が批判しているとおり、行政不服審査法の趣旨を無視した「自作自演」であると断ぜざるを得ない。まさに茶番である。

安倍政権が、裁判手続きではなく、国交大臣に対する審査請求・執行停止申立という手段を選択した理由については様々な推測が可能であるが、一つは、沖縄県が8月31日に埋立承認を撤回したにもかかわらず、国が9月30日の県知事選を意識して直ちに対抗措置を執らなかったことが、裁判手続きに不利益に働くと判断したのではないかと言われている。すなわち、安倍政権は、国が裁判所に承認撤回の効力停止を求めても、手続きが遅かったことから裁判所で「緊急性なし」と判断されるリスクがあると考え、仲間うちである国交大臣の力によって、県知事権限を無力化しようと考えたのではないかということである。

今後想定される手続き

石井国交大臣は、沖縄防衛局から申立のあった翌日である10月18日には、沖縄県に対し、10月25日までに執行停止申立に対する意見書を提出するように求めた。石井国交大臣は、早晩、埋立承認撤回の執行停止を決定するであろう。内閣の一員である国交大臣が、沖縄防衛局の申立を却下するとは考えられない。2015年10月の埋立承認取消の際にも同様の手続きがあったが、このときは執行停止申立からわずか13日で執行停止決定が出ている。国交大臣が執行停止決定をすると、埋立承認撤回の効力が停止して埋立承認の効力が復活することから、沖縄防衛局は直ちに埋め立て工事を再開するであろう。

これに対して沖縄県は、国地方係争処理委員会への不服申立や、国交大臣の執行停止決定の取消を求めて裁判所に訴訟を提起することが考えられる。また、国は、さらに、代執行等の法的手続きをとることが考えられる。

このように、2015年10月の承認取消時と同様、国と沖縄県は再び複数の法廷闘争に突入する可能性が高い。しかし、今の裁判所に多くは期待できない。司法によっても、埋立承認撤回は無効化されてしまう可能性が高いといわざるを得ないであろう。

県民投票

もう一つ注目される動きとして、辺野古新基地建設の是非を問う県民投票の実施がある。市民ら主導で始まった県民投票を求める運動の結果、県民投票条例制定を求める署名が地方自治法の法定数を大幅に超えて集まり、現在、沖縄県議会で条例審理中である。県議会は玉城県政与党多数であり、県民投票条例成立は確実視されている。

問題は、県民投票実施の時期と、これから始まるであろう国・沖縄県間の法廷闘争の進捗状況である。仮に法廷闘争が急ピッチに進み、県民投票実施前に決着が付いてしまうようなことがあれば、県民投票にも重大な影響を与えるであろう。

それでも新基地建設はできない

埋立承認撤回をめぐる法廷闘争で県が敗訴した場合、新基地は建設されてしまうのかといえば、そうではない。今後、国が新基地建設をしようとすれば、埋立計画の変更手続きが不可避であり、埋立計画の変更には沖縄県知事の承認が必要である。翁長知事の遺志を継いだ玉城知事が計画変更を承認しなければ、新基地はできない。

埋立計画には変更がつきものであるが、特に今回は、マヨネーズ並みという超軟弱地盤問題がある。大規模な地盤改良工事をしなければ新基地は建設できない。つまり、大規模な工法変更が不可避であり、これには沖縄県知事の承認を要するのである。

もっとも、この点については、国が特別措置法等で県知事権限を国に取り上げてしまうことが考えられなくはない。しかし、このような場当たり的かつ地方自治に逆行する立法が許されていいはずがない。

辺野古は本土の問題である

ここから先は本土の人たちに問いたい。このような安倍政権の横暴を、いつまで許しているのかと。

玉城知事は、沖縄防衛局による国交大臣に対する審査請求を受けて、「安倍晋三首相や菅官房長官と面談し、対話による解決を求めたわずか5日後に対抗措置を講じた国の姿勢は、県知事選であらためて示された民意を踏みにじるもので、到底認められない」と強く批判した。

沖縄で繰り返し示される民意を無視する安倍政権、行政不服審査法の趣旨を無視した「自作自演」を繰り返す安倍政権をいつまで支持するのか、そしていつまで沖縄差別を続けるのか。

辺野古は沖縄の問題ではない。本土の問題である。

(2018年10月24日記)

かねたか・のぞみ

1975年生まれ。一橋大学法学部卒。2003年第二東京弁護士会登録。2004年沖縄弁護士会登録。2006年02月 のぞみ法律事務所開く。現在沖縄弁護士会副会長。日本労働弁護団幹事、ブラック企業被害対策弁護団会員、沖縄県立看護大非常勤講師など。

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