特集●安倍政治の黄昏と沖縄

アベノミクス徹底批判で経済成長を

バラまき安倍政治を止め、産業構造転換が急務

立教大学大学院特任教授 金子 勝さんに聞く

聞き手 本誌編集部

災害対応もできない安倍政治

―――日本の上には暗雲が垂れ込めている、そんな閉塞感を感じます。政治の基本の一つは、国民の暮らしを自然災害などから守るところにありますが、豪雨・強風による災害や地震が頻発し、その基本が忘れられていることも、閉塞感を強めています

金子●地震はともあれ、豪雨は地球温暖化・気候変動の結果で、異常気象の影響が深刻です。カリフォルニアの山火事もその一例です。日本ではこれまでやってきた公共事業やシステムが無効であることが次々証明されています。そして、安倍政権のもとでの災害対応の悪さが際立っています。

地球温暖化問題や地震に関して、解決のための対応をいろいろ変えるべきですが、それを言い募ると話がそれます。僕がずっと言ってきた集中メインフレーム型システム、あるいはダム、砂防ダムやコンクリートの護岸、中山間地の放置など、問題が一気に吹き出てきているわけで、自然災害というより人災的な面が非常に強いと思います。

北海道の胆振東部地震も、苫東厚真発電所(165万キロワット)で、巨大発電所に集中して大量生産してコストを下げるという発想であったため、全域停電を発生させた。小さな発電所をたくさん動かすとコストがかかるという理由です。1カ所でポーンと落ちると周波数の調整が非常に難しいという問題が、はっきり露呈しました。東日本大震災のときに、福島原発のリスク管理が非常に甘いことが露呈したのと同じです。

愛媛では、突然、肱川ダムを放水したために、下流域で大きな水害が起きました。そもそも中山間地が維持できなくなると、どんどん土石は流れてくる。それを砂防ダムなどでなんとかしのいできたのが公共事業の歴史。それでも昔は建築需要があって、川底をさらって砂などを使うことがあったわけですが、それもなくなり、底が浅くなっています。河岸をコンクリートで固めてまっすぐにして、使える土地を増やそうという発想をしてきたこともあります。昔は蛇行して、多少氾濫しても吸収していたのに、まっすぐにしてきた。

上流で保水力がなくなった上に、土石が流れてきて川底が浅くなり、そこで一気に鉄砲水が発生して洪水が起きるわけです。宮崎や鹿児島、高知などの大都市でも水害に見舞われる。川底だけじゃなくて河口の砂を一定の周期でしっかり除去しないといけない状況になってきている。

そういう問題を真面目に議論しているかというと、それがない。部分的には自然の護岸にして吸収性を良くしようというのはあるようですが、中山間地は本当に厳しい状況です。

おまけに「安倍・赤坂自民亭」が報じられました。でも、その責任を追及する気配もない。当たり前の災害対応もできる体制がないという、ひどいことになってきています。

中山間地を崩壊するに任せておけば、川下の中核都市が被害にあうような状況ですし、電力問題を含めて、地震や集中豪雨に対処するには、リスクを分散するシステムに変えるべきだというのは明確です。「中間山地を捨てればよい」など、効率的に公共事業をやるという考えが、結局めぐりめぐってこういう結果になっている。建て直すのに時間がかかるけれど、そういう方向へ舵を切り直さないと、安心して住めない状況が生まれてきたというのは確かだと思います。

先述の北海道のケース、巨大発電所に集中しすぎていて、悪循環になった。大規模に集中すると、再生エネルギーのような細かいエネルギーとの出力調整ができない。大規模なもの1個では、ほんのちょっと落とすというようなことができなくて、ますます集中するという悪循環です。これを機会として、再生エネルギーの方へ転換しないといけないということですね。

こうした問題の根底にある、安倍政権のエネルギー基本計画がひどい。再生エネルギーを進めて、電源構成比として22~24%にして「主力電源化」するという。実は、すでに15.6%あるので、残り7%くらいしか増やすつもりがない。その上で原発を22~24%にするという。もう完全なガラパゴスです。つまり自然災害の問題を越えて、日本の産業がいよいよ終わりに近づいてきている。自民党政権が古い産業構造のもとで全盛を迎えて、それに最後までしがみついて周りに利益を分配していくというのが、いまのアベノミクスの最終的に行き着いた姿だというのがよく見えてきています。

90年代の北欧諸国に学ぶ

金子●自分がいろいろ言ってきたことを整理すると、いつも頭の隅にあったのは、1990年代の北欧福祉国家の変化だったように思います。昔、90年代に本格的な金融の不良債権処理を主張し、社会福祉の地方分権化とセーフティネットの張り替えを強調していました。2000年代半ば頃(とくに福島第1原発事故以降)から、産業戦略ということをだいぶ強く言い出しました。

フィンランドやスウェーデンなど北欧諸国は、90年代初めに銀行を国有化して不良債権を一気に処理して、再民営化しました。その結果、それでV字回復しますが、厖大な財政赤字を抱えたのです。そして社会保障や福祉給付の一定の削減も行われます。北欧型新自由主義などと言う人もたくさんいたましたが、それはおかしい。なぜ新自由主義なのに銀行を国有化して巨額の公的資金を入れるんだ、ということですが、一方で国営企業の民営化も強く進めました。その中でイノベーションに対する研究開発投資とか教育投資とか、そういう産業戦略に猛烈にシフトしたわけです。小さい国だから、生きていく産業がないとたちまち死んでしまいます。結局、所得再分配だけじゃなくて、雇用創出をしようとしていたのです。

左派とかリベラル系は、1980年代の高福祉高負担の北欧福祉国家を念頭に、みんな所得の再分配だけを言っているわけです。もちろん税収確保と所得の再分配も大事ですが、雇用の創出と新しい産業の創出が転換期にはすごく大事になります。

スマートフォンに押されてしまいましたが、フィンランドはノキアがありました。スウェーデンもIT化しました。それからノルウェーではいま電気自動車が盛んです。デンマークでは風力発電とか自然エネルギーの大きなメーカーができている。その国が食べていける新しい産業を懸命に作っているというリアリズムです。知識集約型に変えていくための研究開発投資や教育投資を猛烈にやるというように、福祉の考え方がひとつあの辺りで大きく変わっていたのだろうということです。

いま周りを見ると、みんな80年代で思考停止しているのではないかと思います。とくに、80年代までの社会民主主義では、放っておいてもある程度成長がある、だから労働組合などを通して、成長の再分配を獲得していけばいい、でした。そうすると成長か再分配か、というような論争の中に自分が安定的に位置付いて、「そろそろこんな成長主義の行きすぎはやめて再分配を強めよう」という主張をすれば良かったのです。いまは、真面目に正面から「増税して再分配やりましょう」という見解に対して、それでは政権をとれないから、左派的リフレで「どんどんお札を刷って福祉に金をバラまきましょう」などという乱暴な意見も出ている。これでは出口はありません。原発や世界的に進むエネルギー転換の問題も忘れている。

そこでは、原発や事故・災害が露呈させた日本の弱点や産業構造の遅れ、どんどん競争力が落ちている実態が全く無視されている。自分たちの思考の枠組みの中にそういうことを位置づける枠がないのだろうと思います。だから、ある意味で左派やリベラルももう終わっているのです。新しく現実に即して、リアルに人が生きていくためになにが必要かというのを真剣に考えるべきだと、最近強く思います。

経済学の終焉?

金子●もう経済学が終わっているのではないでしょうか。これだけマクロ政策をやって、財政金融をやって、財政赤字が右肩上がりで伸びているのに、97年の金融危機以降GDPはずっと横ばいですから。小手先でGDPの算定基準を2008年基準に変えて、年あたり5兆円くらいGDPを水増ししていますが、焼け石に水です。しかも、ドル建てベースで見たGDPの成長率は、日本はもう底ばい。アジアの中でももっとも低い。

これだけミクロの供給力を強化すると言って規制緩和をずっと続けてきたが、新しい産業は生まれず、日本製品がどんどんシェアを失っているという状況は明白です。アメリカや中国が非常に伸びています。それが健全かといったらそうではないものの、日本はひどい。イタリアと日本が群を抜いてG7の中で底ばい状態です。結局、これだけ財政赤字出しても、いまのように持たせるのが精一杯というのが実態。だから、たとえば刷ったお札を軍事費や公共事業ではなく所得の再分配に振り向けても、さして変わらない。産業の基盤が壊れて職が失われているからです。

「いまより格差が是正されて、脱成長でいい」と言う人がいますが、すでに経済は衰退過程に入っているのです。財政赤字を削っていって再分配を強めても、おそらく脱成長どころかマイナス成長になります。直面する課題は、いかに経済衰退を食い止め、若い世代に雇用を作っていくのかであって、脱成長ではありません。

―――経済の面で日本は衰退モードに入ったということですが、システム全体としても日本は衰退モードですね

>金子●結局、あらゆる領域で日本の産業がガラパゴス化しているわけです。ですから、世界がどの方向に向いてイノベーションしているのかということを、真面目に考えなければいけない。ヨーロッパでは非主流ですが、「企業家としての国家」を考えるという、そういう分析の枠組みもあります。経済学の古い枠組みでは見えなかったものを、真面目に正面から捉えて、産業を転換するときの政府の役割とはどういうことなのかを、改めてつめて考え直すということだと思います。

国・政府がある程度リスクをとって方向性をつけないと、現代産業では、リスクの大きい開発投資をするのは、よほどの経営者の胆力がないといけない。戦後は所有者企業だったから、できたのでしょう。自分の企業と産業の未来が一体化していた。本田宗一郎や井深大や盛田昭夫など、みんな創業者社長だった。ヨーゼフ・シュンペーターがイノベーションを創造的破壊と言ったときに、イノベーションが起きないのは資本主義では組織がどんどん合理化し、官僚化していくから、経営者が事実上無力化する、リスクをとらない人間ばかりになっていくと看破しましたが、それがそのまま日本の経営者たちに当てはまっている。

もちろん国家戦略が必ずしも成功するとは限りませんから、情報の透明性、フェアなルール、絶えざる議論というのが保障されていなければいけません。森友学園や加計学園の問題だけでなく、リニアや原発、東京五輪などをあげるまでもなく、縁故主義で、仲間うちにお金をバラまくだけで、一番ダメな方向に向かっているのが、安倍政権の実態です。つまり自民党的なものがますます強まって、日本を滅びる方向へ持っていっている。だからよけいに閉塞感が広がっていくと思います。

ところが、先述のとおり左派やリベラルが時代の変化についていけていない。つまり経営者に全部任せていた領域を、われわれ自身が考えなくてはいけないときに、産業や技術に関する知識や産業政策を持つことがおよそできていない。だから勝てない。普通の人は、野党に任せてもどうせろくなことにはならないと思う。たとえば、「電力会社を解体せよ」といった突きぬけ感がないんです。みんな薄々、このままでは持たないと感じていますから、小池百合子が新しく創造的破壊してくれるかもしれないというデタラメな幻想を振りまいて、そこに乗ってしまうわけです。

アベノミクスで破綻する日本

金子●世界経済をみると、アメリカと中国とが、別々のサプライチェーンになって世界が分裂していく可能性もある。アメリカは高をくくって、「そのうち中国が音を上げるだろう」と考えているのだろうが、いざとなれば、中国がアメリカ国債を売って元安を誘導するかもしれない。そうすると、アメリカの金利がさらに上昇して、アメリカ経済がガタガタになる可能性だってある。大きなリスクに満ちた状況が世界的には進んでいます。

日本はどう生きていくのか、と考えると、戦略性があまりになさすぎる。北欧諸国は、教育や研究投資に金を投じて、技術者や研究者の数をどんどん増やしていった。日本はまったく逆で、国立大学の予算を毎年1%ずつ削り、有期契約化で、若い人が研究職で食べていけない状況がどんどん進んでいる。たとえば、企業や研究所の横断的なプラットフォームを国が作って、そこで若い世代が安定的に開発に携わるという体制を組まないと、おそらく追いつけない。もちろん公正なルールと公開された議論というのが保障されなくてはいけないし、失敗してもきちんとした説明責任を果たしていくということが保障されなくてはいけませんが。

――― 一方で、日本の財政赤字は巨大で、しかも金融緩和政策の出口も見えません

金子●たとえば電力改革で、グリッドシステムで小さいエネルギーを調整するのは、まさにAIの一番使えるところです。それをメーカー横断的に共同開発するという戦略がまったくない。逆にやっていることは原発の輸出。でもこれももうダメ。東芝も日立も、見るも無惨でしょう。あとはリニアでしょうか。経団連の、もう終わってしまった既存企業のために、法人税減税や繰越欠損金を使って、ひたすら潰れないように内部留保を増やしているだけです。技術も基盤もどんどん失われている。ゾンビ状態の企業をただ生き残らせているだけです。

自動車だって危ない。日本の企業の検査等の不正データの露見もすごい。ものづくりニッポンはどうなるんだ、とみんな思っています。つまりアベノミクスというのは、どんどん衰退していくのを、いかに持たせるかということでしかない。後ろ向きそのものです。だから、日本の産業構造が新しくならない。

いまの時点で日本の自動車は、世界一の技術を持っていると言えます。ハイブリッド車もそうです。他の国は、トヨタやホンダの後追いを続けているだけでは日本の強さにいつまで経っても追いつかない。だから日本を飛び越えるには、一気に電気自動車へ行くしかない。しっかりしたサプライチェーンを持ち、エンジンを含めて多数の部品が非常に精巧な日本は、圧倒的に強いわけです。ところが、部品点数が圧倒的に減る電気自動車化は、かつて電気製品が、IC化・デジタル化で1枚の基盤の上に乗った瞬間に日本の強みがなくなったのと同じ道になりえます。自動車が電気製品化して、日本のメーカーの優位性は逆に失われるのです。さらに、ITは日本の自動車の弱点ですから、それでほかの国は勝てるということになる。

もし2020年代の後半くらいに電気自動車シフトが起きて、ガソリンスタンドの代わりに電気スタンドがたくさんできれば、ガソリンスタンドが見つけられなくなって、ガソリン車はもう売れなくなる。これが恐いところで、オペレーティングシステムが変わったとたんにウォークマンが全然売れなくなって、iPodになったのと似たようなプロセスが起きかねない。

そこでは、中国がアジアで急激に台頭する可能性を秘めています。中国の電気オートバイはすごい。何百万台も走っています。そして電気自動車戦略で攻めてくる。もし自動車の競争優位が失われれば、日本の貿易黒字が急激に減少する可能性がある。そうすると、これはハイパーインフレのシナリオになる。なぜなら、国債を国内の貯蓄だけで消化できなくなり、外国人投資家の保有比率が高くなり、日本の国債の国際的格付けがさらに落ちると、それを引き金に金利が上昇して国債が暴落する。最悪、ハイパーインフレだって起こりうる。その時は、もう安倍さんがいない。

当面、問題なのは、世界経済がバブルを10年ごとに繰り返していることです。87年のブラックマンデー、97年に東アジア通貨危機、2007年にパリバ・ショックというのがあった。そのあとに本格的なバブル崩壊が始まるわけです。90年代の頭に不動産バブルがはじけ、それから2000年代初めにITバブルがはじけ、2008年にリーマンショックが来た。いまはリーマンからちょうど10年。各国の中央銀行元総裁・総裁や専門家が「金融危機がまた来るかもしれない」と言い出しました。その理由は、国際決済銀行の統計を見ると、民間債務のレベルがGDPに比べてすごく伸びているから。リーマンショックの前と似ていて、無理して借金して資産を買ったり投資をしたりしているわけです。

さらに問題なのは、新興国の企業がかなり無理して借金していることです。リーマンショック規模の大きな危機になるかどうかは別にして、トランプがトルコに制裁を加えたらトルコリラが暴落して、アルゼンチンのペソ、ブラジルのレアル、それから南アフリカ、インドネシアと、新興国で国際収支が悪くて借金が多いところから通貨が暴落するということが起きた。もしかするとバブル崩壊の前兆になりかねない。

今年10月半ばからの株価のボラティリティの高まりが示すように、みんなが怖がって逃げ出している。しかも悪いことに、いまCTAという先物のファンドがあります。情報工学と金融を結びつけて、先物の値動きのトレンドを、過去のビッグデータを分析して、損失が出ないように組み合わせて、スパコンのハイフリークエンシートレーディングで絶えず値を釣り上げて、一番最初に食い逃げしていくというファンドです。それが、猛烈に世界の株価を上げたりしています。

日本の株式市場の売買の6~7割が外国人です。先物は8割です。日本の株式市場も完全に外国人に食い物にされている。ですから、バブル期並みに上がり出している株価というのは、異様に不気味です。アメリカもそうです。ダウも大幅に上がっている。それでいながら、たとえば、ラストベルトの住宅の値段が急に上がったかと思えば、住宅の着工数は増えたのに、新築許可認可数が減っている。申請自体が減ってきているということで、不安定な動きがあちこち見られます。

米中の貿易戦争が、世界経済にダメージを与えるとして、最悪のシナリオは、通貨戦争になって金利が上昇する話です。そこまでいかなくても、いまトランプ減税などのバラまきで、金利が上がりだしています。すると必然的にアメリカにお金が集まって、新興国側は通貨が持たない。資金が足りなくなって引いていく。しかもドル高になっていくので、ドル建ての債務が重荷になってくる。1980年代も同じような状況があったのですが、それと似た状況が生まれてきている。

しかも日本の場合、前に述べたように、外資系のCTAのようなファンドが猛烈に株価を釣り上げて、しかも必ず日銀や年金(GPIF)が買ってくれるので、損しない。こんなぼろい商売はないわけです。そうしてどんどん稼いでいる。その一方で、マンションも中古から値崩れが起きてくる状態。都心にどんどん高層マンションを建てているので、周辺部では人口減少が起きてきている。東京オリンピックが終わったら人も金も引いていくので、バブルが崩壊するかもしれません。

産業政策を立て直せ

金子●整理すると、一番最悪のシナリオは貿易黒字の縮小とハイパーインフレでしょうが、異常な金融緩和のアキレス腱は金利上昇です。金利が上昇すると、国債の価格が落ちて、財政は破綻する。日銀も銀行も年金も、大量に抱えている国債の価値が毀損してしまう。そして財政、金融の動きがとれなくなる、ということが起きます。

世界でバブルの最終局面に近いような現象がいくつか生まれています。本当のバブル崩壊になるのか、ガス抜きがある程度おこなわれて、なだらかな不況になるかはまだ分からないけれど、そうしたことが起きたときに、もうひとつの大問題は、中央銀行の政策手段がすでに麻痺しているので、打つ手なしの状況になることです。中央銀行の政策金利の誘導、売りオペ・買いオペ、それから預金準備率の操作といった政策手段は、高校の教科書に書いてありますが、この3つは全部すでに機能麻痺です。

マイナス金利までやっているために地方銀行の半数が赤字ですから、政策金利誘導はもはや効かない。バブルが崩壊すれば、一層の経営困難に陥ります。売りオペ・買いオペも効かない。日米の金利差が大きいので、高金利のアメリカへ資金がいっているわけです。だから銀行へ行っても、「外貨預金しませんか」と言われる。それは自分たち銀行が海外に投資しているからです。日本の国債を買っていないのです。

国債の取引きが今年に入って何回も成立していない。銀行などの金融機関が買わないという状態なので、売りオペ・買いオペもろくに効いていないわけです。果ては、応札ゼロに、日銀が1兆円の国債を投機筋に貸して、国債の取引きを無理矢理成立させる。中央銀行が投機筋にお金をやっているという、とんでもない状況です。380兆円も当座預金にブタ積みになると、預金準備率を多少変えたところでなんの意味もない。

中央銀行が、政策を果たせる伝統的な経路をほぼ全部失った。中央銀行の独立性もない。たったひとつ残っているのが、財政赤字をひたすらファイナンスする戦時経済の状態です。そういうダラダラした不況状態のようなものが続いていく可能性というのがあると思います。

―――その中でのいまの安倍政権です。安倍政権が終わらないと何もよくならないということでしょうか

金子●日本は「シャブ中」状態です。でも、アベノミクスに対して根本的な批判をしている野党がいない。せいぜい「安倍さんに責任とってもらいましょう」という突き放した言い方で、非常に厳しい批判がない。ということは、国会議員の中にも、マクロ政策で経済を持たせるのはもう限界であり、アベノミクスが将来にとって非常に大きな足かせになりうるという認識がない、ということです。金を使わずにどうやって閉塞状況を脱出していくかということになれば、大胆な産業戦略を立てることです。

1950年代の日本を思い出してもよいでしょう。ドッジ・ラインで財政を引き締め、シャウプ勧告で増税。その上で、傾斜生産方式で、重化学工業を伸ばした。当時の主流派は中山素平はじめとして、戦前から比較優位の織物工業で再建していくべきだという議論だったが、有沢広巳とか大内兵衛などの労農派マルクス経済学者の主張が通った。マルクス経済学が日本で強かった理由は、重化学工業というリアルな政策で大きな影響力を持っていたからです。あるいは国民皆保険なども、大内兵衛などのマルクス経済学者が言って、労働組合が反対するという構図だった。

しかし、従来の重化学工業の時代が終わると、マルクス経済学の有効性も失われていきます。新しい問題ということでは、スパコンやAI(ソフトも含めて)での競争力の低下をどう取り戻すかです。薬の開発も、ゲノムが読めたので、昔のように希少な植物や動物を発見して、そこから物質をとって、それを人工的に作るということではありません。ヒトゲノムの解析を前提にどういう物質を入れるとどういうことが起こるかというスパコンのシミュレーションのプロセスが入って、薬の開発期間を短縮しています。

巨大装置がないと勝てないという面がある。もちろんそれだけで勝てるわけではないにしても、日本はそういうところの開発にほとんど力を入れていない。タケダの買収事件を見れば分かるように、結局、内部留保をためて、つぶれないように自己防衛行動をとった挙げ句が、ああいう買収しかできない。先端産業として自身で開発することができなくなっている。

フィンテックの巨大な闇

金子●もうひとつは、ビットトコインを含めたフィンテックの問題。これには根深い問題があります。金融自由化以降、中央銀行がコントロールできない領域が拡大した。そこでバブルが膨らんで、崩壊して、中央銀行が慌ててそこへ出ていくという形で、泥沼に引きずり込まれるプロセスが生じています。そこを世界中でどうコントロールするかという問題なのであって、1国では対応できない問題が生じています。

たとえば、金融工学を使った証券化商品が大きく発達して、やがてリーマンショックが起きた。その理由は、90年代後半に証券と銀行の垣根を壊して、相互浸透したら、FRBが銀行しか統括していなかったところに「影の銀行システム」ができたということです。証券化商品の店頭取引を膨張させましたが、短期の証券を発行して、リスクごとに長期の住宅ローン担保証券を組み合わせたCDOという証券化商品を買うと、長短の金利差で自動的に儲かるから、錬金術のように膨らんだ。ところがFRBは銀行しか統括していない。投資銀行の上にいたSECもヘッジファンド以下のところがコントロールできない。それが爆発したわけです。

FRBは投資銀行やさまざまなファイナンス会社を銀行の持ち株会社にして救済したり、住宅ローン担保証券を膨大に買ったりなど、過去の歴史にないことを始めないと、事態を収拾できなくなった。

フィンテックの問題は2つ。ひとつは、暗号通貨が投機の商品になっていることです。実物の通貨は為替変動が起きるので、ビットコインが為替の投機商品として機能して、若い人がそれにのめり込んで、賭博のようになるというわけです。

もうひとつは、たとえば巨大なIT企業の所得の流れがほとんどつかめなくなることです。おそらく彼らが独自の暗号通貨を独自のサーバーを通じて使っていれば、その中で行われている取引きは中央銀行も徴税当局もつかめない。つまり所得の流れがつかめなくなる。差額として表に出てくるところだけしかつかめない。それは恐ろしいことです。

銀行もフィンテックの技術を使って、自分の顧客企業の間の決済をそれですれば、売上げや途中の経費などのデータは消えてしまう。「差額がこれだけしか儲かりませんでした」という申告をしてしまえば、それで終わり。中央銀行や徴税当局がつかめないような取引きが大量に生まれてくる可能性があるし、もうすでに生まれているかもしれない。一層の格差の拡大を生む危険性を秘めています。

ITと金融技術の融合という名前で、当局もいいことであるかのように促進をしてきた。それがルールのない状態になりかけている、ということが問題です。ひとつの国で規制することは不可能に近い。

野党は安倍批判を徹底して対抗策を

―――総裁選で石破が善戦したり、沖縄知事選の結果が政権を批判するものになったりということで、安倍政権は追い詰められているように見えます。そういう意味で政治を変える糸口はどこにありますか

金子●安倍政権のやっていることが、日本の経済を中長期的に滅ぼしていく方向へ向かっているんだという自己認識をしっかり持つ必要があると思います。左派やリベラルは、脱成長などと言っていますが、個人のライフスタイルで贅沢しないというのは結構でしょうが、すでに経済がどんどん衰退しているのですから、問題の立て方自体が違います。衰退の100年に向かおうとしているということをきちんと押さえて、いかに衰退を食い止めるのか、雇用や賃金の破壊をどうようにして食い止めるのかを出す必要があります。

安倍政権は、アベノミクスで有効求人倍率が上昇したと喧伝していますが、要は生産年齢人口が減っているだけのことです。多くの人も「シャブ中」状態の日本経済の危うさをあえて見ないようにし、当面持っているからいいのだと思考停止に陥っている。だとしたら、野党側が、未来の雇用を創出する経済政策を重視して、きちんとしたアベノミクスの批判と対抗策を出さない限り、展望は出てこないと僕は思います。

モリカケ問題も含めて、安倍政権は質が悪いからもう煮詰まっているわけです。「3本の矢」「女性活躍」「新3本の矢」「一億総活躍」「働き方改革」「ひとづくり革命」と、次々とデタラメなスローガンを出して、政策目標が全部達成されていないことを、「ご飯論法」でごまかしているだけ。根本的な政策ビジョンを出さないで、ただ不正だけを追及しても、日本全体が目先さえ良ければいいというふうになっているわけですから、何も解決できません。

「こんなことだと社会から公正さが失われ、めちゃくちゃになる、秩序も壊れる」と思っている人が、3割強から4割弱いる。4割強の人が、「安倍で当分持っているからこれでいい。モリカケなどは目をつむって、とにかく食っていくことが大事だ」と考えている。

この構造をぶち壊すには、食っていけるのは今だけだ、いま目先だけ見て「シャブ中」からぬけられないと一体どうなるか、これはもうサラ金にはまっているのと同じ状態だぞ、ということを自覚させるような世論をつくることが必要です。野党がそういう問題提起をしないかぎり、メディアは絶対取り上げない。経済政策の一番の基本の「き」がまずないということが大きいことだと思います。そこをはっきりさせた上で、ともかく野党の奮起を期待したい。

かねこ・まさる

1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。慶應義塾大学経済学部教授を経て、同大学名誉教授。2018年4月から立教大学大学院特任教授。専門は、制度経済学、財政学、地方財政論。著書に『金子勝の食から立て直す旅』(岩波書店)、『閉塞経済』(ちくま新書)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『新興衰退国ニッポン』(共著、現代プレミアブック)、『「脱原発」成長論』(筑摩書房)、『資本主義の克服 「共有論」で社会を変える』 (集英社新書)、『日本病―長期衰退のダイナミクス』 (岩波新書・共著)など多数。

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