特集●安倍政治の黄昏と沖縄

中間選挙は「内戦(南北戦争)第Ⅱ幕」

「ストップ・トランプ」の民主に勢い

歴史が産んだ「人種差別」の構造

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

米国では11月6日、上下両院、州知事、州議会などの中間選挙(4年ごとの大統領選の間の年の意)が行われる。1年10カ月になるトランプ大統領に対する最初の国民の審判でもある。いまや共和党を押さえ込んだトランプ大統領とその支持層、野党に転落した民主党。両勢力の対決は、選挙戦を通してさらに先鋭化している。争点は内外政の全てにわたるといっていいが、その中核にあるのは「移民国家」として発展してきた国の今後の在り方をめぐる根源的な分断である。この状況を有力なジャーナリスト、T・フリードマン氏は「内戦の第Ⅱ幕」(Civil War、PartⅡ)ととらえている(2018・10・2、ニューヨーク・タイムズ紙コラム)。

米国で「内戦」と言えば普通、南北戦争(1861-65年)を指す。奴隷制度の存廃を争って米国が南と北に分かれて凄惨な戦いを続けた結果、奴隷制度は廃止された(奴隷解放宣言は1863年)。しかし、これで黒人差別がなくなったわけではなかった。その後も米国はこの「業」を抱きかかえたまま中南米、中東・アフリカ、アジアなどから非白人の移民を受け入れつつ、超大国へと上り詰めた。

その米国自身が主導したグローバリズムがトップ1%といわれるごく少数にかつてない繁栄をもたらした一方で、中産階級を分解させて低所得層を広げ、先進諸国の難民・移民の受け入れ拒否、ナショナリズム高揚の動きを引き起こした。米国では、ほとんど誰も予想しなかったトランプ大統領が政権に躍り出た。

「内戦の第Ⅱ幕」が始まっている。その最初の会戦となる中間選挙で、米国民はトランプ氏にどんな審判を下すだろうか。

「信者」の支持は固いが・・・

投票日まであと10日と迫って米国の主要なメディアや世論調査機関の予測が出揃っている。それらを総合すると、トランプ与党の共和党が独占支配している上下両院のうち下院(435人全員改選、現在236対193 )では民主党が多数を奪回する可能性が高い。中間選挙の結果を予測するのは本稿の主題ではないが、トランプ登場後初めての選挙を迎える米国の政治状況を探ることからはじめる。

上院は州代表2人による定員100人で現在51対49の僅差。3分の1ずつ2年ごとに改選する。2012年のオバマ大統領再選の選挙で当選し任期が切れて改選される35議席のうち民主党は26、共和党は9。改選数の多い民主党は不利だ。民主党の多数派奪回は難しいとみられている。

ワシントン・ポスト紙∕ABC放送が投票まで1カ月前の10月はじめに行った世論調査では、両党の支持率は民主党53%、共和党42%と、差は11ポイント。その他の調査でも似たりよったりで、その差は10%前後にまとまっている。共和党は大統領、上院、下院を抑え、政治、行政の権力を独占しているものの、支持率では民主党に水をあけられている。両党支持率を女性だけでみると、59対37と民主党がさらに差を広げている。権力を持つ者によるセクハラに対して、もう泣き寝入りはしないという「#MeToo」が広がっている中で、女性の支持が多いことは強みになる。

人種別にみると、白人では大卒以上の学歴を持つ人の過半数は民主党を支持し、高卒以下の人は対照的に、共和党を支持する傾向が強い。アフリカ系、中南米系、アジア系など、いわゆる少数民族は圧倒的に民主党支持が多い。彼らには「人種差別の党」とみられる共和党の支持はごく少数である。居住地域で見ると、大都市圏居住者には民主党支持が多く、田園地帯の居住者には共和党支持が多い。

トランプ大統領の就任時支持率は40%±アルファ―で、歴代最低レベルだが、そのまま一貫しているのが強み。「信者」とも呼ばれる固い支持層に支えられているのだ。しかし、この支持率では中間選挙には勝てない。どちらの党にも属さない20∼30%を占める中間派の支持を上乗せしなければならない。トランプ氏が就任と同時に、元々無理筋の選挙戦での「公約」を力ずくで推し進めてきたのはそのためだった。

中間層の取り込みに失敗

イスラム圏からの移民・難民を締め出し、中南米諸国からの不法移民の国外追放と難民受け入れ審査の強化。北米自由協定(NAFTA)の一方的見直し、環太平洋連携協定(TPP)、地球温暖化対策のパリ協定、イラン核開発制限のための国際合意などから次々に脱退。G7(主要先進7カ国会議)、G20(20カ国・地域会議)、EU(欧州連合)、NATO(北大西洋条約機構)の首脳会議に出席「米国第一」(America First)を振りかざして自ら国際的孤立を招く。中国に狙いを定めた鉄鋼、アルミニュウム製品輸入に高関税をかけ中国との貿易戦争を開始。金正恩・北朝鮮労働党委員長と会談して朝鮮半島非核化で合意・・・などなど。

この間に政権中枢を構成する閣僚や補佐官が少しでも言う通りにならないと、「忠誠心」を疑って次々に更迭、あるいは辞任。乱発する大統領ツイートが国を動かすという異常な政権運営が続いている。

怖いものなしに見えるトランプ氏にも気がかりなことがある。2016年大統領選挙でロシア情報機関がトランプ陣営の幹部に接近、ネットメディアを駆使するなどして対立候補クリントン氏の足を引っ張る宣伝工作をしたとされるロシア疑惑の捜査。就任早々、FBI(連邦捜査局)長官に自分への忠誠を求めて拒否され解任。事件はでっち上げの「魔女狩り」として捜査にあたるモラー特別捜査官解任のチャンスをうかがっている。「捜査妨害」という壁があってまだ果たせないできたが、いつ、何が飛び出るか・・・。

トランプ氏は歴代大統領が誰も為しえなかった「大成功」と自画自賛。よくもここまで-その精力的な行動力には驚嘆する。だが、どれもこれも「独りよがり」で、民主党の、特に前任のオバマ政権のリベラルな政策をひっくり返すという怨念先行の感が強い。国内にも国際的にも混乱を引き起こして、米国の国際的な信頼感と指導力を失わせている。

ワシントン・ポスト∕ABC放送調査は、トランプ氏の主要な5つの政策についての支持・不支持を聞いている。経済については支持が不支持を3ポイント上回った。しかし、トランプ氏が目玉にした企業・富裕者の大幅減税は-4ポイント、以下ワシントン政治の改革-10、保守派判事の多数派形成を狙う最高裁人事-11、移民受け入れ規制の厳格化や違法滞在者国外追放政策-12、女性やLGBT(同性愛、両性、性転換)の権利擁護-26と、トランプ政策のほとんどが全く評価されていないことが分った。

同世論調査では、今度の中間選挙をこれまでと比べて特に重要と考えている人は、民主党支持者では74%、共和党支持者61%と13ポイント差。必ず投票に行くという人は民主党支持者の81%で前回中間選挙の時の60%を大きく上回った。共和党支持者では76%で前回の73%とほとんど違いはなかった。2016年大統領選挙で民主党支持者はトランプ氏に負けるとは思わずに、投票率を下げたのが敗因のひとつと言われている。このトラウマが彼らを「ストップ・トランプ」の投票に駆り立てているようだ。

米国の選挙運動ではカネがものを言う。テレビの広告時間を買いとって対立候補を徹底的に攻撃するビデオを流し続けるのが一般的な選挙運動になっている。これには高額の放映料金がかかる。共和党にはウォールストリートの強い支持があり、選挙資金では民主党を大きく上回るのが普通だ。だが、今度の中間選挙では異変が起こっている。20 年あまりウォールストリートで民主党の政治資金集めをしてきた金融機関の会長が、こんなに資金集めが楽な選挙は初めてと語ったという記事がニューヨーク・タイムズ紙に載っている(10月10日)。

同会長が所属する証券・投資部門関係各社から民主党候補がそれまでに提供を受けた金額が3930万ドルで、共和党の2800万ドルを大きく上回った。民主党候補は個人支援者の2,000ドル以下の小口献金でもこれまでにない多額の支援を受けているという。身を守るために勝ち馬に乗るのがウォールストリートだが、トランンプ氏の分断を深める政策やその振る舞いをチェックする役割りを民主党に求めているのだろう-会長はこう説明している。

迫る投票日、続く混乱

夏の間に共和、民主両党それぞれの候補者選びの予備選挙が終わり、11月6日の投票までの2カ月が本格的な選挙戦。この時期に入っても、トランプ氏は次々に難題にぶつかっている。

▽北朝鮮の罠 金正恩・北朝鮮労働党委員長と合意した朝鮮半島非核化は、中間選挙向けの大手柄狙い。その後、非核化は何も進んでいない。北朝鮮の罠にはまったとの批判が強まり、金氏との再会談が設定されたが、選挙前はもう無理。

▽最高裁判事の承認審議 最高裁判事(定員9人)の欠員を埋めるために大統領指名のカバノー候補の適否を決める上院審議で、同氏の高校、大学時代のセクハラ疑惑が浮上、混沌に陥った。セクハラ被害を受けたとする大学教授が勇気をもって証言、これに対してカバノー氏が激昂して、承認を阻もうとする民主党側の「陰謀」などと反論した。これは公正中立、冷静であるべき最高裁判事となるにはふさわしくない行動との批判を浴びた。

強行採決回避のために、1週間の期限付きで何が真実かをFBIの捜査にゆだねることになった。FBIはわずか数日で捜査結果を報告、その内容は明らかにされないまま10月6日採決され、50対48の僅差でカバノー氏の最高裁判事就任が承認された。この結果はどう受け取られているか。いくつかの世論調査を見ると、6-4で不支持が支持を上回った。選挙の投票で民主党、あるいは共和党へ投票するという意思をさらに固めた、投票には何の影響もない、がほぼ同じだった。トランプ氏が民主党の陰謀説をせっせと広めたこともあって、この騒ぎは選挙戦で民主党に不利に働くとの見方があった。調査結果はむしろ逆に出た。これも「#MeToo」の影響かもしれない。

▽サウジ批判の記者殺害 10月はじめサウジアラビア政府に批判的なジャーナリストがトルコの同国総領事館内でサウジ情報機関に殺害されたことをトルコ情報機関が探知した。最悪の人権侵害、報道の自由圧殺という事件に国際的な批判が高まり、米国議会では民主、共和両党がともにサウジ政府に制裁を加えようと動き出している。

トランプ氏はイスラム教本山で石油大国サウジとの関係強化を中東戦略の柱に据えて、10年で1100億ドルにもおよぶ武器売却の話しを進めてきた。これが頓挫しかねない危機だ。トランプ氏は「ならず者の仕業だろう」などとサウジ政府の責任回避に懸命。しかし、トルコのエルドアン大統領が映像や録音などの証拠を入手しているとして、「計画的犯行」と断定、サウジは逃げられなくなった。サウジの実権を握る32歳のムハンマド皇太子がやらせたとの疑惑が強いが、皇太子は「情報機関の独走」にして関係者の処分を発表、トルコ当局の捜査に協力すると発言、自分は無関係との印象操作に努めている。

トランプ氏も慌ててこれに乗っかり、「史上最悪の隠蔽」と厳しい批判発言はしたが、ムハンマド皇太子には一切触れない。武器売却への執着が断ちがたい思いがちらつく。サウジとの武器売却の話で固まっているのは450億ドル分だけといわれる。トランプ氏は1100億ドル、45万人の職を生む商談は事件とは関係ないと繰り返しているうちに、武器売却で生れる職の数がいつの間にか60 万人に増え、それがまた100万人に膨らんでいた。トランプ氏の「ウソ」(fake)や根拠ない発言に慣れている米メディアもこれには驚いた。大詰めの選挙戦では見せたくない姿をさらしてしまったようだ。

▽貧者の大キャラバン 10月13日に中米ホンジュラスから貧困と治安悪化による暴力の恐怖から逃れ米国への移住を目指す100人ほどが徒歩で北上を始めたところ、通過国のグアテマラ、エルサルバドル、メキシコで次々に合流する人が出て、キャラバンと呼ばれる7000人の大行進に膨らんだ。1週間後の選挙投票日のころには目的地米国とメキシコの国境に到着する見込みだ。

トランプ氏はキャラバンには犯罪者やイスラム(テロリスト)が紛れ込んでいるなどと米国民の危機感を煽ったり、民主党が裏で資金を出している、民主党は暴徒集団だと民主党攻撃にも使ったりしている。

メキシコ国境にはすでに州兵(各州に配置されている予備軍)2,000人が国境警備の目的で動員されているが、トランプ氏は「国家の非常事態」に仕立て、1,000人から800人規模の実戦部隊を同国境一帯に派遣すると「強い指導者」ぶりをアピールしている。人権団体は実戦部隊を出動させる問題ではないと批判。選挙戦の票集めの問題でもない。どんな事態が起こるのか心配である。

「トランプ政権8年」の「恐怖」

上院は最高裁判事をはじめ政府機関の長官から局長およびそれに準じる各局幹部までの人事承認権を持つが、法案の審議・成立に関わる権限は上院も下院も違いはない。 民主党が下院を制するならば、多くの問題で両院の判断がねじれることになって、トランプ大統領の「やりたい放題」に大きなブレーキがかる。大統領を罷免する唯一の方法は上院の弾劾裁判所に訴追し、有罪判決が出された場合だけで、この訴追権は下院が持っている。

民主党下院は直ぐにもトランプ氏の訴追・弾劾に取り掛かると思われる。トランプ氏はホテルやゴルフ場経営の実権を手放さず、これらのビジネスで利益を上げている疑いが濃厚だ。こうした「利益の相反」は許さないとして、政府高官は就任とともにビジネスとの関係を画然と断つことが求められている。しかしトランプ氏は大統領特権を盾に、必要な手続きを取ることを拒んでいる。民主党系の腕利きの弁護士らが弾劾の準備を進めていて、一部については既に提訴されたものもある。

実際には弾劾裁判に持っていくには手間と暇がかかる。有罪判決も保証されてはいない。大統領と共和党が当然、激しく抵抗するだろう。それでも弾劾が動き出せば、大統領が追い込まれて十分な職務遂行が困難になることは間違いない。再選もおぼつかないだろう。

予想とは違って共和党が両院の多数を維持すると、トランプ氏が勢いづいて再選の可能性も強まる。欧州諸国で台頭する右派・極右勢力をさらに勢いづかせることにもなるだろう。トランプ氏は自分に似た強権あるいは独裁者が好きなようで、プーチン、習近平、金正恩をはじめサウジアラビア、トルコ、ハンガリー、ポーランド、フィリピンなどのリーダーを持ち上げて親しい関係の構築を進めてきた。トランプ政権があと6年余、計2期8年も続くとなれば、米国も世界も大きく変わってしまう恐れがある(『現代の理論』16号、拙稿『どこへ行く「リベラル民主主義」』)。

21世紀入りとともにインターネットによる情報支配が瞬く間に人間の思考や生活様式を変えてきた現実に直面すると、トランプ政権が8 年も続いた場合、世界はどうなるのか心配である。日本ではそんな危機感は考え過ぎと思われるかもしれない。だが、トランプ大統領は白人至上主義者のグループを引き連れてホワイトハウス入りし、その最高指導者バノン氏(すでに退職)を戦略顧問にすえた。欧州で勢いを増す極右勢力のなかには公然とネオ・ナチを名乗るグループも加わっている。米国のメディアでは危機への心配が広く語られている。

チェック・アンド・バランス

米国の大統領は強大な権力を持っているように見えるかもしれない。しかし、実際には上下両院が強いチェック機能を持ち、大統領には法案に対する拒否権が与えられている。相互の「チェック・アンド・バランス」が図られている。「安倍一強」」のもとでの首相権限の方がはるかに強いのではないかと思う。その米国で野党が両院のひとつで多数を取るかどうかがこれほど注視されいるのは、トランプ氏という異常な人物が大統領になり、両院の多数を占める共和党がその大統領に対するチェック機能をほとんど喪失したという異常な事態が重なり合っているからだ。

大統領の与党あるいは野党が両院を支配するのは珍しいことではない。戦後の米国で最も強力な大統領とされる共和党レーガン氏は2期8年のうち下院の多数派を得たことは1度もなく、最後の2 年間は民主党に両院を握られている。民主党クリントン氏は1期目を両院多数でスタートしたが、中間選挙で両院を失い、以後の6年間を通して少数議会に甘んじた。女性問題で弾劾裁判にかけられ、危うく有罪を免れた。

ブッシュ(息子)大統領は2000年選挙で、総得票数ではゴア民主党候補に後れをとったが辛くも当選、両院とも民主党のもとで政権スタート。その後は「9.11テロ」を受けた対テロ戦争の中で、最初の中間選挙で両院を制したが、戦争が泥沼化して2006年は両院を失った。

冷戦時代にさかのぼれば、1968年に大統領選挙を制した共和党ニクソン氏は1972年に再選も果たしている。だが、1974年8月、2期目半ばにウォーターゲート事件で弾劾必至に追い込まれて屈辱の辞任を迫られるまで、終始民主党に両院を抑えられた。

2008年初の黒人大統領となったオバマ氏は、ブームに乗って両院多数派を得てスタート。しかし、共和党は最初の中間選挙で下院を奪い、上院も大きく議席を伸ばした。オバマ氏が悠々と再選を果たした2012年でも与党民主党の下院の奪回はならず、2014年で上院も奪われて、最後の2年間は「死に体」になったとされる。

だが、上で見たように、レーガン、クリントン、ブッシュ、さらにはニクソンの各政権が上下両院を野党に奪われた時、それですぐ政権が「死に体」になったとは評されていない。オバマ政権だけは、なぜ両院を失ったことで「死に体」になったのか。

「オバマの成功は許さない」

米国民がオバマ氏を初めての黒人大統領に選んだ時、世界は米国民主主義の素晴らしさに感動した。だが、共和党首脳部は「次の2年間はオバマの再選阻止のためにある」と公言した。「内戦の第Ⅱ幕」の始まりをいつと決めるならばこの発言だろう。オバマ大統領の登場が人種差別のための「内戦」を再発させたというのには、悲しい怒りを感じる。

共和党はこの発言通りに議会で「禁じ手」も遠慮なく使う、徹底的妨害戦術にでる。上院では審議を始める前にその議題を取り上げることに反対があると、定員100人のうちの60票の支持を得なければならないという規則がある。多数党でも60議席を得ることは余りない。共和党はこのルールを悪用してオバマ大統領の政策を次々に葬ったのだ。

上院でオバマ氏は米国生まれではない、だから本当は大統領にはなれない、隠れイスラム教徒だ、など(トランプ氏が流行らせた)「フェイク情報」が執拗に流された。その先頭に立っていたのが人気テレビ番組のホスト役をしていたトランプ氏だった。

独立戦争のきっかけになった「ボストン・ティーパーティ」にちなむ「茶会」と名付ける若手右派の草の根運動組織がつくられ、反オバマ・民主党だけでなく、共和党指導部の穏健派に激しい攻撃を加えた。2010年の中間選挙ではこの「茶会」メンバーが多数当選、民主党から下院多数派を奪った。共和党はこれで勢いを得て選挙のたび議席を伸ばし、右傾化を強めた。

「茶会」運動のエネルギーがどこから生まれたのか、誰が指導したのかなどはいまだに良く分からないが、信頼を失っていた党指導部への造反という面もあったとみられる。

民主党はオバマ選挙ではブームに沸いたが、そのフォローアップは十分ではなかった。オバマ再選も含めてその後の選挙での投票率は停滞し、特にアフリカ系(黒人)をはじめとする少数派の投票率の低下が目立った。

Pewリサーチの調査ではオバマ政権以後、民主、共和両党の対立はひたすらに険しさを加え、最近では互いに日常の交際は避け、同じ居住地域に住むことも嫌だという人も少なくないという。敵をつくって力で威嚇するトランプ氏が大統領に就く前に、両党の関係は意見や政策の違う反対党ではなく、相手の存在を認めないという敵対関係になっていた。

長期にわたった1党支配

歴史をみると、民主、共和両党の間でしばしば政権交代が起こっているが、その度に「権力」の移動が起こっているわけではない。「権力」の支配は長く続くことが多い。

共和党リンカーンが1860年に大統領になり南北戦争で勝ってから、フーバー大統領が1933年に大恐慌の中で挫折して、民主党ルーズベルトに政権を引き渡すまで、自由放任経済による繁栄を謳歌する70年余の共和党支配が続いた。この間、第1次世界大戦に参戦して国際連盟創設などベルサイユ講和条約会議をリードした民主党ウィルソン政権もはさんでいるが、通してみれば共和党支配の時代だった。

ルーズベルトは異例の4選を果たし、第2次世界大戦終結直前まで長期政権を担った。第2次大戦の後、アイゼンハワー、ニクソンと2人の共和党大統領が生まれたが、議会は民主党が圧倒的な力を維持、1980年選挙で共和党レーガンが勝利するまでの50年近く、実質的に「ルーズベルト連合」と呼ばれる民主党のリベラリズム体制が支配する時代が続いた。

共和党保守はレーガン政権の登場を保守革命と呼んだ。民主党の「ルーズベルト連合」は崩壊した。しかし、レーガンを引き継いだブッシュ(父)が、民主党クリントンに再選を阻まれた。共和党は保守革命が中断されたことに衝撃を受け、早期の政権奪取をめざしてクリントン攻撃を強めた。クリントンは弾劾裁判にかけられるなど追い込められたが、再選。8年間、民主党政権を守った。

2000年選挙でブッシュ(息子)共和党政権が復活。ブッシュはアフガニスタンとイラクの戦争が長期化する中でも再選を果たした。

この後、民主党オバマ政権の2期8年をへて、いまは共和党トランプ政権。

共和、民主両党の長期にわたる覇権争いの後、両党互角の政権争奪戦が続いている。共和党は長い民主党支配の後、レーガンの保守革命で長期の共和党支配の時代到来と歓喜した。それが中断させられたことで、民主党憎し、覇権奪還への執念を見せて、民主党はその気迫にたじたじの態というのが今の状況と言えるだろう。

絡み合う共和、民主両党の確執

両党の対決を嶮しく、かつ複雑にしている背景がもうひとつある。共和党はリンカーンのもとで北軍を担って南軍に勝利し、黒人奴隷の解放を果たした。戦争に敗れた南部は民主党が支配していた。ところが今は共和党は保守的な白人の党になって、南部や中西部の白人の多くが加わっている。黒人や中南米系、アジア系など非白人の少数派には差別的だ。民主党は白人の世界では少数派になり、非白人の少数派の多数が加わっている。南北戦争当時の党の中身が入れ替わったことになっている。

ルーズベルトの恐慌対策「ニューディール」は恐慌で一番苦しんでいる少数派の救済を優先させた。ルーズベルト政権を支えた「ルーズベルト連合」には白人労働組合などとともに黒人が参加した。1950―60 年代に高まった黒人差別撤廃を求める公民権運動を支持し、加わったのは民主党だった。南部の白人の多くは次第に民主党を離れ、共和党への移動が始まった。

1980年選挙でレーガン大統領が予想を超える圧勝を収め、長かった民主党支配に終止符を打ったのは、南部民主党の白人が民主党カーター候補を離れて大量にレーガン支持に回っからだとされている。2年前にトランプ氏が僅差ながら誰も予想しなかった当選を果たしたのも、同じようにグローバリズムにとり残された中西部の工業地帯(ラストベルト)の民主党票が支持に転じたからだとされている。

南部諸州は南北戦争で敗れて3年間、北軍の占領下に置かれた。この期間は「再建時代」と呼ばれるが、南部側には北部に対する屈辱感と恨みが残った。解放された黒人や北部人を襲撃したり、リンチにかける事件が後を絶たず、KKKなどの白人至上主義者が暗躍した。黒人奴隷は形の上では解放されたが、差別がなくなったわけではなかった。トランプ政権が生まれて白人至上主義者がホワイトハウスに出入りし、各地で白昼に彼らの集会やデモが行われるようになった。「内戦の第Ⅱ幕」の光景である。

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

特集・安倍政治の黄昏と沖縄

  

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