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沖縄県―辺野古の差し止めを提訴

訴状概要・訴状全文

沖縄県

沖縄県(翁長雄志知事)は7月24日、名護市辺野古の新基地建設で、国は県の許可を得ずに工事を強行しているのは違法であると那覇地裁に差し止め訴訟を提起し、同時に仮処分の申し立ても行った。今回の訴えは、基地の建設阻止や建設の是非を直接問うものではないが、国は守るべきルールを守るべきで、当然のことを求めた訴訟でもある。

地元紙の琉球新報は、「国の違法行為を国民の下にさらす」という意味合いが強いと指摘する、また「かつて大田昌秀知事が沖縄の基地の実情を全国に伝えて回る『沖縄からのメッセージ』キャラバンを展開した。現在、県はネットでの情報発信も強化している。訴訟と言う手段だけではなく、翁長知事が率先して沖縄の実情を全国に説いて回る行動も検討課題ではないか」と指摘している。

沖縄県民の苦闘は続く。この間、県民の声を無視し、歴代最悪の総理として強硬路線を走った安倍政権。戦争法案の強行によってさらに沖縄の緊張は高まっている。それは沖縄の犠牲の上に成り立っている。まさに沖縄は“常在戦場”である。その政権に迎合するかの“忖度判決”もみられる。しかしその安倍政権も大きく揺らいでいる。トランプー北朝鮮―安倍、何が起こるか分からない。またもや沖縄県民に犠牲を強いることはもはや許されない。本土に住む私たちが人間として何をすべきか深刻に問われている。

歴史的な意味をこめて沖縄県の訴状のリンク先を掲載します。また訴状概要を下記に全文掲載します。訴状は長文ですが関心ある方は是非一読ください。(編集委員会)

訴状概要

第1 本件水域は「漁業権が設定されている漁場」に該当すること

1 防衛省の地方組織である沖縄防衛局(所在地 沖縄県中頭郡嘉手納町字嘉手納290番地9)は、普天間飛行場代替施設建設事業の事業主として、公有水面埋立承認を得て、工事施工水域において、公有水面埋立てに係る工事を行っている。

沖縄県漁業調整規則39条1項は「漁業権の設定されている漁場内において岩礁を破砕し、又は土砂若しくは岩石を採取しようとする者は、知事の許可を受けなければならない。」と定めているところ、本件水域を「漁場の区域」に含む共同漁業権の免許が、名護漁業協同組合に付与されており、本件水域は、「漁業権の設定されている漁場」に該当する。

2 沖縄防衛局は、平成26年8月28日に、本件水域に係る公有水面埋立事業のため、同日から平成29年3月31日までを許可期間とする沖縄県漁業調整規則所定の沖縄県知事の許可(以下「岩礁破砕等許可」という。) を受けたものの、その後は改めて岩礁破砕等許可の申請をすることなく平成29年3月31日を経過した。

沖縄防衛局、防衛省は、岩礁破砕等許可を得ない理由について、平成25年3月11日に名護漁業協同組合が総会において漁業権の一部放棄の総会決議をしたことによって漁業権が一部消滅したためであるとしている。

3 しかし、漁業法(昭和24年法律第267号)は、「放棄」と「変更」を書き分け、「放棄」については漁業権者の意思表示のほかに行政行為を必要とする規定を設けていないが、他方で、同法22条において漁業権者の意思に基づく漁業権の「変更」については変更免許による(すなわち、漁業権者の意思表示のみでは効力を生じない)ことを定めているところ、「漁場の区域」は免許によって定められた漁業権の内容をなすものであるから(漁業法11条1項)、漁業権者の意思に基づく「漁場の区域」の縮小は、漁業法上は、同法22条で規律される漁業権の「変更」に該当する。

したがって、漁業権者である漁業協同組合がいわゆる漁業権の一部放棄の総会決議をしても、その総会決議のみにより免許内容である「漁場の区域」の変動(縮小)という効力が生じるものではない。

漁業権者の意思に基づく漁場の縮小が漁業権の「変更」に該当するということは、明治漁業法以来、当然のこととされてきたものであり、現行漁業法下の水産行政も一貫してこの立場をとってきていたものであった。

また、漁場計画制度を漁業法の目的達成のための基本的仕組みとして採用した現行漁業法においては、なお一層のこと、私人(漁業権者)の意思表示のみで漁業権の内容を変動させることは認められないものである。

すなわち、現行漁業法1条は「漁業生産力を発展させ、あわせて漁業の民主化を図ること」を目的とし、この目的を実現するための方法として「水面の総合的利用」をあげている。

そして、私的恣意を排して水面を総合的利用するための基本的仕組みとして、免許の内容を事前に樹立する漁場計画によって決定し、その後に免許申請をさせ、漁場計画と異なる免許は認めないこととして、私人が「漁場の区域」等の漁業権の内容(免許の内容たるべき事項)を決めることはできないとする漁場計画制度(漁業法11条以下)を採用している。

この漁場計画制度は漁業法の根幹をなすものであり、漁業権者の意思表示のみで漁場計画によって定められた漁業権の内容を変動させることは、漁業法の根幹に違背することとなるから、漁業権者の意思表示で漁業権の内容である「漁場の区域」を変動させることは認めえないものである。

名護漁業協同組合がいわゆる漁業権の一部放棄の総会決議をしても、「漁場の区域」の縮小を内容とする変更免許がない以上、「漁場の区域」の縮小は生じないものであり、名護漁業協同組合の決議後も本件水域は、「漁業権の設定されている漁場」に該当する。

4 沖縄防衛局は普天間飛行場代替施設建設事業のための公有水面埋立承認を得ているが、その願書に示された公有水面埋立工事の内容は岩礁破砕等を伴うものである。

そして、沖縄防衛局は、沖縄県知事に対して岩礁破砕等許可等申請を 行わないで公有水面埋立工事を行うことを再三にわたって明確に表明し、平成29年4月25日に公有水面埋立本体工事着工を強行した。

沖縄防衛局により、今後、岩礁破砕行為等が行われることは、確実である。

第2 司法手続による公法上の不作為義務の履行請求が認められること

1  沖縄県漁業調整規則39条により、「漁業権の設定されている漁場内」において岩礁破砕等行為をする者は皆、知事の許可を受けてそれを行わなければならないという作為義務を課されている。

このことは裏を返していえば、何人も知事の許可を受けずには岩礁破砕等行為を行ってはならないという不作為義務を沖縄県知事及びその所属する行政主体である沖縄県に対する関係で負っていることを意味し、かかる義務は、地域の水域に存する水産資源を保護培養するという公益を保護するために課された義務である。

したがって、地域の水域の水産資源を保護培養するという公益保護の主体として法令上位置づけられている沖縄県は、かかる義務の違反者に対してこの義務履行を求める権利を有し、知事の許可を得ずに岩礁破砕等行為がなされることが確実であるといえるような場合には、そのような義務違反行為を事前に防止するための予防的な義務履行請求も認められる。

2  岩礁破砕等の不作為を訴求することは、被告の岩礁破砕等許可を得ずに岩礁破砕等を行ってはならない不作為義務の存否が争われる事件であり、水産資源保護法、沖縄県漁業調整規則という法令の適用により、解決することができるものであるから、法律上の争訟に該当する。

3 この点、いわゆる宝塚市パチンコ条例事件最高裁判決(以下、「平成14年最高裁判決」という。)との関係が問題となる。

4 しかし、本件は、以下の3点の理由により、平成14年最高裁判決の射程外である。

(1) 平成14年最高裁判決は、「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟」を、不適法としているところ、本件訴訟は、地域の水域に存する水産資源という地域の資源の保護培養に強い利害関係を有する者としての立場においても提起された訴訟でもあり、「専ら」行政権の主体として提起した訴訟とは言えず、本件は、同判決の射程外である。

(2) 平成14年最高裁判決は、「国又は地方公共団体が専ら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟」を不適法としているところ、本件における被告は国であり、「国民」に対して行政上の義務の履行を求める訴訟ではないことから、本件は同判決の射程外である。

(3) 平成14年最高裁判決により変更されていない最高裁平成8年10月29日判決・判例タイムズ947号 185頁(以下、「平成8年最高裁判決」という。)は、道路管理権(公物管理権)に基づく訴えが法律上の争訟にあたることを認めている。

本件訴訟は、海という公共用物について、財産管理、機能管理を行う主体である原告が、その公物管理権の保護救済を求めて提起するものでもあることから、平成14年最高裁判決の元でも許容される。

5 仮に、本件が、平成14年最高裁判決の判示と抵触するとしても、平成 14 年最高裁判決がとる法律上の争訟概念には問題がある。

平成14年最高裁判決は、板まんだら事件における法律上の争訟概念に、私権保護目的という新たな要素を加えたものであるが、刑事訴訟を包含できず、また、同じ訴訟の対象が、国民が訴えれば法律上の争訟に含まれ、行政が訴えれば法律上の争訟に含まれない、という言わば片面的法律上の争訟概念を認めるものである。

しかし、「法律上の争訟」を定める裁判所法の立法経緯からしても、「法律上の争訟」に刑事訴訟が含まれ、また、「法律上の争訟」が訴訟の対象(目的ではない)を意味する概念であることは明らかであり、平成14年最高裁判決の採る「法律上の争訟」概念は、裁判所法の解釈としては、採り得ない。

訴状全文は、「知事公室辺野古新基地建設問題対策課 」ウェブページの中の「訴状」から読むことができる。

沖縄は日本やアメリカの植民地か。新基地建設が強行されようとしている辺野古岬

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