論壇
介護福祉士について考える1
ネパール人留学生は、何をめざして留学し、介護福祉士の専門学校に行こうとするのか
東京富士語学院副校長 倉八 順子
1.日本で学ぶ留学生受け入れの現状
2.ネパールの状況
1)ネパールの経済事情 / 2)ネパールの高校卒業生の就業機会 / 3)2025年の暴動(Gen-Z抗議運動)後の状況
3.介護福祉養成施設を希望するネパール人学生急増
1)介護福祉士養成施設ネパール人学生急増の背景 / 2)急増の理由
4.介護福祉士国家試験の合格率と経過措置
1)介護福祉士国家試験の概要 / 2)介護養成施設卒業者に対する卒業後5年間の経過措置 / 3)経過措置の再延長などの新たな対策の必要性
5.介護福祉士を目指すネパール人学生たちは、何を考え、何をめざしているのか
6.共生社会をめざして
7.ネパールで発生した土石流と洪水で発せられた「真正のことば」
1.日本で学ぶ留学生受け入れの現状
日本で学ぶ留学生は、2023年に出された政府の方針「留学生40万人計画」で、増加の一途をたどってきた。「留学生40万人計画」とは、少子化に伴う国内の労働力の確保、高度人材の獲得、教育の国際化を目指して、2033年までに日本で学ぶ外国人留学生の受け入れ数を40万人とするという目標である。(ここで、外国人留学生には、高等教育機関で学ぶ留学生、日本語教育機関で学ぶ留学生が含まれる。)。
「40万人計画」は、当初の目標の8年前倒しで、2025年5月に達成された(2026年5月「2025(令和7)年度外国人留学生在籍状況調査結果」独立行政法人日本学生支援機構JASSO)と報告されている。出身国(地域)別留学生数を見ると、中国・ネパールからの留学生が、全留学生に占める割合は56.7%(2024年度55.9%)になっており、特に、ネパールからの留学生が全留学生に占める割合は、24.6%(2024年度19.2%)と急増している。
一方で、外国人留学生を巡る情勢の変化で「ポスト40万人」の留学生政策は不透明になっている。
本稿では、日本で学ぶネパール人留学生に焦点をあて、ネパール人留学生が急増している理由、特に介護福祉士養成施設に急増している理由について考えてみたい。
2.ネパールの状況
1)ネパールの経済事情
図説ネパール経済2025(2025年2月在ネパール日本国大使館)によると、ネパール経済は農業の就労者が約6割を占めているが、現在は、サービス業(観光・送金)を主軸とした経済成長を目指している。
2023年8月筆者がネパールを訪れた時、カトマンズもポカラも中心部はサービス業(観光)が盛んで、多くの観光客でにぎわっていた。
また、ネパール国内では、若者も中年も、就業機会が少ないということを各地で耳にした。統計を見ると、ネパール社会は海外出稼ぎ労働者からの送金がGDPの約20~25%を支える「出稼ぎ依存型」の経済となっている。
主な出稼ぎ先は、マレーシアや中東(カタール・サウジアラビア・UAE・クウェート)である。インド・ネパール間の国境は通行自由であるため、インドへの出稼ぎ者数に関する公的な統計はないが、インドが最大の出稼ぎ先であるということであった。
2)ネパールの高校卒業生の就業機会
ネパールの教育制度は、小学校5年間、中等学校は、前期3年、中期2年、後期2年である。
高校卒業生をはじめとする若者が、ネパールでどのくらい就職しているのかを具体的に示す数値はないが、就職の難しさを示す3つのエピソードがある。
1つは、ネパールの日本語学校を訪問した際、「高校卒業生の10%しか就業機会が与えられない。若者は海外に行くしかない。だから、カトマンズには100以上の日本語学校があるんですよ。」と校長先生から聞いた。「有為な若者たちが、愛する母国のために働く機会がないことは、まことに残念なことです。」と語っていた。
もう一つは、ネパールの政府機関で働いている私の友人が、「どうにかして若者の就業機会を増やさなければいけない。自分のこどもたちの将来を考えると喫緊の課題です。」と真剣な表情で語っていたことである。
3つ目は、現在私が教えている日本語学校のあるクラスには16人のネパール人がいるが、そのうち4人が大学を中退して、日本語学校に来ていることである。日本の在留資格認定証明書(COE)が降りたら、日本での就業機会を求めて、大学を辞めてまで日本に来たいというのが、ネパールの若者たちの実情なのであろう。
3)2025年の暴動(Gen-Z抗議運動)後の状況
2025年9月、若者を中心とした大規模な反腐敗デモが発生し、社会不安が全国に広がった。抗議活動は政府への不信感や若者の失業問題、経済格差などが背景にあり、一部は暴動へと発展した。最終的に当時の首相は辞任し、議会は解散された。
その後、暫定政府が発足し、2026年には総選挙が実施された。新政権は腐敗対策や若者の雇用創出、投資環境の改善などを重要課題として掲げている。
一方で、暴動後も課題は残っている。若者の海外流出は依然として深刻な問題である。若者の間では、「努力しても将来が見えない」という不満が根強く残っている。
3.介護福祉養成施設を希望するネパール人学生急増
1)介護福祉士養成施設ネパール人学生急増の背景
ネパール人学生の多くは、来日後に日本語学校で学び、その後、専門学校に進学する。専門学校にはいろいろな分野がある(ビジネス、IT、自動車、ホテル・観光、翻訳・通訳など)。その中でも、近年、介護福祉士養成施設を目指すネパール人学生が急増している。外国人留学生が急増しているのは、日本の高齢化社会の現状、介護福祉士を目指す日本人の若者が減っている現状を踏まえ、日本政府その他の関係機関が奨学金制度・就学資金貸付制度を充実させてきたからである。
厚生労働省の「介護福祉士養成施設卒業者に対する国家試験義務付けの経過措置について」によると、介護福祉士養成施設で学ぶ留学生は、令和7年(2025年)、4532人である。留学生の統計を取り始めたのは、2019年で、その時は2202人だった。この6年で倍増していることがわかる。
厚生労働省の資料に国別の内訳はないが、日本介護福祉士養成協会の「マイナビ介護職」によると、24年度は20か国からの外国人留学生が介護福祉士養成施設で学んでいる。最も多いのがネパールで、1311人(前年度比3.57倍)で、外国人留学生全体の43%を占めている。ネパールに続くのは、ミャンマー・ベトナム・インドネシアである。これらの国は、勤勉で協調性が高く、高齢者や家族を大切にする文化(ホスピタリティ)があるため、介護現場での適性が高いと評価されている。
私の勤務する日本語学校で介護を希望するネパール人学生に、なぜ介護福祉士になりたいのですかと聞くと「小さいころから、おじいちゃん、おばあちゃんと暮らしてきました。おじいちゃん、おばあちゃんが好きだし、ケアすることは楽しいです。大変だと思わないです。」と彼・彼女たちは、口をそろえて、言う。
日本もかつては、家族・お年寄りを大切にする文化であった。しかし、介護福祉士を希望する日本人の若者は減少傾向で、令和6年(2024年)までは介護福祉士養成施設への入学者は、日本人が上回っていた(52.5%)が、令和7年(2025年)には、留学生が56.9%と逆転したという驚くべき現実がある。留学生たちは、強い意欲をもって、言語の壁を乗り越えて、介護福祉士の資格を得て、日本でキャリアを積んでいるのである。
2)急増の理由
就職意欲が高く、学ぶ意欲が高いネパール人留学生にとって、介護福祉士の資格は魅力的である。
(1)キャリア定着の目的
非漢字圏の留学生にとって、介護福祉士の資格を取るのは容易ではない。日本語力は日本語能力試験N2(「日常的な日本語を理解できる」だけでなく、新聞やニュース、ビジネスなどの「やや幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる」中上級レベル)が求められるうえ、介護に関わる専門用語を覚えなければならない。
努力して、介護福祉士の資格を取れば、一生、安定した仕事につける。専門職として長く安定して働くことができる。いったん事情があって帰国したとしても、また、日本に来れば、介護福祉士として職を得ることができる。ネパール人にとって、安定したキャリアを得られるメリットは極めて大きいと思われる。
(2)奨学金制度
多くの介護福祉養成施設が、介護福祉施設と提携し、「介護福祉士取得後、5年介護福祉施設で働く」ことを条件に返済不要の奨学金制度を利用している。
筆者の日本語学校が信頼関係を結んでいる、松山学園松山福祉専門学校を例に、松山福祉専門学校の許可を得て、奨学金制度について説明する。
松山福祉専門学校は、1990年4月開校。千葉県松戸市にある千葉県で一番歴史のある介護の学校である。現在の学生数は、専門学校と日本語教育機関の日本語科を含め、440名である。
同校には、「介護福祉科」(専門課程・昼間2年)「福祉経営科」(専門課程・昼間2年)「福祉研究科」(専門課程・昼間1年)がある。募集人数は、それぞれ、72名、60名、76名である。
2027年の学生募集要項から、「介護福祉科」についての情報を抜粋して記す。
●介護福祉科学費:2年間で230万3千円+教材費12万円
●松山学園奨学金制度:入学選考の結果、本校への志望理由が明確で、人物、学業共に本校が適当と認めた方には、本校の奨学金制度を適用し、学費等を一部減免いたします。(減免にはその他成績や出席率等の条件があります)
●介護福祉士等修学資金貸付制度(千葉県・東京都等):介護福祉士を目指す方が受けられる修学資金制度です。千葉県以外でも、扱っている制度です。
| 申請資格 | 卒業後、千葉県の施設等において、介護福祉士として働く意志のある者 |
| 貸付額 | 月額50,000円(入学準備金200,000円、就職準備金200,000円、国試対策費80,000円)合計168万円 |
| 貸付期間 | 2年間(本校の修業年限) |
| 利子 | 無利子 |
| 返還 | 退学や卒業後1年以内に介護福祉士として就職しない、又は卒業後介護福祉士として千葉県内の福祉施設に5年間就職しない場合は、返還が必要です。 |
| 返還の免除 | 千葉県内の社会福祉施設等に就職した場合は、返還が猶予されます。 引き続き、介護福祉士として5年間従事することで、返還が免除されます。 |
■申請手続きは、入学後となります。希望者を本校が取りまとめて申請し、選考は各都道府県 が行います。
以上の資料によると、
2年間の学費、242万3千円―168万円(千葉県就学資金貸付制度)―30万円(松山学園奨学金制度=443000円
2年間の学生の支払いは443,000円、1年間では、221,500円となる。
この学費は他の分野の専門学校と比べて4分の1である。もちろん、この奨学金制度は、介護福祉士の試験に合格し、5年間介護施設に従事した場合に限られる。
4.介護福祉士国家試験の合格率と経過措置
1)介護福祉士国家試験の概要
国家試験介護福祉士の資格取得には次の4つのルートがある。
「養成施設ルート」
「実務経験ルート」
「福祉系高校ルート」
「EPAルート」である。
*実施時期:年1回の筆記試験(例年1月下旬に実施)
*試験科目:4領域:「人間と社会」「介護」「こころとからだのしくみ」「医療的ケア」
125問 60%程度以上取れれば合格
*養成施設ルートの合格率
令和6年度(2024年度) 全体66.7% 日本人91.9% 留学生35.1%
これまで見てきたように、国や関係諸機関のさまざまな政策の効果があって、介護福祉士を希望する留学生が急増していることは、介護福祉士不足の日本にとって朗報である。
ここで、問題は留学生の介護福祉士合格率が低いことである。
2)介護養成施設卒業者に対する卒業後5年間の経過措置
平成29年度より、養成施設卒業者も国家試験資格が必要となった。留学生の介護福祉士合格率が低いことを鑑み、厚生労働省は、令和8年度(2026年度)までの卒業者には、卒業後5年間の「経過措置」を設けた。「経過措置」とは、卒業後5年の間は介護福祉士の資格を有することとし、当該5年間のうちに、国家試験に合格するか、介護現場に5年間従事するかのいずれかを満たすことにより、引き続き介護福祉士としての資格を有することができるというものである。
現在のところ、この経過措置は令和8年度、つまり、今年介護養成施設を卒業する学生までである。この経過措置が延長されないとすれば、介護養成施設に在学中に介護福祉士の国家試験に合格しなければ、介護福祉士になることはできない。(ただし、3パート合格制なので、3年の猶予はあるが、ここでは詳しい説明は省略する。)介護福祉士になることができなければ、「介護福祉士等修学資金貸付制度」が適用されず、貸付金の返済を余儀なくされる。
3)経過措置の再延長などの新たな対策の必要性
介護福祉士を目指すネパール人学生たちは、意志が強く、しかも家族思いの学生たちである。筆者は、介護福祉士を目指す非漢字圏の学生たちの夢を叶えるためにも、この経過措置が延長されることを切望している。介護養成施設によっては、介護養成施設の就学期間を現在の2年から3年に延長するなどの対策を取っている。いずれにしても、介護福祉士の確保のためにも対策が急務である。
〈なお、この論考執筆中の6月19日に改正法案が参議院で可決されたと松山福祉の天羽校長が伝えてくださいました。経過措置が5年間延期になりました。厚労省の話しでは、5年後の再延期はないとのことです。〉
【経過措置延期】
1. 国試未受験・不合格でも、
(ア) 資格登録:養成施設卒業後5年間は介護福祉士の登録が出来る。
(イ) 在留資格:特定技能ではなく、5年間は在留資格「介護」
(ウ) 修学資金:養成施設卒業後、5年間勤務すれば返還免除。
2. 卒業後5年以内に国家試験に合格すれば、5年の期限が無くなり永住が可能。
3. 但し、卒業後5年以内に国家試験に合格出来なければ帰国。
5.介護福祉士を目指すネパール人学生たちは、何を考え、何をめざしているのか
松山福祉専門学校の協力を得て、6月26日(金)介護福祉を目指して学ぶ松山福祉専門学校介護福祉科の1年生6人の学生にインタビューをしました。
2時間のインタビューの間、彼・彼女たちは、日本語をよく理解し、全員が、明るく、笑顔で、答えてくれました。インタビューを終えたとき、6人全員が「楽しかったです」と笑顔で言ってくれたのが、とても印象的でした。こんなに日本語が上手で、そして、楽しく、対話できると感じている、彼・彼女たちは、介護福祉士になるコミュニケーション力があるのだと、こころから、感じました。
♥Kさん(23歳 男性)
ネパールにいたとき、高校の勉強をするときから、日本の介護福祉士の勉強をしました。将来のため、介護福祉士の資格を取って、経験をつんだら、ネパールに帰って、自分のおじいさん、おばあさんのために施設を作りたいです。今は、ネパールでは家族が介護します。日本では高齢者は施設に入って、若い人が高齢者の面倒をみています。
ネパールでも、高齢者も増えています。いずれ、高齢者施設がひつようになります。介護福祉士になって、日本で経験をつんで、ネパールで介護施設を作りたいです。
いま、たいへんなことはなにもないです。勉強はたのしいです。コミュニケーションの勉強とレクリエーションの勉強が楽しいです。介護福祉士の道を選んでよかったと思います。
ネパールは自然がおおいです。ネパールの人はやさしいです。手伝う気持ちも多いです。日本人もやさしいです。
介護の勉強はたいへんです。日本語学校の勉強とちがいます。専門用語が難しい。勉強が好きなひとには、日本はいいですが、勉強がすきでなければ、日本はたいへんだと思います。
♥Sさん(22歳 女性)
いとこが介護を勉強して、今、介護福祉士としてはたらいています。だから、私も、介護福祉士になりたいと思って、介護福祉科にすすみました。
いま、介護の施設でアルバイトをしています。利用者さんとコミュニケーションができないとき、たいへんです。耳の遠い人、認知症の人、寝たきりの人と話すのはたいへんです。
はじめて、家族とわかれて、日本に来ました。いまの生活は、さびしいけれど、ともだちがいるのでだいじょうぶだとおもいます。日本の高齢化社会をみてかんじたのは、家族では高齢者のめんどうをみきれないと思います。施設に入れば、高齢者はじかんどおりに生活できます。
高齢者が介護施設で生活するのは、いいとおもいます。
♥Bさん(24歳 男性)
ネパールではおじいさんとおばあさんとすんでいました。いま84さいです。おじいさん、おばあさんはやさしかった。だから、わたしも、おじいさん、おばあさんにやさしくしたいと思って、介護のしごとをやりたいと思いました。
介護の勉強はたいへんです。日本語学校の本と介護の本はちがいます。
いま、たのしいことはないですね。おかねいっぱいもらったら、家族におくります。たいせつなのは、かぞくです。家族のために、介護福祉士になって、お金をおくりたいです。
介護の実習にいきましたが、かいごしせつは、さびしいと思います。
日本で15年はたらいて、ネパールにかえります。ネパールに家族がいるから。おかあさんのせだいは、10人きょうだいがいました。わたしのせだいは2人、わたしもしょうらいは2人のこどもがほしいです。
♥Bさん(23歳 女性)
おねえさんが介護福祉士になったから、私も介護福祉士のせんもんがっこうをえらびました。ビジネス、ITより、介護のほうがすぐ仕事ができます。介護はたいへん、でも、たいへんなことはどこでもあります。1週間の介護実習に行きました。デイサービスなので、楽しかったです。
デイサービスならいいけれど、お年寄りが介護施設で住むのはさびしいと思います。毎日おなじことしかしないのは、さびしいです。
介護の専門用語はむずかしいです。でも、がんばって、介護福祉士になって15年日本で仕事をして、ネパールでビジネスをしたいです。
福岡の日本語学校で勉強をしていました。日本にもへんな人が増えていて、福岡でナイフを持った人がいた。だから、家族は心配しています。毎日電話しています。千葉県ではまだそんな人はいないですが、日本の外国人政策はきびしくなっているから、しんぱいです。
♥Mさん(21歳 女性)
ネパールで看護の勉強をして、看護の経験があります。それで日本語学校の先生に、介護をすすめられました。
今、銀座のくら寿司でアルバイトをしています。生活のために、勉強の時間がありません。
今、ひとりですんでいます。介護福祉士としてずっと日本ではたらいて、そのあと、どうするか、考えます。ネパールに帰るかどうかはわかりません。
日本の介護施設をみて、ちょっとびっくりしました。ネパールではお年寄りはずっと家にいます。みんなが手伝います。日本のお年寄りはデイサービスに行きます。介護施設はさびしいと思います。
介護施設の実習で、利用者さんが、口にたべものを入れたら、食べるのを忘れるのをみました。どうしてこうなるのかなと、かなしく思いました。
若い人をあいてにする仕事ができるなら、できれば若い人にかかわりたいですね。
♥Aさん(21歳 女性)
ちいさいときから、ひとを助けることがすきでした。おじいさん、おばあさんといっしょにすんでいました。ですから、利用者様の生活をサポートしたいです。
日本の生活はお金がたいへんです。生活費がだんだん高くなっています。
いま、介護施設でアルバイトしています。はじめたばかりですから、たいへんです。コミュケーション、見守り、お茶をくばる、お食事の手伝い、おしぼりをわたすなど。お風呂や、トイレはまだむずかしくてできません。見守りだけです。
介護施設はさびしいと思います。自分はながいきしたくないです。自分のことは自分でできるほうがいいです。
今、技術の勉強はたのしいです。着替え、杖をついて歩く、車いすをたすけるなど。食べることをたすけるのは、むずかしいです。
日本でずっと住みたいです。日本人とけっこんして、日本でかぞくをつくりたいですね。
6.共生社会をめざして
このインタビューからもわかるように、6人のネパール人学生たちの、「介護福祉士」へのおもいには、とうぜんのことながら、ちがいがあった。それでも、彼・彼女たちに、共通しているのは、日本で共生して生きていこうとする姿勢である。6人に共通して見られたのは、家族への想いを支えに、毎日、勉強して、「介護福祉士」をめざそうとする姿勢であった。
松山福祉専門学校の先生たちは、みんなやさしくて、親切で明るいと語っていた。この学校に入って、本当によかったと語っていた。
インタビューを終えて感じたことは、共生社会を支えていくのは、たがいをリスペクトする「思いやりの心」と、互いに向けられる「笑顔」と、たいへんなことを生きるエネルギーに変える他者の「やさしい気持ち」ではないかということである。
日本社会を支えようとして勉強に励む「介護福祉士」の道を選んだ留学生の姿勢は、私たちに、「共生社会」に生きる姿勢を教えてくれている。
インタビューに応じてくれた6人の学生のみなさん、そして、彼・彼女たちをつないでくれた松山福祉専門学校の天羽喜一校長、陳建聰さん、本当にありがとうございました。
左から、松山福祉専門学校の、天羽喜一校長、6人の学生たち、陳建聰さん
7.ネパールで発生した土石流と洪水で発せられた「真正のことば」
この論考は、7月15日締め切りのために書いたものであるが、編集の都合で締め切りが2か月延期になった。この間に、ネパールでは大きな災害があった。東京富士語学院の学生総数は9月現在264名、学生の国は9か国であり、ネパール人学生は99名、全学生の38%を占めている。そのネパール人学生の間に、動揺が広がった。土石流と洪水が起きたのは8月26日(水)であった。私はラジオのニュースで聞いていたが、そこまで大きな土石流と洪水とは想像していなかった。
午前の私の担任のクラスには、16人のネパール人学生がいる。現在、どの学生も、厳しい専門学校進学に向けて、真剣に取り組んでいる。8月27日(木)、教室に入ると、ネパール人学生たちが、目に涙を溜めて、ユーチューブの動画を見ながら、
「こんなことになった!」
「これはこどもたち!みんないっしゅんでながされた!」
「橋が3つこわれて、いえがなくなった!」
「これも、人、からだが、ちぎれている」
と、真正のことばで、語ってくれた。すさまじさに、私は言葉を失った。
「え!どうして? 雨も降っていないのに?????」
「え?これが、人なの????」
その後のニュースで、私は、ネパールと中国の国境付近で起きた大規模な土石流の主な原因が、ヒマラヤ山脈の高地における「巨大な岩盤と氷河の崩落」と、それを引き起こした「気候変動」および「山体の急激な隆起」であることを知った。発生から2週間たった9日現在、死者1300人以上、行方不明者5600人以上と伝えられている。
その時、真正のことばを語ったPさんに、2週間後の9月10日、現在の気持ちを綴ってもらった。
「ネパールは自然が豊かで、とても美しい国です。でも、自然が豊かな一方で、時々このような大きな災害が起こることがあり、本当に悲しく、つらい気持ちになります。今、私は日本に住んでいますが、遠く離れた外国からニュースを見るたびに、心がとても痛みます。
自分の国で、だれかの大切な子どもがなくなり、だれかはお父さんやお母さんを失い、家を失って帰る場所がなくなっている人もいます。そのようなニュースを見ると、『自分が今ここにいて、何もしてあげられない』という気持ちになり、とても苦しくなります。遠くに住んでいても、私にとってネパールは大切なふるさとです。
ひがいにあった方々が少しでも早く安心して生活できるようになり、これ以上悲しいことが起こらないことを心から願っています。」
AIの助けも借りながら、自分のこころのうちを、「真正のことば」にしてくれた。
そのあと、ネパール人学生たちと「みんなでがんばろう」と言って写真を撮りました。
元気に学ぶネパール人学生たち 2026年9月10日 撮影
参考・引用文献
介養協(2023(令和5)年3月)「介護福祉士国家試験に向けた留学生のための学習ハンドブック」
学校法人松山学園松山学園松山福祉専門学校(2027)「学生募集要項」
厚生労働省・援護局(2025(令和7)年)「介護福祉士養成施設卒業者に対する国家試験義務付けの経過措置について」
在ネパール日本国大使館(2025年2月)「図説 ネパール経済2025」
謝路(2026)「ネパールの若者の失業率と経済問題について」「2025年の暴動(Gen-Z抗議運動)後の状況」
独立行政法人日本学生支援機構(2026年5月)「2025(令和7)年度 外国人留学生在籍状況調査結果」
マイナビ介護職(2024年10月2日)「医療介護最新ニュース」
日本経済新聞(2026年9月9日)「ネパール・中国の土石流 最新ニュースと解説」
くらはち・じゅんこ
慶應義塾大学大学院社会学研究科教育学専攻博士課程修了。博士(教育学)。登録日本語教員、明治大学農学部准教授を経て、現在東京富士語学院副校長・教務主任、和洋女子大学、共立女子大学教壇実習主任講師、NPO法人たちかわ多文化共生センター理事、立川市多文化共生推進検討委員会委員。日本語教育学会会員。著書に『日本語の作文力練習帳 上級――大学・大学院で学ぶために』古今書院、2012年、『日本語の論文力練習帳 改訂版』古今書院、2019年、『対話で育む多文化共生入門――ちがいを楽しみ、ともに生きる社会をめざして』初版第2刷、明石書店、2020年、『「日本語教師」という仕事――多文化と対話する「ことば」を育む』明石書店、2021年、『対話による日本語教育――国家資格「登録日本語教員」をめざして』明石書店、2025年ほか。
論壇
- AIは、近未来社会をどう変えていくのかIT専門学校講師・蒲生 猛
- 近代日本は高校でどう教えられているのか元河合塾講師・川本 和彦
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- テキヤ政治家・倉持忠助の「電力問題」(下)の④フリーランスちんどん屋・ライター・大場 ひろみ
