特集 ● 混迷に"当たり前"を

トランプ、中間選挙強行突破へ

最低支持率は覚悟の上 神格化宣言も

国際問題ジャーナリスト 金子 敦郎

米国の上下両院議会議員を改選する中間選挙投票日が6週間足らずの11月3日に迫っている。中間選挙では大統領は投票の対象ではないが、政権4年の半ばを過ぎて議会選挙の形で有権者の審判を仰ぐことになる。各種の世論調査によるとトランプ氏の支持率は30%台半ばと史上最低レベル。トランプ氏は選挙ルールの改変や自らの神格化、あるいは中国トップとの首脳会談でのパーフォーマンスで、この批判を少しでもかわそうとしているかもしれない。だが、2年間にわたる「失政」をその場しのぎの人気取りで隠しきるのは難しいだろう。

苦戦が続く

トランプ氏にとっては想定外だったかもしれないが、中間選挙が近づくにつれて次々と新たな挑戦にさらされている。ドロ沼化していた対イラン戦争は7カ月目。ペルシャ湾から紅海へと戦線拡大に追い込まれ、中東石油地帯の紛争に巻き込まれて、さらなる石油価格の高騰を招いている。

関税乱用(違法判決を受けた)や力ずくの貿易戦争で物価高騰を招いても、景気は好調と自賛してきた経済でも、言いなりにしてきたFRB(連邦準備制度理事会)がトランプ氏に逆らってインフレ対策の金利引き上げに踏み切った。

歴史的な深いつながりを持つ隣国カナダに対して「米国の51番目の州」になった方がいいと嘲笑した末に、猛烈な反発・抵抗に遭ったうえ、カナダを欧州連合(EU)寄りに追いやってしまった。トランプ氏によって多くの友人国が去っていこうとしているなか、ハイライトになっている。

こうした動きはそれぞれ、「全能」と自負してきたトランプ・パワーの衰退ぶりを示している。

民主党は下院選優位と見ながらも慎重な引き締め姿勢をとってきた。だが、最近は上院も制してトランプ政権を無力化する可能性も出てきたと勢いづいていると、ワシントン・ポスト紙電子版が報じている。

不人気の原因は?

トランプ氏は支持率の低下は、民主党系の世論調査機関のでっち上げだと言ってきた。しかし、トランプ氏は共和党が中間選挙で苦戦に追い込まれているのをようやく直視、陣頭指揮に乗り出しているのだが、本人はこの事態の理由が自分の不人気にあるという認識が全くないように見えから奇妙だ。

トランプ氏は党規約にない中間選挙に備える共和党大会を招集した(9月9~10日テキサス州ダラス)。同党候補者の半分しか出席しなかったようだが、トランプ氏は中間選挙では自分に票を投じるつもりで全党員が投票に行くように要請(投票率を高める)。同選挙で上下両院の多数を維持出来たら全ての成人にトランプ経済繁栄の配当として5千ドル(約77万円)を配ると発言した。

カネに物を言わせようというのがトランプ流儀。これに喜ぶ人も少なくないかもしれないが、この配当の総額は1兆2千万ドルかかると分かっった。7カ月目に入っているイラン戦争の戦費など史上最悪の4兆ドルもの政府負債を抱えている中で、そんな大金、どこから出せるのか。選挙では許されない票の買収ではないか、などの声が上がっている。

自分を神格化

この党大会では、トランプ氏はもう一つ注目発言をしていた。ニューヨークタイムズ紙の政治・人種問題担当の常連コラムニストJ・ボウイ氏は入手したビデオをもとに次のように報じている。

トランプ氏は1日目の夜、党幹部らを集めた席で党大会招集の目的は自分を「神の子」と宣言するためだったとして、自分は神からこの地(米国の意か)に楽園をつくる任務を与えられて1946年6月14日(自分の誕生日)に生まれたと話した。

続けて出席者の右手を上げさせ、米国史上最高の大統領(最近は口癖のように自分をこう呼ぶ)への忠誠を誓わせて、中間選挙では11月3日あるいは事前投票日に必ず(党候補)に投票するよう求めたという。自分を神格化して、苦境脱出を図ろうというのだろうか。

トランプ氏は共和党の議会選候補で苦しい選挙戦になっている35人の候補者の選挙区すべてに応援演説に行くから、その日程をつくれと側近に命じたと報道されている。

当選を目指して「トランプ離れ」している候補者の地元にトランプ氏が乗り込んで「この候補者をよろしく」と演説する。どんな事態が起こるのだろうか。

トランプ革命続ける

トランプ氏は1期目目に共和党保守派中心の政権をつくったものの、思うようにやりたいことができなかったという経験から、民主党バイデン政権の4年間をはさんだ第2期政権は徹底的な「トランプ主義政権」にして、米民主主義に対するクーデター的な変革を強行してきた。

これを受けた米国民のトランプ支持率が35%前後、不支持は60%前後という評価は、実は1年前からほとんど変わっていない。トランプ氏と周辺も、次の中間選挙が厳しいものになることを覚悟して、1年前から中間選挙対策に取り掛かっていた。

中間選挙で共和党が多数を維持してきた上院と下院のどちらか一つでも、民主党に奪われると、法律や決議などの成立に必要な両議会の議決が得られなくなる。下院は調査権限も持っている。両方を民主党に奪われると、相手党の政策を阻むことはほとんどできなくなる。「クーデター」で握った「トランプの米国」を逆戻りさせるわけにはいかない。何としても中間選挙で負けることは許されないのだ。。

選挙不信煽る

トランプ氏自身が先頭に立って進めてきたこの1年の中間選挙対策は念入りだった。最近の十数年、全米レベルの選挙の得票では、民主党が共和党を上回ることが多かったが、投票に不正があったと問題になることはなく、選挙結果は信頼されてきた。しかし、トランプ氏はことあるごとに「民主党には不正投票が多い」と発言、選挙不信を広げてきた。

2020年大統領選挙はバイデン民主党候補がトランプ氏を破って当選した。しかし、トランプ氏は自分が当選したのに、バイデン陣営が投開票の不正によって大統領のポストを盗んだと、裏づけるような事実や証拠を一切示すことなく主張し続け、支持者にはこれを信じることを要求している。

嘘でも繰り返して、民主党は不正選挙の党だと思わせるためだ。裏を返せば、民主党が勝っても認めないという宣言とも受け取れる。

「合州国」の米国では、連邦政府に関わる選挙でも選挙実施の実務は州政府が担っている。トランプ氏はその選挙実施の権限を州から取り上げて連邦政府が握ろうとしたが、最高裁が認めなかった。

選挙戦の選挙区割りは4年に1回の国勢調査の結果をとり入れて区割を修正することになっているが、トランプ氏は強引に次の国勢調査を待たずに、共和党候補者が有利になるよう線引き変更を強行した。これは下院で共和党議席を8前後増やすとの見方をされている。

米国では近年は投票の3分の1が郵便投票されているが、トランプ氏は郵便投票を民主党支持者がより多く使ってきたとして、その条件を厳格化して使いづらくしようと執拗に試みたが、これも最高が認めなかった。

米軍を支配下に

最も劇的だったのは、米軍の最高幹部の総入れ替えだった。トランプ新大統領は就任と同時に、米4軍の将軍・提督数百人のほぼ全員を解任、代わって自分に忠誠を誓った将校を抜擢して新しい軍トップチームを再編成した。これには重要な背景があった。

第1次トランプ政権のとき、黒人青年が白人警官の過剰な取り締まりで窒息死した事件で、抗議デモが全国に広がり、ホワイトハウスがデモに取り囲まれた。トランプ氏は米軍に治安出動を命じた。しかし米軍トップは、米軍首脳は憲法に忠誠を誓っているが、大統領の政治的な要請には応じられないと動かなかった。トランプ氏はその報復をしたのだ。トランプ氏は自分に背いた相手には、いつか必ず報復するといわれている。.

トランプ氏は「不法移民」の摘発・国外追放をめぐって衝突が起こると、知事の指揮下にある州兵(予備役)に直接命令を下して現場に出動させた。中間選挙が暴力的衝突に転じた場合は直ちに州兵を投入する予行演習という声が出ていた。

トランプ氏は中米の麻薬マフィア退治を掲げて、中米カリブ海に米艦隊を出動させ、ベネズエラ海域を航行する船舶が麻薬を積んでいるか確認しないままに攻撃し、百人の生命を奪った末、世界最大の石油埋蔵量を持つとされるベネズエラを事実上の植民地化した。そもそもの狙いはこれだったとの見方が強い。

トランプ氏はデンマーク領グリーンランドを安全保障上、米国が領有すると公に発言、パナマ運河に対しても米国の支配権を欲しがったりと、何世紀も前の植民地争奪が支配した時代を想起させるような言動を辞さなかった。

AIスピードダウンに反対

この「トランプの世界」の一方で、世界は今、AI開発のあまりにも急速な進行で、人類がAIによって滅ぼされるのではないの恐怖がひろがり、早急に開発のスピードダウン、国際管理を求める声が噴出し、広がってきた。これに対してトランプ氏はSNSで次のように反対論を投稿した(いずれも毎日新聞掲載のワシントン発共同電から)。

「AIが世界を乗っ取るというのは、地球温暖化と同じように嘘だ」
「AIやデータセンターは、石油や金、ダイヤモンド、インターネットも超える素晴らしい経済発展をもたらす」
  (以下は別の投稿)
「AIやデータセンターを標的にした病的な陰謀説があるが、喜んでいるのは中国だけだ」

トランプ氏のこの主張は、中間選挙の投票がせまっている米有権者のほとんどは、トランプならこういうだろうと受け取っていると思う。

この中間選挙は支持率がいかに低かろうが、トランプ氏には岩盤支持層の「MAGA」(トランプ氏の基本スローガン「米国を再び偉大な国に」の頭文字)と呼ばれる勢力を鼓舞して強行突破を図る道しかないのが現実である。

その結果はどうなるのか。予測は困難だがどんなことでも起こり得ると思っているしかないだろう。(9月22日記)

かねこ・あつお

東京大学文学部卒。共同通信サイゴン支局長、ワシントン支局長、国際局長、常務理事歴任。大阪国際大学教授・学長を務める。専攻は米国外交、国際関係論、メディア論。著書に『国際報道最前線』(リベルタ出版)、『世界を不幸にする原爆カード』(明石書店)、『核と反核の70年―恐怖と幻影のゲームの終焉』(リベルタ出版、2015.8)など。現在、カンボジア教育支援基金会長。

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