特集 ● 混迷に"当たり前"を
高市積極財政は日米対立を生み出す
まずは日本を若者の暮らしやすい仕組みの国に
慶応大学名誉教授 金子 勝 さんに聞く
トランプ・高市の暴走の根本がどこにあるか、金子勝さんに伺いました。・・・編集部
国内の高市政権も大きな問題をさらしていますが、大括りにして世界の軍事インフレ路線とでも言うか、そういう中でトータルに日本の問題を捉え、批判しないといけないと思います。世界がカタストロフに向かっている感じがします。
今起こっているのは石油危機
特にアメリカのトランプ政権の引き起こしたイラン戦争が終わらない、あるいは長期化することが明らかになってきた。トランプの任期中に終わるかどうかわかりません。6月16日に2か月の期限で14項目の覚書を交わしたものの、結局何の進展もないままに終わった。ホルムズ海峡の問題が解決しないだけでなく、中東全域に広がって中東戦争になりかけている。イラン側はホルムズ海峡の封鎖をやり、アメリカはまだホルムズ海峡を通していると情報を流すけれど、実際にどのくらい通過しているか全く見えない。かつての程度まで戻っているとはとても思えないので、相当きつい。
もうひとつは、親イラン勢力のフーシ派を怒らせた。ハメネイの葬儀から帰ってくるイエメンの空港を空爆して、逆にイエメンのフーシ派がそれを口実にサウジ南部の都市を攻撃したり、サウジの米軍基地を攻撃する。港湾都市のモカを制圧して、ペリム島も制圧したので、紅海ルートも通りづらくなった。
サウジのパイプラインのポンプの部分をかなりイランからのドローン兵器で壊しちゃったということで、石油の供給はかなり減ってきて、WTI(West Texas Intermediate アメリカ産原油)も1バレル100ドルを超えて105ドルまでいって、北海ブレントが110ドルまで1回いっている。
日本、韓国、シンガポールなどは、アメリカ産石油を調達していますが、アメリカの戦略石油備蓄の量がどんどん減り続けている。9月半ばで3億バレルを割って、2億5000万くらいまで落ち込んでいる。さらに9月末にはディーゼル燃料価格が最高値を更新したために、4000万バレルを放出しています。かつての石油ショックの時は7700万バレルほどに落ち込んでいたので、まだ余裕があるとは言え、備蓄が減って、価格が相当上がっている。アメリカでは、ディーゼルに使う軽油がが1ガロン6ドルになり、9月初め時点でガソリンが4ドルを越えて、これは相当厳しい。
はっきりしているのは、ウクライナ戦争でヨーロッパが軍事インフレ路線・軍事ケインズ主義の路線に入り始めて、ドイツやフランスも財政赤字を大量に出し始めた。元々コロナで財政拡大と金融緩和はすごかったが、それに輪をかけてウクライナ侵攻からイランへ攻撃へと続いて、世界中で財政赤字が猛烈に拡大し始めているという問題が実は浮上している。
MMT(現代貨幣理論)は、国債は資産だとか言ってどんどん貨幣を発行できればいいなどと言うが、そんな話ではなくて、世界中で公的債務(国債残高)が膨らんでいく中で、長期金利が異様に上がり出している。ひょっとすると、財政破綻の危険も迫ってきているかもしれないというのが今の状況だと思います。
トランプ路線の破綻、支持率の低下
アメリカのトランプの「力の支配」路線は破綻をしつつあって、もちろんイラン戦争の拡大が最大の失敗だが、関税も国内の司法の壁に何度も当たっていて、うまくいっていない。トランプ支持率もどんどん下がっている。
今のこの石油ショックで、2つのアキレス腱が表に出てきている。1つは化石燃料依存路線。トランプはパリ協定を離脱して化石燃料依存でやってきたが、イラン戦争が拡大・長期化するにつれて、戦略石油備蓄が猛烈に減りだして、ガソリン価格が上がってトランプの支持率が落ちるという問題。一方、これは物価も引き上げるので、物価上昇とともに長期金利を上昇させて財政危機を進めて、これがもう1つのアキレス腱になってきているわけです。
コロナの前で、アメリカの政府債務残高が30兆ドル台だったのが、2026年の8月に40兆ドルを超えてしまった。これは計算の仕方にもよるが、例えば40兆×155円とすれば、6200兆円です。ちょっと笑えるような大きな金額です。毎年の利払い費が1兆ドルになる。日本では1200兆円近くの長期債務で国債の利払い費が17兆円弱(1000憶ドル)になると大騒ぎしているけれど、アメリカはその比ではないというのが大勢です。
結局、イラン戦争で戦費を6兆円使って、追加の政府支出を11兆円求めているけれど、実際イラン戦争に対する支持が低いので、議会でなかなか通らない。大規模攻撃で兵器がなくなっているというのはよくわからないものの、明らかに財政がないから大規模作戦ができないのははっきりしてきている。
問題はこのインフレ状況の中での日本です。トランプに対する信任が国際的にはほとんどなくなっている。その1番の象徴が、カナダのカーニー首相。自分たちと同じ関税を取れと言われて、国家主権を譲り渡すとしてトランプの関税政策を拒否して、お互いに50%の関税を掛け合うという事態になっているわけです。日本と韓国ぐらいです、言うことを聞いているのは。
だから高市の抱きつき外交は世界の真ん中で恥をさらしているわけですが、自己矛盾を抱えている。なぜかと言うと、アメリカ国債は、もう中国もインドもブラジルも売っちゃっているのです。代わりに金に換えたりしているのが金価格の上昇の原因の1つです。一方アメリカ国債を最大に買っているのは日本とイギリスなんです。同時に、日本のアベノミクス以降の超低金利の金融緩和マネーは、円キャリートレードを通じてアメリカ国債に流れている。日本がアメリカを支えているのに、高市はトランプと仲良しだと言いながら、それを壊し始めている。日米関係はかつてないほど深刻な矛盾を抱えている。
孤立する日本:世界の真ん中で恥さらし
9月22日の日米首脳会談を行って国連総会で演説し、同月24日の米中首脳会談が行われたが、日本外交の孤立ぶりを際立たせた。高市首相は国連総会の演説で、第2次世界大戦の敗戦国を対象とした国連憲章の「旧敵国条項」の削除に言及した。事実上、死文化していた「旧敵国条項」を蒸し返したのですが、やぶ蛇になった。2日後の米中首脳会談で、トランプ大統領は中国を「第2次大戦中の同盟国」だったと言い、習近平国家主席は日本を念頭に「米中はファシストと肩を並べて戦って勝利した」と同調した。高市首相は完全にハシゴを外されたのです。高市首相は昨秋の就任会見で「世界の真ん中で咲き誇る日本外交を」と宣言したが、「世界の真ん中で孤立する日本外交」になってしまったのです。
なぜこのような事態に陥ったのか。それは、高市首相が外交をまったく考えず、ネトウヨ化する自民党員たちの受けを狙った内向き発言を国際的な舞台で繰り返しているからです。しかも、それが米中両国の「虎の尾」を踏む結果になっている。なぜ中国が怒るかといえば、従来の日本の政府見解の枠を飛び越えた高市の「台湾有事」発言が原因です。安倍元首相でさえ言わなかった「存立危機事態」に言及したのだから、中国は黙認できるはずもない。高市はネトウヨの「弱腰」批判を恐れて発言を撤回できず、今に至ったわけです。
一方でトランプに抱きつき、米海軍空母の艦上でピョンピョンと飛び跳ね、「ノーベル平和賞に推薦する」とおべんちゃらを言い、「強固な日米同盟」を強調すれば、国内向けのアピールになると思っているのだろうが、完全に間違っています。トランプ政権の「虎の尾」は経済政策です。インフレなのに積極財政に突っ込んでいき、円や国債が下落したため、円安防止のために為替介入をしたが、外為特会の外貨建資産を見ると、なんと27兆円分もの米国債を事実上、売ってしまった。その結果、米国の長期金利は上昇(国債価格は下落)を続けている。その原因の1つのは、為替介入で米国債を売り、財源なきインフレ増税狙いの積極財政で円と国債を売る日本です。
米国はイラン戦争で財政が危機的な状況にあり、金利上昇で「AIバブル」がはじけかねないため、トランプは国債価格の下落を嫌がっている。ベッセント財務長官も怒り、高市政権に積極財政をやめるよう公然と批判した。なのに、高市は内向けにインフレ増税頼みの積極財政を続けているのです。
要するに、高市政権はトランプの虎の尾を踏みながら同盟関係だと言い、習近平国家主席の虎の尾を踏みながら、門戸を開いていると言う。内向きのアピールを優先し、自らの政策の間違いを認められないのです。もはや喜劇です。
インフレを促進する高市積極財政の矛盾
高市政権の政策の根本的問題は、インフレなのにインフレをさらに促進する「積極財政」をやっていることにある。産業も衰退して、貿易赤字もひどい。日銀の国債引受けが520兆円もまだ残っていて、当座預金も410兆円になっている。このアベノミクスの失敗の重しで、日銀は金融政策の柔軟性を失っている状態なので、「積極財政」をやるたびに、円と国債の売りが発生する。
そのため、円安を防ぐために為替介入をした。ところが、前述したように、外国為替資金特別会計を開示している中身を見ると、今年の1月から8月末まで、27兆円くらいのアメリカ国債が減っています。今、残高が8396億ドルで、5月の連休中に12兆円弱売ったわけです。688億ドル減っています。
7月末はレポファシリティ――アメリカ国債を担保にFRBから借りるというアメリカ奴隷路線――はさすがに選ばなかった。アメリカ国債を担保に借りて介入していくと永遠に返せなくなり、もう完全にアメリカ支配になるので、リバースレポファシリティというのを使ったらしい。つまり、アメリカ国債の償還した分とその利息をFRBに預金として貯めて、それを使って介入したらしい。だけど、結果的にはアメリカ国債に再投資していないのでアメリカ国債を売ったのと同然になります。
中国やインドが売っているのは4兆円程度の規模ですが、日本は27兆円も減らして、べらぼうな金額を売った。その結果、介入のたびにアメリカ長期国債の値段が下がって、長期金利が上がることになった。5月の時も5%を超えて、7月31日も5.377ぐらいまで上がって、ベッセントが慌てて「バイバック」と言い、アメリカ国債を日本財務省が買い戻すというわけのわからない政策をやった。
それでも全く効果なく、結局ホルムズ海峡が厳しくなって、石油価格が1バレル100ドルを超えると大幅インフレになり、長期国債の値段が落ちて長期金利が上がるというので、慌ててバイバックを3倍に増やすと言ったけれども、何の効果もなかった。だからベッセントのやっていることは全部失敗しています。しかも、米中首脳会談での米中接近にともなって、ベッセントが打ち出したイラン制裁は全く無効になりました。中国はイランから石油を買い続ける。イラン戦争は止まらないとわかる中、アメリカは戦略的石油備蓄を4000万バレル放出するものの、30年債の利回りが5.2%だったのが、10月初めまでに5.6%を超えるまで急上昇しています。
1月19日に高市が食品税率ゼロを財源の裏付けなしに言って、長期国債が投げ売りになった。で、ベッセントは「これやばいな」と思ったんでしょう、ファンドが日本を狙い撃ちにし始めてると。元々ベッセントはジョージ・ソロスのクォンタム・ファンドにいて、イギリスポンドの空売りをやった1人です。自分で危ないと思って、ドルを売るわけにいかないので、レートチェックをやった。レートチェック、つまりFRBとかニューヨーク連銀が為替介入をやるための準備として為替取引料を調べたりしていますという情報を流したわけです。それで、1ドル158円くらいから152円台になった。それで落ち着いたかに思ったけれど、2ヶ月ぐらいしたら元に戻ったというのが本当のところです。
この間、5月の連休の前後に日本が12兆円の介入をした。ベッセント米財務長官は5月19日、20日に日本と韓国に来て、日本では片山さつきを怒鳴りつけて怒ったと思うんですね、米国の長期金利が上がったので。だから、ベッセントは7月末にレポファシリティをやれと言ったと思うのです。さすがに5月の「お詫び」で日本はそれをやると思っていたのでしょう。でも、そのためには米国債を担保にFRBから借りる。ただ、借りても一時的な効果だから、またやる。でも、もう返せないですよね。返すときには、円からドルに換えるのでまた円安になるので、永遠に返せない。
前述のように、そのアメリカの奴隷になる路線は、さすがに選ばなかった。そしてリバースレポファシリティを使ったわけです。でも、結果的には、米国債が下がって長期金利が上がることになった。この状態でバイバック(財務省が期近物の国債を買い戻す政策)もうまくいかなくなると、ベッセントは、高市政権のリフレーション政策をやめろとG20の時、公然と言ったわけです。高市周辺は「あれはデマだ」とか言っていますが、もう明確に映像も出ていて、さすがにバレちゃった。
要するに、ベッセントは高市積極財政なんかやめてくれ、消費税減税もやめてくれと。このままでは円安になり、かつ日本国債の値が下がり、長期金利が上がる。すると、元々の円安の問題では為替介入をまたやらなきゃならなくなって、また米国債売りをやられたらたまったもんじゃない。さらに積極財政で長期金利が上がると国債の値が下がって、円キャリートレードが逆流して、結局アメリカ国債の金利も上がっていく――そんな矛盾が表に出てきているので、ベッセントは苛立って、公然とリフレ政策をやめろと言ったわけです。
それでも高市はやめる気がなくて、143兆円の概算要求を決めてしまった。今度は、去年の122兆円の本予算に補正予算を加えた金額なので、「実はあの積極財政は拡張予算ではないんです」と言い始める。「嘘だろ、お前!」と言いたいですね。「責任ある積極財政」で拡張するはずが、ベッセントに怒鳴られて、そんな拡張ではないとは言いながら、実は143兆円で済むとは思えない。
なぜなら、防衛省の事項要求(具体的金額を決めない予算要求)がまだ残っているし、安保三文書改訂で防衛省の予算拡大をやる可能性もある。消費税減税も財源がないから、もうこれで収まるとは思えない。しかも、為替介入をやって米国債の償還金などを使うと、外為特会の利益剰余金がなくなっていく。この利益剰余金をネタに防衛費を伸ばしたり消費税減税をやろうと思っていたのが、それができなくなってくるので、赤字国債依存が変わらないで、さらに石油ショックでインフレになってアメリカ国債の長期金利が上がってくると、また米国債を売って為替介入をするのも難しく、結局9月の頭に行われたのはまた口先介入のレートチェックだった。
しばらく1ドル153円まで円高になったものの、今もう157円台後半に戻っている。日米ともに財政危機の中で無理な膨張予算を組むという結果、非常に危ない橋を渡りながら、ベッセントは協調介入やバイバックやイラン経済制裁など様々な手段を打ち出したけれど、ほとんどその言うことは効果がない。それが今の状態でしょう。
トランプ・高市・古謝のフェイクファシズム
それ以上に、これがどこかで破裂するのではないかと思うのは、トランプも高市も、それから沖縄県知事になった古謝玄太、みんな嘘つきです。一般に向けて全く根拠のない大ぼらを吹き続ける。例えばトランプは、選挙で勝ったら成人1人当たり5000ドルのトランプ配当金を配るとか言って、公然たる有権者買収です。それは総額180兆円にもなるので非現実的です。極めて危うい状況です。
一方高市首相は、何の財源もなく食料品消費税減税を言い、毎年10兆円を超える「成長投資」を言う。防衛費の事項要求も財源がないし、消費税減税も同じ。剰余金を使った後は、猛烈なインフレ増税をやるしかない。だから、今目指しているのはインフレ路線、インフレによって長期債務の対GDP比を減らす路線だと言って間違いないと思います。
沖縄の県知事選はそのミニチュア版だった。私がフェイクファシズムと言っているように、東京発のショート動画やSNSを通じて、徹底したデニー個人攻撃をやる。高市の「中傷動画」と同じ手法。なおかつこの古謝玄太は「10年間で県民所得倍増」と言う。「中小企業にAIを活用」などと空想を言っているだけ。実際には年7%成長しないと10年間で倍にならないわけで、結局超インフレ路線しかない。ほとんど普通の人は生きていけなくなってしまうでしょう。トランプ、高市、古謝は、全てインフレで解決する方向に向かっているのは間違いないと思います。
インフレ課税というのは、元々ケインズが言うには、インフレが進めば金融資産が目減りする一方、過去の財政赤字は固定額で、分母の名目GDPが膨らむために、見かけだけ長期債務残高が対GDP比で減っていくことです。で、こういう詐欺的な手法を繰り返していくとやがて長期金利が上がって雪だるま式に財政難になっていく。
日本では、2025年は名目GDPの伸びが4.5%で、実質GDPが1.2%伸びた。つまり3.3%もギャップがあるわけ。これはインフレ分にあたります。それで、9兆円の自然増収があり、かつ外為特会が円安のために利益剰余金が5兆円ほど出てきた。たぶん高市は同じことをやりたいのでしょうが、バカなインフレ増税では庶民が生活できなくなるというのが今起きていることです。
ファンドの動向に左右される世界経済
なぜ国債がこんなに金融マーケットを揺るがしているかには背景があります。ギリシャ、イタリアの国家財政危機を契機にして、国際決済銀行が国債のリスク評価を取り入れたんです。すると、今までは銀行や政府が絶対的な安全資産として持っていた国債を持たなくなってきた。その代わりに、新型コロナなどの金融緩和や財政赤字で膨らんだファンドが国債の半分ぐらいを持つようになっています。
大きなファンドでブラックロックというのがあります。その資金量は2026年6月末で15兆ドル、2400兆円で、世界最大。こういうところが国債を大量に持っている。彼らはともかく利益を確保しなくてはならないので、金利の変化などで異常に動いて、危機が起きる可能性が非常に高い。なおかつ問題なのは、このブラックロックが解約制限を言い出していると報じられています。破綻寸前じゃないかとまで思われます。ブラックロックはAIなどにも大きく投資しているし、国債にも投資しているので、AIバブルの崩壊にでもなったら世界中が大変なことになる。
そこでAI。すごく進歩が激しいけれど、もともと倫理やディープランニングを自動的にやれるプロトコルを持ってはいない。製作者が入らねばそれができないのに、巨大なデータで競い合って擬人化して人間であるかのように見せているだけ。しかもAIバブルで巨大なデータセンター、先端的半導体、高給取りのプログラマーなど巨額の投資を必要としているが、それに見合う収益を上げられないでいる。アンソロピックの収益も8割がコーディングです。要するにプログラミングを自動化することで収益を上げるしかない。ところが、コーディングをAIで自動化させて暴走すると、AIが自分でチェックするのは無理。その結果、コントロールがつかなくなってきて、暴走問題が起きている。だから架空のことを真実であるかのように描くハルシネーションも深刻な問題だ。
一方で、崩壊の兆候が見えるのは、半導体の値段がべらぼうに上がっていること。これがコストを押し上げるだけではなく、こんな異常な値段の高さを見ると、山が高ければ谷も深くなると考えるべきでしょう。メタとかオラクルなど、どちらかというと収益を確保できていない者も、無理して競争にくっついてきたものの、データセンターを分離してリースに出したりしています。毎年何十兆円という巨大な投資をしているけれど、いつまでたっても汎用の人工知能なんかできないわけです。
ここにイラン戦争がらみで金利が上がっていくと、ビッグテックと言われるGAFAMなどは社債が発行できなくなったり、ファンドがこのAI過剰投資で首を絞められたりということが起きた場合、最悪のシナリオになってしまう可能性が少しずつ見えてきているというのが今の状況でしょう。
取るべき日本の針路は若い人が暮らせる仕組み
ここで逆に日本がやるべきこと、少なくとも経済財政政策でやるべきことを考えましょう。高市政権がこの債務国家の危機に向かって突っ込んで行くのを止めなければならない。
ところが、野党が雲散霧消した状態です。私はしっかりアジェンダを作れと、ずっと言ってきましたが、できなかった。永田町の数の論理でくっついたら、中道は皇室典範改訂に公明党が賛成しちゃうわ、辺野古も賛成しちゃうわで、グシャグシャ。結局野党が解体してしまった。中立派、右派的、保守派、それから左派的な人、色々な人が一緒にいたけれど、ばらけた状態になったので、もう1回自分たちが何をするか、アイデンティティをはっきりさせていく作業を急ぐべきです。その上で、同時に共同戦線を作っていくことが必要です。
野党第1党の議席を確保するために数合わせで「統一」しても意味がないことがよく分かったはずです。古い民主党政権をやっていた人たちにはもう退場してもらって、共同戦線をどうやって構築するかを考えるべきでしょう。その時は軍事インフレ路線に対する対抗案を出していかないとだめです。例えば、難しい話じゃなくて、防衛費を過剰に大きく見積もって大規模予算を作るのではなく、また裏金や政治献金を出している古臭い企業を潤すプロジェクトに大胆にメスを入れて、それを国民のために使っていく。そういうプログラムをしっかり作っていくことが重要だと思います。
その時に参考になるのは、ニューヨークのマブダニ市長のやったことだと思います。アメリカの「民主社会主義」はヨーロッパの社会民主主義に近いと思いますが、ニューヨークで働いているエッセンシャルワーカーに一生懸命聞き取りをして、例えば夜間に働いてる看護師さんとか、スーパーマーケットの店員とか、そういう人たちの声を聞いて、4つの項目「公営スーパーの設置」「保育料の無料化」「市営バスの無料化」「家賃上昇の凍結」に集約した。これは若い世代の生活の1番困っているところです。
東京23区で見ると、単身者用30平米でも、26年8月には前月比0.2%高の11万4339円、前年同月比では10%超える値上がりでした。家賃が高すぎて普通の人は住めない。まして持とうとすると、23区の新築マンションが2億円を超えています。結局郊外に住む。千葉、神奈川とか埼玉に住むと、家賃は半分でも通勤距離が長い。おまけに、例えば千葉の柏で、保育料が7万円、年間で84万円です。2人子供がいると第2子が半額でも100万円超える。これでは子育てはできない。一方東京都だと保育園はただなわけ。どちらも条件的には変わらなくなる。そういう深刻な問題が表に出てきています。東京西部の自治体が給食費を無償化したら、自民党の首長もすぐに追随したりして、切実な要求があるんだと思います。
だから東京だけが人口が増え、しかしその出生率は1を割るのは、理由がよくわかる。家賃引上げの上限規制とか家賃補助とか、公営住宅の拡大とか、マンションの空き室税や短期転売に対する重課が必要です。都市近郊自治体の保育料補助や給食無償化も不可欠です。もちろん子育て世代における会社の働き方を柔軟にすることも必要です。
地方都市を見ても、人口が減って空き家だらけ、高齢女性が単身で住んでいるところは結構多い。都市の周辺だけに量販店やレストランがあるので買物難民ができる。だから、トラムを作ったり、コミュニティバスを走らせて、定期券を安くして、みんなで支援していく。ウォーカブルシティと言われるように、街づくりにも環境にも合わせていきながら、どうやって生きていけるかということが重要なポイントになってくると思うんですね。
軍事インフレ路線はマクロ的な政策の間違いだと基本的に言いながら、同時に生活基盤をちゃんと作る具体的な政策、特に若い世代の要求をしっかり汲み取る政策で対抗していく。少なくともこの沖縄に見られたような大政翼賛会的な状況を跳ね返していかないと、この国の民主主義も経済もほとんど破綻するしかないので、それを防ぐための努力をみんなでやっていくべきだろうと思います。
例えば都市で自分たちの家の屋根に太陽光パネルを置き、蓄電池やゲートウェイを共同購入で安く買って電気代を安くするような電気自給化に対する補助政策が考えられます。マクロ政策に対抗する生活周りの政策をしっかり作って、訴えていくことがとても大事だと思います。そういう意味では、この非常にひどい政治経済状況が生まれたけど、逆に1からやり直すことによって危機を跳ね返していくきっかけにしていくしかないのかなと考えています。
加工貿易構造を根本的に変える
そう考えると、今後世界が分断された状態になった時、アメリカべったりの日本は行き場がない。中国とこんなに敵対していると生きていけないでしょう。当面、韓国、台湾、東南アジアあたりと密接な連携を結びながら、交渉できる枠組みを自分たちで構築していくことが、非常に重要になってくる。そういう政策も含めて、高市政権の軍事インフレ路線に対抗する時に、外交、とりわけアメリカが次に何をするかを考えながら動いていかないととても対応できない点を付け加えておきます。
もっと言うと、加工貿易構造を根本的に変えていくべきです。なぜ円安インフレが庶民を打撃するかというと、主流の経済学は期待でインフレが起きるなどという実態を無視した議論をしていますが、実際はみんな供給ショック、エネルギーと食料の輸入でインフレになっているのは明白です。要するに日本の製造業が輸出をして稼いだ外貨でエネルギーと食料を買ってきて、結果としてエネルギーと食料の自給率が非常に低くなった。その結果、ウクライナ侵攻やイラン戦争でショックが起きた時に、輸入依存度が高いから、一気にインフレになっていく。
しかも重化学工業がダメになって経済が弱って、さらにアベノミクスによって日銀が大量の国債を抱えて金融政策の柔軟性を失って、円安が止まらず、世界最弱通貨と言われるような状況まで落ちでしまった。円安になればなるほど自給率の低いエネルギーと食料の値段が上がって、庶民は苦しくなり、値段が上がれば上がるほど貿易赤字がひどくなり、貿易赤字がひどくなればまた円安の要因になる。
この悪循環構造を断ち切るには、農業者や林業の人がどんどん減っている状態を、直接支払いなどをし、農家の経営安定をやりながら、減反政策をやめて自由に作らせる。「令和の米騒動」の反省はそうあるべきです。そのために政府は情報を次々出していく。例えば安全との関係でトレーサビリティを徹底すれば情報がすごく入ってくる。どこが目詰まりしているかわかるわけだから、そういうことを新しい政府の役割としてやっていく。
さっき言ったように、ガソリン補助金なんかに9兆円以上使うんだったら、全ての自宅に補助金を出して、全部屋根をパネルにしたら電気代はタダになる。そうすると献金を出してくれる電力会社を苦しめるからやらないわけでしょうが、庶民は助かるわけです。
改めて、今は変革のチャンスでもあると、肝に銘じてほしいと思います。
かねこ・まさる
1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。慶應義塾大学経済学部教授を経て、同大学名誉教授。立教大学大学院特任教授の後、2023~25年に淑徳大学大学院客員教授。専門は、制度経済学、財政学、地方財政論。著作に『金子勝の食から立て直す旅』(岩波書店)、『閉塞経済』(ちくま新書)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『新興衰退国ニッポン』(共著、現代プレミアブック)、『「脱原発」成長論』(筑摩書房)、『資本主義の克服「共有論」で社会を変える』(集英社新書)、『日本病―長期衰退のダイナミクス』(岩波新書・児玉龍彦との共著)、『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『メガリスク時代の「日本再生」戦略』(ちくま選書・飯田哲也との共著)、『人を救えない国』(朝日新書)、『現代カタストロフ論』(岩波新書・児玉龍彦との共著)、『高校生からわかる日本経済』(かもがわ出版)、『裏金国家』(朝日新書)、『フェイクファシズム』(講談社)など多数。
特集/混迷に"当たり前"を
- 「中道」の解体、再出発のために多様な地域から始める元立憲民主党代表・枝野 幸男
- 高市積極財政は日米対立を生み出す慶応大学名誉教授・金子 勝
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