コラム/ある視角

欧州―極右・右派ポピュリストの動向

ヨーロッパ各国政治の現況をみるー2021年上半期

龍谷大学教授 松尾 秀哉

2021年ももう半分を過ぎた。ここまで結局のところどの国も新型コロナ対策に追われてきた。いったん小康状態になった国でさえ再び変異株の感染拡大がみられる。こうしたなかで、それでもいくつかの国では選挙がもたれ、政治に動きがみられた。本誌本号の福澤報告で述べられるだろう。ドイツの動向がもちろん最大の注目点だが、ここではドイツを除いて、2021年上半期のヨーロッパ政治を総括してみよう。もちろん焦点は極右や右派ポピュリスト政党の動向である(ここでは煩雑さを避けるため、何が極右で、何が右派ポピュリストかなどの定義には触れないでおきたい)。

2019年欧州議会選挙で伸び悩んだ右派

前提として、実は2019年の欧州議会選挙では、欧州保守改革グループ、自由と民主主義の欧州、国家と自由の欧州という極右・欧州懐疑派3党は、事前に予想されていたほどの票を得ることがなく、25%程度にとどまった。他方で従来の二大会派、中道右派の欧州人民党と中道左派の社会民主進歩同盟が過半数を割りこむ一方で、いわゆる親EU派とされる欧州自由民主連盟(現欧州刷新)が議席を伸ばした。つまり親EU派が議会の多数派であることを見せつけることになった。

この選挙以降、少なくとも極右や右派ポピュリストと呼ばれる政党の勢いや存在意義は――おそらくその後のアメリカ大統領選挙の結果にも影響されて――小さくなったと見ていいだろうか。そして残るその牙城はハンガリーとポーランドの二国だけであると見ていいか。この半年の各国の状況を振り返りたい。

南欧――虎視眈々と狙う極右勢力

南欧ではポルトガルとイタリアで動きがみられた。1月24日に実施された大統領選では、コロナ禍での低投票率において、現職で中道右派のマルセロ・セベロ・デ・ソウザが60%を超える高い得票率で再選された。ただしポルトガルにおける大統領は、議会解散権など一定の影響力を及ぼしうるが、実際は首相が政治の中心である。

その首相を輩出する与党社会党のゴメス候補は13%の得票率で終わり、逆に極右の保守党、ベントゥーラ党首が11.9%と2位に肉薄するほど躍進した。今後コロナ禍や経済の動向次第で、今回躍進した勢いが加速する可能性もある。

特徴的なのは、イタリアである。1月26日に連立与党内の対立をきっかけにして、コンテ首相が辞任を発表し、新政権の組閣をドラギ(前欧州中央銀行総裁)に依頼した。

そもそもイタリアでは、2018年3月の選挙で急進左派の五つ星運動が大勝し、右派ポピュリストの同盟と連立政権を成立させたが、19年8月に同盟が離脱した。その後中道左派政党と第二次政権を形成したが、今度はイタリア・ビバが離脱し、結局コンテ首相が辞任した。

こうしたなかで成立したドラギ内閣は、極右イタリアの同胞を除く主要政党のほぼすべてが参加し議会占有率が80%を超えるという、挙国一致内閣の性格を有する。すなわち妥協の産物としての新政権ともいえ、不安定感はぬぐいきれない。五つ星運動や同盟の動向いかんでは、早期の総選挙もありえる。

そもそも大統領の任命による、つまり民主的手続きを経ていない首相の誕生は、イタリアにおける政党政治、つまり民主政治の機能不全の顕れと指摘されることも多い。第一党の五つ星運動自体が既成政党や代議制を否定している状況だ。前欧州中央銀行総裁の手腕にかかる期待が大きいだけに、コロナ対応の失敗や不正があれば、政権に参加していない極右政党が、反動的に一気に支持を獲得する可能性があるかもしれない。

西欧――既成政党の力の「そぎ落とし」

3月にはオランダで下院選挙が行われた。この選挙はいわくつきで、ルッテ内閣は2021年1月に、育児手当を不当返還させていたことが発覚して総辞職し、暫定内閣になっていた。この時点で政権の支持率は30%台と低迷していたが、3月に行われた選挙ではその自由民主国民党が20%を超える得票率を確保し、34議席を確保し第一党を守った。反対に第2党だった右派ポピュリスト政党の自由党は議席を減らし17議席と第3党に落ちた。ただし、これで右派ポピュリストが終わったと考えるのは時期尚早で、コロナ陰謀論を謳う人種主義的な党首の民主主義フォーラム(6議席増)、そこから生まれた新党を合わせれば28議席となり、総議席(150)のなかで無視できない勢力であり続けている。さらに連立政権の組み方次第では、一層の影響力を有するだろう。

肝心のその後の連立協議が、政治空白を作るべきではないはずのコロナ禍であるにもかかわらず、連立与党だったキリスト教民主アピール(4議席減)、社会党(5議席減)が政権参加に消極的で協議が長引いている。背景には、長期政権となっている(また育児手当の問題などを引き起こしている)リュテ政権に対する不信感があると言われる。政治不信は、反エリート的言説を用いる右派ポピュリストの格好の「餌」である。それが蔓延していれば、右派ポピュリストは現状批判を繰り返し、一定の議席数を獲得し続ける。そうなれば連立協議は難航する(6月末日時点で、まだ新連立政権の誕生は耳にしない)し、たとえそれを含まない連立政権が成立したとしても、与党の政権基盤をぜい弱にして政権運営に影響を及ぼしうる。

同様に、6月に選挙が行われたフランスだが、ルペン率いる国民連合は伸び悩んだ。6月20日に第1回投票でプロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏を除き伸び悩んだ。そのプロバンス・アルプ・コートダジュール地域圏にしても、6月27日に行われた決選投票では、前回(2015年)の半分強という低い投票率のなかで共和党出身の現職議長に大敗した。また伝統的に支持層が多いとされるオー・ド・フランス地域圏でも第1回投票で現職の保守ベルトラン議長に差をつけられ、決選投票でも大敗した。

ただしこの結果から「極右の時代の終わり」を宣言するのはまだ早い。地方に強い支持基盤のないマクロン大統領の与党、共和国前進が国民連合を下回って、予想以上の不振に終わった。むしろ注目はこのベルトランで、次期大統領選においてマクロン、ルペンと並ぶ候補と自らを位置付けている。低い投票率が示す政治不信のなかで、今度はベルトランが国民連合に対する批判票の受け皿になる可能性を示している。つまり、国民連合に対する批判や失望は、マクロン与党に向かないのだ。その意味で国民連合は、マクロンの力をそぎ落とす一定の影響力を残しているとも映る。

オランダとフランスの状況からは、特に極右・右派ポピュリスト自身は支持を落としていても、与党や連立パートナー候補の票を奪い、結果的に選択肢を狭めるなど、与党の支持基盤をそぎ落とし、政治を不安定化させている要因となっていることがわかる。

北欧――キャスティング・ボートを握る極右

北欧では、スウェーデンに特徴的な動きが見られた。6月21日に野党が提出した不信任案が賛成多数で可決され、28日に社会民主労働党のロベーン首相が辞意を表明し、次期政権発足まで暫定政権を維持することになった。不信任決議によって政権が退陣したのはスウェーデンでは初めてのことである。

原因は当時の政府が提出した、賃貸住宅不足を解消するためのアパートの家賃上限撤廃計画が、アパート家賃の高騰を招くと不評を買い、閣外協力していた左翼党が離反し、その機に排外主義を掲げる極右政党であるスウェーデン民主党が不信任案を提出したことによる。

コロナ禍ゆえ、また残り任期一年のため解散総選挙が選択されなかったが、結局中道右派と極右も組閣できず混乱し、結局7月に入ってロベーン首相がギリギリの票数で続投が決まった。極右は政権交渉のキャスティング・ボートを握っているように映る。同時にスウェーデンの政党政治は、不信任による政権交代という新しい局面に入ったようでもある。

 

以上のように、実は、まだまだヨーロッパにおいて、右派ポピュリストや極右といわれる勢力は無視できない。特に連立形成を余儀なくされるヨーロッパ諸国においては、自らが政権に加わらなくとも、政権形成を左右する力をもつといえる。コロナ禍ゆえ、感染が拡大すれば与党に対する批判票の受け皿となりやすく、人びとの不満と不安を餌にして虎視眈々と次を狙っているようにも映る。長期化するコロナ禍のなかで、自由を制限される有権者が何を求めているのか、熟慮が必要だ。

まつお・ひでや

1965年愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、東邦ガス(株)、(株)東海メディカルプロダクツ勤務を経て、2007年、東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了。聖学院大学政治経済学部准教授、北海学園大学法学部教授を経て2018年4月より龍谷大学法学部教授。専門は比較政治、西欧政治史。著書に『ヨーロッパ現代史 』(ちくま新書)、『物語 ベルギーの歴史』(中公新書)など。 

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