編集委員会から

編集後記(第33号・2023年新春号)

いつか来た道、非戦を捨て戦争国家へ突き進む日本──企業の雇用責任は死語になったのか

▶ コロナにウクライナ侵略、暗澹たる想いの中で2023年を迎えた。310万人もの人の命が喪われた敗戦体験を胸に曲りなりに戦後77年間、非戦国家として日本はあった。それがどうだ! 閣議決定などというインチキで大幅な防衛費増(心ある自衛隊幹部OBも、何に使うんや、と呆れているとか)。そして間違いなく“戦争のできる国”、“他国と戦争をする国”への道である「先制攻撃・敵基地攻撃能力の保有」論が闊歩している。その旗を振っているのが岸田である。自民党宏池会の「軽武装、経済重視」の伝統はどこへ行ったのかとメディアにも批判されている。アベの悪霊に祟られているかのようである。

どう考えても日本が戦争・他国侵略国家としてあった戦前への回帰としか言えないのではないか。軍部の独走と言われるがそうか。まさに大政翼賛会に見られるように政党もメディアも国民も雪崩を打つかのように戦争・侵略国家への道を支持し突き進んだのだ。メディアも国民もその責任は重い。今の日本もそれに極めて似てきていると思えてならない。自民党はじめ政党の劣化も進行中だ。特に自民党にみられる保守リベラル派の衰退は深刻。野党の非力しかりだ。しかしそれを作り出しているのは国民・我われであることの自覚が必要だろう、そして巷から声を上げ、行動し、選挙も真面目にやるしかないではないか。戦争国家を子供や孫に残していいはずがない。

それにしてもテレビの情報・報道番組なるものを視ていると出てくるのは防衛研究所の研究者や自衛隊幹部OB、そして御用学者(ちょっと失礼だが)が、まあほとんどと思いませんか(言い過ぎか?)。真剣に危惧するのは、軍事オタクや平和ボケしたタカ派、権力への忖度派の御用学者の行き着く先は、“日本を護るためには、やはり核武装が必要”ではないのか。よくよくの監視が必要であるのは言をまたない。いや、その前にテレビ屋のみなさんに一言、“もうちょっと考えて番組つくって”と言いたい。

他国のことを言えたものではないが、世界の大国“アメリカはどうなるのか”、誰しも思うところである。毎号ご苦労をおかけしている金子敦郎さんに今号で、「米国中間選挙の衝撃波と混迷―共和党に亀裂・保守過激派が下院支配・・・」を論じて頂いた。また昨今、アメリカにならい中国の悪口を言っていれば済むような風潮であるが、久しぶりに登場願った叶芳和さんは、「米中分断論の虚実に迫る―米ビジネス界は中国進出で稼いでいる。経済安保論は虚構の議論の上に成り立っている?」と深く鋭い提起。是非熟読をお願い。

▶ 本号の特集テーマは「どこへ行く“労働者保護”」とし、いくつかの角度から論考を収録した。発端はイーロン・マスクによるツイッターの買収と労働者の大量解雇であった。アメリカなどもともとそういう国で驚かないが、日本で先に触れた情報・報道番組で多くの論者が、“そういうことをできないから日本の経済がダメになっている”と。ふざけるなである、こんな暴論がまかり通っているのが今の日本。間違いなく戦後それなりにあった労働者保護法制や政策が解体の危機に瀕している。それにしても想う、“企業の雇用責任との言葉はもう死語か”と。長く労働運動に関わった者として事の深刻さを想わざるを得ない。その昔、京都で急成長する企業のオーナーの弁、“労働基準法など守っていて企業経営ができるか”と豪語していたのは有名。働く労働者への“収奪”と企業買収で大きくなった今では有名企業。あ、この企業は京セラではない(京セラはもう少し知恵を絞って×××していた)。京都の飲み屋でその企業の従業員の愚痴をよく聞き、あの会社にだけは子供を入れるな、と酒飲み話になったものだ。

この間、労働問題で鋭い問題提起を頂いた巻頭の早川行雄さんは、「新自由主義的な人への投資から、労働の尊厳回復への転換が急務」と提起。また外国人労働者問題に長く取り組む小山正樹さんは、「人権侵害の労働現場をなくせ」と、もう人権問題ではないのかと、その深刻な実態を告発する。とても生活できない日本の法定最低賃金。その安い最低賃金に多くの勤労者の賃金が引きずられ賃上げの足かせにすらなっている。

統一教会問題で前号の仲正昌樹さんの「統一教会 問題は日本社会にとって何なのか」は大きな反響を頂いたが、本号では統一教会問題に長く取り組んでられた有田芳生さんに登場願った。有田さんはどう語ったか・・・乞う熟読を。(矢代 俊三)

▶ 自民党参議院議員の丸川珠代が民主党政権時代に国会で放ったヤジ「愚か者めが」「このくだらん選択をしたばか者ども」が話題になっている。民主党が所得制限なしの子ども支援を掲げたことで民主党を「愚か者」と罵ったわけだが、10年以上たって自民党が政策を転換したことで、そのヤジが自分に返ってきた。もはや「愚か者」はどちらか、明白だ。

「愚か者」政治家がずいぶん増えたように思うのはいつ頃からか。選挙が小選挙区制度が変えられてから政治家の質が大きく変わったのではないか。それも劣化という方向で(とどのつまりは政治の劣化を招いている)。党の公認が優先されるようになり、勝てそうだからという理由で二世、三世や有名人や極端な主張をする人物がたいした苦労もなくセンセーになってしまう。小選挙区制導入に積極的だった政治家や文化人は、今、どう思っているのだろうか。社会党代表が衆議院議長だったときに小選挙区制が導入されたわけだが、この制度で社会党が崩壊するとは考えなかったのだろうか。この国は「愚か者」の天国になりつつあるような気がしてならない。(黒田 貴史)

 

▶ 労働組合運動に関わってきたが、今や「労働者保護」なる言葉は死語になったのかと思う。資本に対して労働者は弱いという、当たり前のことが忘れ去られて、強い者が個人で闘い抜き生き残るのだという新自由主義が蔓延している。そして弱い労働者は「これが普通の世の中」と我慢することに慣れているかのようだ。団結すること、労資は集団的関係であることの意義を改めてどう広げるか、労働組合も厳しく難しい壁に直面している。

▶ 本号で石橋さんが述べているように、今や国会でも労働問題に関心のある議員が減っているようだ。この世界は人が働くことによって成り立っているのに、その労働者が忘れられている。政府や経団連はそれに乗じて、労働時間や最低賃金などの労働における規制を、緩和どころか撤廃するかのような政策を矢継ぎ早に出してきている。伊藤論文はそれを丁寧に説明し、今春闘での闘いを呼びかけている。読者の皆さんには、まずは現状を知っていただきたい。

▶ そして、本来国会で議論して法律を改めてから実施すべきことが、法律はそのままにして、大臣告示や省令の改訂で行なわれる事態が出来している。伊藤さんが指摘する裁量労働制問題や飯田さんが批判する労災保険制度における「使用者側の不服申立て」制度がそれだ。安倍政治が解釈変更で集団的自衛権を容認したことや、最近の岸田の閣議決定による「敵基地攻撃能力」の保有など、少なくとも国会における議論が必要なことを、それを無視して政権が勝手に行なうというやり口が、労働法制にも及んでいるのである。労働政策審議会における「三者構成」が形骸化していることもある。民主主義が壊れてしまって「大政翼賛会」がすぐそこにきているかのようだ。労働組合としてもこの危機をはね返す運動に取り組みたい。(大野 隆)

季刊『現代の理論』[vol.33]2023年新春号
  (デジタル33号―通刊62号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2023年2月8日(水)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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