論壇

NPO法人猪飼野セッパラム文庫

みんなの居場所・まちの人権図書館

朝鮮/韓国/在日を知ろう――猪飼野から世界へ⇔世界から猪飼野へ

NPO法人猪飼野セッパラム文庫代表理事 藤井 幸之助

猪飼野セッパラム文庫の玄関前。1925年創業(2018年廃業)の写真館の1階をお借りしている。

古代の大阪は、上町断層による上町台地と生駒断層による生駒山地を除き、ほとんどが海でした。その後、長い時間をかけ、大阪の北と南を流れる旧淀川と旧大和川が土砂を運び、徐々に大阪平野になっていきました。そこに船に乗って朝鮮半島からの渡来人(特に百済から)も多くやってきました。中世には朝鮮通信使も行き来しました。

大阪歴史博物館の位置 クリックで拡大

大阪築港に停泊する「第二君が代丸」(右側中央)。1930年頃の絵葉書(文庫所蔵)

1934年の地図。猪飼野の表記が見られる。 クリックで拡大

近代以降は、1923年、植民地下のチェヂュと大阪をつなぐ定期航路「君が代丸」の就航により、多くの済州人が大阪へ移住してきました。そのため、現在もこの地域は済州島出身者が多く暮らします。地区を南北に流れ、たびたび氾濫を起こす平野川(百済川とも)の改修工事(1930年前後)にも多くの朝鮮人労働者が従事しました。

猪飼野いかいの」は戦前戦後と、東成区・生野区にまたがった地域の地名で、植民地期から在日朝鮮人の集住地域として知られました。しかし、日本人住民の陳情により、1973年に町名改正で、地名としてはなくなりました。

また、1980年代から90年代にかけてこの付近には「猪飼野朝鮮図書資料室」「学林図書室」「青丘文化ホール」「カラ文化情報センター」など、朝鮮/韓国/在日に関する類縁機関がありました。しかし、残念なことに、様々な事情でなくなってしまいました(現在も開館中の大阪市立生野図書館「韓国朝鮮図書コーナー」は充実しています。また、2023年4月には大阪コリアタウンに待望の大阪コリアタウン歴史資料館がオープンしました)。

当文庫のはじまりは、コリアン・マイノリティ研究会の拠点として、筆者の自宅のある大阪市東淀川区淡路の古民家を借りて、2010 年春に開設した「陰陽連絡線セッパラム文庫」でした。5 年間運営したのち、「猪飼野セッパラム文庫」(セッパラム 샛바람 とは朝鮮語で「」を意味し、「新しい風」の意味も)と改称し、2015 年 5 月に古代からの陸地=上町台地の東の端にある天王寺区細工谷に移転しました。キャッチフレーズは“これからの、これまでの図書資料を100年残すために!” 2021年秋にNPO法人格を取得し、その後、手狭になったこともあり、2023年3月に念願の生野区新今里へ移転しました。

平日でも観光客の絶えない大阪コリアタウン(旧御幸通商店街)。年間200万人が訪れるという。

生野区は総人口12万6093人中、外国人は60ヶ国以上で、2万8104人(朝鮮・韓国1万8865人、ベトナム3188人、中国3153人、ミャンマー273人、台湾225人、フィリピン218人、インドネシア161人、スリランカ145人、バングラデシュ105人(以上100名以上)2023年9月末日現在)となっています。文庫のある新今里はもはやコリアタウンというよりも、アジアタウンになりつつあります。

当文庫では図書資料の閲覧・貸出しだけでなく、毎月の「コリアン・マイノリティ研究会」月例研究会・「映像で見る朝鮮/韓国/在日」上映会の他、写真展・講演会・「猪飼野フィールドトリップ」などを開催しています。大学生・大学院生・研究者の論文作成に対する支援も行っています。

天王寺区細工谷時代の文庫の前で道行く人を見守り続ける「飛び出しトンム」ちゃん(作:ソン・ジュンナン)。

「平和の少女像/平和の碑」の作者金運成(キムウンソン)さん(左)・金龧炅(キムソギョン)さん(中央)がレプリカを持って、訪問してくださった(2018年)。

猪飼野の詩人宗秋月(そうしゅうげつ)の研究をするアメリカ人留学生の報告(2020年1月25日)。海外からの問い合わせも増えてきた。

「猪飼野セッパラム文庫」開館5周年(「陰陽連絡線セッパラム文庫」開館10周年)記念!「韓国・朝鮮人元BC級戦犯者」パネル展示・トーク・上映(2020年9月20日~22日)東成区民センター。

東アジア反日武装戦線『狼をさがして』日本公開記念映像作家キムミレがまなざす<現実(リアル)>@聖フランシスコ会「ふるさとの家」釜ヶ崎(2021年3月21日)オンラインで韓国の監督とつないで、討論もおこなった。

オンラインで韓国とつないで「映像作家イギル・ボラがまなざす〈現実(リアル)〉―生の輝きを見つめ、戦争の暴力を問う―」(2022年3月20日)

伊藤孝司写真展「平壌の人びと」(2022年2月)。9日間で900人近くの方々に鑑賞いただいた。

長年交流してきた台湾・東海大学日本語言文化学系の大学院生(中央)・教員(両側)のみなさんが訪問(2023年6月)。

関東大震災から3年後の1926年に、三重県木本町で朝鮮人労働者李基允(イギュン)さん・裵相度(ペサンド)さん2人の虐殺事件が起こった。追悼集会のためのバスツアーを企画した(2023年4月29日・30日)。

第2回総会後、文庫奥の日本庭園で七輪焼肉の楽しいひと時(2023年6月4日)。

念願の生野区でリニューアルオープン

ケセランぱさらんパラダイスショー&渡部八太夫。この後、リニューアルオープンのチラシを持って新今里を練り歩いた。

ちすん&すだっちのライブを聴く参加者のみなさん。地元出身の故ホンヨンウンさんの今里商店街を歌った「ダンボールの町」も披露してくださった。

昨年2023年3月に、「猪飼野セッパラム文庫」は13年目にして、念願の生野区新今里に移転し、9月下旬にリニューアルオープンしました。それを記念して「ケセランぱさらん音曲パラダイスショー&渡部八太夫」(23日)・「ちすん&すだっち」(24日)をお招きして、2日間オープニングイベントを企画しました。

遠くは関東の埼玉県から、近くは同じ町内から、連日数十人のみなさんに来ていただきました。当日朝の『朝日新聞』大阪府内版を見て、お電話もたくさんありました。お花・お祝いもいただきました。

生野区猪飼野出身のシャンソン歌手の今里哲(鄭哲/정철/チョンチョル)さんからは、ご来館のみなさんへのプレゼントとして、CDも届きました。ケセランぱさらんのテジョンさん手作りマッコルリ/막걸리の振る舞い酒もありました。宋実成さん(「題名のない講演会」弁士、在野研究者)の蔵書解説も現物を示しながらわかりやすく解説してくださいました。

玄関前で「飛び出しトンムちゃん」がお迎え。

細工谷で雨ざらしのため右足の靴の先が欠けた「飛び出しトンム」ちゃん。作者ソン・ジュンナンさんは7人姉妹の4番目を連れてきてくれて、バトンタッチしてくれました(??写真参照)。

全国各地の類縁機関のみなさん(大阪コリアタウン歴史資料館・加納実紀代資料室サゴリ・記録作家林えいだい記念ありらん文庫・神戸コリア教育文化センター・在日韓人歴史資料館・青丘文庫・ネットワーク・市民アーカイブ(館名:市民アーカイブ多摩)・文化センター・アリラン・龍谷大学社会科学研究所付属安重根東洋平和研究センター[50音順])からも暖かいメッセージを頂戴しました。大変励みになります。

完成した天井まで届く書架に本の配架をおこなっている(2023年7月)。

コリアン・マイノリティ研究会の様子(2023年9月30日)。

昨年は夏から冬にかけてUCLA・スタンフォード大学・セントルイスワシントン大学・シカゴ大学など、アメリカの大学院博士課程で学ぶ韓国人・日本人・中国人・アメリカ人の留学生がひっきりなしに訪ねて来てくれました。いずれも研究テーマは大阪における在日朝鮮人コミュニティについてです。

可能な限りのレファレンスに取り組んでいます。どんな問合せが来るか、いつもドキドキです。人と図書資料の出会いの場、人と人の出会いの場となりつつあります。

いまだに植民地主義的思考が抜けない日本人・日本社会の中で、まずは若い人たちと朝鮮/韓国/在日を知るところから始めていきたいと思います。地元密着の上、世界規模での活動を展開していきます

裏庭での七輪焼肉が定例化しつつある。店に行くよりもはるかに安くつくのもいいところ。

文庫の奥には日本庭園があります。写真館時代のものです。研究会などが終わった後はここで七輪焼肉などで懇親会を開いています。

庭にはこれまでにムクゲ・ホタルブクロ・フジバカマ・キキョウ・エゴマ・チシャなどを植えて、朝日善隣友好庭園に改造すべく、あれこれ手を入れているところです。今後は山ツツジ・レンギョウなども植えていきたいと思います。

喫緊の課題はは図書館としての最低限の機能を整えることです。司書資格を持つメンバーが細工谷時代にすでに3000冊近くを入力してくれています。

収まりきらない大量の図書資料・チラシ・冊子の整理・目録作りなど、お手伝いくださる方々(楽しい作業・苦しい作業、さまざまなお仕事があります)を募集中です。

●京阪神の民族学校に本を贈ろう!
    ――ウリチェクプロジェクト「プリセミ」

猪飼野セッパラム文庫では、京阪神にある民族学校(朝鮮学校・韓国学校・インターナショナルスクール)に、朝鮮/韓国/在日に限らず、小中高校生に読んでほしい本を贈る活動を2023年度から開始。

プリセミ(プリキップンナム(根深き木)・セミキップンムル(泉深き水))とは? 15世紀に朝鮮王朝第4代王の世宗セジョンの命により作られた『訓民正音フンミンヂョンウム』(1443)の試行本として編まれた『龍飛御天歌ヨンビオッチョンガ』(1447)の冒頭に
뿌리 깊은 나무는 아니 움직이니 꽃 좋고 열매 많나니/根深き木は風に動かぬから花が良くて実が多い
샘이 깊은 물은 가뭄에 그치지 아니하니 내를 이뤄 바다에 가나니/泉深き水は日照りに止まず川を成して海に行く
というフレーズがあります。そこからとりました(“ウリチェックプロジェクト”は私たちの本プロジェクトの意)。カンパもよろしくお願いします。

NPO法人 猪飼野セッパラム文庫  ☯이카이노 샛바람문고☯

●蔵書案内 どなたでもご利用いただけます。
所蔵資料(日本語・朝鮮語・漢語)書籍・雑誌・チラシ・パンフレット・テープ・CD・DVD・ビデオ(未整理のもの多数)・民族団体・民族学校・運動団体関連資料・行政外国人施策関連資料・民族まつり/マダン関連資料・モノ。●調査相談(レファレンス)サービス:朝鮮/韓国/在日についての図書資料の相談。●関連論文・卒論・修論・博論の収集。●チラシ・パンフレット収集・目録作成・データベース化。●「猪飼野アクセスマップ」(『季刊Sai』vol.3,1992年掲載)の改訂作業。●各種講座・催しの開催:コリアン・マイノリティ研究会月例研究会・「映像で見る朝鮮/韓国/在日」上映会・猪飼野ゼミナール・ワークショップ・猪飼野フィールドトリップ・マルマダン/ことばの広場(朝鮮語=韓国語・日本語・手話ほか)・講師派遣。●チョゴリ(男女・子ども用)試着。●書籍委託販売・古本販売・グッズ販売。●関連情報「朝鮮/韓国/在日・これからの催し」毎週月・木2回配信。●ニューズレター『セッパラム!』(季刊)発行。

 

■開館:土日11:00~18:00 来館前にご連絡ください。これ以外のご利用も対応可。
■入館無料
■〒544-0001 大阪市生野区新今里2-9-16 もと辻本写真館1階
【アクセス】近鉄奈良線・大阪線「今里駅」から5分・地下鉄「今里駅」から10分、新今里公園北側。
大阪コリアタウンから徒歩15分。
■HP https://sepparam-bunko.jimdofree.com/
 Blog https://ameblo.jp/ikaino-sepparam/
 ☎090-9882-1663 masipon2023@gmail.com

「猪飼野セッパラム文庫」はみなさんからの会費とカンパで運営しています。
ご協力お願いします。

【会員登録】 年会費:正会員6000円・賛助会員3000円・図書貸し出し会員1000円
 ★小中高校・大学生は無料!大歓迎!
 特典:貸出:会員限定。何冊でも可能な冊数・期間1ケ月/関連事業参加費の割引/「これからの催し」配信・ニューズレター『セッパラム!』送付。
【郵便振替】NPO法人猪飼野セッパラム文庫 00960-5-235693
【ゆうちょ銀行】〇九九(ゼロキュウキュウ)店(099)当座0235693

ふじい・こうのすけ

1961年生まれ。NPO法人猪飼野セッパラム文庫代表理事・コリアン・マイノリティ研究会世話人・多言語化現象研究会運営委員。大阪外国語大学朝鮮語学科卒業・同大学院修士課程修了。中華人民共和国吉林省延辺朝鮮族自治州延辺大学日語系外籍教師(1989-1991)。以降、京阪神の大学で朝鮮語=韓国語・在日朝鮮人論などを教える。猪飼野朝鮮図書資料室運営委員(1983—1988)・国立民族学博物館特別展「多みんぞく二ホン」実行委員(2002-2004)・「在日コリアン歴史資料館(仮称)(現、在日韓人歴史資料館)」設立準備会委員(2003-2005)。共編著に『ある在日コリアン家族の物語―つないで、手と心と思い―絵と物語で読む在日100年史』(2009、アットワークス)・『グローバル朝鮮語-朝鮮を学び、朝鮮に学ぶ-』(1996、くろしお出版)・『全国自治体在日外国人教育方針・指針集成』(1995、明石書店)。

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