編集部から

編集後記

――混迷する世界、我々はどこに立っているのか

●混迷する世界をどう読むのか、我々は歴史のどこに立っているのかを自問せざるを得ない状況が続く。直近では、朝鮮半島情勢の緊迫―一触即発の危機などと日本の新聞・テレビは煽りまくった。果たしてそうかの冷静な声はあったが、何をやるか分からないトランプと対抗する金正恩の存在は緊迫感を煽るには十分な存在であった。本誌本号も当初は5月1日メーデーの日の発信を予定していたが、朝鮮半島情勢やフランス大統領選、韓国大統領選の動向判断もあり発行・発信を少し遅らせました。ご理解ください。結果、朝鮮半島情勢は、トランプが“金正恩と会ってもよい”と言いだし、さしもの日本メディアや御用評論家も手のひらを返したように沈静化。自分らの報道や発言を総括せよと言いたくなる。フランスでもルペン大統領はとりあえずは阻止されたが、問われたものは何か課題は大きい。ポピュリズムとは、排外主義とナショナリズム、何よりも深刻な格差と貧困にあえぐ労働者を代弁する政治の不在。もとよりアメリカ、日本も同じである。

●混迷する世界をどう読むか。総論で世界や日本を語れる論客が少なくなっているが、今号で数少ない論客である金子勝さんに登場願った。金子さんは、“危機だからこそ世界は変えられる”と。グローバリズムの行き詰まりと極右の台頭の意味は、アベノミクスの行き詰まりと政権の腐敗。可能性はどこにあるかを、大いに語ってもらった。長文になったが“金子節”をじっくりと読み込んでいただきたい。

 それにしても北―米―日―韓の情勢の緊迫とは何であったのか。一言言っておかねばならないのは、政府やマスコミのまくら言葉で常とう語になった“北朝鮮の挑発”、果たしてそうか。どちらが挑発しているのか。冷静に考えれば、超大国―アメリカの挑発ではないのか。訳の分からないトランプ、本号で金子敦朗さんが分析する政権の体をなしていないトランプ政権、その暴発が危機ではなかったのか。その昔、アメリカに追随するのが日本の国益ですよと公言してはばからなかった外務省OBを思い出す。“体制を認めよ”の一点である金正恩の方がよほど冷静な駆け引きをしていたのか。日本政府・マスコミの喧騒とはよそに、“ソウルは至って平穏”との西村秀樹さんの「ソウル発」。それにしても日本の新聞・テレビの劣化、知性・教養の貧困は深刻である。安保環境の緊迫を煽れば視聴率が取れるの一点しかないのか。それは新聞が戦争を煽った戦前の翼賛報道と生き写しだ。マスコミ人の良心が問われている。

●今国会最大の焦点となっている”共謀罪“。テロ対策と名付ければ世論調査の結果が異なる代物。大臣が”一般市民には適用されない“と答弁、副大臣が”一般市民にも適用される“と答弁するなど、もう無茶苦茶だが、強行突破するとのアベの露骨な姿勢。そして憲法改正の日程への決意も語った。この共謀罪、どう考えても「現代の治安維持法」「言論弾圧法」だが、先日ジャーナリスト有志14人(岸井成格、田原総一郎、大谷昭宏、青木理氏ら)が「内面の自由、プライバシーを踏みにじる道具になり、言論の自由、表現の自由、報道の自由を著しく破壊する」と声明を発し反対表明をしたが、マスコミ界の多数とはなっていない。本号の「抗う人」に登場した共謀罪に反対する元北海道警幹部の原田宏二さんは、この法律は一般市民を対象とする点だと鋭く指摘。 「公安警察にとって、一般市民というのは政府のやることに反対しない人びとのことなの」と本質を突く。共謀罪では、共謀罪NO!実行委員会の弁護士・海渡 雄一さんの発信を掲載した。(矢代 俊三)

●安倍政権は「働き方改革」を目玉にしている。今号で小林さんの指摘するように、非正規労働者などに賃上げを期待できるとの声が大きいという。しかし、実際の「同一労働同一賃金ガイドライン」は「ベテランパートタイマーAが同じ職場の若手正社員Bに仕事を教えたとしても、AとBは職務の内容、責任の程度、転勤の有無など、元々の労働契約内容に差があり、そこに合理的理由が認められるから、Aの賃金がBより低くてもよい」といった類のことを多く例示して、結局は格差の存在を容認するガイドラインになっている。

●長時間労働規制についても、残業月100時間「未満」の特例を認めるなど、とても規制とは言えない。現行の「過労死基準」を容認するとは、「過労死合法化」と言われて当然だ。過労死遺族の会などのこれまでの運動・闘いを何と考えているのだろうか。休日の残業についても規制は及ばない。しかし、労働政策審議会の議論では、連合選出の委員が、これを「画期的だ」と言って、高く評価している。

●今号のインタビューで金子勝さんも指摘しているが、もう連合は労働組合ではないと言われても仕方がないのではないかと思う。連合は神津会長が榊原経団連会長・安倍首相と合意したから「画期的」と言うのだろうが、それは自らの立場をさらにないがしろにするものだ。実際、政労使3者構成の議論を外そうと、労働政策審議会の組織も改変されそうなのだが、それ以前に連合は自ら土俵を降りているようだ。どうみても労働者・労働組合を代表しているとは思えない連合があちこちで「代表」であるかのように振る舞う悪しき仕組みを何とかすることも重要だと思う。(大野 隆)

季刊『現代の理論』2017春号[vol.12]

2017年5月10日発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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