特集 ● 混濁の状況を見る視角

いよいよ怪しくなった維新の“成長戦略”

万博とIR・カジノが行き詰まり、政府に泣きつく維新/議員の資質問われる不祥事―パワハラ・脱法行為次々

大阪市立大学元特任准教授 水野 博達

今回は、少し笑える話から始めてみたい。大阪府の高齢者向けに提供する生成AIサービスの愉快な「回答」の紹介からである。

「万博、中止になってしもた!」-生成AIが答えました 

「朝日新聞」は、10月25日夕刊で大きく報道した。大阪府が高齢者向けに提供する生成AIサービスが、「大阪・関西万博は中止になったの?」と聞くと、「せやで、残念ながら中止になってしもたんや。大阪のみんなが楽しみにしてたのになあ」と答えたという。

この「生成AI大ちゃん」の回答に慌てた大阪府は、17日には、生成AIサービスの「内容は正確性及び最新性などを保証するものではありません」と強調し始め、吉村知事は、「大ちゃん(チャットのサービスで話す犬の名前)は『10歳の話すわんちゃん』という設定。正確性は走りながら担保していく」と、機能の向上に努めると報道陣に述べたことも併せて報道している。 

生成AIチャットの「回答」が、いい加減で不正確なものであることは、今や周知の事実である。AIが収集し、学んだ情報・知識は、世間に流布する多種多様、雑多なもので、取り込んだ雑多な情報から「回答」が生成される。世間に流布している話の「ネタ」の内、より確からしい答えを統計的な計算で生成する。だから、AIの回答は、世間に流布されている正誤を問わず偏見や誤情報を含めた多数の意見・風潮が反映される。例えば、Yahoo!ニュース(2023/9/12)の「みんなの意見」である。「大阪・関西万博に行きたいですか?」の問いに、「行きたい」が25%、「行きたくない」が66%であった、という情報もAIに取り込まれていたであろう。

要するに、この生成AI・大ちゃんは、この間のマスコミを含めた万博をめぐる多種多様な意見・情報から「万博は中止」という「回答」を導き出したのである。いわば、世間の多数(=世論)は、「万博中止」であると認識したことを示している。まさに、維新が好む「民意」を正しく反映したのである。

  

さて、大阪・関西万博は、153ヵ国・地域が参加し、2025年4月13日~10月13日の半年間、大阪湾の埋め立て地・夢洲を会場に開催が計画されている。政府も、大阪府・大阪市、万博協会も「延期はない。予定通り開催」としている。

しかし、実際に、大阪・関西万博の準備状況をみれば、AI・大ちゃんの答えは、あながち間違いだとは言えない。開催まで、1年半しかない。でも準備は遅々と進んでいない。

「万博の華」と言われる海外パビリオンの建設が見通せない。当初60ヵ国による計56施設(北欧5か国は共同で一つの施設)が見込まれていたが、建設業界の人手不足や資材高騰等で、工事契約が進んでいない。参加国が自前で建てるパビリオンは、20ヵ国については最終的に目途が立つと言われているが、それも成約ができている訳ではなく、希望的観測である。工期の短縮のため万博協会が提案した箱型のプレハブ工法に対しても明確な意思表示をしていない国が多く、30か国以上の国では、パビリオンの形態や契約条件が固まっていない。結局、どのタイプのパビリオンかを問わず建設をあきらめる国が多数出そうで、会場には空き地が生まれる。空き地には「木でも植えればいい」などと言われているという。

政府や財界の後押しで年内に多数のパビリオン建設の契約が成立したとして、短期間でそれらの建設が出来上がるかという疑問が当然残る。

パビリオンなどの工期を短縮し、建設を促進するために、物流と観光の動線を分離する「夢洲北高架橋」(夢洲幹線道路の北に高架橋)の工期を短縮して2024年9月末に完成させることにした。また、建設資材置き場や工事現場事務所、駐車場に夢洲の市有地を提供することなども9月27日に府と市で取りまとめた。だが、これくらいの対策で遅れに遅れている各種建築物が期日までに完成するとは、常識では考えられない。頑張っても「夢洲北高架橋」の完成は、開催の半年前である。

人手は足りない、資材も足りない、時間も足りない、金もない・・・と無いない尽くしである。やっぱり、生成AI・大ちゃんの答えは、「中止になってしもた」しかないのが現実なのである。

夢洲は大混乱!二つのイベント近接で

本誌33号―大阪の「維新政治」を再考する(その2)で、筆者は、万博とIR・カジノに代表される「イベント資本主義」の問題についてすでに論じてきた。ここでは、夢洲での万博とIR・カジノ計画のでたらめさについて少し触れておくことにする。

夢洲万博の大きな弱点は、そのアクセスにある。1日に最大およそ30万人が来場すると見込まれる。大阪湾に浮かぶ人工島・夢洲までの主なアクセス手段は、コスモススクエアから「夢洲駅」まで延伸する大阪メトロ中央線、JRゆめ咲線「桜島駅」からのシャトルバス、淀川左岸線を通る主要ターミナル駅からのシャトルバスの3つとされているが、実はルートは、大阪メトロ中央線を延伸する地下鉄を通す南港からの「夢咲トンネル」と、シャトルバスや自家用車などを通す舞洲からの「夢舞大橋」の二つだけである。しかも、夢洲の東側には、コンテナー基地があり、大量の物流がある。観光と物流の動線分離のため夢洲幹線道路(4車線から6車線に拡幅)に高架橋を建設して交通の停滞を解消するという。また、万博会場への入場時間を指定したチケットの販売や駐車場の予約などで来場者のピークを緩やかにする「需要平準化策」と、鉄道の運行本数を3~5割増やし、シャトルバスを9路線設定するなどの「供給拡大策」の2本柱でスムーズなアクセスを目指す対策が立てられている。

物流を夜間~早朝に押し込めることができても「需要平準化策」と「供給拡大策」の二つが上手く噛み合うという保証はない。例えば、何らかのアクシデントがあれば、チケットの指定時刻に会場にたどり着けない多数の人が生まれることも起こる。二つの対策のタイムスケジュールがタイトで余裕がない結果でもある。さらに、地震・津波や悪天候、事故などで交通機関が止まったり、道路が塞がったりすれば、たちまちこの対策は、崩壊する。

10月19日に大阪市役所を訪れたデミトリ・ケルケンツエス博覧会国際事務局長は、建設工事の進捗状況については、「今までの万博で経験した問題とそう変わらない」と楽観論を述べたが、会場となる夢洲へのスムーズな交通手段の確保を大阪府・市に求めたという。

この事務局長の楽観論は、開会期日に間に合わなくて工事をしているパビリオンやモニュメントなどがあっても構わないことを暗に、「今までの万博で経験した問題」だと示唆しているのである。しかし、会場へのアクセスの確保については、しっかり念を押している。

問題は、万博とIR・カジノの開業が時間的・空間的に近接して重なることだ。2020年には、IR・カジノの開業時期を2029年秋~冬ごろとしていたが、実施協定では、「2030年秋ごろ」にずれ込むこととなった。IR・カジノの水道や電気、現場の仮囲いなどの準備工事を2024年夏ごろ開始し、2025年春ころから施設の本体工事に着手し、30年夏ころにはIR・カジノの工事を終えるとしている。 

万博の工事が佳境に入る2024年夏ごろにIR・カジノの準備工事を始め、万博の開催に合わせたように2025年春から施設の本体工事に着手する計画だ。IR・カジノの準備工事は、万博工事の邪魔になり、万博が開催される隣で、IR・カジノの本体工事を進めることになる。

ただでさえタイトな万博開催のアクセス環境は、IR・カジノの本体工事で混乱させられることになることは必至で、周辺道路での大規模な渋滞や鉄道の混雑が発生し、市民生活や社会経済活動にも大きな影響が出る可能性も生まれるであろう。

政府に泣きついた維新の吉村知事

4月の統一地方選挙が終わってみると、すでに述べてきたように、万博の準備は進んでおらず、このままでは2025年4月の開催も危ぶまれることが明らかになってきた。

参加国のパビリオン建設が、工事契約すら進んでいないこと、建設業界は人手不足が深刻で、資材高騰もあり万博の工事参加に積極的ではないこと、建設費などの上ぶれが大きく膨らんだ増額分の負担の調整が迫られること、そして、遅れに遅れている建設工事をどう進めるか、解決すべき課題は難問揃いである。万博開催の言い出しっぺの大阪維新には、山積する難題を解決する力はない。結局、万博協会と一緒に岸田政権に泣きつくしか打開の道はなかった。

パビリオン建設を希望してきた参加各国の「様子見」の状態が続いている中で、建設業界の疑心暗鬼と工事代金の支払いが滞るなどへの不安を解消するため、経産省は、政府全額出資の建設業者向け「万博貿易保険」を創設することを8月初旬に発表した。しかし、10月末時点でも、万博貿易保険創設の効果が上がる兆しは見えていない。

難問解決の苦肉の策の一つとして、諸々の工事を開設に間に合わせるために2024年4月から建設業にも適用となる残業時間の上限規制を万博工事では「例外」にする奇策である。万博協会あたりからでた策であるが、これには、建設業界も政府もNo!と、突き放している。

また、難問は、建設費など大きく膨らんだ増加分の負担である。当初の建設費は、1250億円であったが、2020年に1850億円に増額。さらに今年、資材費、人件費の高騰で450億円多い2300億円超の見積もりとなり、当初予算の1.8倍に積みあがっている。運営費も当初の800億円から、数百億円増えるとみられている。

建設費は、国、大阪府市、経済界で3当分して賄うことが閣議決定されているが、大阪市の来年度予算の収支が338億円の赤字となる見通しもあり、増額分の負担は、大阪府市にとっても厳しい。なんとか上ぶれ分は国に負担してほしいと府市は考えているが、閣議決定もありすんなりいきそうにもない。経産省は、建設費・運営費とは別枠で、万博警備を国が負担することにし、国が過分な負担を強いられることを回避しようとしている。予算の上ぶれ分の負担の調整は、今後も難題であり続けそうである。

大阪府市は、万博開催への危機的状況突破の道を万博協会と一緒に政府に泣きつくことで探ろうとした。8月31日、岸田首相は首相官邸に関係閣僚を集め、大阪府知事、万博協会会長戸倉経団連会長らを前にして、政府が前面に出て支援に乗り出すことを表明した。遅れを取り戻すために、財務省や経産省局長クラスの職員を万博協会へ派遣する方針も示した。万博協会の総裁でもある岸田首相が、危機回避に乗り出すのが遅れたのは、万博とIR・カジノの計画は、もともと安倍・菅政権が維新・松井代表らとつるんで推進してきたものであると認識していたからでもあるとも言われている。

それはそれとして、20%台に支持率が低下していることもあって、何でも取り込む岸田首相と巨大イベント事業の万博準備に失敗した維新が、一蓮托生の関係となった。今後、岸田内閣が、本当に責任をもって事に当たれるかどうか、お互いに事業の進まない責任をなすり合うことにならないか、野次馬根性に火が付きそうだ。

万博/IR・カジノが維新政治の『重荷』に

さて、大阪・関西万博とIR・カジノの準備状況は、維新政治にとっていかなる意味を持つか?

今はもうお蔵入り状態になっている「維新八策」と重ねて見ると、橋下と松井が描いた維新の「未来図」は以下である。

①「大阪都構想」で大阪府・市の一体化。その上に
②大阪・関西万博、IR・カジノの実現・成功。その波及力で
③「関西経済圏」を束ねる政党として維新の会の成長。そして
④日本の統治機構を「道州制」へ組み替える。

このような単線的な発展の戦略構想であった。

第一スッテプの「大阪都構想」は、2度の住民投票で敗北。その敗北を「大阪府市一体化条例」で都市開発の権限と予算を府に統合する形で何とか繕った。だから、〇ではなく△印がつく。

第二スッテプの大阪・関西万博・IR・カジノの実現・成功は、赤信号が点滅し始め、×になる可能性が高い。

維新は、その先には進むことはできない足ふみ状態に陥っている。維新政治にとって、今や大阪・関西万博とIR・カジノは、重荷に転化し、国の強い指導力と支援を求めざるを得なくなっている。①から④の直線的な未来構想が行き詰まっているのだ。

関西財界も万博へのさらなる負担の増加にいい顔をしていない。足元では、万博中止を求める住民運動が活発になり始めている。今更、万博の中止や延期も言い出せない。自公政権の既得権益を批判してきた維新。その維新は、政権に助けを求め、万博とIR・カジノの重荷から抜け出そうとあがきだしている。日本維新の会代表のパワハラ男・馬場が語った「第二自民党でいいです」という発言が、実際の政治の現実的姿になる可能性も生まれている。言い換えれば、自公政権の既得権益の仲間入りをし、政権政党・自民党に取り込まれる入口に立たされているのだ。

さてどうする、若き維新の二代目、吉村(府知事)・横山(大阪市長)コンビよ!

粗製乱造の維新議員、次々露見する不祥事

今年、統一地方選挙以降、維新の不祥事が次々と雑誌やマスコミ注1でも報じられるようになってきた。安倍・菅政権から、岸田政権へ移り、松井・維新代表の政界引退とも重なって、マスコミ、言論界への睨みが弱まったことが関係しているのであろう。

まず目につくのは、その資質と人格まで疑わしい議員の言動である。

梅村みずほ参院議員は、その代表例だ。入管でスリランカ人女性が死亡した事件に対して、適切な治療を受けられなかったからではなく、本人の意志で行ったハンストによるものと根拠不明の発言を国会で行った。権力の人権侵害を糾明するのではなく、事実に基づかない真逆な発言をすることで自らを目立たたせ、権力や保守層からの支持を得ようとするかの如き政治姿勢である。

大森恒太朗・奈良県斑鳩町議は、自治会資金を着服した横領で逮捕された。

また、旧NHK党から維新に鞍替えした佐藤恵理子上尾市議は、SNSで自らのセクシー写真を販売し、次期選挙での非公認の処分となった。

さらに笹川理大阪府議団代表は、宮脇希・大阪市議に性的関係を要求するラインを送るなどセクハラを繰り返し、ストーカー行為までしていたことが発覚し、除名処分となった。この件については、松井前代表が相談を市議から受けていたのに、正しく対応されていなかったことも明らかになっている。

馬場日本維新の会代表に対しても、代表の権限を個人的な思惑に基づいて独断的に行使していることなど、そのパワハラ体質が指摘されている。しかも、維新の会に交付された政党交付金を「日本維新の会国会議員団」を通し、2016年から2021年の6年間で、政策活動費と称して馬場個人に約2億4千万近くをおろしている。また、維新として「使途を明らかにすべきだ」と主張していた「文書通信滞在費」の約74%・5320万円を馬場が代表を務める「衆院大阪府第17選挙区支部」に回しており、その両方について、使途は明らかにしていない。この方法は、維新の多くの議員も使っていると指摘されている。「違法な公金の私物化です。これでは“身を切る”ではなく、”身を肥やす“です」(神戸学院大学・上脇博之教授)

選挙に強い維新が粗製乱造の議員を産む

なぜこのような不祥事を維新の会は起こすのか。

本誌35号(2023夏号)の「維新は、どこへ向かうのか?」で、筆者は、「政治家・議員になって何をしたいかではなく、議員になること自体が目的となっているものが多い。(必ずしも維新である必要もない。議員になれるなら、立憲でも自民でもいいのだ)政治的信念が希薄であるから、不祥事を起こす所属議員が続出することになる」と述べておいた。

この点を三つの事例で、もう少し深めてみることにする。

その一つは、交野市議選で、応援に入った大阪市議が起こした候補者ポスター「塗り潰し」事件。本田リエ市議は、維新の公認候補を緑色の太線で囲み、その他を塗りつぶした画像をⅩ(旧ツイッター)に投稿していた。これは公職選挙法の「選挙の自由妨害」に抵触する。本田議員は大阪市議4期目で2020年には議長を務めたベテランの議員である。なぜ、ベテランの議員がこんな公選法違反行為を行ったのか。

実は、交野市では、これまで維新の市議は3人であったが、今回5人の公認候補を立てた。厳しい選挙戦となった。(現に、現職2名が落選、新人2名と現職1名が当選という結果となった)だから、本田は、選挙に勝つために、こんなことまでやったのだ。その必死さの所業であったと思われる。

その二は、衆院大阪10区の池下卓衆院議員の件。池下は、当選後、当時高槻市議であった二人を公設秘書として雇った。一人の甲斐市議は任期が終わるまで1年半(秘書の給与は年間800万円超)、もう一人の市来市議は、後任と交代するまで4か月(給与は100万円)、国会議員秘書と高槻市議とを兼務していた。池下は二人の兼務を国会に兼務届を提出して認められなければならなかったのに、それを怠っていた。

衆院大阪10区は、これまで立憲・辻元清美衆院議員が選挙区を抑えていた。前回の衆院選で、維新は、その10区に池下を候補に立て、府下の議員、秘書団を総動員して辻元を叩き落とす激しい選挙戦を展開した。池下候補の応援に入ってくれる各地の議員・秘書など支援者の世話をし差配するのは、地元議員の務めである。この激戦を支えぬいた二人の市議に対する謝礼・報奨が公設秘書の兼務であり、国から支払われ秘書給与であった。勿論、地域事情に通じていない「落下傘候補」の池下を地域に根付かせる役回りとして、二人の市議は欠かせない者であったことには間違いない。しかし、無届の「闇給与」の支払いであることには変わらない。

その三つは、枚方市長の「選挙勝利祝勝会」である。

公選法では、選挙後有権者へのあいさつを目的とした「祝勝会」を開くことを禁じている。選挙の後の供応にあたるからである。9月3日投開票で三選した伏見隆市長は、同月15日、選対本部の有志らが飲食店で開いた会合に参加した。会場には、「伏見たかし祝勝会」などと書かれた横断幕が掲げられていた。10月11日、市議会は「法律に違反する行為を市長自らが行うことは、断じて許されるものではない。猛省を促す」との問責決議案を賛成多数で可決した。

実は、10月2日にも伏見市長と市民らの食事会が予定されていた。案内状に「伏見市長当選のお祝いを兼ねて」とあったので、この食事会には市長は欠席したという。

三つ目の「祝勝会」の例は、実際は、自民党を含めて多くの政党、団体で選挙後に「ご苦労さん会」「反省会」などの形で実施してきたものであり、伏見枚方市長の例は、三選という実績で、政治的な弛みと慢心がさせたことであろうが、何せ、維新は「選挙こそわが命」であり、勝利の美酒は外せない。

さて、前の二つの例は、維新の選挙に対する猛烈で厳しい姿勢を垣間見せる事例だ。

橋下・松井の時代から、維新は、議員と候補者に、「一人ひとりと握手は一票に繋がる」「何がなんでも一議席増やせ」と発破をかけてきた。

橋下は言う。「各メンバーが、自分の当選につながる地元での活動ではなく、党勢拡大のための活動をひっしにやること(中略)戦略的に組織一丸となって組織のために汗をかけるかです」「選挙が初めてという候補者のために、大阪維新の会のメンバーは全国を飛び回って候補をサポーとしたのです。(中略)府議団、市議団の幹部を務めたりした重鎮たちが、大阪以外の各地でロープをもちながら雑踏整理やビラ配りをやりました」注2と。

選挙となれば、維新の議員、候補者、秘書は、一丸となって闘う戦闘集団となる。組織への貢献と考えれば、あるいは、幹部や仲間に認めてもらうために、違法すれすれの活動も厭わない。勝つためには、選挙違反だってするという体質になっているのだ。議員や候補者としての見識や経験・習慣がなくても、組織一丸の支援の中で、選挙をやり抜く技能は、身につけることはできる。求められるのは、必死さであり、流す汗である。

これを見ればわかるように、選挙に強い維新と、粗製乱造の議員が起こす不祥事の頻発とは、実は、コインの裏表の関係なのである。選挙に強いことが、倫理観や見識のない議員を粗製乱造するのだ。議員や候補になる条件は『維新ブランド』を担いで動く弾であり、議会で一票を投ずる役割をきちんとこなせることなのである。

維新政治の終わりの鐘が鳴る・・・

万博とIR・カジノで行き詰まった維新政治が、足踏み状態に陥り始めている。庶民の生活の直ぐそばにある「子育て」などの課題・ニーズを政策化して選挙で支持を集める維新の政治手法と、他方の「経済を止めるな!大阪を前へ」と万博やIR・カジノなどの巨大なイベント開発政策の二つの歯車が嚙み合わなくなる。

維新お得意の「住民サービス」の原資は、行政資産のコストカット(=「身を切らせる」改革)によって生み出してきた。しかし、行政資産をいくらコストカットしようとしても、その資産には限界がある。大阪府市では、そのコストカットできる資産対象は、そろそろ枯渇し始めている。開発政策が行政予算を圧迫することにもなるからだ。

この歯車の嚙み合わせが外れていることは、いずれ、人々の闘いで明らかにされてくるであろう。その時、維新政治の終わりの鐘が鳴りわたる。この時、「生成AI大ちゃん」は、どんな話をしてくれるのだろうか。楽しみである。

今、第2次大戦後の世界秩序が音を立てて崩れ始めている。新型コロナウイルスの世界的流行とグローバル・サプライチェーンの揺らぎ、ロシアのウクライナ侵攻、パレスチナ・ハマスの占領者イスラエルへの蜂起、そして、機能しない国連安保理の現実・・・。この大きな時代の転化に際して、世界・日本の政治的変動の様相とその構造をつかみ取る作業が求められていることをひしひしと感じながら筆をおくことにする。

  

(注1) 代表的な雑誌など4つをあげておく。

「中央公論」8月号~「特集・維新の正体―自民党一強は崩れるのか」
「週刊文春」8月10日号~「維新を暴く!-”改革政党“のウソと暗部」
「AERA dot」 10月17日~「馬場代表のガバナンスが効かない」と元検事が指摘、維新の議員に不祥事が起きやすいわけ」
「世界」11月号~「特集・大阪とデモクラシー」

(注2) 橋下徹著「日本再起動」(2023年3月、SB新書)

みずの・ひろみち

名古屋市出身。関西学院大学文学部退学。労組書記、団体職員、フリーランスのルポライター、部落解放同盟矢田支部書記などを経験。その後、社会福祉法人の設立にかかわり、特別養護老人ホームの施設長など福祉事業に従事。また、大阪市立大学大学院創造都市研究科を1期生として修了。2009年4月同大学院特任准教授。2019年3月退職。大阪の小規模福祉施設や中国南京市の高齢者福祉事業との連携・交流事業を推進。また、2012年に「橋下現象」研究会を仲間と立ち上げた。著書に『介護保険と階層化・格差化する高齢者─人は生きてきたようにしか死ねないのか』(明石書店)。

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