特集● 新自由主義からの訣別を   

コロナと悪戦苦闘するドイツの姿

日常を取り戻す―ワクチンが希望の光となるか

在ベルリン 福澤 啓臣

コロナ・パンデミックの第一波が押し寄せてきた時のドイツは、二ヶ月にわたる ロックダウンでうまく対処し、WHOからも模範的だと褒められた。夏には感染者数も死者の数も下がったので、コロナ規制を大幅に緩和した。飲食店もホテルも再開し、バカンスを楽しむまでに至った。 このままパンデミック以前の日常生活に戻れるかとさえ思わせる楽観的な雰囲気が漂った。

9月には学校も再開し、新学年を迎える子どもたちで賑わった。新規感染者の数は徐々に増えたが、国民も政治家も気にしなかった。数人の学者が温度の低い時期には、ウイルスは息を吹き返すと警告を発したが、悲観的すぎると一蹴されてしまった。

10月が過ぎ、11月に入ると、コロナによる感染被害は急激に悪化の道を辿り始める。慌ててミニ・ロックダウンに踏み切ったが、効果がなく、本格的なロックダウンに移行したが、泥沼にはまったままだ。

最近の数字を見ると、長い間対岸の火事として見ていた米国やブラジルよりも悪い状況に陥っていることがわかる。泥沼から抜け出るには、最終的にはワクチンに頼るしかないのだろうか。

I.コロナウイルスの被害とロックダウン

感染者の数はPCRテスト(ベルリンのシャリティー医科大学が開発した検査方法)数に左右されるので、絶対数である死者の数でドイツの状況を見てみよう。

2週間ごとに1万人の死者

コロナ及びコロナ関連による死者の数が1万人を突破したのは、10月23日であった。最初の死者が出たのが3月9日だったので、8ヶ月ほどかかっていることになる。

その後は坂道を転げ落ちるように死者の数が増えていった。15日後の11月8日に2万人、18日後の12月27日に3万人、さらに14日後の1月8日で4万人。5万人を突破したのはなんと12日後の1月23日である。2週間ごとに1万人の方が亡くなっているのだ。1日の死者の最高数は1月14日で、1244人の方が亡くなっている。最も少なかった6月には一人などという日もあった。1月31日現在死者の総数は5万6945人である。日本は5688人。

死者の年齢構成では80歳から89歳が最も多く、約半分を占めている。 次に多いのは90歳以上。19歳以下はほとんどいない。第一波の時以来80 歳以上の高齢者に死者が多く、政府は批判されているが、抜本的な対策が見出せない。性別では52%対48%で男性の方が多い。

さらにいかにドイツの現状が悪いのかを示す数字がある。1月22日現在7日間平均の1日の死者数(100万人当たり)で見ると、ドイツは9.6人である。つい最近まで対岸の火事として見ていた米国は9.2人、ブラジルはドイツの半分にも満たない4.2人である。最も多いのは、ポルトガルの18.5人、次に英国の18.1人、さらにチェコの14.9人と続く。ちなみに日本は0.92人。

1日の新規感染者の第一波の最高数は3月27日の6294人だったが、厳格なロックダウンのおかげで6月、7月には300人前後まで下がった。この時期にはドイツはヨーロッパの中では最もコロナ対策に成功した国としてもてはやされていた。ところが成功に酔ったのか、大幅に規制を緩めた。海外旅行もできるようになった。バカンス好きのドイツ人は大挙して地中海の海岸に夏を楽しみに出かけた。彼らが夏休みを終えて帰ってき始め、学校の新学年が始まり、普通の授業に復帰した頃から、つまり9月の半ばから感染者の数が増え始めた。

メルケル首相の先見性

9月28日には2000人を突破した。ちょうどその頃メルケル首相は、国民に向けて注意を怠らないように訴え始めた。そしてかの有名な「このまま感染状況が進むと、1日の新規感染者の数が指数関数的に(倍々ゲームで)上昇し、クリスマスには1万9200人にもなってしまう」と言ったので、国民を脅かすのかと野党などから激しい批判を受けたのである。多くの国民も本気にしなかったというのが筆者の印象でもあった。10月25日には1万人を突破した。クリスマスどころか、11月5日には2万人、さらに12月17日には3万人の大台をも超えてしまった。

死者の数と新規感染者の数の急増は危機的だが、トリアージが余儀なくされている状況はまだ生まれていない。1 月25日現在ドイツには集中治療用のベッドが2万6932床ある。その内コロナウイルス感染症の患者によって4616床、一般の重症患者によって1万7493床が埋まっている。つまり、数の上では4823床が空いていることになる。

問題はベッド数や治療機器の数ではなく、マンパワーの不足である。コロナ禍によって医者や看護師がほぼ一年にわたって限界を越えて治療に当たってきているので、十分に患者の面倒が見られないことである。その面からの医療崩壊が起きるだろうと危惧されている。旧東独のチェコの国境沿いにある地域はすでに手一杯で、コロナ患者が他の州や地域の病院に移されている。

新規感染者が見つかると、保健所が感染経路追跡調査をするが、10万人の人口当たり7日間で50人を超えると調査が困難になると言われている。できれば25人以下が望ましい。夏には1日の新規感染者数が全国で300人以下まで下がった。その頃は追跡調査は簡単だったのに、惜しいチャンスを逃してしまったものだ。

三段階のロックダウン

ロベルト・コッホ国立研究所(RKI、450人の研究者及び130億円の年間予算)は、連邦政府から全面的に委託されてコロナウイルスの感染予防の前面に立っている。データの集計や科学的な分析をし、対策を立てている。毎日感染者及び死者の数を発表し、記者会見を開いている。同所長のヴィーラー教授は政府のコロナ対策の顔ともいえる。

ロベルト・コッホ国立研究所の発表によると、感染経路が不明というのが85%にものぼる。だから、対策の的が絞れないので、全社会を覆うロックダウンになってしまう。 まず11月初めからミニ・ロックダウンに入り、効果が全くなかったので、12月16日から強化し、以来食料品店(スーパーも含む)、薬局以外は全てシャットダウンされている。その代わりにオンライン販売が盛んだ。

生産部門は第一波の時と違って動いている。仕事は出来るだけホームオフィスでするようにとなっている。 ホームオフィス率は第一波の時の方が27%と高かった。現在は14%に過ぎない。連立与党の社民党は法的に企業に義務付けようとしたが、キリスト教両党が反対し、成立しなかった。

付け加えると、ドイツの保健所は連邦制なので、全国の保健所のコンピュータのシステムも統一されていない。デジタル化されていないので、紙とファックスに頼っている。そのせいで、1日の新規感染者の数が現在のように数万人になると、集計だけで手一杯になり、感染源や感染経路の分析まで踏み込めないとブラウン官房長官が認めた。このようにデジタル化の遅れは決定的である。

外出は必要な用事以外は控えるようにと繰り返し言われているが、一時のスペインの戒厳令のように厳しくない。道路や街中を歩いていても、警官にどこに行くのかと訊問されたことはないし、そのような報道もない。時々秘密のパーティなどが見つかって捜索を受けている映像が流されている。彼らには数十万円の罰金が課せられる。バイエルン州では12月16日以来夜の9時以降は外出禁止になっている。

保育園と学校の閉鎖が延長される

11月以来のミニ・ロックダウン、さらに12月16日以来の本格的なロックダウンによっても感染者数も死者数も減らないので、1月20日から多くの州で規制がさらに強化された。まずマスクだが、公共輸送機関での乗車とスーパーでの買い物には、よりフィルター効果のあるFFP2マスク着用が義務付けられた。12月半ばには60才以上の国民に政府から一人3枚のPPF2マスクの無料配布があった。PPF2のマスクに関して政府の対処が遅きに失した感があるとの批判が高まっている。

12月16日以来続いている学校と保育園の閉鎖が2月半ばまで延長された。社会的なダメージの大きさを心配する声を無視できない。学校、特に卒業試験を控えた学年のダメージは大きな問題になっている。ドイツの大学には入学試験がない代わりに、高校の卒業試験の点数によって大学及び専攻学科が決まるので、とても大事なのだ。この学年は教育の達成度が例年平均より決定的に落ちてしまい、劣等学年の烙印が押されてしまう恐れがある。

オンライン授業をうまく使えばといわれるが、第一波の時から指摘されている学校のデジタル化の遅れは、すでに予算が計上されているにもかかわらず、ほとんど取り戻せず、相変わらずネックになっている。

コロナ危機の最初の頃は子どもたちはコロナにほとんど感染しない、もし感染したとしても、症状は軽いと言われていた。問題は子どもたちが感染源になるかだったが、現在は大人同様感染源になることがわかっている。その感染経路を断ち切るためには、やはり閉鎖しかない。すると、子どもたちは一日中家にいることになる。両親が働いている場合、保育園や学校の緊急育児クラスに預けることもできるが、そこでの感染も心配されている。学校閉鎖の意味がなくなってしまうのだ。

経済と国境閉鎖

EU内では現在もシェンゲン条約が有効で国境は原則的に閉鎖されていない。48時間以内のPCR検査による陰性証明があれば、越境することが出来る。仕事のために毎日数十万人が国境を越えている。第一波の時には国境を閉鎖したために、物流が止まり、経済活動も停滞したので、今回はPCRテストの数を増やして、出来るだけ経済活動を止めないようにしている。フランクフルト空港では毎日数万人が乗り降りしている。しかし、コロナ変異株新タイプのために英国や南アからの入国はストップしている。

旧東独の州は第一波の時は感染者と死者の数が断然少なかった。ところが10月以降旧東独の州では感染者の数が爆発的に増え、ロックダウンを導入しても、全く下がらない。第一波の時と違ってチェコやポーランドなどとの国境を閉じていないことも原因の一つである。ドイツの食品企業や在宅介護などはそれらの国からの出稼ぎ労働に頼っているので、閉じることができない。

それに加えてある関連性が取り沙汰されている。右翼政党のAfDの得票率が高い地域で感染者の数が多いのだ。AfDはコロナウイルスの存在を否定しているから、マスクや最低距離確保などのコロナ対策を守っていないからであろうというのだ。

2020年のドイツの経済成長率はマイナス5%だった。他のEUの国々は10から13%まで下がっている。ドイツは21年には3%の成長率を見込んでいる。

ブラウン官房長官が、憲法によって禁じられている「借金ブレーキ」条項を改正すべきだと発言し、批判されている。ドイツの憲法では、2011年来国家が借金をする場合は、国民総生産高の0.35%を超えてはいけないとなっている。2020年と2021年はコロナ禍に対処するために例外としてブレーキを外したが、さらに憲法を改正し、ブレーキそのものをなくすべきだと発言したのだ。経済界や緑の党は歓迎したが、与党内部からは反対の声が多い。

現在のロックダウンに対するアンケートはちょうど良いが35%、もっと厳しくが49%、厳しすぎるが13%と圧倒的に少数だ。

ウイルス学者、細菌学者の中には「ゼロ・コロナ」を目指すべきだと主張するグループがいる。彼らは台湾、ベトナム、韓国、オーストラリアなどを具体例に挙げている。メルケル首相を補佐する何人かがグループメンバーだ。だが、それを達成するには、ドイツのすべての経済、社会活動及び人の動きをゼロに近づけないと達成できないとされている。すると、コロナは撲滅したが、本体の社会、経済も壊滅的な被害を受けてしまうと、経済を重視する学者や政治家は猛反対している。

貧富の差とコロナウイルス

ウイルスは金持ちだろうと貧乏人だろうと相手を選ばず感染するといわれているが、現在までの時点でコロナウイルスの被害には貧富の差が大きく響いている。広いマンションに住んでいれば、ストレスの少ない共同生活も可能だろう。狭いアパートで一日中顔を突き合わせていれば、イライラするだろう。コロナが始まってからは家庭内暴力の増加と母親への負担集中がより大きな問題となってきている。

収入の面で大企業に勤務している人々、公務員などはコロナ禍ではほとんど影響を受けていない。長期のロックダウンで収入が大きくダウンしたのは、サービス業従事者である。勤務先が倒産した人もたくさんいる。特に不定期の労働をしている文化関係、メッセ関係は壊滅的なダメージを受けている。勤労学生もドイツの大学には授業料がないとはいえ、アルバイトがなくなり、苦しんでいる。さらに母子家庭などで収入が少ない場合は、学校のオンライン授業についていけない。家にインターネット接続もコンピュータもない家族も少なくない。スマホでオンライン授業を受けている子どもたちの映像が流れたが、絶望的だ。

ドイツ社会にはコロナ疲れが漂っている。人との接触が厳しく制限されているので、癒される時間がほとんど見出せない。「スーパーに買い物に行くのが唯一のイベントだよ」と、ぶすっとテレビのインタビューに答えた中年のおじさんの言葉が印象的だった。

長期のロックダウンが効いてきたらしく、少しずつ1日の新規感染者の数が減ってきているが、死者の数は高止まりしている。

II.ワクチンについて

ドイツでは昨年のクリスマス直前にバイオンテック+ファイザー社のワクチンの接種が始まり、1月25日現在178万3881人が接種を受けた。国民の2%だ。その内約30万人が望み通りの効果が発揮される2回目の接種を受けている。集中治療室勤務の看護師などが、すでに二回目を受けたとTVのインタビューで答えていた。

ワクチン接種がスタート

第一優先グループは老人施設に入っている80歳以上、同施設の勤務者、医療関係者である。次は80歳以上で自宅にいる人だ。彼らには巡回車が回ってきて、自宅で接種が受けられる。第二グループは70歳から80歳まで、次は60歳から70歳までと続く。

毎週67万人の接種が予定されていたが、供給がうまくいかず、突貫工事で12月半ばに完成したワクチン・センターの多くは、現在開店休業だ。政府の計画によれば、3月末までに2千万本、6月末までに6500万本、9月末までに1億2千万本が供給されることになっている。合わせて2億本を超えるから、一人二回受けるにしても、8400万人のドイツの人口の接種に十分な量である。

連帯共同購入か単独購入か

EUは、連帯共同体であるという基本理念に沿ってメンバー国のために一括購入した。その上EUの国々が同じテンポでワクチンを接種しないと、シェンゲン条約、つまり開かれた国境を維持できない。ワクチンが全て認可を受ければ、3億本が支給される。しかし、現在は供給量が足りず、ワクチン接種が予定通り進んでいない。「EUは早い時点でもっと大量のワクチンを購入すべきであった。もし余った場合は、貧しい国に回せば良いじゃないか」と政府は批判されている。

「ドイツだけでも一週間に一兆円近いお金をコロナ対策に使っているのだから、数兆円のワクチン費用は安いものだ。ワクチンの接種が一日でも早くなれば、それだけで何万人という人の命が助かるのだから。そしてちょうど7月1日から12月末日までドイツはEU議長国であったのだから、もっと指導権を発揮して、他の国々を説得すべきであった」という批判の声が聞こえる。中には「ドイツだけでも優先的に供給を受けるようにすべきだ」という声もあるが、一国優先主義は、EUが連帯共同体であるという基本理念に反することになる。

EUは3240億円もの大金をいくつかのワクチン開発企業に提供している。アストラゼネカ社には400億円を提供している。ドイツ政府は独自にドイツのバイオテクノロジー企業のバイオンテック社とキュルベック社(3月に認可申請予定)にそれぞれ450億円と360億円提供している。両社ともmRNAワクチンを開発している。

mRNAワクチン

ドイツのバイオンテック社+ファイザー社と米国のモデルナ社によって開発されたワクチンはmRNAワクチンと呼ばれ、まったく新しい原理に基づくワクチンである。これまでのワクチンは、死んだか、あるいは弱体化した病原体を使う方法だったが、mRNAワクチンは病原体、今度の場合はコロナウイルスの遺伝情報を使う。DNAと違ってRNAは遺伝子そのものではなく、その設計図であるRNAを筋肉に注入する。すると、抗原が生まれ、体内の免疫系抗体が反応する準備体制ができあがる。そして、外来病原体が侵入していると、抗体が反応し、体外に除去する。

mRNAのmはメッセンジャーを意味する。メッセンジャー・ボーイのように機能し、メッセージを渡した後は体から出てしまう。ということで、副反応はまずないといわれている。この原理を発見したのは20年前にチュービンゲン大学の若い院生だった。同氏はキュルベック社のCOEをしている。

最初のコロナ・ワクチン開発に成功したのが、ドイツの会社だったということもあり、贔屓目で見ているかもしれないが、ドイツのウイルス学者及び細菌学者はこぞってこのmRNAワクチンが画期的なワクチンだと称賛している。だから、十ヶ月という驚異的な短期間で作られたのだ。それにはもちろん世界中の企業及び政府が協力し、人的資源と資金を大量につぎ込んだこともある。ワクチンの開発にはそれぞれ一社で1千億円以上の費用をかけている。

昨年の夏の時点でのワクチンの買い付けは一種の馬券を買うようなものだった。ワクチンの開発には百社以上の企業が取り組んでいたが、夏の段階では10数社が開発に成功しそうだと予想されていた。その時点で、大量の買い付けをするわけだから、賭けの要素が大いにあった。開発に成功しなければ、手付金も含めて無駄金になる。開発が成功した時点まで待てば、供給が後回しにされてしまう。

最初にゴールに飛び込んだのは、バイオンテック社+ファイザー社だ。ワクチンの基礎開発は主にドイツの若い企業であるバイオンテック社がやり、製造と供給はファイザー社が行う協力関係を結んだ。1年間で数億本ものワクチン製造には 膨大な製造施設が必要になるし、世界中に短期間で供給するにはそれなりのマンパワーと供給網が必要だ。その上彼らのワクチンは零下70度以下に保たなければいけない。物流会社にとっても大きな挑戦だ。

ワクチンの値段と供給と接種

モデルナ社のワクチンは一回分37ドル、バイオンテック社のは20ドル。アストラゼネカ社のは4ドルと廉価だ。70%から90%と効率は落ちるが、室温で保存できるので、大きな期待が寄せられている。ロシア製は10ドル。中国製は30ドルだが、友好国には数十万本単位を無償で提供している。ワクチンの値段は交渉及び供給の時期によって大きく変わる。

国民のワクチン接種が一番進んでいるのはイスラエルである。1月末で国民(880万人)の半分以上がすでに接種を受けている。イスラエルにワクチンが優先的に供給されている背景には、イスラエル政府とファイザー社が結んだ契約がある。

同国の健康保険制度は一元化されている上に、デジタル化されている。つまり、ワクチン接種後の 副反応の有無などを含めた健康状態に関するデータを瞬時に集計できる。これらのデータはファイザー社に渡されるのだ。ある意味でウィンウィンの関係といえる。やり手らしいネタニヤフ首相のほくそ笑みが目に浮かぶようだ。

最も供給量が多いのが米国で、すでに3000万人弱が接種を受けた。退陣を余儀なくされたトランプ氏が夏の時点で強引に札束の威力を発揮させたようだ。その上に同氏は12月8日に、米国で製造されたワクチンはまず米国に供給すべきという行政命令を出して、米国分を確保している。二日前に同年齢のニューヨークの友人からはすでに接種を受けたとのメールが入った。

68年5月のパリ反乱の時のリーダーだったコーン=ベンディット氏(赤毛のダニー)は、「世界の人々すべてがワクチン接種を受けなければ、安心できない。ドイツには世界的な製薬及び化学会社が何社もあるのだから、政府が彼らをワクチン製造に向かわせて、世界の貧しい何十億人のためにワクチンを製造すべきだ 」と、昨日の政治トーク番組でアルトマイヤー経済大臣にハッパをかけていた。赤毛のダニーらしい雄大なビジョンだ。長年緑の党の欧州議会員だったが、現在はジャーナリストとして活躍している。

ちなみに世界の貧しい国々にワクチンを供給するプロジェクト「COVAXファシリティ」はユニセフが中心になって昨年夏に発足している。21年末までに190カ国に20億回分のワクチンを供給する。ドイツは800億円、EUは600億円の資金をすでに提供している。

副反応の危険と変異株への有効性

ワクチンの副反応について今のところ大きな問題は報告されていない。もし重大な副反応があったなら、認可は下りなかったはずだ。認可申請までにバイオンテック+ファイザー社は4万4千人、モデルナ社は3万人がテストを受けている。その上で、欧州医薬品庁(EMA)の厳しい審査をパスしている。ロシアと中国のワクチンは同庁の審査は受けていない上に、これらの数字は発表されていない。

審査をパスしたと言っても、最終的には数千万人、数億人が接種されるわけだから、未知の部分はあるだろう。それにワクチンの有効期間もわかっていない。さらに接種した人は他の人への感染力が全くなくなるのか、弱まるのかなどもわかっていない。2月末ごろにはわかるとのこと。

気がかりなのは、英国と南アメリカとブラジルで新しいコロナ変異株が発見され、英国株は70%も感染力が強いとされている。バイオンテック社のワクチンは、「英国で猛威をふるっている新しいコロナ変異株にも有効だ」と同社社長のシャーヒン博士(トルコ系ドイツ人)が数日前に発表した。

1月のドイツ第二放送局のアンケートによると、ワクチン接種をすると答えた人々は67%、まだ未定は22%、接種しないは10%と少なかった。高い受け入れ率と言える。右翼政党のAfDは、コロナ・パンデミックは政府の陰謀と決めつけているので、支持者の多くは受けないだろう。

ワクチン接種者にはワクチンパス発行?

現在盛んに議論されているのが、ワクチン接種を受けた人たちの数がある割合を超えた時点で、彼らにフリーパスの権利を与えるかどうかだ。彼らが感染しないことはわかっている。さらにもし、他の人に感染させないならば、飲食店や映画館に入っても問題ない。あるいは飛行機に乗ってもいいはずだ。つまり、現在の48時間以内のPCR検査の陰性結果と同じ効果を発揮するわけだ。

そのような特権を認めるのは、社会を二つに分断するから認めるべきではないという意見と、現在のコロナ制限そのものが基本的人権の侵害なのだから、これらの人々には早急に制限を外すべきだという意見が対立している。それにレストランなどは、公共空間ではなく、持ち主の私的空間なので、その権利を行使するのは、本人の権利だとの主張もある。経済界はもちろん後者だ。EU全体に通用するEUワクチンパス発行を要求する声もある。

いつから以前の日常生活が送れるのか

国民の6割以上がワクチン接種を受けると、集団免疫が生まれるといわれている。するとコロナウイルスは消えるわけではないが、パンデミックは収まる。ドイツでは夏までには60歳以上のリスクグループのワクチン接種は終了するだろう。同時に夏の温度と紫外線がコロナウイルスの活動を弱めるだろうから、秋には以前の日常生活が戻ってくると予想されている。

9月に総選挙がある。16年間ドイツ政治をリードしてきたメルケル首相が去った後のドイツがどうなるかは興味深い。気候変動を抑えるための対策が政治のアジェンダに復帰するだろう。またFridays for Future運動などが盛り上がり、熱い秋になるかもしれない。与党のキリスト教両政党が現在の高い支持率を保てるのか、緑の党がどこまで伸ばせるかによってドイツの将来の政治が決まる。

12月には伝統的なクリスマスを再び祝うことができることを期待したい。

(ベルリンにて 2021年1月末日)

ふくざわ・ひろおみ

1943年生まれ。1967年に渡独し、1974年にベルリン自由大学卒。1976年より同大学の日本学科で教職に就く。主に日本語を教える。教鞭をとる傍、ベルリン国際映画祭を手伝う。さらに国際連詩を日独両国で催す。2003年に同大学にて学位取得。2008年に定年退職。2011年の東日本大震災後、ベルリンでNPO「絆・ベルリン」(http://www.kizuna-in-berlin.de)を立ち上げ、東北で復興支援活動をする。ベルリンのSayonara Nukes Berlin のメンバー。日独両国で反原発と再生エネ普及に取り組んでいる。ベルリン在住。

特集・新自由主義からの訣別を

第25号 記事一覧

ページの
トップへ