編集委員会から

編集後記(第34号・2023年春号)

黄昏れる日本へ一石――悲しき日本の現実に憂いは深刻

● 本号の特集テーマは、まさに今の日本を表しているのではないか。より正確に言えば、<黄昏れ(たそがれ)>に向かう日本か。岸田―自民党政治は、アベやスガによってもたらされた経世済民とは程遠い。新たな<貧困階級>が現出していると指摘される深刻さだ。まさにアベノミクスの破綻の結果でもある。本号巻頭で金子勝さんは、現下の日本を憂い、「カタストロフ<破局>に向かう日本経済――岸田政治=『新しい戦前』を一新せよ」と訴える。金子さんの指摘する「新たな戦前・・」と同じく、池田五律さんに「岸田政権の安保政策を批判する――『台湾危機説』を振りまきながら国家改造を目論む」を寄稿頂いた。

それにしても想う。その捻出方策も定かでない防衛費増、どうするのか。元自衛隊の大幹部からも「身の丈を超えている」と指摘される代物。結局は国民負担だ。その昔に社会党や共産党、労働組合が主張した“軍事費削って福祉へ回せ”が切実なスローガンとして現実味を持つ社会に今、私たちは生きている。台湾危機や自衛隊の強化・防衛費増を煽っている自民党右派や維新、その代表格の高市早苗先生に一言。“お前さん、沖縄の那覇基地の横や石垣島に別荘建てて国会へ通えと。台湾危機が勃発すれば、間違いなくミサイルが撃ち込まれる。そこに住むくらいの覚悟をもって語れと。

● 最近の政治をみる時、自公国維路線が目に付くようになった。先の入管法改正では足並みを揃え賛成にまわり、今国会で成立の雲行きである。この4党の連立が成立すれば議席占有率は衆議院で74%、参議院で72%の巨大勢力となる。深刻で危険なのは、この自公国維が憲法改正で足並みを揃える様相を呈していることだ。憲法改正から、戦後の保守・右派勢力の見果てぬ夢であった“憲法9条の改正”へ流れていく危険性大。

今般の統一地方選で見られた維新の躍進は民の意識は移ろいやすいことを物語っておりポピュリズムの極みであろう。まさに私たち”民“も問われているのだ。維新の会のブレーン竹中平蔵ばりの新自由主義、維新の会がアベやスガと一体化した自民党の別動隊であることは不変。昨今、立憲との共闘など、野党面が見られることもあるが、これは岸田嫌いのなせる業か、岸田が保守リベラル系の宏池会出身であることの影響か。

● 戦前の戦争国家への道を後から押し支えたのは“民意”だ。それを煽ったのがメディア(新聞)だ。昨今の日本のメディアの現状は深刻。“忖度と萎縮”としか言いようがない。「国境なき記者団」の調査による日本の報道の自由度は、180か国中68位。主要国(G7)では最下位。この間、メディア分析をお願いしている小黒純さんは、「<権力>に沈黙するメディア――故ジャニー喜多川氏の問題と高市早苗氏の問題」を論じる。

日本は“いつか来た道”と思えてならない。微力であっても社会に“一石を投じる”本誌の役割があるのだと自覚・自責する昨今です。それぞれの持ち場で、地域で、職場で知恵を出そうと訴えたい。ふと、その昔、フランスのサルトルが主張した“アンガジュマン(政治・社会参加)”を説くこの言葉、訴えの重みが今さらながらに胸に響く。今号も多くの筆者の皆さんに一石を投じて頂いた。

先の地方選・補選結果で立憲民主党への批判も高まっているが、いつも冷静な分析をされ注目し評価しているジャーナリスト(元毎日記者)の尾中香尚里さんの「維新は自民候補に勝てたのに…『補選全敗』となった立憲が政権交代を実現するために改善すべきこと」(プレジデント・オンライン)記事を紹介しておきます。(矢代 俊三)

● 来年度からはじまる高等教育の助成金新制度では、給付型が拡大する。世帯収入が600万円未満の場合に給付型奨学金(あるいは授業料の減免)が実施されるようになるが、なぜか「子ども3人以上の多子世帯」「私立校の理工農系学生」に限るという条件がつく。つまりきょうだいが3人以上いなければ、文化系の学生には助成金が支給されない。露骨な理系優遇といえるだろう。金を生む勉強をしろというわけだ。

この報道を見て思い出したのは、10年以上前にミャンマーを訪れたときのこと。ミャンマーにも国立大学があるが、政治学や歴史学の学部は長く閉鎖されたままだという。軍事政権がいう理由は国家に有害な学問だからということらしい。軍を批判するような知識人は不要だという。その結果、まともなミャンマー政治の分析やミャンマーの歴史は英語の研究を読むしかないそうだ。つまり自らの社会を自らのことばで知ることができない。

権力を握る人間にとって、自分たちを批判する連中を嫌うのはわからなくはない。しかし、学術会議の人事に口出ししたり、助成金の支給をしぶったりという方法で人文科学の研究を阻害するのはどうか。若い才能が人文科学に向かわず、やがて日本の文化・政治・歴史の研究を弱体化させるだけだろう。しかも、そういう輩が愛国心教育に熱心だという倒錯にだまされることがあってはならない。(黒田 貴史)

● 本号巻頭で金子勝さんが話す「カタストロフ<破局>」は既に始まっているのではないか。アベノミクスの結果として日本の金融・財政は身動きがとれず、政治は「新しい戦前」になっているのだから、破局への道を既に走っていると考える方が当たり前だ。だとすると、我々が考えるべきは、破局を越えていくために、その破局を踏台にしてどのようにこの国を、この社会を作り変えるかということだろう。そういう時代に直面しているということを、改めて自覚したい。金子さんの指摘する「食糧、エネルギーの自給と地方分散型社会、新しい産業の創出」は、夢物語ではなくて、今すぐに向かうべき道筋なのだと思う。

5月3日、東京・有明で開かれた「あらたな戦前にさせない! 守ろう平和といのちとくらし2023憲法大集会」に参加し、好天の下でデモ行進をした。2万5千人が参加したと発表された。久しぶりの大集会で、改めて改憲反対の熱気を感じることができた。「ひどい国になった」とブツブツ言っているだけではだめで、多くの人々と繋がることの大切さを思い出したように感じた。コロナ禍は人々の連帯感を奪い、改憲反対の声をも押しつぶしていたのだ。集会会場のブースでは、高校生が核兵器廃絶を求める「高校生一万人署名」を呼びかけていた。集会参加者は確かに高齢者が多かったのだが、こうした若者がやがてカタストロフを乗り越え、日本を作り変えていくのだろうと、光が見えたように思った。(大野 隆)

 

季刊『現代の理論』[vol.34]2023年春号
  (デジタル34号―通刊63号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2023年5月7日(日)発行

 

編集人/代表編集委員  住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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