特集 ● 黄昏れる日本へ一石

「女性」の視点から「公共のあり方」を問う

公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと)の活動から

公務非正規女性全国ネットワーク副代表・埼玉大学准教授 瀬山 紀子

「はむねっと」発足、2年

公務非正規女性全国ネットワーク、愛称「はむねっと」の活動がはじまって、この春で2年が経過した。「はむねっと」という呼び名は、「公」という漢字が上からで、「ハ」「ム」と読めるところに由来する愛称だ。

筆者は、2020年3月まで、「男女共同参画推進センター」等の名称で行政が設置し、地域の“男女共同参画”(「ジェンダー平等」、ないしは「性差別の解消」と言いたいのですが、そう言いきれない/言いきらないところにその課題の本質が潜んでいる大きな社会課題)を進める拠点施設で、20年弱、センターの事業運営を担う“非正規”の“専門職員”として働いてきた。

2020年3月というのは、コロナ禍が急速に広がった、歴史的な時期でもあるが、同時に、翌月に、臨時・非常勤の地方公務員に関わる、これまでにない大きな制度改正(新たな地方公務員制度として「会計年度任用職員制度」がはじまる)を控えた直前の時期にも当たっていた。筆者は、この、地方公務員に関わる制度改正への疑問と違和感を大きな理由に、それまで11年働いてきたセンターを辞める決断をし、その後、大学等での非常勤講師の仕事を経て、現在は、大学に、“任期付き”教員として職を得た立場だ。このような経緯から、筆者は、はむねっとの発足やその後の活動に、公務労働に非正規として従事した経験をもつ運営メンバーとして携わってきている。

本稿では、 “公務非正規”という課題領域の意味するところを確認した後に、発足後の2年間にはむねっとが取り組んできた活動の概略を紹介し、最後に、“女性”という視点にこだわる理由について書いていきたい。

「公務非正規」という課題領域

ここでは、公務非正規の課題を、公務部門、さしあたり、国と地方自治体で、非正規で働く人たちに関わる課題として把握しておきたい。こうした人たちのなかには、直接、国や地方自治体に雇われて(任用されて)働いている人たちと、そうではなく、指定管理者制度や委託、派遣等の制度のもとで、民間団体等に雇われ働いている人たちの大きく二つのパターンがある。

“非正規”は、公務、民間を問わず、なによりも、「有期雇用」という点にその特徴がある。そして中でも、公務については、民間で働く人たちが、同一の使用者のもとで契約を更新し通算5年を超えて働くと、働き手が「無期労働契約」に転換することを申し込める、“無期転換ルール”が適用されず、その点で、民間以上に、不安定だと言われる。そして、正規公務員と比べて、給与や休暇等の待遇が低く、大きな格差が生じていることも特徴だ。

そして、その人数規模をみると、国で直接雇われて働いている非正規の人たちが、約15万8千人(正規職員約26万9千人/2022年7月現在・一般職国家公務員在職状況統計)、地方自治体で直接雇われている人が、約112万5千人(正規職員約280万2千人(2021年4月現在)/2020年4月現在・地方公務員の会計年度任用職員等の臨時・非常勤職員に関する調査結果)いる。その規模は、特に地方自治体で2005年にその人数が把握されるようになって以降、増え続けており、概ね、地方自治体の公務員の3~4人に一人、自治体によっては職員の半数が非正規という大きな規模となっている。職種は、役所の事務職から、窓口、図書館、公民館等の社会教育施設の専門職、さまざまな相談業務の相談員ほか、行政のあらゆる領域に非正規が働いているといっても過言ではない。

さらに、もう一つのパターンである直接任用以外のかたちで公務に携わる人たちについては、残念ながら、その現状を把握する公的な統計が存在していない。

現在、地方自治体では、図書館、児童館、学童保育等をはじめ、多くの公共部門が民間委託化され、現在では、多くが財団法人や民間企業等によって運営されている。また、役所の窓口業務を人材派遣会社等が請け負うような民間委託化も進んでいる。しかし、そうした民間化された公務の現場で、どれほどの非正規労働者がどのような条件の下で働いているのかは、少なくとも国全体のレベルでは把握できないというのが現状だ。

ここまで書いてきただけでも、公務非正規という領域は、広く、複雑で、問題含みであることが感じられただろう。

公務員というのは、常勤の正規職員で、身分が安定しており、ある種の特権的な立場にあるといった捉え方はすでに一般的ではなくなっているかも知れない。ただ、公務の現場では、たぶん、一般の人たちが想像する以上に、非正規化が進んでいる実態がある。

はむねっとの活動

はむねっとでは、発足後まもなくの2021年4月から6月にかけてと、2022年の5月から6月にかけての2回にわたり、公務非正規労働従事者を対象としたインターネットによるアンケートを実施してきた。このアンケートは、公務非正規労働に従事する人たちの労働条件等の実態が把握できる調査が存在していないという問題意識、また、そこで働いている人たちの声を集めたいという思いを元に実施してきたものだ。

調査は、当事者の呼びかけによる、全国の公務非正規労働に従事する幅広い職種を対象とする初の実態調査と言えるものとなったと自負している。1年目は、有効回答が1252件(回答数1305件)、2年目は705件(回答数715件)集まり、地域としては、2年とも、全国47都道府県で働く人からの回答が寄せられた。この数は、先に記した非正規公務労働従事者の数からみると決して多いとは言えない。それでも、一定のまとまりと、ちからを持つ結果がこのアンケートから得られたと感じている。アンケートの詳しい内容については、いずれも、はむねっとのホームページに報告書を掲載しているため、それらを参照してもらいたい。

この調査は、公務非正規労働に従事している人たちの実態や、そこで働く人たちの思いを広く集め、その課題を明らかにし、それをもとに、問題を社会に訴えていきたいという思いから実施したもので、実際に、この調査が、はむねっとのその後の全ての活動の基礎となってきた。

はむねっとでは、調査を行った後に調査報告をまとめ、記者発表をすると同時に、さまざまな機会を通じて、多様な媒体での調査報告を行い、情報発信をしてきた。また、調査から見えてきた課題(年間就労収入が200万円未満が約半数という厳しい経済状況、9割が1年以下の有期雇用で、同様に9割が将来不安を抱えており、4割はメンタル不調を抱えていること、ハラスメントの横行、制度移行期に生じた不利益変更、正規職員との待遇格差等々)をもとにした、国や地方自治体等への要望・質問書の提出、国会議員への働きかけ、院内集会の実施、当事者同士の交流会の開催、他団体とのネットワークづくりなどを進めてきた。

この間の活動についてもホームページでその多くを見ることが可能となっている。是非、これまでのメディア報道や、活動報告等を参照してもらいたい。

こだわってきたテーマとしての「女性」という視点

はむねっとは、この間、公務非正規“女性”全国ネットワークという団体名にもあるように、“女性”をキーワードに活動を行ってきている。

それは、まず、実態として、国が出している統計をみても、国の期間業務職員(有期雇用職員)の77.6%、地方自治体の会計年度任用職員(単年度雇用職員)の76.6%を女性が占めているという事実に由来している。そして、そのことが、公務非正規の領域が、有期雇用という不安定な働き方で、低い待遇であること、そして、それでよいとされることと強く結びついているという問題意識を持っている。

なぜなら、女性は、家計の主たる稼ぎ手ではなく、補助的な働き手だとみなされやすいこと(そのようであるべきだとされること)、また、女性が担い手の多くを占める仕事は、「誰でもできる仕事」だとされ、往々にして低い評価を受けやすいこと等がその理由だと考えられる。

ただ、そうであるにも関わらず、労働問題を訴えていく際、それが非正規の問題であっても、運動の主たる担い手は女性であることが少なく、女性たちが声を出しにくい状況があると感じてきたことも、はむねっとが「女性」という言葉にこだわる理由だ。

労働問題の主体として、女性が声を上げるにはどうしたらよいのか。女性たち自身が、自分たちの置かれた状況は不当だと確信し、自分たちのまっとうな「評価」を求めて、声を出していくには何が必要なのか。そのことを考えていきたいと思っている。

公務の領域は、サービスの受け手が、例え、お金がなくても、サービスを受けることを権利として保障する、そうした領域だ。それをより必要とするのは、現在の経済社会のなかで、より弱い立場に立たされやすい立場の人たちだと言える。そうした領域を細らせていくことは、社会全体を細らせていくことにつながるだろう。

公共という領域の可能性を考える上でも、現に起きている公共を細らせていく政策に目を凝らし、その担い手の視点、そして受け手の視点で、この問題を掘り下げていくことが不可欠だ。多くの人がこの問題に関心を向け、よりよい社会の構築に向けて、対話や議論を広げていくことを切に希望している。

 

関連文献

竹信三恵子、戒能民江、瀬山紀子『官製ワーキングプアの女性たち』岩波書店(岩波ブックレット)、2020

日本図書館協会非正規雇用職員に関する委員会編『非正規雇用職員セミナー「図書館で働く女性非正規雇用職員」講演録』日本図書館協会(JLAブックレット)、2022

せやま・のりこ

公務非正規女性全国ネットワーク(はむねっと) 副代表、埼玉大学ダイバーシティ推進センター准教授。2001年から2020年3月まで、台東区、港区、埼玉県の男女共同参画センターに勤務。その後、淑徳大学、明治大学等での非常勤を経て、2022年6月より埼玉大学ダイバーシティ推進センターで教育・研究活動に従事。共編著に『官製ワーキングプアの女性たち』(岩波ブックレット、2020)、『災害女性学をつくる』(生活思想社、2021)、『往き還り繋ぐ 障害者運動 於&発 福島の50年』(生活書院、2019)など。

 

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