編集委員会から

編集後記(第26号・2021年春号)

―――総選挙近し、問われる野党共闘のありかた×維新は
悪しき自民党別動隊

▶日本の政治の劣化が語られて久しい。否、もう底が抜けているとも指摘される。最低の総理・麻生、最悪の総理・安倍の後が菅である。総理として三者に共通しているものは、知性と教養の無さと言えば言い過ぎだろうか。コロナによって日本政府の無能ぶりが曝け出され陰鬱な気分の日々だったが、久しぶりに気分よくなったのが、長野、北海道、広島の衆参3選挙で立憲民主党など野党の3勝となったことだ。勿論、北海道2区は、古川元農相の汚職・起訴・議員辞職にともなう補選。自民党は候補者を立てられず不戦敗。長野参院補選は、立憲議員の死去にともなう補選で選挙に強いとされる弔い合戦であった。

 焦点は広島の参院選。日本中を騒がせた河井案里の辞職にともなう”政治とカネ“をめぐる再選挙。2年前の広島参院選で河井案里の擁立には、自民2議席を名目に案里を担ぎ出し、肩入れにはアベやスガ、二階が深く関与。案里には党本部より1.5億の選挙資金(これが買収・違反の軍資金)、もう一人の自民候補には1500万と無茶苦茶。夫の克行衆院議員が白昼堂々と買収の金をばら撒いて歩く(最近議員辞職)。かくして今回の選挙にあたり多くの自民党支持者は、”広島の恥、もう恥ずかしい“と多くが棄権、また野党の宮口治子に自民票の約20%が流れた。逆風ではあっても自民が圧倒的な基盤を持つ広島では勝てると踏んでいた自民だが、遂に立憲系野党の宮口候補が競り勝った。確かに自民党の失策による立憲系の3勝は手放しでは喜んではおれない。しかし選挙は勝たねばならない。途中に連合によるイチャモンで野党共闘が少しギクシャクしたが、逆に野党の共闘が成功すれば自公を相手に十分に勝負になることを示した。これは間もなくの衆院総選挙への貴重な教訓となった。

▶体制の選択といわれる解散・衆院総選挙はいつになるのか、政界はこの話題で持ちきり。議員や候補者諸氏はおちおち眠っていられない昨今だろう。予算成立後や5月解散はコロナによって無くなり、スガの頭には、オリ・パラ(7.23~8.8、8.24~9.5)をたとえ無観客でも強行し、その余勢をかつて解散―総選挙で政権延命の目論見であろう。その場合9月解散である。問題はコロナによってオリ・パラが不可能になった場合だ。開催か中止か、判断のリミットは6月某日であろうが、その場合はコロナ次第での総選挙だろう。スガ政権にとってワクチンの遅れなどコロナ状況が改善せず、ずるずると10月21日の任期満了日前後もナシとしない。

 本誌本号、現下の日本の政治状況を踏まえ、新たな企画「深掘り」シリーズを開始、随時掲載する予定。第一弾は、前号掲載の本田宏さん(北海学園大)の、「野党ブロックの正統性と新自由主義からの転換」の論文をめぐって、堀江孝司さん(都立大)、住沢さん(本誌)が徹底討論。日本政治の今後の在り方を決するであろう野党共闘とは。突き詰めれば「共産党含む『野党ブロックの制度化』は可能か」を徹底討論。14000字となる長文だがお時間ある時にゆっくり読んでいただきたい。

 環境論の松下和夫さんが、今、話題の斎藤幸平さんの『人新世の「資本論」』を取り上げ、資本主義をやめないと気候危機は止まらないのか? と鋭く問う。本誌・橘川さんは「コロナと人間と社会」を追い続け、今回はコロナ下、一年半経って分かってきたことは何かを論じる。これも連載願っている金子敦郎さんが、喧騒は一息ついたが深刻なアメリカの現在を、「さらなる分断へ突き進む米国-バイデン『ニューディール」』VS 白人至上主義・陰謀論」と読み解く。好評の「キーパーソンに聞く」、今回は立憲民主党の論客・辻元清美さん(党副代表)が登場。

 本誌は、この間一貫して働き方改革の名の下で進行する労働の在り方の変貌を追及。とりわけ非正規労働者の激増がもたらす深刻な日本の実態は、社会の変容を招き、将来無年金者等が激増し、最後のセーフティーネットといわれる生活保護の制度すら崩壊しかねない事を危惧する。この非正規問題に一貫して警鐘を鳴らしてきた自治総研の上林陽治さんは、著者に聞く形式で自著『非正規公務員のリアル』を論じる。本誌編集委員の池田さんは、竹信三恵子さんらの『官製ワーキングプアの女性たち』を「この一冊」欄で取り上げ、非正規雇用の拡大を支える女性差別を指摘。ユニオンの委員長でもある本誌の大野さんは、英国などの最高裁判決を紹介し「英国最高裁判決『Uberは労働契約』に学べ―働く者を個人事業主にしてはならない」と論じる。働く者が共有すべき喫緊の課題であり、為政者や資本家が厳しく反省すべきテーマだ。               

▶総選挙が近づく今、どうしても一筆すべきは、日本維新の会の危険性・犯罪性についてである。総選挙をめぐる情勢調査では、自民党が減らす議席数の一定数を維新が確保、つまり維新が伸びるという結果が多いようである。これは憲法をめぐる自民など改憲勢力の三分の二問題にも影響大で、改憲勢力である維新が伸びるのは由々しいことだ。指摘されているように維新は自民の別動隊・悪しき補完勢力としての存在価値があるということ。維新の性格や本質については多く論じられ、竹中平蔵ばりの新自由主義に基づく民営化の信奉者、右派ポピュリズム、露骨な労働組合への敵視政策、自民党別動隊など。

 今回は別の角度から維新のいかがわしさを見てみる。維新といえば創始者の橋下徹と前代表・松井一郎、現代表・吉村洋文の三人であろう。松井は、自他ともに認める”八尾の不良“である。高校時代に不祥事を起こし放校処分(本人は退学と。この不祥事はここでは詮索しない)。日本の政財界の黒幕・右翼の笹川良一が関係する九州の高校に拾ってもらい、系列の福岡工大を卒業。自民党から維新へ。吉村がネト・ウヨであることは有名。また悪徳サラ金・武富士の顧問・代理人としてジャーナリストへの「スラップ訴訟」の代理人を務める。若い時代の所属事務所の関係と看過できない悪徳弁護士ぶりである。その後、橋下と知り合い政治の世界へ。橋下徹の破廉恥さも一つ。これは外国人記者クラブの席上で本人が認めたが、橋下は、大阪の昔から有名な西成の遊郭―飛田新地(今も昔の遊郭のままの雰囲気で営業を続けている。約150店が軒を連ねる)の料飲組合の顧問弁護士を務めていた事実。維新の創業者代表・橋下、前代表・松井、現代表・吉村の三人の過去である。政界で不祥事が話題となると、”また維新か“がメディア関係者の挨拶代わりとか。 

 疑惑のデパートといわれる維新、この2年間で約20件の不祥事で逮捕や起訴、新聞報道されたりしている。とてもこの小欄では詳細は書く紙幅はない。直近では大阪選出の参院議員の公設第一秘書が殺人未遂で逮捕(義父は大阪維新の党紀委員長)。市役所にサウナを設置して泊まり込み、職員に汚れたタオルを洗わせたり、パワハラの数々。百条委員会で不信任相当の決議も、これまた大阪の特質である維新と公明が結託して議会での決議を否決。この市長も維新。例の愛知県・大村知事不信任の住民投票実施の署名運動で大量の偽造を指揮した事務局長も維新の次期衆院選候補であった。国会で常に物議を醸す足立康史も維新の3期目。丸山穂高も元維新。悪質の度合いではこれ以上なかったのが19年参院選愛知の維新候補・長谷川豊(元フジアナ)の講演での究極の部落差別発言。長谷川は講演で「江戸時代には士農工商の下に人間以下の存在がいた・・・」と身分を示す差別的な呼称で取り上げ「人間以下と設定された人たちも・・当然、乱暴などもはたらく・・」と。大問題となり抗議を受け立候補断念。

 維新の不祥事は最近のことではない。京大の藤井聰教授によれば、2012~2015年で摘発や起訴、新聞等に報道されたもので27件に及ぶとリストを公表している。橋下維新政治はこの頃、「ブラック・デモクラシー」とも指摘されていた。他党派にも不祥事はもちろんあるが維新は異常な多さ、悪質さも尋常ではない。もはや社会学的・心理学的分析の対象ではないか。とても政治を託す気持ちにならないだろう。それが自民党の別動隊となることは最悪である。自民のみならず代替えとしての維新の伸長を許してはならない。

▶最後に一言。「コラム/沖縄発」、玉木一兵さんの「幻の対話―島ハーフの眼力」を読んでいて思わず涙ぐんだ。一読を。また「コラム/情報」で故小寺山康雄さんの「追想集」が発行されたことを紹介した。60年安保闘争からの関西を中心とした著名な社会・政治活動家。読者には知る方も多いと思う。第三次現代の理論では編集委員を務めてもらった。名物コラムであった「想うがままに」21回のバックナンバーを読めるようにしました。本文参照。    (矢代俊三)

季刊『現代の理論』[vol.26]2021年春号
   (デジタル26号―通刊56号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2021年5月7日(金)発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-24-12 西池袋ローヤルコーポ602

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郵便振替口座番号/00120-3-743529 現代の理論編集委員会

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