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シリーズ・深掘り討論(第1回)

共産党含む「野党ブロックの制度化」は可能か

本誌25号本田宏論文「野党ブロックの正統性と新自由主義からの転換」を深掘りする

話す人:本田 宏(北海学園大学教授)×堀江 孝司(東京都立大学教授)

司会:本誌代表編集委員 住沢 博紀               

1.Zoom鼎談で論点を深掘りする

住沢:『現代の理論』ではデジタル誌であることを活用して、執筆者と同じ分野の研究者を交えた寄稿論文をめぐる討議を企画しました。今回は第25号本田宏論文「野党ブロックの正統性と新自由主義からの転換」を対象とし、著者の本田宏さん(北海学園大学教授)と堀江孝司さん(東京都立大学教授)に、私が質問と問題提起をする形で、本田論文のテーマを掘り下げてもらいました。

お二人には『脱原発の比較政治学』(法政大学出版局 2014)という共著もあり、堀江さんは、田村哲樹さん(名古屋大学教授)、近藤康史さん(同)の3人で『政治学』(勁草書房 2020)という政治学を学ぶ学生のための「入門書」を書かれており、現代の政治理論と政治学の課題に精通されています。

議論すべきテーマは3つです。第1に、安倍-菅政権の多くのスキャンダルにもかかわらず、自民党支持率が安定しているのはなぜなのか。また政党・政権支持率をめぐる世論調査は、現実政治の中でどのような役割を果たしているのか。

第2に、二大政党制ではなく、二大政治ブロックの構築が必要とされているという本田論文の主旨は、20世紀型政党政治のどのような変容を反映しているか、また日本で現実性を持つための条件とは。

第3に、二大政治ブロックの新しい対立軸とは何か。「新自由主義VS支え合う社会」という包括的な対立軸ではなく、重要な基本政策をめぐる対立軸、ここではとりわけ、脱原発政策、公共サービスの再建、女性政策に絞って議論する。

まず本田さんからお願いします。

2.野党が低い支持率となる構造的問題

本田:まず世論調査では立憲民主党の支持率が低いのはなぜかと言う話で、リーダーシップがないとか、党首の感情温度が低いとか、そういう話に持って行かれがちだけど、自民党との支持率の違いは桁が違うので、構造的な視点が必要ではというのが最初の問いです。そこで組織の正統性に関するサッチマンという人の論文を使ってみることにしました。野党は政権担当能力がついていないからだめだという意見がよくありますが、野党とは定義から言って政権についていない政党ですから、政権担当能力を磨けといっても限界があります。

住沢: 正統性の3区分で、野党は政策からの実利や認知度が低いなど、自民党に比べると圧倒的に不利なのは分かるのですが、他方で、2017年の衆議院選挙比例区では、自民は約1856万票(33.3%)、立憲は1108万票(19.9%)、希望の党968万票(17.4%)と、立憲民主党、希望の党だけでも自民を越えています。とすると国民の投票行動ではなく、世論調査に現れる極端に低い野党の支持率と、新聞・テレビなどのメディアで露骨な世論誘導を行い、世論調査の動向に応じて国会運営をする安倍-菅政権の在り方が問題なのではと思いますが。それでこの投票行動と政党支持率の乖離を堀江さんはどのように分析していますか。

堀江:本田さんの論文を共感をもって読みました。特に一点目の世論調査と選挙結果の乖離に関して、民主党が政権を取る前から言われていましたが、野党というのは選挙のない時期には支持率は低くても、選挙の前に支持率が上がることがあるので、支持率が低いことを気にしすぎない方がいいと思います。

本田論文で共感を持ったのは、「与党利得」といわれているものへの言及です。与党であるが故に有利なことはたくさんあって、本田論文のサッチマンの実利的正統性というのは、与党でいるから配分できるリソースを持っているということですね。また与党でないと政策への働きかけもあまり有効ではないし、報道もされないので、有権者の政党認知度も上がらないということがあります。しかしそれだけではありません。

与党は政治日程をコントロールできるということもあります。よく言われるのは首相の解散権の問題です。解散の時期以外にも、選挙前の政治日程をコントロールできます。2019年の参議院選挙でいうと、7月選挙は分かっている中で、5月に令和に改元しました。これは非常に不自然で1月でも4月でもなく5月に改元し、その後5月中にトランプ来日があってテレビが追いかけるわけです。そして6月に大阪で G 20サミットがあって、選挙前ずっとおめでたいムードを演出し、安倍さんが国際的な舞台で活躍しているというものを見せ続けて選挙戦に入るわけです。

他に国会を開会しないということもあり、2017年にモリカケ問題で支持率が下がると、野党の要求にもかかわらず100日近くも国会を開かず、開けば冒頭解散とか、与党に有利にゲームを進める仕掛けがあるわけです。こういうことがあるのに野党が弱いからという議論の進め方には疑問があり、本田論文に共感できます。

住沢:要するに得票数で見る限り安倍-菅自民党政権は強くない。しかし現在の選挙制度と公明党との連立政権のもとでは、選挙は政権交代ではなく、自民党内での首相の力や安定さを測る尺度に過ぎなくなっています。

堀江:得票数についていうと、安倍さんは選挙で6連勝したから選挙に強いと言いますが、安倍自民党に投票した人は多くありません。比例の得票数では、2009年に麻生自民党が民主党に惨敗した時を上回ったのは、2016年の参議院選挙だけで、他はそれより少ないです。だから、小選挙区制中心の衆議院、参議院も一人区が勝敗のカギを握るという現在の選挙制度のもとでは、自民党の勝利の方程式は、野党候補が一本化されず、投票率が上がらないことです。逆に野党は、候補を一本化することとともに、投票率が上がることを目指すべきです。

2019年の参院選の時、投票所でのNHKの出口調査では無党派層が21%、そのうち3割が与党に、6割が野党に入れています。その一週間前の世論調査では、無党派層が39%です。要するに無党派層の人は選挙にいっていないわけです。

住沢:本田さんの引用する「組織の3つの正統性」では、野党の立憲民主党は道徳的正統性しかもちえないという事ですが、これは日本の特殊性なのか、他の国々では、野党ももっと広い正統性を持ちうるという事なのでしょうか。

本田:それは政党の問題もあるけれども、有権者の指向の問題もあり、自民党の支持者は実利的に考えるのに対して野党支持層は道義的正統性を求める傾向があるのではないかと思います。また政党支持には強い支持と弱い支持の違いがあり、野党にはあまり強いアイデンティティを感じないから質問されると支持しているとは答えず、しかし投票では野党に入れる人がいます。自民党の支持層の方は恥じることなく自民党支持と答えるわけで、世論調査では自民党の支持率が突出して高くなり、野党が極端に低い支持率になる構造があります。

3.野党を認知・承認するためのプロセス

住沢:確かに「カネと政治」をめぐる問題は、立憲民主党の道義的正統性を強め、この点では国民も立憲民主党を支援しています。しかし政党にとってそのポジションが認知されることも大事であり、立憲民主党の「立憲主義」や「新自由主義に対抗する支え合う社会」では、あまりに理念的であり抽象的です。

『現代の理論』24号で政審会長の泉健太さんにインタヴューした折り、もっと立憲民主党のアイデンティティの領域、脱原発・再生可能なエネルギーへの転換をめざすグリーン政党であるとか、女性が対等に働き、自らのライフコースを選択できる自立女性の党であるとか、働く者の権利と雇用を守る党とか、アイデンティティの政治も広く強く認知されるためには大事ではと質問しました。

本田:しかし有権者自体のアイデンティティも多様化しており、特定のものに絞るとむしろ支持基盤が狭くなってしまうという面もあると思います。

住沢:もちろんシングル・イシュー(単一争点)の政党ではなく、そうしたさまざまなアイデンティティをつなぐという事は不可能なのでしょうか。

堀江:イギリスのブレクジットやトランプの当選で、リベラルはアイデンティティの政治をやりすぎて、生活や仕事に困窮する労働者層を逃してしまったという話があります。日本でも、ジェンダーの話をしても票にならないよとか、憲法の話ばかりでなくもっと生活の話をしろとか言われますよね。当たっている部分もありますが、もっとバラマキをやれば勝てるという人もいて、それは単純に過ぎます。2019年の参議院選挙で枝野さんも玉木さんも、暮らしの話ばかりしていましたが、それでは勝てませんでした。

文化やアイデンティティか経済かではなく、どちらもやらなければならないのです。ジェンダーの話も、女性は有権者の半分ですけど、しかし女性の中にもいろんな意見やアイデンティティがあります。私も関わった、生活経済政策研究所の「民主党再建プロジェクト」という企画の最終報告書にも書いてありますし、議員さんにも何度か申し上げましたが、フォーカスグループ・インタビューをやったらいいと思います。

マーケティングの手法ですが、政権を取る前のブレア労働党が属性ごとに細かいグループに分け、それぞれのグループインタビューを何度も行う。そうすると一般的な世論調査の単純なイエスかノーではなく、もう少し詳しい要望も分かるし、それぞれの属性ごとに何を求めているかがわかる。それを日本でも行ったらどうかという話です。

例えば非正規雇用の人とか、小さい子どものいる人とか、高齢者とか、医療従事者とか、細かいグループごとに人々を集めて、どういう政策を求めているかだけではなく、民主党政権のどこがダメだったのか、なぜ安倍政権支持だったのか、なぜ選挙に行かないのか、そういう事を細かく聞き取って、その中でこういうグループとこういうグループとは一緒になるのではないか、というパズルを色々試してみる。

対立軸をあらかじめ上から設定するのではなく、もう少し細かくこういうグループとこういうグループをつなぐという形で、下から積み上げていく中で、もしかしてそれが「反新自由主義」かもしれないけど、そういうことをやってみては。

住沢:フォーカスグループへのインタヴューを繋いでいくという提言は興味深いです。立憲民主党が3月30日付けで、衆議院選挙向けに「基本政策」をまとめました。そこではすべてが書かれていますが、「政権担当能力を持つ立憲民主党として、何を優先課題として、どのようにそれを実現してゆくのか」というプロセスを欠いています。つまりは政府への不信票だけではなく、立憲民主党への認知・信頼(道義的正統性+認知的正統性)の票に変えていく作業が必要だという事です。それができれば、実利的正統性も徐々に獲得できると思います。

今、政党と政策を中心に議論してきましたが、日本の場合に、政府や与党に偏って報道するメディアの問題もあると思います。この点ではどうですか。

本田:日本の既成のメディアは、広告収入は激減だし発行部数も減らしています。相対的にいえば毎日新聞の方がまだがんばっている。朝日新聞と NHK の劣化が特にひどいと思いますが地方新聞もかなり劣化している。インターネットの方に重点が移行していくのではないかという風に思っています。

堀江:林香里さんはテレビの陳腐化と言っていますね。保守化とか右傾化というより、無難で当たり障りのないことしかいえないと。政権に批判的なキャスターが次々に姿を消したことを考えても、テレビはかなり残念なことになっていますね。ただ、マスコミでも頑張っている人もいるわけで、受け手側の問題も大きいように思います。例えば、朝日新聞が公文書改竄や「総理のご意向」文書など、政権がいくつか吹っ飛んでもおかしくないぐらいのスクープを連発しましたが、政権はずっと続いちゃう。スクープとは一体何だろうと考えさせられます。

住沢:私が問題としたいのは、かつてギデンズやベックが唱えた「再帰的近代化、あるいは反省的近代化」の問題です。工業化された近代をさらに「近代化」するわけですが、その是非は別にして、アメリカでは80年代からの金融資本主義、デジタル社会化への転換、ヨーロッパではEUの成立やエコロジー社会など、いくつかの「近代の近代化」が見られます。

しかし日本の場合は近代が強固な構造となり(大企業や利益団体)、高齢者が支配層となり創造的な若きインテリジェンスは排除され、SNSに活路を求めています。60年代、あるいは80年代という近過去への回帰、まさにテレビでは60年代、80年代が「現代」の伝統文化となり、陳腐化の最たるものになっています。

4.安定した野党ブロックを創出するために

住沢:それでは次に第2の問題、二大政党制ではなく二大ブロックの選択論に行きたいと思います。日本の選挙制度改革はイギリス型の「政権交代のある二大政党制」が目標であったのですがそうはならなかった。本田さんはこの現実を踏まえ、自民・公明のブロックに対抗しうる野党ブロックの構築を提案されています。実際にも、立憲民主党・国民民主党・共産党・社民党などの、衆参選挙区の一人区における統一候補の擁立が課題となっています。

本田さんの研究対象であるドイツでは、保守対社会・自由連合とか、80年代以後はネオリベラル対赤と緑の連合とか、2大グロックの対立軸が確かにありました。今質問したいのは、これは20世紀の構造であって、21世紀に入ってこうした二大ブロックの対立軸という構造はなおも有効なのか、とりわけ日本では、一人区の野党統一候補という枠組みを超えて、2大ブロックの形成というのはありうるのかということです。

本田: ヨーロッパを見ると2大ブロックはもはや十分機能してない面があります。北欧では少数政権が許容されているので二大ブロックの枠組みが残っている。フランスだともう政党制が何だか分からなくなっている。ドイツも昔は赤(社民)と緑、黒(キリスト教民主)と黄(自由民主)という二大ブロックがあったが、今は流動化していろんな組み合わせが可能になっている。

ただ日本の場合には二大政党制がうまくいかないことは明らかになったとはいえ、小選挙区制の影響が相対的には強く、両極化傾向が出ているので共産党と立憲が手を結んで野党ブロックを作るしかなくなっています。しかし維新の党のような勢力が意外と根強いので、最終的に二大ブロックが安定するかどうかは少し疑問も残ります。

住沢:日本で政党ブロック、とりわけ野党のブロックという場合、今では世界でも珍しくなった日本共産党の存在と、それから今言及された、維新の会の存在があるかと思います。とりわけ「みんなの党」や「維新の会」、これに「小池新党」のエピソードなどを付け加えると、選挙のたびに、600万から1000万近くを集めるポピュリスト政党という第3極が登場します。山口二郎さんが、市民連合などにより一人区の野党統一候補の擁立のため各地を回っていますが、これは実践的な課題です。本田さん堀江さんにとって、選挙協定を超える野党ブロックの条件や共通点は何でしょうか。

本田:野党ブロックに関しては三つの補選で全勝はしました。立憲民主党の牙城である北海道に関しては、一本化された立憲の候補者の人望が高いとはいえなかったのですが、共産党は最終的に支持を決めました。野党ブロックの枠組みを守ることに大義を見出したのでしょう。同じ日の名古屋市長選挙はポピュリストの現職の対抗馬が自民党で、それに共産党も含めた野党系が乗る難しい形でした。維新の会は大阪周辺に限定されています。全般的には野党ブロックが安定に向かっている気がします。

住沢:具体的にいえば、吉村知事(+橋下徹)の「大阪維新の会」、河村名古屋市長の「減税日本」、それに小池都知事の「都民ファーストの会」の3つですね。それぞれに自己演出と統治の実態との乖離が、コロナ禍で誰の目にも明らかになりつつありますが、堀江さんはこのポピュリスト政党の存在をどう考えますか。

堀江:4月18日の朝日新聞に載った世論調査では、衆議院選挙で次の首相はどうあるべきかという問いに対し、「衆議院選挙による政権交代で首相が代わる方がいい」が50%、「自民党の中から首相が選ばれ続けるほうがいい」が35%。これだけ見ると政権交代が望まれているように見えますが、政党支持で見ると自民党が圧倒的に多くて野党支持が少ない。仮に今投票するとしたらどこに入れますかという設問には、自民党が46%で立憲民主党が16%、他の野党はもっと少ない。だから、「衆院選による政権交代で首相が交代することを、すぐ求めているのではなさそうだ」という記事になる。

しかし聞き方の問題でもあって、自民公明ブロックと野党ブロックがきちっと対峙していて、どちらを選びますかと聞いたらまた違った結果が出ると思います。現在は明確な選択構造になっていないので自民党以外にないとなってしまいます。せめて世論調査ではどちらのブロックに入れますか、と聞かれるぐらい与野党が対峙する構造をつくることができれば、だいぶ違ってくるのではと思います。

第三極の問題は難しいですね。完全になくなることはないと思いますが、維新に一番勢いがあったのは、民主党政権時代の2012年頃だと思います。大阪では、もう長いこと与党なので今も強いですが、二大ブロックがしっかりしているときには、第三極が大きくなる余地は制約されるのでは。

本田:野党ブロックの存在感を高めるには、何らかの形で制度化を進めた方がいいと思います。立憲民主、連合、共産の三角関係の微妙なバランスをとりながら候補者一本化が進められていますが、国民民主やその後援者である連合から共産党に対する牽制球がときどき飛んでくる。一般の有権者や野党支持層にとっては非常に不透明でわかりにくい。野党ブロックとして戦う形をもう少し公然化して、ある種のルールや役割分担ができてくるといいと思います

堀江:共産党もふくめた野党ブロックの存在は、2015年の安保法制の際に、学者の会やシールズなどによる市民連合が登場したことが一つの契機になっていると思います。いろいろなグループや組織が安保法制反対で共闘し、やはり一つにならなければという切実感が出てきました。その後、共産党も「市民と野党の共闘」と枕詞のように言うようになりました。

ただこれから衆議院選挙を控え、野党統一候補を擁立していくと必ず、「政策が異なるのに野合だ」という批判が出てきます。しかし誰がそういっているかをきちんと記録していけば、野党ブロックを妨害したい人たちがいっているとわかるはずで、こうした批判に過剰に反応しないようにするべきです。

住沢:それではお二人に、野党ブロックを単なる選挙時の統一候補というレベルを超えて、もう少し安定した枠組み、基盤を作るためにはどうすればいいか、どのような方法があるか話していいただけますか。

本田:究極的には選挙区で候補者が野党ブロックとして立ち、その意味では政党が相対化されていくところまで行けるかどうかです。候補者選定手続きのような部分でもう少し公式化できないものか。予備選挙やればいいんじゃないかという人もいます。実務的な問題を考えるとハードルは高いですが。

堀江:中北活爾さんの自公政権の本がいうように(『自公政権とは何か』ちくま新書 2019)、選挙、国会、政権という3つのレベルがありますが、やはり選挙で勝ち目が出てこないと他の二つは進みにくいでしょう。そのためには本田さんの言うようにフォーマルに「制度化された野党ブロック」ができるといいのですが。とりあえず2016年と19年の参議院選挙では、一人区ではできたのですから、とにかく分裂しないでほしいですね。

2017年の衆議院選挙では前原さんの失敗で、投票目前に野党第一党が丸々なくなってしまった。あのようなことがもう起きてほしくないので、『現代の理論』17号(2018年)に、「一強」の影に怯えるなというようなことを書きました。

住沢:お二人は私よりも日本共産党の現状に詳しいと思いますのでお聞きしますが、立憲民主党のがわの問題をさておいて、日本共産党がどのようにすれば野党ブロックの制度化が進むのでしょうか。

本田:綱領は旧態依然としているけれども、共産党の実際の行動は野党連携に命運を賭ける方向になっていて、各議員の活動もリベラル政党のようになっています。形式と実態がかけ離れてきているので、どこに着地点を見出すのかはわからないですが、消滅することはないと思います。

5.二大政治ブロックの対立軸とは

(1)産業政策としての脱原発プランは可能か

住沢:それでは第3の論点です。本田さんは、二大政治ブロックの対立軸として、新自由主義を設定されています。しかしそもそも安倍―菅政権は新自由主義なのか。また新自由主義は1980年代からの流れですが、21世紀に入って、とりわけ2008年のリーマンショックやグローバルなデジタル社会の進展の中で、ネオリベラルの内実と、その政治・経済社会の中でのポジションが変わってきていると思います。

それを踏まえて、本田さんに二大ブロックの対立軸についてお聞きします。例えば立憲民主党の3月30日の基本政策に関連して、枝野さんは「原発ゼロ法案の立場をとらない」といっています。こうしたことをどのように判断すればいいでしょうか。

本田:立憲民主がだんだん脱原発を薄めて来ている感じはあります。脱原発は、自民党との違いを打ち出す点では、ある程度有効だと思います。ただ現実にどのような日程や条件で脱原発をやって行くのか、あまり突き詰めてしまうと不協和音が出てくるので、ある程度マージンを許容する実利的な解決が無難だと思います。国民民主の後ろ盾になっている電力総連や電機連合などは原子力産業の組合であり、脱原発に抵抗する姿勢にこだわっています。

大まかな方向性は脱原発でいいのですが、例えば再生エネルギーの拡大には送電線の強化が必要だったり、使用済み核燃料の問題だったり、原発やめると言った途端に傾く可能性があるので電力会社を支援するのかとか、いろんな問題が出てくるわけです。しかし枝野さんのように、そういった法的・技術的な各論を強調して脱原発は簡単じゃないと今から公言するのは、あまり得策ではない。ビジョンとしての脱原発は明確にすべきだと思います。

堀江:民主党の頃から、脱原発は旗印ですよといってきました。自民党が野党の政策を取るということは昔からよくあり、安倍政権の「女性活躍」「一億総活躍」「働き方改革」などにも、もともと野党の主張だったものが入っています。自民党に真似されないことをやるべきで、脱原発はその大きな一つです。何年か前に野党議員から、電力総連の幹部としばしば会談していて、ちゃんと社員が食べていけるめどがつけば、何が何でも原発に固執しないといっていると聞いていましたが。

微妙な話ですが、菅直人さんが脱原発派の集会で、「民主党を脱原発にするのは簡単ですよ。民主党の代議士の選挙ポスターを貼る手伝いをして下さい」といっているのを聞いたことがあります。連合の組合員の助けがなければ選挙もできないという話ですね。

また違う視点からいうと、年齢が若いほど、原発支持が多いのです。理由はよくわかりませんが、まさかこのままずるずる時間稼ぎをして、世代交代するのを待っているなんてことはないでしょうか。相手はなかなか手強いので、立憲民主は脱原発の旗を降ろして欲しくないですが、本田さんの言うように曖昧な選択、つまりブロックが崩壊しないような形でそれを維持していくという形がいいかもしれません

住沢:2017年、立憲民主党の立党精神は、立憲主義に立ち安倍政権の安保法制を撤回させること、それと原発ゼロ政策でした。『現代の理論』前号の逢坂議員とのインタヴューでも、「原発ゼロ法案」は立憲民主党内での基本的な合意事項でもあったと語っています。その場合、再生エネルギーへの現実的な転換政策として、国の支援による送電線の大胆な整備、電力会社への経営面での支援と社員の雇用の保障(転換のための職業教育も含めて)、さらには電源3法の恩恵を被る原発立地の自治体への移行措置による支援策など、包括的な政策ユニットが、決議に至らないまでも議論されていたと言われています。

私が不思議に思うのは、なぜこうした包括的な転換プログラムを、その巨額のコスト負担も含めて提起しないのだろうかということです。このレベルまで提起をして初めて、電力会社の労組や、原発立地の自治体、それに国民の多くや企業も含めて、「脱原発―再生可能なエネルギーへの転換」をリアルな選択肢として議論できるし、信頼に値する政党として認知されると思うのですが。

本田:ドイツはまず労働組合の思考が違っていて、金属労組が最大の組合ですけども、あそこは割と早期に脱原発路線に転換しています。日本で言うと電機連合や自動車総連、基幹労連とか、そういう組合が全てドイツでは金属労組に入っていて、それがもう風力発電でもいいよというように転換しました。ドイツでは風力発電製造産業が早期に立ち上がって、成長部門になっています。

日本の場合、かつては風力発電の製造も三菱とかがやっていましたけれども、今は国があまり推進しなかったので出遅れてしまった感があります。太陽光も中国が作っていますので再生エネルギー産業がどの程度の雇用をつくるか不透明になってきている面があります。あと風力を大幅に増やすには、EUがやっているように送電線の増強が必要になります。それを日本の電力会社に任せておくといつまでたってもできないので、国費を投入しないと進展しません。

堀江:労働組合が原発を止めても食っていけるならという話がありましたけれども、電力会社だけではなくその地域全体の雇用と生活をどう保障していけるか、という事を含めて考えなければなりません。そのことに知恵を絞ってほしいと思っています。

住沢:今、コロナ禍のもと経済を維持するために政府が財政出動をしなければならないことが明らかになり、また国民の多くも承認しています。公的な保健―医療システムを縮小してきた大阪府は、コロナにより医療崩壊を起こしています。生活や経済を回すために政府の財政出動や公共サービスの充実が必要なことが再認識されています。

EUではコロナ禍から復興するために、EU共通の債権を初めて起債し、合計で7500億ユーロ(97兆円)を未来に向けた投資として承認しました。ドイツでは脱原発よりも脱石炭火力発電の方が、地場産業と地域の雇用をめぐり大きな政治課題でしたが、これも企業や地域への巨額の財政支援も含めて解決しました。

新自由主義への批判は、こうした具体的な、総合的な転換政策を提示しない限りリアルな政治選択として登場できないし、新自由主義を批判してきた金子勝さんも、最近で産業転換政策を訴えています。野党ブロックがなぜこうしたトータルな転換政策を提示できないのでしょうか。

本田:まずバラバラの党をまとめるのが優先で、政策のどこに重点を置くかを決めるほどの余裕がないのだと思います。

堀江:アベノミクスで自分の懐が豊かになった気がしないという話をよく聞きましたが、これしかないと支持していた人も多かったと思います。じゃあそれ以外にもこれがあると示せればいいのですが、説得力のある提言が簡単に出せるわけでもなく、しかしこのことは常に考えなきゃいけないことだと思います。

住沢:共産党はどうですか。先ほどからすでにイデオロギーにはあまり拘束されていないということですし、立憲民主党のようなバラバラな党内事情はないでしょうから、実利を伴う包括的な対案や産業政策は、やる気になればむしろ立憲民主党よりも作成しやすいのではないでしょうか。

本田:共産党も意外と経済的な争点に重点を置いてないところもあって、立憲民主党とはリベラル政党の程度問題の違いしかないように思えます。それでも共産党の方がまだ支持層の中に低所得層がいますし、病院とか全労連とか弱者への感度はあると思います。その反面、産業政策はあまりないと思います。

住沢:共産党は大企業の経営を維持するための補償もふくめた産業政策は可能ですか。

本田:どうなんですかね。特に大企業を敵としてきましたから。

堀江:再分配とか福祉政策に比べると、産業政策への関心は低いと思います。コロナ政策に関して言えば、企業や事業者に保障をしっかりすべきだと言っています。総合的な、セットとなった産業政策というと、どうでしょうか。

(2)行政の劣化と公共サービス拡大への転換

住沢:今、産業政策も含めて政治、政党が何を提起できるかという話をしてきたわけですが、日本の問題は安倍-菅政権の政治の劣化だけではなく、むしろ行政の劣化が問題であることが、とりわけ今回のコロナ対策において明確になったわけです。これは政府だけではなく自治体や医療・保健行政も含めて、さらにはデジタル化の遅れなど、これまで行政学者が言ってきたようなガバナンスの問題がクローズアップされてきています。政治と行政の問題、この二つをどのように考えればいいですか。

本田:行政の劣化に関して言えば新自由主義が公務員をぎりぎりまで削減してきたことがありますので、行政の劣化と新自由主義批判は関連しています。コロナ禍でも公共サービスの仕事が全然回らなくなり、仕事の質も劣化するし、民間委託が増えて補助金一つとってみても電通に委託しないと回らないという状態になっています。抜本的に公務員や教員を増やす政策を打ち出す余地は以前より大きくなっていると思います。

そのための財源をどう確保するのかということでは、バイデン大統領も法人税や所得税の引き上げや国際金融課税案も出してきています。そういったものを参考にして、評判の悪い消費税以外の財源を増やしつつ、公務員や教員の増員、公立病院への投資に回す。公共事業的で産業政策と言えるかどうかわからないけれども、行政の劣化が明らかなので、公共サービスを向上させるという主張には正統性があります。市場原理にまかせると行政サービスは良くなるというのが新自由主義の論理でしたが、それをひっくり返し、公務員を増やすことがサービスを向上させるということに転換できればいいと思います。

住沢:という事は、今回のコロナ禍で明らかになった日本の公共サービスや医療サービスの劣化(あるいは偏り)を契機として、公共サービスの拡大、つまり市場化、民営化という新自由主義からの転換を野党ブロックは旗印にする時期が来ているといえますか。

堀江:確かにコロナ禍のもとでは可能性があって、バイデン大統領の提案も明らかにコロナがなければ不可能だったですね。このことで日本の行政がうまくいってないことが浮き彫りになった。また本田さんがいう公共サービスの問題も、新自由主義のもとでの削減の帰結でもありますので、新自由主義からの「転換」がテーマとされる可能性が大きくなっています。しかしうまくいっていないから公務員を増やしましょうという話は、まだまだ通りがそんなに良くないと思います。

行政の劣化という問題は、別の面でも問題が露見しています。安倍政権のもとでの公文書の改竄とか、国会での虚偽答弁とか、ひどいことが続いており、それでも何となく政権が持ってしまう。若い官僚がどんどん辞めていて、長時間労働のせいだという解説がよくなされますが、それだけとは思えません。これは大変な損失で、本来は党派的な問題ではなくて、もっと真剣に対応しなければならない課題です。

安倍さんは、内閣法制局や検察など、権力をチェックできる機関を不当な人事を通じてコントロールしようとしました。安倍さんは、国会で100回以上嘘をついたことが認定された人で、また過去の首相で、あれほど権力の私物化ということを言われた人はいないと思いますが、そういう人が権力をもった時に、止める手段が選挙で倒すしかないということでよいのか、改めて考える必要があると思います。

1990年代以来の政治改革・行政改革は、官僚が強すぎるから政治主導を確立するとして、権力を集中させましたが、権力の抑制という視点を欠いていたのではないでしょうか。

住沢:どうも長い時間ありがとうございました。基本政策をめぐる第3の「保守・女性政策からリベラル・ジェンダー政策」は、次号で、女性政策を専門とする政治学者を交えて議論したいと思います。

ほんだ・ひろし

1968年生まれ。北海学園大学法学部政治学科教授(政治過程論)。著書・論文:『脱原子力の運動と政治』(北海道大学図書刊行会、2005年)、「原子力問題と労働運動・政党」大原社会問題研究所編『日本労働年鑑2012年版』、本田宏・堀江孝司編『脱原発の比較政治学』(法政大学出版局、2014年)、『参加と交渉の政治学』(法政大学出版局、2017年)。

ほりえ・たかし

1968年生まれ。東京都立大学人文科学研究科教授(政治学・福祉国家論)。『現代政治と女性政策』(勁草書房、2005年)、『Amorphous Dissent: Post-Fukushima Social Movements in Japan』( Transpacific Press, 2020、共編著)、ほか。

すみざわ・ひろき

1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、フランクフルト大学で博士号取得。日本女子大学教授を経て名誉教授。本誌代表編集委員。専攻は社会民主主義論、地域政党論、生活公共論。主な著作に『グローバル化と政治のイノベーション』(編著、ミネルヴァ書房、2003)、『組合―その力を地域社会の資源へ』(編著、イマジン出版 2013年)など。

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