編集委員会から

編集後記(第23号・2020年夏号)

―――新コロナ危機、試される人間の知性。働く人・社会的弱者へのしわ寄せをするな

◆新型コロナウイルスが全世界を覆い事態は深刻である。思案の結果、本号特集のテーマは「コロナが暴く人間の愚かさ」とした。コロナが意識を持っているわけではないが有史以来、危機にさらされるのは人間であり、事態に対処するのも人間である。世界の指導者はどう対処しているのか。習近平、トランプ、ジョンソン、メルケル、ボルソナロ、文在寅、そしてアベ。アベや官邸官僚の当初からのコロナ対処の酷さは眼を覆うばかりで、一皮剥けばただの人、人間の愚かさを白日の下に曝け出している見本のようなものだ。多くの人は批判を超えて、もう呆れている。本号、特集欄から論壇、コラム欄までテーマは多彩であるが、各稿で、“コロナ禍に直面して、何が問われ、どう対処すべきか”を視野に論じていただいた。それにしてもコロナ禍は、やはり社会的弱者を直撃している。これは世界各国、日本をみても共通の事実。この視点をしっかりと持って共に考えていきたい重大局面、危機はまだまだ続く。

◆それにしても日本はどこに行くのか。このコロナ危機下で総理大臣のアベは国会の場から逃げて一ヶ月余。“御用記者会見”も開かず、逃げ回る。テレビに映るのは、例の役に立たない“アベのマスク姿”。見ただけで役立たずを思わせる。ある自民党議員は、“もう止めてくれ票が逃げる”と嘆いているとか。御用メディアにも、“アベ一強の終わり”が踊っている。確かに“黄昏のアベ”は多くの人の実感ではないかと思う。しかし“アベの悪運の強さ”も事実である。以前なら内閣の二つや三つが飛んでいたような失態を続けても生き残っている。このコロナ危機下で、今秋の衆議院解散を画策しているとか。それもかなりの現実性を持って語られている。秋には来夏のオリンピックの中止が決まる可能性もあり、また11月3日アメリカ大統領選で盟友トランプが敗北する、その前の解散強行かと。このコロナ下で名分が無いと自民党の石破茂らにも批判されているが、解散権を握っているのはアベ。“消費税を時限的に5%に下げる、の信を問う”が名分の解散とも。これに真正ポピュリストの山本太郎が乗れば、アベの勝ちかも(なんぼ太郎でもそれはないやろう、の声は大きいが)。いかがわしい自民党別働隊の維新の会との連携も語られている。何せ野党は脆弱。いろいろあろうが野党新党が結成され、野党の統一戦線で総選挙を闘い、アベに一太刀加えたいものだ。統一戦線の原則は、この欄で触れたが、“課題の一致、批判の自由と行動の統一”である。

◆それにしてトランプ、この男、右・左を問わず日本人には、ほとんど理解不能ではないかと思う。そのトランプを熱烈に支持する岩盤支持層が40%というアメリカとは何か。アメリカの民度とは、と思わざるを得ない。アメリカの共和党支持者には知性も良識も無いのかと疑う。少しでもあれば、あのトランプの傍若無人の暴言にもう少し支持率が下がってもと思う。日本―アベのことを棚にあげて語るなと言われそうだが、それにしてもトランプは酷い。アベがトランプと同じようなことを言えば、まず日本では持たないだろう。日本も他人事ではないがアメリカ社会の分断がそこまで進行している証左。そのトランプの盟友―忠実なポチがアベ。その共通項は、前号でも触れたが“息を吐くように嘘をつく”だ。トランプの頭には11月の大統領の再選しかない。すべての政策・言動がそれに従属している。それも無茶苦茶だと言われようが、強固な支持者固めになればよいとしている。にわかに高まっている対中国敵視政策の強行もその一環。11月選挙にむけ本当に何をしでかすか分からないトランプである。「黒人の命は大切(Black Lives Matter)」運動にも強権的弾圧に乗り出している。それらはトランプの自滅への道であることを願う。毎号寄稿を願っている金子敦郎さんは、「バイデン政権誕生なら、南北戦争『総決算』へ道開くか」と指摘。   

◆いつの世も人間の労働があって社会が成り立ってきた。この神聖なる労働の世界もコロナ禍に見舞われている。本号で働く人―労働をめぐって小林良暢、上林陽治、大野隆さんが、それぞれの角度から現在の労働の課題を論じる。これも世の常、矛盾の矛先は弱者に向けられる。本誌にも執筆いただいている早稲田大学の橋本健二さんは、新自由主義の横行によって新たな貧困層が増大し、それは新たな下層階級と呼ばざるを得ないと著書『新・日本の階級社会』(2018年)で指摘した。その数は900万人を超えると、大きな注目を集めた。新たな下層階級を生み出し、固定化し、拡大させている大きな要因に日本の最低賃金の低さがある(中央最賃審議会の目安答申をふまえ、都道府県ごとに決定される。19年度が東京1013円、神奈川1011円、大阪の964円が上位で青森・島根・沖縄などが790円でA~Dの4ランクに区分される)。問題は日本の最賃額の低さである。数年前、生活保護費以下ではないかと話題となった。生活保護では、母子加算、児童加算、住宅費加算などがあり最賃額を超える。まさに生活保護水準以下的な日本の最賃制度である。最賃時給1500円は必要との声も強いが、それでやっとの最低水準だ。

◆その昔、私は京都で地方最賃審の労働側委員を10年担当した。2000年以前は、審議会で経営側は、“最賃は家計補助的労働の賃金ですから”と遠慮がちではあるがよく主張した。要するに“主婦のパート賃金だから”安くてもよいではないかと。小生、“それやったら、あんたとこの会社、母子家庭のために寡婦手当の制度でも作っているのか”と主張。京都を代表する企業の経営者側委員の皆さんは下を向いて沈黙。公益の先生方はニコニコ顔だったのを思い出す。法定最低賃金の低さはもとより、さらに問題なのは、本誌で大野隆編集委員がたびたび指摘しているように、日本の賃金構造で、底辺層の労働者の賃金が最低賃金に引きずられて上がらない、一体化しつつある、由々しい実態があることだ。賃金は低位平準化の傾向を常に孕む。橋本健二さんが指摘する新たな下層階級の出現と固定化・再生産だ。コロナ禍でますますそのしわ寄せはフリーランスもそうであるが、非正規、派遣、契約、パートなど下層労働者・弱者に向く。野党の奮起や労働組合がその社会的役割を自覚し奮闘することを切に願う。(矢代俊三)

季刊『現代の理論』[vol.23]2020夏号
   (デジタル23号―通刊53号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2020年8月1日(土)発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

〒171-0021 東京都豊島区西池袋5-24-12 西池袋ローヤルコーポ602

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