特集●コロナに暴かれる人間の愚かさ

ポストコロナで新しい働き方が見えてくる

非正規・フリーランスを救う雇用システム確立を

グローバル総研所長 小林 良暢

小池東京都知事は7月15日、新型コロナウイルスの感染者の再急増にともなって、都が設定していた四段階評価の最高警戒レベルである「感染拡大警報」に引き上げると発表した。

東京「感染拡大警報」と日銀「不確実性が大きい」

4月26日、緊急事態宣言の解除をもってコロナは収束されるものと思われたが、東京における感染者の急増という事態と小池知事の「感染拡大警報」で、日本経済は再び混迷局面に逆戻りしている。

都が「感染拡大警報」を発したのと同じ15日、たまたま定例の金融政策決定会合を開催していた日本銀行は、大規模な金融緩和政策の維持を決めた。会合後の記者会見で黒田総裁は、日本経済は「厳しい状態が続く」との認識を示した上で、経済の先行きについて感染症の行方や内外経済への影響の大きさは「極めて不確実性が大きい」と語った。黑田総裁の言う「不確実性」とは何か。

翌7月16日のサンケイスポーツは、「バッハ会長東京五輪開催へ、複数のシナリオ検討」と報じた。サンスポによれば、世界の感染者1300万人となり収束の見えぬ中で、IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が、オンライン形式による理事会後の記者会見で、来年夏に1年延期となった東京五輪の開催について、現状の選択肢として「中止」、「再延期」、「無観客開催」、「制限付きの観客動員」などの四つのシナリオを検討していると語った。このうち「無観客での開催は明らかに望んでいない」としたものの、「再延期」の選択肢については日本側のパートナーや友人と「来年に五輪を祝うべく一丸となっている」と、断言することを避けた。これは、この5月に英公共放送BBCが、来夏に東京五輪が開催されない場合は「中止」となると報じられたことに対する、バッ会長の日本向けのサービスメッセージだと読めるが、「中止」を否定していないところがミソである。なるほど、東京オリンピックの中止は、確かに「不確実性が大きい」。

東京五輪「中止」が世界の常識

私は、古くからの知人と、先日電話で長話をした。この人は商社マンで、現役時代はロンドンや欧州に駐在、中国、東アジアなどでも海外営業に携わり、今でも当時のビシネスパートナーたちとインターネツトで情報交換を続けているという。こういう人は各業界には必ずいて、現役時代から情報交換をしていたが、OBになってもワインでも飲みながら話をしようと時々集まっていた。

そこに目をつけた外務省の外郭団体が、場をセットするから話を聞かせてくれと、年数回の会が設けられるようになった。今年はコロナの話ばかりで、当初は各国のPCR検査やサプライチェーン、雇用対策などが話題になっていた。その後、緊急事態が迫る3月からはインターネット・ミーティングになったが、その頃から海外の人とのやり取りの中で、欧州も、中国も、その他のアジア等の人達も、異口同音に「東京五輪を開催することは無理だろう」と言うようになってきた、という。

黒田総裁が「極めて不確実性が大きい」と言うのは、日銀だって世界各地に支店や駐在員を配置しており、世界の各地から同じような報告が集まっているだろうから、仮に来年夏に強引に東京五輪を開催しても、はたして海外選手も来るだろうか、また「感染拡大警報」が出されている状態の東京オリンピックを見に来る人は少ない、ということくらいは掴んでいるだろう。

休業者597万人の怪

いまひとつの不確実性は、経済の遅行指標である雇用破壊の収束が見えて来ないことである。既にこの5月の有効求人倍率(季節調整値)は1.20倍と前月から0.12ポイント低下し、その下げ幅は1974年1月以来、46年4カ月ぶりの大きさだ。

政府が緊急事態宣言を発令しているさなか、総務省は労働力調査で、4月の休業者数が597万人に急増したと発表した。この統計では過去最多である。ところが、同じ調査の完全失業者数のほうは189万人と、前月に比して13万人増、前月より0.1ポイントの上昇に止まった。仕事を失った休業者が急増したのに、失業者が増えないのはどうしたことか。

労働力調査は、15歳以上の全労働力人口を対象とする全国のサンプリング調査である。このうち少しでも仕事をした者を「就業者」と呼び、約6600~6700万人で景気によって変動幅が大きい。この「就業者」のうち、調査の月の1週間のうちに少しも仕事をせず、かつ仕事を探して求職活動しているのを「完全失業者」と定義している。

だが、「就業者」が仕事を失っても、即「失業者」になるわけではない。「完全失業者」にされるには、次の要件が必要だ。

①仕事がなくて調査週間中にまったく仕事をしてないこと

②仕事があればすぐ就くことができる

③調査週間中に、求職活動をしていた

以上の3つの要件のうち①、②の要件には合ったとしても、調査期間中に求職活動ができなかったり、あるいはしなかった者は、③を満たさないとして完全失業者にカウントされない。

したがって、「就業者」が次の仕事に就くまでの間には、以下の二つに分類される。

①調査週間中に収入を伴う仕事を少しでも(1時間以上)した者=「従業者」

②調査週間中に少しも仕事をしなかった者=「休業者」

この4月の1ヶ月に、①の「従業者」が前年同月に比べて500万人減り、「休業者」が同じく420万人増えた。ということは、597万人が仕事を失いながら、求職活動せずにいたために「完全失業者」にカウントされずに「休業者」のまま止まるという、特異な現象が起きたのである。なせか? 

休業者が前月に比べて一挙に420万人も増えたのは、異常事態である。増加した内訳をみると、自営業主70万人、正規の職員・従業員193万人、非正規の職員・従業員300万人、その他34万人と、非正規労働者がもっとも多く休業していることが分かる。その他34万人にはフリーランスとかクラウドワーカーが含まれているのか、自営業者の中でどの程度カバーされているかはつまびらかでないが、非正規とフリーランスが、休業者急増の原因をつくったことは確かである。

コロナショックの重要なポイントは、非正規やフリーランスの雇用破壊につきる。これに対して政府は緊急事態宣言の発令に前後して、相次いで緊急雇用対策を打った。具体的には、雇用保険の被保険者ばかりでなく、非正規労働者やフリーランスへも幅広く休業助成金、見なし失業給付を適用など、課題はあるがこの政府の政策発動は、コロナ対策のもたつきに比して早かった。

リーマンショックの時には、「雇い止め」や「派遣切り」にあった派遣労働者など雇用保険未加入者はセーフティーネットからこぼれ落ちた。

それから10年、コロナ前の自動車業界には、期間工といわれる派遣社員が全国で約35万~40万人いた。だが、今度のコロナショックで、例えばトヨタ自動車では、休業中の派遣労働者に対しても6割以上の休業手当を派遣会社経由で支払っている。また直系協力会社や大手ベンダー(派遣会社)も同様の休業手当を活用している。リーマンショック時とは隔世の感であるが、これは政府の緊急雇用対策の効果といえる。だから、無理して働かなくても、休業手当をもらって休業者になっているのである。

いずれポスト安倍が誰になるかが争われることになるだろうが、「雇用」に対して的確な手が打てる人が相応しいと考える。今度のコロナ危機に当っては、自民党の岸田政調会長が「雇用調整助成金Ⅰ万4、5千円に」と声を発し、梶山経産大臣も「フリーランスの人達が最大100万円を受け取れるようにする」と続いた。この二人が自民党総裁の候補になるかは不明だが、雇用に対してシャープな政治感覚を持つ人材が望ましい。

雇用対策は、経済政策の範疇を超える政治の問題だ。今度の「みなし失業」制度の適用など、まさに政治経済学である。ケインズ以降の現代経済学の要諦は「雇用」にある。「雇用」を良くする政治家が良い政治家だ。

雇用保護政策の転換を

安倍首相は、コロナ緊急事態を短期に収束できたことを、「日本モデルの力を示した」と述べた。日本モデルとは何か、首相のいう中味は判然としないが、おそらくコロナ不況でも「失業させないで雇用を維持する」という日本型雇用モデルのことだろう。

このモデルが登場したのは1973年の石油危機の後、75年の雇用調整給付金による一時帰休である。たまたま私は大学院を終えて、電機労連に産業政策をつくるために入職してから5年目に、この緊急事態に遭遇、74年の秋口から合理化対策を担当した。

一時帰休とは「米国ではレイオフと言うらしい」ということで、主要組合の副委員長・書記長クラスで構成する産業政策委員会に、法政大学の小池和男先生を伊豆の長岡温泉にお呼びして話を聞いた。

先生から「レイオフは解雇ではない、工場の生産を再開したら元の仕事に戻る、復帰は先任権(セニョリティー)の順だ」という話を聞いて、これなら雇用は守れる、休職中は給付金を貰えばいい。電機労連の傘下組合の大半が一時帰休協定を締結し、74~75年の2年間で延べ117万人か一時帰休した。当時の電労労連の組合員は50万人位だから、各人2~3回帰休した。

電機労連がこの給付金を積極活用したのには、いまひとつ裏の事情がある。この雇用保険法改正に、ゼンセン同盟が繊維不況対策として熱心に取組んできたが、当時の社会党が「解雇をし易くする」と反対して、法案の成立が危うくなった。これから先は、山田精吾さんが連合事務局長を辞めて連合総研に理事長に就任してきて、そこで主幹研究員をしていた私は一緒に仕事をすることになり、そこで山田さんから聞いた話である。

この法律をなんとしてでも成立させるために、山田さんが考えた一策は、電機労連を味方につけることだ。そこで、ゼンセン同盟の宇佐美会長、山田書記長が、電機の竪山委員長、藁科書記長を新橋の料理屋松玄に接待して、同じ民間だから分かってくれるだろうと法案成立に協力を頼んだ。竪山さんが「分かった」と言ってくれ、電機が社会党にねじ込んで、中立労連も法案賛成へ転換させて法案を成立させた。ところが、75年の法の施行時には、繊維産業は慢性不況で工場は閉鎖されてしまい、この新制度を使うことができず、帰休で給付金をがっぽり受給したのは電機産業だった。

この75年には、全国でも6万事業所で一時帰休を実施、不況でも雇用を維持する日本モデルが完成したのである。また、この両産別の4人が、後の民間先行の労働戦線統一を導くことになる。

次にバブル崩壊後の95年のAV・IT不況で一時帰休が急増、雇用調整助成金の給付件数は、全国で9万事業所を超えた。先の見えない長期不況で、電機は派遣・請負の全面拡大に舵を切り、非正規雇用時代を先導した。

さらに2008年のリーマンショックでも、雇用危機が頂点に達する。ことの起こりは「トヨタショック」、08年11月に期間従業員3000人の削減を発表した。これを機に失業者数は派遣・請負で120万人、正社員を含めると200万人をゆうに超えた。また、雇用調整助成金の実施事業所は15万件と、史上最高を記録した。

それから12年、いまコロナ不況の雇用危機が本番を迎え、休業者は597万人に及ぶ。とくにフリーランスの失業という新しい問題が発生、現状ではこの雇用を守る手立てはなく、セーフティーネットには穴が開いている。正規雇用とそれに近い者から労働者とみなす政策では、フリーランスの大半が抜け落ちてしまう。

ポストコロナはDXの時代

ポストコロナをめぐる論壇は、資本主義の「新常態」とか「再定義」、「非接触経済」で脱炭素社会の実現など、識者達の派手な言辞が飛び交っている。だが、どれもが現実味に欠けるものばかりである。これに対して、中西宏明経団連会長の「デジタル革命論」注1の方がリアリティのある話である。

中西氏によれば、ポストコロナの2020年代は、「デジタル トランスフォーメーション(DX)」の時代だという。DXが、コロナ後の世界のあり方を根本から変えると言う。

DXとは、ITやAI・5Gにクラウドサービスを活用して、企業・業務・働き方を総改革し、ビジネスモデルを大変革すること。中西氏によれば、DXは単純なデジタル技術の革新ではないという点が大事なことで、経済・産業・組織・労働に大きな転換をもたらすところが重要だと言う。

“Digital Transformation”は、普通なら「DT」と略すだろうが、英語圏では“Trans”を「X」と略記することが多く、「DX」とされ、それが直輸入された。DXの大きな強みは、世界に点在する販売拠点や工場のデータを東京に集めて処理すると、これまで月次でしか掴めなかったのが、何時でもリアルタイムに世界の情報を把握できるようになることである。

ソニーはこれまで、テレビやカメラ、半導体センサーとゲーム、音楽・映画のエンタメ事業と、ソニー銀行やソニー保険などの金融サービスとの事業間のシナジー(相乗効果)が乏しいと指摘されてきた。そこで、この4月からキャッシュレス決済等の金融サービスと各事業分野との情報を融合するとする新経営戦略を発表し、金融事業のキャッシュレス決済機能で結びつけた情報共有で、新たなビジネス展開を起こす意図がある。

また、トヨタも自動運転のEVシフトやモビリティサービスへの展開、人事制度の刷新で、経営スピードを高速化する事業改革を発表した。両社いずれも方向はDX化だ。

だが、日本の産業界のDX化は、アメリカのGAFAや中国のBATH=バイドゥ(検索サービス)、アリババ(eコマース)、テンセント(SNS)、ファーウェイ(スマホ)= と比較すると著しく遅れている。

中国では、いわゆるBATHと呼ばれるITの4大企業等が、デジタル・サービスを多様に拡大している。中国は14億人という巨大市場を基盤にして、そこから情報を集めて構築した豊富なデータベースを活かし、徹底してDXテクノロジーを磨き上げている。中西氏は、経営の現場から見ても、ちょっとやそっとでは対抗できないくらい中国は進んでいることを、率直に認めている。 

しかし、中西氏は、状況が苦しいように見えても、日本にも闘い方を変えれば必ずどこかに勝機があると言う。また、東芝の車谷暢昭代表執行役社長CEO(最高経営責任者)注2は、デジタル事業にはチャンスがあるとの認識を示しており、データ事業は米国の巨大なGAFAなどが優位であろうが、台風や地震の被害に見舞われ、社会の大混乱に頻繁に見舞われてきた日本は、社会インフラ事業のデータとプロセス運用において、「世界ですごく面白いポジションにいる」と言う。

時間フリー・会社フリー・雇用フリー

このコロナ危機は、企業にとってはテレワークの拡大で、働き方を大きく転換する契機になっている。例えば、日本経済新聞によると注3、富士通は、国内のグループ会社を含めたオフィススペースを今後3年をメドに半減させるという。富士通は新型コロナ感染拡大を受け、国内で働く約8万5千人の全社員を対象に在宅勤務を推奨してきた。

その結果、コロナが収束しても、テレワークを継続して、富士通は全国の支社や出先のオフィススペースを、3年後をメドに段階的に現状の5割程度に減らすことにしている。オフィスは自社保有より賃貸が多い。賃貸契約の一部を解除することで、賃料を削減する。

じつは、オフィスの賃料の削減効果はかなり大きい。都心に近いオフィスで働くサラリーマンやOLは、会社から「お前らの事務机一つには、月5万円の賃料がかかる、その分も生産性を上げろ」と言われるそうだ。これも汐留辺りの話で、丸の内や大手町ではもっと高い。会社がテレーワークが良いと考えるのには、こういう現世利益があるからた。これは富士通に限らず、とくに一等地の大企業はどこの会社も同じで、すでに個人机を廃止してフリースペースの会社も多くなっていて、個人机を並べて仕事をするオフィス風景はテレビドラマの世界になりつつある。

富士通としては在宅のテレワークを機能させるための人事制度作りも急いでおり、コアタイムを設けない「スーパーフレックス制度」を既に採用しており、柔軟に働ける仕組みづくりに舵を切り、さらに業務が明確で人事評価がしやすい「ジョブ型雇用」を幹部社員だけでなく一般社員にも広げていくとしている。

この富士通のオフィス改革について3日遅れで記事にした朝日新聞は注4、富士通は働く場所や労働時間を自分で選択する「ニューノーマル(新常態)」の働き方の新制度にむけて改革を始めたと報じている。

また、7月からは毎日出社を義務づける「コアタイム」をなくして、好きな時間帯に働くフレックス勤務を全社員に広げるという。さらに同社は、年功ではなく仕事の内容で評価する「ジョブ型」人事制度を管理職約1万5千人を対象に採り入れ、今後、全社員に広げるべく今年度中に労働組合との協議に入るという。

この日経、朝日両紙の記事には、共通する二つのコンセプトがある。

①自宅でも、共有オフィスのデスクでも自分が選択した「働く場所フリー」

②労働時間も自分で決める「時間フリー」

こうなれば、時間に余裕ができれば副業をすることもOKになる。だが、日本の「副業」制度は「会社が主で、別の仕事は従」になっている。一方、大リーガーの大谷翔平の二刀流を、アメリカでは“Two Way”という。経営学の祖ピーター・ドラッカー先生は「パラレルワーカー」と呼ぶことを提唱している。こうなれば、働く時間は所定時間でなく「時間フリー」に、雇用も一つの会社でなくパラレルな「雇用フリー」、働く場所も会社に限らず「会社フリー」になる。

これを私が、「時間フリー」・「会社フリー」・「雇用フリー」なんて言うと、「お前は、みんなフリーランスになれって言うのか」との批判をこうむる。でも、サラリーパーソンにとっては、究極のワークスタイルが見えてきたということではないか。だが、この実現は、そう簡単には進まないようである。

苦境の縁に立つフリーランス

コロナ不況で雇用環境が悪化する中で、フリーランスを取りまく状況が深刻化している。

内閣官房が2020年に調査したところによると、フリーフンス人口は462万人と言われている。日本経済新聞が報じたところによると注5、プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会の調べでは、新型コロナの影響で収入が減ったと答えた人の割合は会社員の32.1%に対し、フリーランスは74・4%と高くなっている。また、コロナ不況で委託発注をうけた業務にキャンセル等の影響が出たと答えたフリーフンスは、5割以上に達しているという。この業界では、事業主の指揮命令下に置きながら、業務提携だとして仕事を切る「偽装フリーランス」の事案も多発している。

フリーフンスは企業の被雇用者ではないので、収入減を補償してくれる手当や助成金はない。6月になって政府が国の「持続化給付金」100万円の支給を決め、ひとまず息を継いでいるが、東京をはじめ全国に広がりつつある第2波感染の兆しで、安心できる状況ではない。

また、単発や短期の仕事を請け負う「ギグワーカー」は、巣ごもり消費で活況を呈す宅配代行サービス「ウーバーイーツ」などの配達員の求人増が、職を失った非正規社員や学生アルバイトの受け皿となっている。だが、フリーランスやギグワーカーへの補償制度は、今度の安倍内閣の政策の一部で始まったばかりだ。

ギグワーカーの比率が高い欧米では、より手厚い支援をする国もある。英国はこの3月、収入が急減したフリーランスを対象に、月2500ポンド(約33万円)を上限として支給する制度を始めた。3カ月を超えて上限額を受け取れば、日本の最大100万円を上回る。デンマークはギグワーカーにも失業手当を支給と、さらに一歩進んでいる。

なぜ、日本は派遣やフリーランス、ギグワーカーへの補償制度の後進国なのだろうか。

厚生労働省の「雇用類似の働き方に関する検討会」は昨年10月に、フリーランス、クラウドワーカーなど「雇用類似の働き方をする者」を保護するための検討課題を提起した。「雇用類似の働き方の者」といっても、聞き慣れない言葉だと思うが、これは労働者とは区別して、こう呼んでいる。

同検討会が調査した結果によると、こうした労働者が約228万人いるとしている。上述の内閣府は462万人としているが、プラットフォームの大手であるランサーズの調査では、フリーランサーだけでも1,119万人という。実態すら、いまだ定かでない。

しかも、フリーランスにしろ、クラウドワーカーにしろ、これらの労働者は業務の発注者サイドの一方的な都合で、業務委託を突然切られても文句が言えず、またライターは取材をして原稿を週刊誌などの編集部に持込んでも、ボツにされれば取材費も原稿料も出ないというのが、半ば業界の慣習になっている。事ほど左様に、契約書もなければ、最低報酬の保障もなく、委託キャンセルの紛争処理制度もなしと、ないない尽くしの業務委託慣行が横行している。

「雇用類似の働き方の者」と「労働者」

政府の検討会がいう「雇用類似の者」は、どうして労働者と見なされないのか。

ポイントは「労働者性」の有無である。

事業主の①指揮・命令の下で、②時間と場所を拘束されて働き、③その対価を受け取る者、この3要件を備える「使用従属性」のもとで働く者は労働者とする。3要件に欠けるものは労働者に非ず、フリーランスにしろ、クラウドワーカーなどは皆そうなる。

検討会の審議過程では、労働者性の判断基準を拡張して、雇用類似の働き手を保護すべきだという意見がでたが、これは見送られた。理由は、「雇用類似の者」は画一的に定義することは困難だとして、「使用従属性」を有している者と「その類似の者」に限定して検討を進めるとした。その結果、保護を必要している人たちを労働者保護の外に追いやってしまったのである。

政府は、この7月の未来投資会議(議長・安倍晋三首相)の場で、兼業・副業の時間管理ルールを整えることを盛り込み、フリーランス労働者の保護を強化する考えも示した。安倍首相は会議冒頭の挨拶で、「働く人の目線に立ってルール整備をはかり、安心して働ける環境を整備する」と強調した。しかし、ここで示された「成長戦略案」は、フリーランス労働者の保護について、「年内に関係省庁でまとめるガイドラインでは、フリーランスに契約書面を交付しないと、独占禁止法の優越的地位の乱用にあたると明確化する」ことを記しただけである。

コロナ危機から登場してきた企業のDX化戦略は、2020年代の10年間は急激に進展することは必至である。その過程でビジネスパーソン達の働き方と、他方でフリーランスやギグワーカーの無権利層、またその間の限定正社員・パート・派遣などの中間層というように、コロナ後に働き方に階層分化が起こることが必至である。

そうなった時に、雇用や働き方がどう変わるかである。ポストコロナの時代は、正社員の“終身雇用”を守るという雇用維持型日本モデルは、もう通用しない。労働移動支援型の能力開発政策に転換する時だ。2001年の森内閣の「失業なき労働移動」、13年の安倍内閣「日本再興戦略」の提起を踏まえて、いま政労使トップで論議すべきである。

春闘の労使交渉の経営側の代表である経団連の淡輪敏雇用政策委員長は雇用調整助成金の活用継続を強調している。一方の連合の神津会長はフリーランスを含めて「失業なき労働移動」へのシフトを主張する注6

ここは、政労使トップ協議の場で熟議を重ねるべきだ。

【脚注】

注1 中西宏明「デジタル革命で日本は甦る」(「文藝春秋」2020年7月号).

注2 車谷暢昭「日本はいま、面白いポジションにいる」(週刊ダイヤモンド2020.5.30)

注3 日本経済新聞「富士通、オフィスの面積半減」(2020.7.4)

注4 朝日新聞「富士通、在宅勤務を原則」(2020.7.7)

注5 日本経済新聞「フリーランスの働く環境悪化」(2020.6.24)

注6 神津里季生・淡輪敏「労使のキーマンに聞く」(週刊東洋経済2020.6.27)

こばやし・よしのぶ

1939年生まれ。法政大学経済学部・同大学院修了。1979年電機労連に入る。中央執行委員政策企画部長、連合総研主幹研究員、現代総研を経て、電機総研事務局長で退職。グローバル産業雇用総合研究所を設立。労働市場改革専門調査会委員、働き方改革の有識者ヒヤリングなどに参画。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)の他、共著に『IT時代の雇用システム』(日本評論社)、『21世紀グランドデザイン』(NTT出版)、『グローバル化のなかの企業文化』中央大学出版部)など多数。

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