特集●コロナに暴かれる人間の愚かさ

コロナ禍、実体経済の逆襲でバブル崩壊か

「分散革命」で日本の社会・経済を再生させよ

立教大学大学院特任教授 金子 勝さんに聞く

新型コロナウイルスの感染が大きく広がっています。まず何よりも、徹底した検査で感染者を隔離すること、そして感染していない人には通常通り動いてもらい、経済を回してもらうこと、これが対策のポイントであることをまず指摘しておきます。

コロナ禍が深刻な不況を生んだ歴史的根拠 

いま起きている新型コロナパンデミックについて、IMFや世界銀行も、世界大恐慌以来とか、リーマンショックよりも大きいなどと言っている。これは量的に見て、深刻な不況になるという表現に過ぎない。ポイントは、このパンデミックがもたらしたものを歴史的な因果連関から見たときどういう意味があるか、ということでしょう。

1970年代に金とドルの交換が停止して変動相場制になり、金融自由化以降に経済政策の主軸が金融政策になっていくなかで、結果的に、お金が余ってバブルを繰り返すような経済になった。

私もリーマンショックで大恐慌並みのことが起きて、これで一つの区切りだろうと思ったわけです。けれども結果的には、オバマ政権がボルカールールを作って、銀行を規制して預金者の資産を高リスク取引に回させないと決め、新しい金融秩序を作ろうとしたけれど、実は中途半端に終わった。そのことが、現状の背景になっているのではないかと思います。

結局ボルカールールというは、金融機関=伝統的な銀行にバブルが波及しなくするルールをとにかく作ったのが精一杯で、たとえば先物市場に対しては証券取引委員会(SEC)の規制は全く及ばない。結果的にいま、CTA(「商品投資顧問」と呼ばれる先物専門業者)という先物の取引ファンドが金融市場の主役になって活躍するようになったわけです。

つまり、金融機関、銀行がかなり抑えられ、あるいはヘッジファンドは不充分ながら一部報告義務が課されるなどの規制がなされたりするようになったが、一方でCTAが闊歩するようになってしまう。これに対する規制当局はSECではなく、先物取引委員会(CFTC)で新たな抜け穴になっていきます。つまり金融危機が起きては規制をし、規制の穴をまた突いて次のバブルが起きる。トレンド戦略と分散投資に基づくコンピュータの高速取引が、猛烈にヴォラティリティ(浮動性)を高くしながらバブル経済を主導するようになったのです。

もう一つは、中央銀行が、バブルが起きても金融システムが壊れないような仕組みをどんどん作っていった結果、極端に言えば資本主義でなくなってきているという状況です。大量の金融緩和で、単に国債を買うだけじゃなく、リーマンショックのあとは、住宅ローン担保証券を大量に買ったわけです。要するに直接バブルの崩壊を救うために、住宅ローン担保証券、すなわち純粋に「民間」とは言い切れないけど、民間の証券をかなり買うことによって、住宅バブルを直接支えるといった状態になってきた。

ECB(欧州中央銀行)もマイナス金利まで公定歩合を下げた。金融緩和して流動性を大量に供給した結果、大手銀行はそう簡単に潰れない仕組みにはなったわけです。

たとえば、97年に山一、拓銀が潰れたときは、コール市場でも資金がショートした。誰もが融資を受け付けてくれなかったため、それで潰れていった。要するに手元流動性が不足して潰れた。現在は、400兆円をはるかにこえるようなお金(当座預金)があるから、そう簡単には潰れない。

でも潜在的には政府の赤字も民間部門の赤字もリーマンショックよりも大きいくらいまで膨らんできた。つまり借金をしてバブルを支えている状態になるわけです。金融緩和でお金はジャブジャブの状態になっていますから、資産価格は当然バブっている。株価も上がっている、不動産も上がっている、ということです。

それでも、バブルが崩壊しても潰れないようになっているというくらいに、ただひたすら中央銀行がもたしている状況がずっと続いている。このまま永遠に続くのではないかとまで思われる状態で、MMT(現代貨幣理論)なるものによって、日本はいくら国債を発行してもいいということまでが言われています。私はMMTを悪用していると思うものの、それを使っていくらでもお金は刷れるんだよ、という類の神話が作られてもいます。

アベノミクスの破綻が見えて、国債も買いようがなくなったときに、どんどんお金を供給すればいくらでももつ、と言う。つまり戦時財政と同じことをやろう、ということを言ったのがMMTです。それに左派っぽい人まで乗って、「極右」と「極左」の連合のようなことに、現状がなっています。

金融バブルを支えるはずの実体経済が先に崩壊した  

バブルが壊れそうで壊れない状態、そんな限界まで来ているいまの状態で、コロナが起きた。これが大変なことです。

つまり、普通はバブルが亢進していくと、個人や企業が借金を積み重ねて資産価格がどんどん上がっていく。株や不動産が上がるわけです。みんなそれで景気が良くなり気持ちよくなって、消費が増える。そのバブルが崩壊し始めると、今度はまず金融機関が怪しくなって、不良債権が大量に集まり出す。それが積もって、さらにバブルが崩壊していく。

すると企業の倒産が起き、そして最後に、景気の遅行指標といわれる雇用破壊がやって来るわけです。ところが、今回は、コロナがいきなり雇用を直撃した。企業の倒産も来てしまいます。

ですから、普通は最後に打撃を受ける実体経済の方に先に危機が襲いかかり、それが金融機関を脅かすような逆襲、実体経済の逆襲とも言うべき状態に陥っています。本来壊れるはずがないと思われていたバブルが、コロナによって思いもよらず後ろからやられて、崩壊しそうになっているというのが、今です。

加えて、さらに問題なのは、バブルの主体がCTAなどになったことです。要するにCTAは先物を扱うので、経済学の「法則」など関係ないのです。実際は経済学者など雇っていません。主役はコンピュータです。つまり、どれだけ早く先物の価格――資産価格その他、あるいは石油、米などの穀物の先物の価格を読むわけです。変動のトレンドがあれば、コンピュータでやっているので一時に大量の取引きができる。一気にそのトレンドを読んだやつが勝ちなわけです。猛烈に早く価格を釣り上げ、そして価格を落とせば、やればやるほど儲かる。

もう一つは分散投資。いろんな先物の種類があり、石油も株もなんでも先物です。経済メカニズムではなくて、トレンドと分散投資。これを技術的にコンピュータが高頻度取引(ハイフリークエンシートレーディング)で、どれだけ先を読んで儲けるかということです。先に大量に買い、先に大量に売るやつが勝ちです。そういう金融市場になった。

だから、コロナで実体経済の崩壊がいきなりきて、これ危ないな、と感じられたときに起きたのが、何度も何度もサーキットブレーカーがとぶ事態です。株価が1000ドル上がったと思うと1000ドル下がり、1000ドル下がったと思ったら、また1000ドル上がり、ということです。1000ドル――よく考えてみたら1日で10万円上がったり落ちたりしているということですから、完全にコンピュータの賭場のようです。恐ろしいことが起きているのです。

リーマンショックと同じことが起きている  

おそらくみんな怖がっている不安定な状態で、実体経済がどんどん破壊されてやがて金融機関が潰れるんだろうと、こういう状態になってきたわけです。

一方で金融機関はどうしたか。日銀は株を大量に買っているだけではなく、社債やCP(コマーシャルペーパー)も大量に買っているから、もう資本主義ではない、証券市場も国債市場ももう麻痺状態です。

FRB(連邦準備制度)もこれまで金利を正常化して、持っている国債とか住宅ローン担保証券などの資産を、徐々に縮小し始めていたわけです。ところが実体経済から逆襲が来るので、社債やCPまで買い入れる。それから、社債やCPで資金が作れなかったり、公開市場で資金調達できなかったりする中小企業には、直接資金を出すようなことまで始めた。

金融市場がどういう形で破綻していくかと考えると、この社債やCPを組成した証券を売り出したことが問題になる。昔の住宅ローン担保証券と同じでしょう。かつてCDOという担保証券を作った。サブプライムとか、メザニンとか、プライムと名付けられ、リスクごとに切り分けて、証券にしたのがCDOでした。それがバブルを作り、リーマンショックにつながったわけです。

それと同じように社債やCPを切り分けたようなローン担保証券(CLO)というのが、かつてと同じように広がっています。世界全体で80兆円くらいあると言われていますが、日本の大手金融機関がそのうち13兆円くらい持っている。みなトリプルAなどで格付けがいいから大丈夫だとされていますが、なんとなくリーマンショックの前と同じようになっている。

FRBはそれを放置しているかというと、これは危ないと見ていた風ではある。ところが、原油価格が大幅に下落して、一時期シェールオイルの会社のCPや社債がどんどん破綻したりしていた。この3月ごろ、日本で多くCLOを買っていた金融機関は5000億円くらい損切りをしています。だから大手銀行も危なくなる。そういう危険が背景にあります。

それでFRBはもうなりふり構わない。コロナが簡単に回復しそうもないので、もう2年は金融緩和でゼロ金利にし、CPや社債を買い続けると宣言したわけです。これまでFRBだけが正常化していたのに、FRBも日銀と同じことを始めてしまった。これが現状です。

リーマンショックのときに「100年に1度の金融危機」で、「もう大恐慌並みだ」などと言っていましたが、また同じようなバブルがやってきて、気がついたら実体経済の逆襲が起きて、思いもよらない形でバブルの崩壊が来るかもしれない。これがいませめぎ合った状態になっている。

以上、歴史的な経緯から見たいまのコロナ不況の独特の性格ではないか、というのが私の見立てです。

新自由主義・グローバリズムが格差・差別を拡大した 

それでは、そのなかでグローバリズムや新自由主義はどうなったのかという問題です。

新自由主義やグローバリズムが直接コロナ不況をもたらしたわけではもちろんありません。しかし、それが市場に深刻な事態をもたらしていたことが、――たとえば格差社会とか、イタリアの医療崩壊とかに見られるように――コロナ不況、コロナの被害を拡大させて、格差社会と差別と貧困が、剥き出しに現れるような形になってきたというのは確かです。

イタリアはリーマンショックのあと、いわゆる南欧経済危機で、ギリシャ、イタリア、スペインなどが非常に厳しかったときに結局、EUから財政再建を迫られるなかで、医療費を相当に削ったために医療崩壊に至った。

武漢から来たウイルスがイタリアに入って、イタリアのウイルスが異様に凶暴化したというのには、このウイルスの特殊性が関連しています。コロナウイルスは無症状でも大量に発生して感染する。なかにはその変異が非常に早くて、サイトカインストームと言われる免疫暴走を引き起こして、死亡率が異常に高くなる場合がある。

イタリアでは医療危機の状態になって、そういう変異への対処が厳しかった。さらにその免疫暴走を起こした患者は、すごい勢いで大量のウイルスを出すらしく、それが猛烈に感染力を大きくし、本人の病状悪化に加えて、外へもウイルスをまき散らすために、院内感染や高齢者施設内感染で大量の死者を出した。そういう意味でいえば、新自由主義が、ウイルスの猛烈な変異の速さとともに、イタリアの感染拡大を引き起こす原因のひとつになったということは確かでしょう。

しかし、そういうことをただイデオロギッシュに言っても意味はないと思います。日本では、2月17日から専門家会議が主導して「37.5度の発熱が4日間」ある者が「帰国者接触者相談センター」を通じるという条件をつけて、PCR検査を制限した。病院内感染が発生した和歌山とか大分とかでは知事が「とにかく全員検査しなさい」とやってきたが、そこはうまくいっている。要するに首長の権限だったということです。具体的にできたところはあった。

たとえばニューヨークの感染状況を見ると、貧困者が住んでいる黒人やヒスパニックの居住地が感染率や死亡率が明らかに高い。はっきり格差が出る。彼らは検査を受けたがらない。受けて感染が判明したら働けなくなり、食えなくなるからです、一気に。そのため、余計にどんどん感染するという形で、問題が大量に発生したわけです。

他方、金持ちが郊外の別荘に逃げ込んだ。でも、そこにエッセンシャルワーカーなどと言われてデリバリーするのはやはり黒人やヒスパニックだから、金持ちも感染を免れなかった。コロナがもたらした経済格差の問題とともに、黒人やヒスパニックに対する差別が目に見えてきて、警官の暴行という問題も引き金になって、差別に対する非常に大きな反撃、多くの人の反発が世界に広がる運動が起きたのではないかと考えています。

世界的に見ると「反グローバリズム」を掲げて、右翼的なポピュリストが大量に生まれました。トランプ大統領であり、イギリスのジョンソン首相、ブラジルのボルソナロ大統領。ジョンソンもボルソナロも感染しましたが、つまりコロナは、経済活動を優先して検査が遅れたポピュリズムの国を直撃した。インドのモディも、あるいはプーチンもそうかもしれない。甘く見たポピュリスト政権ほど、感染がひどくなっているという共通項があるわけです。これはとても特徴的な現象でしょう。

東アジアで日本は失敗モデル  

アジアでは交叉感染という現象があって、いろんなコロナウイルスに何度も触れると、重症化しにくくなる何らかの免疫のようなものができるという仮説があります。有力な説だと思います。ベトナム、カンボジア、台湾、香港、韓国、日本、中国など東アジアでは死亡率が欧米に比べてずっと低いのは、そういう理由ではないかとされています。ですが、そのなかでも日本の死者数は1000人を超え、死亡率は100万人あたり8人で、断トツに高い。東アジアのなかではわれわれは失敗モデルだったということを見据えておかなくてはいけないでしょう。

なぜ失敗したか。それは簡単で、東京オリンピックをやりたいがゆえに問題を隠蔽しようとして、検査をしなかったからです。クルーズ船でとんでもないことが起きても、検査は避けてきたわけです。しかも入国拒否をして、クルーズ船のなかは「人体実験状態」になってしまった。小池都知事のブレーンからも、2月末に「検査に人が来ると医療崩壊が起きる」などというとんでもない議論まで始まった。

ところが、露骨なことに、小池都知事は3月23日にIOCと「オリンピック延期」が決まった途端に「東京ロックダウン」とか言い出して、お金をばらまき始めた。財政調整金1兆円の貯金を95%使い果たした。でも検査は全然しなかった。そうやって都知事としては実は何もしなかったにもかかわらず、格好だけとって、結果としてひどい感染拡大状況を迎え始めているのが今です。つまり「ステイホーム」だから、家庭内感染も酷いし、感染ルートも不明で、「隠れ感染」が大量に現れてきた。

それが6月19日に自粛休業要請を全面解除した途端に、100人、50人とまた再び感染が拡大。すると「東京1日あたり平均20人で東京アラート、50人だと休業再要請」などと言っていたその基準を緩和して、なにも基準のない状態に入った。政治判断だけで情報も隠している。そして、ついには366人(7月23日)と過去最多を更新した。対策の失敗がはっきりとしてきています。

安倍も同じで、失敗を隠そうとすることだけを続けてきた。結果的に「ステイホーム」だけで、何もしてない。それで東京オリンピックをいまだに続けると言っている。検査はしない、問題を大きくしない、と。検査をすると大量に発生しているので、大量の感染者が出てくるかもしれない。するとオリンピックができないことになるので、結局検査しないことをずっと続ける状態です。

専門家会議を廃止するときに、まともな学者を排除している。そして「ワクチンはできる、オリンピックもカジノもやりましょう」という大阪維新と自民党で誇大宣伝を続けて、それで総選挙を乗り切ろうという路線でしょうか。

それに対して野党も充分に対応できなかったわけです。中国も韓国も、事態が発生すると全員検査です。無症状者も全部あぶり出して隔離をするか、抗ウイルス剤を飲ませて、とにかく早く治す。それが世界の先端になっていきているのに、日本は全員検査をしたら大量の感染者が出て、オリンピックができないということになって、選挙では勝てないという考えでしょう。ずるずるといま失敗している状態であるものの、ただひたすら交叉感染による免疫に依存して、死亡率が低くなって収まってくれればいいな、と祈っているのでしょう。

日本はオリンピック中止に耐えられるか  

では、どうするか。

たぶんオリンピックはできないと思う。世論調査でも7割くらいができないのではないかと答えています。たぶんその直感は正しい。アメリカ、ブラジル、インド、中東、そういうところで今の状況下では予選もできないでしょう。再延期も、国際大会が次々あるわけなので、無理でしょう。おそらく中止になるだろうと思います。

すると不動産のバブルが崩壊します。政治的にももたない。それが露呈しないようにするためにとにかく早めに選挙をやれとなっている。秋の総選挙というのがかなり現実味を帯びてきたのは、10月あたりにもうIOCは中止の判断をするのではないかと観測されるからです。そうなったらもう選挙はできません。すべて嘘だったということになる。

できないオリンピックのために検査を制限して、どんどん隠れ感染を拡大してしまったという失政そのものが表に出てきて、さすがに持ちこたえられないだろう、と。だとしたら、バレる前の10月に早く選挙をやろう、となっているのでしょう。11月、アメリカ大統領選でトランプが勝って、その勢いで勝つというシナリオも怪しくなってきました。

もう一度考えてみると、バブル崩壊の危険性にわれわれは直面しながら、なおかつ国境は分断されていて、東京オリンピックが中止になる確率が非常に高い。加えて米中の貿易戦争が激しい。中国の一帯一路の先にあるイランもイタリアもダメになっていますから、中国をヨーロッパに結びつけていく輸出戦略がうまくいかなくなってきている。今度はもう香港経済を取り込むことによって、生き残ろうとする。広州と深、香港の三角地帯を全部自分の手のもとに置こうとしたわけです。ところが、習近平政権も狂い始めていて、香港国家安全法で独裁的色彩を強め、米中摩擦は一層激化しています。

1国2制度を壊して、民主主義を抑圧したらアメリカは当然のことながらこれに反発せざるをえない。結局、制裁に入ってきているし、さらにファーウェイに対して徹底的な排除が始まっています。イギリスもファーウェイ排除に入りました。だから欧米では、中国のファーウェイに対する排除は大きい流れになる可能性がある。

私は、ブロック経済化のようなことが起き始めていると考えています。たとえばファーフェイのシステムではグーグルを使わない。つまり別のOSです。すると単なる貿易摩擦をこえて、技術や社会システムを含めたブロック化が、中国圏とアメリカ・欧州圏とに真っ二つに分かれていく。

日本では、毎月のように輸出が対前年比で2割、3割の減少というように、大幅な減少になっていきます。しかも貿易赤字が単月で見ると1兆円前後まで膨らんでいる。これはリーマンショック並みです。半年で2~3兆円という貿易赤字になっている。すると、財政赤字ももたなくなってくる。双子の赤字(貿易赤字と財政赤字)になると、外国人投資家に日本の国債を買ってもらわなくてはならないという話になりかねない。あるいは戦前のように、日銀が国債を引き受けるしかない。そういう異常な状態がはっきり現れてきています。

日本経済は、石油ショック後、円安誘導と賃下げによって輸出主導で景気を回復させてきました。しかし、そのシナリオは、ほぼ無理になっている。では内需を拡大しましょうと言っても、公共事業の乗数効果は低いし、財政赤字はひどく、MMTを唱えるカルト信者以外はだいたいもうアウトだろうと言う状態になっているわけです。株を買い込んでいる年金財政がひどくなればなるほど、持っている株は売れなくなる。日銀も売れなくなる状態で、泥沼にはまっているのが現在。要するに資本主義じゃなくなっている。それほど酷くなっている。

そうすると財政赤字でお金をばらまいても内需が喚起される可能性はそんなに高くない。雇用調整助成金が切れたら、もらっている人たちが大量に失業者として吐き出される。非常にシビアな状況です。家賃補助が出てきていますが、だいたいもう廃業したいと思うと6ヵ月後です、契約解除は。そうすると失業も倒産・廃業も9月・10月は大変なことになります。

新しい投資主導へ立ち返る  

非常に大事なポイントは、コロナ対策が最大の経済対策になっていることでしょう。コロナを封じ込めない限り、人と人との接触を全部止められちゃうと、宿泊飲食業はじめとして、経済が成り立たない。リモートがもてはやされていますが、大学でも1年続けてリモートでやるというような話になりつつあって、私の感じでは、学力はつかないし、たぶん2年生になったとき登校拒否も出ると思います。また、就職面接をリモートでやっていますが、実際の会社に入ったらしばらくして、辞める人が大量に出てくるかもしれません。やはり、人は直接コミュニケーションをとらないと分かりあえないので、リモートだけでは無理だと思います。

円安・輸出主導・賃下げではダメ、財政で有効需要という話もない。産業が衰退しているから。もう1回産業を再生しながら、輸出主導ではなくて、内需を喚起しながら新しい産業を作り、雇用を作らないといけない。つまり新しい投資主導でやっていくしかないのです。経済学の王道からいうと、政府が産業に介入すると非効率というのが主流経済学の抜きがたいドグマですから批判を受けますが、考えてみると、戦後の日本はそうして成長してきたわけです。もう一度そういうことを考えざるをえません。

ポイントは分散革命――大規模・集中を排す  

もう一つは、私は「分散革命」と呼びますが、人口も産業も新しく地域で作り出しながら、裾野の広い内需を作っていかなくてはいけない。そういう経済政策には、分散革命が必要となる。新型コロナを見れば分かるように、これまでの大規模・集中は、大都市の過密を作り出すので、経済そのもの――三密を避けるなどとの矮小な話ではなくて――を拡散、分散していかなくてはいけない。

私は「地域分散ネットワーク型」と10年来言ってきたわけですが、ついに安倍も分散型と言わなくてはいけなくなった。だけど、原発や火力発電をやっていては分散型はできません。やはりエネルギー転換が核になってくる。

小さいエネルギーを大量に作るときに、そこに小さい投資を大量に地域から出す。そこでエネルギーを作って、それを自前で回していく分散型の経済の仕組みを作っていかないと、雇用も生まれないし、経済も活性化しないだろう。

もっとはっきり言うと、人間の基礎的なニーズにあたるものを、地域の中で自から作っていく、雇用も投資も産業も作っていくという、そういう新しい経済政策を考えないといけない。では、人間の基礎的ニーズとはなにかと言うと、「食」「食べる」です。ですから、農業を6次産業化させたり、エネルギー兼業をしたりすることで、農家が自立して生きていける農家モデルを作っていかなくてはいけない。

6次産業というのは、1次産業としての農業が作ったものを加工する2次産業や、それを流通させたりサービスを提供したりする3次産業、それを垂直統合して地域で進めながら、自立的に、たとえば直売所を展開するとか、直売所と合わせてアミューズメントの温泉や観光施設などを作ったりしながらやっていくとかすることです。そういう新しい、単純に作ったものを、生のものを売るだけではなく、トマトケチャップにしたりジュースにしたりとかいうことも含めて、加工しながら自分たちで売っていく。

下から1次産業をベースにした産業の連関というのを作り直していくということです。それは「食べていく」という基礎的な人間のニーズに、新しい生活スタイル、新しい産業のスタイル、農家経営モデルを作ることで定着させていくことです。

農業のみならず、医療も介護も、そして新しい技術も 

コロナは全員検査した方がいいわけですが、上からやってもダメです。結局、下から、職場とか学校とか地域とか、つながりのあるところの中間団体のようなところからたどっていかないと、コロナの感染を断ち切っていくことができないわけです。それと同じで、地域レベルで医療や介護の供給をネットワーク化して、個人のカルテを電子化された状態で共有していく。

そのためには、プライバシーを大事にして、自分の医療データに誰がアクセスしたか分かるという仕組みが必要で、そのためにも、生体認証のような形で情報を保護する。そのカルテを共有しながら、介護施設や在宅介護・看護、在宅医療などを進める。かかりつけ医やケアマネージャー、ケースワーカーなどが地域の疾患を持っている人に寄り添っていく。安心できるシステムとして、ネットで共有化して効率化できる。そんな仕組みを作っていくと、地域で、特に女性中心になるかもしれないけれど、新しい雇用が生まれてくるわけです。

小さいエネルギーを作りながら進むには、やはりひとつの核はグリッドシステムです。スマートグリッドや蓄電池です。みんなが投資して作ったグリッドシステムをコントロールしていくなかで、IOT、ICTで技術者が、オープンプラットフォームで日本標準の形で作りながら、メンテナンスもできるという、そういう人材を育成することで、初めてITの遅れを取り戻していくこともできる。そこから人が育ってスピンアウトしていく。

米中が進めるのは、軍事依存で技術開発をしている情報通信産業です。民事中心というのは、スウェーデンのエリクソンとフィンランドのノキア、あるいはドイツのシーメンスのようなあり方です。重電機からだんだんIOT産業になっていく。むしろ後者の非軍事モデルで、生活に密着する形で、新しいオープンプラットフォームでジャパンスタンダードを作っていく。若い技術者を大胆に登用していく。そういう新しいシステムを作り上げていくことが大事になっていく、というのが私のさしあたりの展望です。

言ってみれば、コロナがますますそのことの必要性を明らかにしたと思います。分散革命と言っていますが、行き詰まった日本で、地域のエネルギーが分散社会を作り、その地域分散ネット的なニーズをまかなう。コンピュータも古色蒼然とした昔の大きなベクター型ではなく、小さなコンピュータを結んでクラウドで情報を保っていく。そういうコンピュータの技術とも対応する社会システムになるでしょう。

もう分散革命というのはいろんな意味で起きていると思います。そこに投資をしながら新しい産業とイノベーションを作っていく。そしてIOTやICTの技術や力が育っていく世界を作っていく。そんなことが、日本の状態を反転していくために大事だと思っているのです。

結果的にはいわゆるインフラが鍵だと思います。スマートグリッドやあるいは建物の構造、自動車、耐久消費財、そういうものを含めてイノベーションが起きてくるイメージを最終的には創り上げたい。内需型の経済を進めて、なんとかポストコロナに至ったときに、日本は生まれ変わっているはずです。

そうするとやはり地方自治・地方分権で、地域で、自分たちで自分のことを決定するシステムに変えざるを得ないだろうと思います。ある意味で、コロナ対策のなかでそういうことがどんどん進むし、進めていけば新しい世の中も見えてくるはずです。

かねこ・まさる

1952年東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。慶應義塾大学経済学部教授を経て、同大学名誉教授。2018年4月から立教大学大学院特任教授。専門は、制度経済学、財政学、地方財政論。著書に『金子勝の食から立て直す旅』(岩波書店)、『閉塞経済』(ちくま新書)、『新・反グローバリズム』(岩波現代文庫)、『新興衰退国ニッポン』(共著、現代プレミアブック)、『「脱原発」成長論』(筑摩書房)、『資本主義の克服「共有論」で社会を変える』(集英社新書)、『日本病―長期衰退のダイナミクス』(岩波新書・児玉龍彦との共著)、『平成経済 衰退の本質』(岩波新書、19.4)など多数。

特集・コロナに暴かれる人間の愚かさ

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