この一冊

『時代へのカウンターと陽気な夢 労働運動の昨日、今日、明日』(小野寺忠昭・小畑精武・平山昇共同編集 社会評論社 19・5 2500円+税)

次世代へ 一時代を切り拓いた運動証言

元東京都労働委員会労働者委員 水谷 研次

『時代へのカウンターと陽気な夢 労働運動の昨日、今日、明日』

『時代へのカウンターと陽気な夢』(社会評論社 2019・5)

70~80年代の総評労働運動を牽引・バックアップし、総行動や工場占拠・自主生産闘争、さらには地域ユニオンなど新たな運動形態や組織づくりを進めてきた活動家やそれを支えた理論指導者ら23人が執筆した久しぶりの労働運動関係書。「労働法」関連は雲霞のごとく多くの法学者が版を重ね出版しているが、肝心の運動当事者による書籍はどんどん減っている中で、これほど多くの活動家が執筆したこと自体が貴重と言える。

 ただ、自分もほぼ原稿が出そろってから依頼されたとはいえ、コラムを5頁近く執筆しているのでなかなか言いにくいが(苦笑)、自分を含めた執筆者のほとんどが70歳を超える男性であることが、労働運動の現況を表しているとも言える。もっとも、だからこそ意気軒昂でこのような書が出せるのだが…。

 小野寺忠昭、小畑精武という東京東部ブロックの地域共闘を牽引し、連合結成後はそれぞれ国労支援や自治労オルグとして最近まで現役だった2人と共に、ワーカーズコレクティブや労働者生産協同組合運動に加わり続けた平山昇の三人が中心となった編集だが、各運動分野で現場の運動を担ってきた活動家の証言として「明日」に残すべきものは何かを提起しようとした。

 それぞれの内容を紹介する余裕は無いので目次を添付しておく。

第一章 東京東部の労働運動

総評運動と地区労運動(小畑精武)/ 反合闘争と自主生産闘争(小野寺忠昭)/ 労働者協同組合の可能性─パラマウント製靴共働社(平山 昇)

第二章 総評解体と闘う労働運動

総評解体史分析から見えてくる日本労働運動の歴史的課題(川副詔三)/ 東京総行動と争議、自主生産(小野寺忠昭)/ 国鉄闘争と東京総行動(平賀健一郎)/ 国鉄闘争そしてユニオンへ(関口広行)/ コミュニティユニオンがめざしたもの(小畑精武)/*コラム「友愛と仁義と」(小野寺忠昭)

第三章 企業別労働組合から社会的労働運動へ

現代企業別労働組合批判と「関生型労働運動」(要 宏輝)/ まっとうな移民政策を─労働者が労働者として移動する社会へ(鳥井一平)/ 地域ユニオン運動の可能性─社会福祉施設の自主管理(嘉山将夫)/ 韓国の労働運動から学ぶこと─労働尊重社会の実現のための合同労組運動を目指して(須永貴男)/ 介護労働運動を社会的労働運動の中軸に!(中村 登)/ 社会的有用生産・労働の復活(都筑 建)/ 生協の労働組合─組合員パートさんの組織化へ(岩元修一/大場香代)/*コラム「一労働基準監督官から見える労働問題」(井谷 清)

第四章 新しい労働運動の構想

次は何か(小野寺忠昭)/ 時代は〝市民運動ユニオニズム〟─労働NPO、市民運動ユニオニズムの可能性(小畑精武)/ 健常者と市民社会と労働力商品化を止揚して(堀 利和)/ 新しい労働運動のいち構想(白石 孝)/ 労働者自主生産の可能性(志村光太郎)/ 社会的連帯経済と労働運動(平山 昇)/*コラム「減部に負けない『労働情報』」(水谷研次)

第五章 労働運動への提言

労働力商品化の止揚と『資本論』の再読─労働運動の再生と労働力再生産の視点(大内秀明)/ 『資本論』の社会主義論─「労働力商品化」廃絶ということの意味(鎌倉孝夫)/ 関生型中小企業労働組合の「産業政策」闘争─生コン産業における中小産別労働組合と事業協同組合の共闘(樋口兼次)/ 関生型協同運動に期待する(伊藤 誠)。総ページ数359頁。

 6月22日には明治大学駿河台校舎研究棟で「時代へのカウンターとコミュニティ型労働組合の展望」と題する出版記念シンポジウムも開催された。第Ⅰ部の鳥井一平、堀利和、白石孝、樋口兼次さんらと私も入ったパネルディスカッションはともかく、第Ⅱ部 の「労働力商品化の止揚と労働運動 」と題する鎌倉孝夫さんと大内秀明さんの講演は、その老いてますます盛んなパワーに参加者は圧倒された。鎌倉さんの資本論講義はともかく、大内さんは晩期マルクスへの高い評価とそれを受け継ぐウイリアム・モリスと宮沢賢治というお得意のお話しと、もうすぐ「脱・共産党宣言」を発刊されると高らかに語り上げた。

 若い世代の労働運動活動家がどう読んでくれるか、残念ながら「活字離れ」の昨今、期待は出来ないが、一時代を切り拓いた運動証言であることは間違いない。

みずたに・けんじ

元・東京都労働委員会労働者委員(8期16年、1995~2011年)。1977~1991年まで江戸川区労協・墨田区労連オルグ。198年初のコミュニティ・ユニオン「江戸川ユニオン」結成。初代事務局次長。1991年連合東京入局 一貫して企画担当、最後は副事務局長。2009年60歳で定年退職=再雇用により労働委員専念を選択。『知らないと損する労働組合活用法』(東洋経済新報社)を鴨桃代さんと出版。現在は『労働情報』誌編集委員など労働ボランティア。他には、朝鮮の自主的平和統一支持日本委員会事務局長など

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