特集 ● いよいよ日本も多極化か
参院選の結果-日本は新しい冬の時代に
『現代の理論』はそれを克服する思想を紡いでほしい
衆議院議員 有田 芳生さんに聞く
新しい冬の時代に入った
「戦争経験者が国会からいなくなった時には大変になるぞ」
参院選の結果と「リベラル」の不振
参政党の伸長と「リベラル」の課題
新しい世代の力でファシズムに抗する戦線を
それでも政権交代の道はあり得る
新しい冬の時代に入った
残念ながら、「新しい冬の時代に入ってしまった」という思いです。毎日新聞(7月30日)「参政党の先を行く? 勢いそっくり…ポルトガルで躍進する『極右』」によると、極右・ポピュリストと評される新興政党「シェーガ」(ポルトガル語で「もうたくさん」を意味する)が、移民排斥などを訴え、議席を5倍に伸ばし、5月の総選挙で第2党にまで急成長したという。日本の参政党がそれを追うかのように、極右・ポピュリズムの政党として伸びてしまったということで、冬の時代に入ったと思います。

これからスキャンダルなどとんでもないことは引き続き出てくるでしょう。「新しい冬の時代」だと思ったのは、少なくとも参議院にその14人が今後6年間いるからです。僕は参議院から衆議院に来て、法務委員会に所属しています。法務委員会の自分の席が前から2番目で、質問者は目の前で質問する。日本保守党と参政党が法務委員会に1人ずついて、質問の中で、例えば選択的夫婦別姓がテーマであったり、裁判所定員法という法律的な課題の議論の時も、毎回必ずといっていいほど「クルド人が……」ということを言うんです。後ろからヤジを飛ばすのも大人げないと思って我慢していますが、必ず排外主義的な主張を入れるんですよ。
もちろん違うテーマを入れて質問することはあり得るとは言え、必ず排外主義的なことを語る。そんな政党が、昨年10月の衆議院選挙の結果、法務委員会に2人所属することによって、それが毎回言葉として出てくる。それをまたネットで拡散する人たちがいる。さらに今度は参政党が14人になってしまい、日本保守党も2人に増えたということは、国会のレベルがこれまでと違う質に入ってしまって、少なくとも6年間は保証されてしまったということです。その重みを、ある種の恐怖感とともに感じています。
もう一つは投票する社会の側の問題です。参政党は5年前に政党になって一挙に拡大してきたが、7月3日から参院選が始まって、7月10日に参政党の代表が沖縄に行く。その沖縄に行った時に、自民党の西田昌司議員がひめゆりの歴史をなかったかのように発言したことが沖縄では毎日大問題になっていて、本土の新聞でもそれを取り上げたんだけれども、いつしかそれがどんどん小さくなっていった。それに乗じるかのように参政党の代表が西田発言が正しいとのうのうと語った。琉球新報、沖縄タイムスでは大々的に批判の声をあげた。
その10日に神谷代表が沖縄に行った時に、沖縄タイムズの記者たちが13人、その演説を聞きに行って、そこに来ている聴衆にインタビューをしている。僕がっくりしたというか驚いたのは、81歳の女性にインタビューしてるんですが、その人は、「今度の選挙では参政党に入れる」と記者の質問に答えた。米軍の圧政と闘い、共産党に合流した元那覇市長の瀬長亀次郎氏の支持者だったというのに、「神谷さんは話が上手で、わかりやすい。最近はもう選挙に行かないけど、今回は参政党に入れる」(『沖縄タイムス』7月11日付け)と。そのわかりやすさの中身が何かということを記者は聞いてないけれども、沖縄の民族的英雄の瀬長亀次郎を支持していた女性が参政党支持になったという驚き。僕はすぐに沖縄の記者にも連絡を取って、その女性に詳しく取材をしてほしいと頼んだけれど、できなかった。だから記事以上のことはわからない。けれども、事実としてその女性は今度参政党支持になっている。沖縄の歴史を破壊するような人たちになぜ投票するのか。81歳のこの女性は、戦争体験はしていない。当時1歳だから記憶はないんでしょうけれども、そういう日本になってしまったという実感と驚き。
さらにもう1つ。まもなく公開される『満天の星』というドキュメンタリー映画があります。1944年、戦争に負ける前の年の夏に、学童疎開する多数の沖縄の子どもたちなどが乗って那覇から鹿児島に向かっていた対馬丸が、米軍によって沈没させられて、800人近い子どもたちも含めた犠牲者が出た。沖縄には対馬丸記念館があって、この間も天皇一家が行って驚いていた。そういう歴史の事実が記録されている『満天の星』をこの間、沖縄で見た。
そこで驚いたのは、対馬丸の歴史の事実について東京の渋谷を歩いてインタビューしているんですが、若い人たちが対馬丸事件を全く知らない。「まあそんなもんかな」とも思ったのですが、沖縄でも同じことを聞いていました。すると沖縄でも知らないんですよ。若い世代は! こういう時代に入ってしまっている。
「戦争経験者が国会からいなくなった時には大変になるぞ」
僕は今国会で仕事していますが、国会の衆参の議員、800名近くいます。最高齢が麻生太郎さん。麻生さんは今84歳、9月で85歳になる。戦争体験は4歳の時ですから、実感としてはないわけですよね。要するに戦争体験者は国会議員の中にはいません。
常々思っているのは、藤田省三さんの「戦争経験なき戦意はひたすらに昂進する」との言葉です。戦争体験がないと戦争をやりたいという思いはひたすらに大きくなるということです。僕は第2次安倍政権の時、丸々12年間参議院議員でしたから、安保法制の問題の時にも安倍さんもふくめて見ていて、戦争体験がないということからは、戦意が高揚していくのは本当なんだなと思ったんです。安倍さんは2022年にも、「敵基地攻撃」について「基地に限定する必要はない。中枢を攻撃することもふくむべきだ」とまで述べていました。
僕は京都出身で、個人的には野中広務さんとも親しかった。その野中さんも後藤田正晴さんも、宮澤喜一さんも、田中角栄も言っていたように、「戦争経験者が国会からいなくなった時には大変になるぞ」ということがまさしく今だと思うのです。
その反映が自民党の西田さんだけではなく、参政党の人達を思想的に――括弧つきの「思想」だが――支えていて、そのことに多くの日本人が引きずられていってしまっている。その結果が今回の参議院選挙に現れたなと思っています。神奈川から当選した参政党の新人、初鹿野裕樹議員(警察官出身)は、「日本軍慰安婦なんてのはなかった、南京大虐殺はなかった」と公然とマイクを持ってやる。「日本軍は『焼くな、犯すな、殺すな』の三戒を遵守した世界一紳士な軍隊である」とまで投稿もしていた。そこに、若い人たちだけではなくて、沖縄の81歳のおばあちゃんまでもが引きずられてしまっている。
余りに酷いので、僕はtwitter・xで「歴史の修正とか改ざんのレベルではありません。それ以前。ただの恥ずべき広大な無知。からっぽ」「これが国会議員。これが日本。協同して抗うしかありません」と書きました。そのからっぽの歴史認識に引きずられる日本人が、若い世代だけではなくて中高年世代にまで出てきてしまった危うさをどう捉えたらいいのか、ものすごく心配なところです。
参院選の結果と「リベラル」の不振
選挙の結果で言えば、去年の秋の衆議院選挙に続いて参議院でも与党が過半数割れをした。正確に言うと、過半数割れと言っても、和歌山で当選した参議院議員、それから静岡で非改選の女性議員はおそらく自民党と一緒ですから、過半数割れしたというよりもむしろ同数と見た方がいいので、そう単純ではないわけですが。
自民党・公明党が選挙で負けたことは事実であって、それが今の自民党内の混乱、石破降ろしに繋がっている。やはり去年の秋の総選挙と同じく、自民党の裏金問題は国民意識の中で終わっていないんです。そのことは東京都議選でも明らかになったし、参議院選挙でも、自民党それから公明党に対する批判は広がっている。
去年10月末の衆議院選挙に比べて、衆議院と参議院は違いますし候補者の数も違うから、単純には比較できないにしても、今回の自民党の比例区の票が187万減っている。公明党は84万減らしています。参議院選挙が始まるまでは圧倒的に国民民主党が躍進するだろうと思われていたのに、それが一気に萎んでしまって、参政党が飛躍した。昨年の衆議院選挙に比べると、参政党の比例区の票は550万増えている。これは社民党・共産党の丸まるの票よりも圧倒的に大きい。先に「新しい冬の時代」と言いましたが、繰り返しますけれど、6年間議席が参議院では保証されているのです。
衆議院選挙が遅くともあと2年ぐらいのところでやってくるとしたら、参政党は多くの選挙区に候補者を出してくるでしょう。いま全国に289の支部を設立中といいます。参院の比例票は742万票。それを衆議院の小選挙区に換算すると2万から3万票になります。その主張は歴史修正以前の歴史破壊、ホロコーストはなかったというのと一緒ですから、それにどう対抗していくか、ものすごく気が重い課題です。
一方で立憲民主党は、今までの執行部の言い分を見ていると、現状を維持したという言い方です。ただ、参院選では現職6人が落選してしまっているだけではなて、昨年の衆議院選挙の比例区と今度の比例区の票を比較すると、410万票を減らしています。これはものすごく深刻な事態で、それをどう分析していくのか。
選挙の時に、党の執行部が来てマイクを持って言うのは「今度の参議院選挙は衆議院選挙と同じく参議院でも与野党逆転をする可能性が高い」。それはその通りだったし、そういう結果に終わったけれど、僕はそこで執行部がそういう演説をしているのはものすごく一面しか見ていないなと思った。選挙の最中から参政党の排外主義的な動きはわかっていたわけだから、与野党を逆転させなけりゃいけないけれども、同時に排外主義と戦わなければいけないと主張すべきなのに、それに全く触れなかった。その危機意識のなさが問題だった。
参政党の伸長と「リベラル」の課題
行けば喧嘩になるし、選挙運動もあったから行かなかったけれども、参政党の選挙演説の現場では、やはりカウンターと言われる人たちがプラカードを持って反対の行動を取っていた。それに対して参政党の運動員は非常に暴力的だった。ヒットラーユーゲントのよう。これにはものすごく危機感を持ちます。わがもの顔ですからね。
選挙運動では自分たちが強いと思っているところに妨害に来たら、それに暴力的に対応するのは、これまでもしばしば見られてきたことです。映像で見る限り、それが一段と暴力的な動きになってきている。これがまたさらに今後の政治的なプロセスの中で、次の衆議院選挙で現れてくるのはものすごく気持ち悪い。
ヘイトスピーチが吹き荒れた時に、在日の人たち、例えば川崎の在日コリアンの人たちは、その日買い物に行くときに、インターネットで川崎の駅前で排外的な集会とかデモがないかと調べて、それで安心して買い物に行ったというんです。子供たちにも注意を促す。
今でもそうですが、在日コリアンだけではなくて、多くの外国人、特に川口などでいえばクルドの人たちは、本当に街を歩くのさえ恐れているような状況下で毎日の暮らしを続けている。国会の衆議院の法務委員会では、河野太郎なども含めて、事実ではないのに、川口市、蕨市でクルド人が非常に暴力的な行為を行っているかのような発言がまかり通っている。ヘイトスピーチ解消法(本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律)を作る2016年のレベルとは全く違ってしまっている。当時国会でヘイトスピーチを平然と言えるような雰囲気はなかったんですよ。
それが今、杉田水脈さんは落選したけれども、河野太郎をはじめとして、参政党、日本保守党のような人たちは、国会議員として「クルド問題」を根拠なく発言してしまう。国会が排外主義的な色に染まりつつあり、危険です。
ただ一方、忘れてはいけないのは、今度の参院選の成果として、与野党の逆転が起きたことと同時に、比例区で安倍派残党がことごとく落選したことです。杉田が落選し、長尾敬が落選したことを含めて、その人たちが国会に戻ってこなかったのはやはり有権者の的確な判断として見ておかなければいけないと思います。しかし、それを上回って参政党という新たな排外主義政党が伸びてしまった。
その原因分析はこれからやらなければいけないにしても、それ以前に、立憲民主党、それから共産党の今後を考えるべきです。共産党は、選挙区改選7議席から3議席、比例区は改選4議席から2議席ですから。1960年代に逆戻りしてしまった。しかもこれをどう克服していくかについて、毎日「赤旗」を見ていても、教訓化が今のところはされていなくて、「赤旗を増やしましょう、赤旗を拡大して反転攻勢に出ましょう」としか言っていない。
僕は共産党に20年いましたから、その深刻さを痛感しています。共産党は1950年に分裂して、1955年の六全協で統一したことになっていますが、実際には51年の五全協で統一はしているんです。宮本派国際委員会は、自分たちの組織を解体して統一に向かっていて、1955年の六全協で宮本顕治が執行部に入った。その時、宮本顕治が赤旗の責任者になるんですよね。
責任者になって何をやったかというと、赤旗の紙面を使って、人々に共産党がどのように変わればいいのかと意見を求めて、ずっと報道するんです。共産党はこういうふうに変わらなきゃいけない、と。共産党の専従活動家の奥さんたちの座談会をやって、「うちの亭主は外ではいいことばっかり言っているけど、うちに帰ってくると封建的だ」とか、報道しました。とても開かれた共産党に育っていくんですよ。
その後の宮本路線の評価は別にしても、やはり共産党が変わらなければいけないということで、実際にこうしたことをきっかけに変わっていったんですよね。ところが今の共産党は、これだけの敗北を被ったにもかかわらず、そこからの打開の道というものが全く示されていない。
去年1月の共産党大会で、志位和夫さんのイニシアチブらしいのですが、理論委員会というのができた。でも、何の行動も見えてこない。そのことは僕もtwitterであえて書きました。理論水準もふくめて、共産党の再建というものを少なくとも今の時点では執行部が示せていない。
加えて、立憲民主党も党の内部は右から左までさまざまで、いわゆるリベラルの人たちも、あえて言えば、国会議員でいられることが目的のような人たちも結構多いんです。だから、自分たちの歴史的な役割をどのように考えているのかということに関して、党の現状維持ができたという程度で終わってしまっている。歴史観がなく、歴史意識が希薄です。
それが、立憲民主党だけではなく、共産党も、そして社民党もそうなのでしょう。7月29日に「大椿ゆうこさんと語る会」に出たのですが、もう社民党は底を打った、もうそこまで来てしまったという危機感はあります。どう克服するか、これからの社民党の役割は明示されない。
もう1つ、衆議院だとれいわ新選組が共産党よりも1議席多いんですが、れいわ新選組も、僕の目から見ると立憲民主党批判が多い。本会議でも立憲民主党批判ばかりに見える。それはそれで自由にやってくれればいいとは思うものの、そのれいわ新選組が参院選で7議席を目標にしていたのに3議席しか取れなかった。共産党も目標にはいかない。社民党も辛うじて1議席獲得と2パーセント要件をクリアしたという最低限のところですから、いわゆるリベラルの政党がそこまで来てしまって、自公も落ちる。立憲、共産、社民もうまくいかない状況で、550万も参政党が増やしてしまった。この恐ろしさが少なくとも6年間続いてしまう。2031年までの日本政治は、治安維持法を肯定しスパイ防止法の必要性を公然と唱える「極右」政党とともに進んでいく。どういう日本になっていくんだろうかという恐れを感じているのがいまの思いです。
新しい世代の力でファシズムに抗する戦線を
そうは言っても、日本の歴史の中でそういうことは常にあった。戦前の自由なき日本は「冬の時代」で、多くの犠牲者が生まれ、その暗澹たる世相に多くの人たちは黙り、あるいは抗して生きてきた。大江健三郎の恩師だった渡辺一夫は、密かに「敗戦日記」を書いて(没後発見された)、暗い時代を生き延びてきた。この7月、ちくま学芸文庫でその『敗戦日記』が出版されて、戦争中、日本はもうとんでもないことになってしまったと、自殺まで考える日々だったけれども、それが戦争が終わって解放され、新しい民主主義のもとでフランス文学の研究をやって、そこから大江健三郎さんが生まれてきたりした。戦後民主主義が育っていった。
同時に、僕の頭の中にあったのは、戦争中上海にいて終戦を迎えた作家の堀田善衛さん。日記を残しており、堀田さんの目から見ると、戦後民主主義、日本再建の動きの中で、昨日までの軍国主義者が、よく言われるようにある日突然民主義者になった。それに対する違和感を堀田さんは小説などに書いていらしたんだけれども、国民意識というのはいろんな形で流れていくし、今もそういう時期にあるんでしょう。そんな時代に、これは『現代の理論』もふくめて、国民意識の分析や、特に理論的にも政治状況、社会状況、文化状況をもっと活発に議論していくべきだと思う。
総体として、敗戦後の日本から今の日本のリベラルというくくりが正しいのかどうかは議論になるところでしょう。特に僕など1960年代、70年代に育ってきた年代なんで、その時代に比べるとどうなのかも考えたい。参政党が大きな顔をする日本社会を食い止めるための意志を持った人々、また組織がどのように新しい冬の時代に抵抗していくのかというのを、組織論だけではなくて理論面でも深刻に活発に議論をしていかなければいけない時代に入ってしまったのかなと感じています。
参政党の国会議員が南京大虐殺や日本軍慰安婦がなかったと言いますが、それはありえない話です。1940年代、50年代、60年代、70年代、少なくとも80年代に生きてきた人たちには。だけど、考えてみたら、僕らの世代からすると信じられないことなんだけれども、今の若い人たちというのは、高度経済成長どころかバブルも経験していない人たちです。就職氷河期を含めて非正規労働者が増えてしまって、その中で圧倒的に女の人たちが非正規であるという労働条件のもとにいて、日本が戦争に負けて経済再建をしてきたことも実感としては全く知らないわけです。
今の若い世代は、消費する日本社会で生きてきたのだと、ある脚本家に言われて、確かにそう考えれば、実感として戦争を知らないだけではなくて、日本の戦後史そのものが平凡に消費をどのようにしていくのか、消費のあり方が歴史観、生活感になってしまったのかなと思ったところです。僕は有楽町によく行くんですけれども、有楽町の駅前に大きなコンビニがある。僕が居酒屋なんかで酒を飲んで帰ると、そのコンビニの前で若い人たちが何十人、あちこちグループになって缶ビールで話しているんです。いつもそれを見て、やっぱり経済的に厳しいから居酒屋へも行かなくなったのかなと思っていましたが、それもあるにせよ、居酒屋文化さえもがもう消えつつある日本社会なのかなと思います。
日本社会そのもののあり方が相当変わってきてしまっていて、少なくとも僕は戦争経験はないけれども、子供の頃には、大阪の茨木市にいた時には、傷痍軍人がアコーディオンを弾いてゴザに座ってお金を求める時代はまだかろうじて経験していた。そんな経験もなく、漂白化されてしまった日本社会が広がってしまっていて、厳しい経済状況のもとで、日本人ファーストに惹かれていく若い世代が増えてしまっているのでしょうか。
冒頭に述べた対馬丸事件も知らない本土の人間、沖縄の若者たちや、瀬長亀次郎ではなくて参政党だという81歳のおばあちゃんもふくめて、この日本はもう、嫌な言葉だけれども、底が抜けてしまったのかなというところです。それだけ言っていても仕方ない。でも何ができるのか、『現代の理論』も含めて、本当に意志ある人たちが旗を、ボロ旗でもいいから掲げなければいけない、世代的な責任があるんじゃないかと思っています。
僕の両親は19歳で共産党に入ったんですけれども、母は2016年に共産党員として亡くなった。父は今95歳で、京都で1人暮らしですが、今も共産党員で、共産党歴は76年。年内に本を出すんですが、タイトルが『未来に生きる 老コミュニストの残し文』です。母が亡くなる前に、もう言葉も出なくなっていたんだけれども、僕に言った言葉は「生きてるうちは頑張らんとな」でした。
でも疲れてきますよね、なんだこの日本はと思って。そうは言っても生きているうちは頑張んなきゃいかんなと思って、国会議員であれ地方議員であれ、『現代の理論』に集う人たちも含めて、もう少し反転攻勢するまでやんなきゃいかんなという、そういう思いですね。
共産党もこれでいいのかと思うし、社民党もこれでいいのかと思うし、れいわはそんなに立憲の批判ばかりせずに、もっと違った方向で頑張れと思う。スペイン人民戦線を見ても、ジョージ オーウェルの『カタロニア讃歌』が記録していますが、アンチファシズムの中が分裂していたわけです。なんで左翼は常に内ゲバを繰り返すんだろうかと思います。自民党なんかうまく一致するんですよ。左翼は必ず内ゲバをやるという不思議な体質ですが、そんなことを言っていてファシズムが来てしまったわけだから、できる限り、ファシズムの危険性を食い止めるための日本戦線を作らなくてはならないと思います。
小田実さんが生きていたら何かやっただろうなと思いますね。そういう人が現れないとダメでしょう。大江健三郎さんや小田さんは、60年安保の時はまだ30代初めでしょう。その人たちが動いて運動を作り、60年代から70年代の流れになったわけだから、そういう人たちがもっと生まれていいと思いますが、まだ見えないですよね。
それでも政権交代の道はあり得る
政権交代の可能性はあると思います。少し乱暴な話ですが、石破さんは軍事オタクであり、非常に右寄りの思想を持っている一方で、選択的夫婦別姓賛成なんです。僕がずっとテーマにしている北朝鮮拉致問題についても、平壌に連絡事務所を作ろうという考えです。ただそれはもう言えなくなってしまっている。
だから、石破さんと仲間が党を割って立憲などと自社さ政権のようなもの作って、日朝交渉もちゃんとやる、選択的夫婦別姓を実現するという道はありなのかなと思います。大連立じゃなくて。大連立には僕は反対ですが、新しい政治的な枠組みという意味での政権交代はありだと思う。
ただ、そこで石破さんが不幸なのは、ブレーンがいないこと。かつての野中広務さんのように、村山富市さんを担いで自社さ政権を作るような、そういう人がいないのが今の石破さんとその周りの不幸でしょう。そういう動きを作ることが可能だとするならば、新しい自公ではない政権交代はあり得ると思っています。
10月にトランプが訪朝する気配があります。朝鮮戦争を終わらせて、国連憲章違反だけれども、核の保有をトランプが認めると言って、朝鮮戦争休戦協定から平和協定にする気配です。かつてのアメリカの政権も米朝の国交正常化を目指して平壌に連絡事務所を作る計画をずっともっていたのですね。
そういう動きがあったら日本も動かざるを得ない。その時には新しい日朝交渉のアプローチもある訳で、日朝国交正常化に向けては反対勢力が強すぎるけれども、そういう動きも含めて、新しい日本政治を今の自公政権ではない形で実現していくことは必要だと思っています。
排外主義の問題についても、参政党の記者会見で神奈川新聞の記者が排除されたことについて、新聞協会レベルだけではなくて、すべてのメディアがもっと一致して戦うべきだと思う。そういう動きも弱いですね。だから、そういう意味では、言論界、評論の世界から、文学も含めて、政治、経済、文化総体で、もう一度新しいのろしをあげる象徴になるような人が出てきてもらわないと困るなというのが今の思いです。僕らの世代ではなく、若い人が出てほしいものです。
ありた・よしふ
1952年京都府生まれ。2010年に参議院議員初当選。2022年まで2期務める。現在、衆議院議員(2024年~)。フリージャーナリストとして霊感商法、統一教会、オウム真理教による地下鉄サリン事件、北朝鮮拉致問題に取り組む。日本テレビ系「ザ・ワイド」にコメンテータとして12年半出演。著書に『誰も書かなかった統一教会』(集英社新書)、『改訂新版 統一教会とは何か』(大月書店)、『北朝鮮 拉致問題 極秘文書から見える真実』(集英社新書)、『歌屋 都はるみ』(文春文庫)など多数。
特集/いよいよ日本も多極化か
- 参院選の結果-日本は新しい冬の時代にジャーナリスト・有田 芳生
- 「家」制度を引きずる日本の「家族」本誌編集委員・池田 祥子
- 単なるリセットは破壊しかもたらさない神奈川大学名誉教授・本誌前編集委員長・橘川 俊忠
- 「漂流」始めた米国国際問題ジャーナリスト・金子 敦郎
- ポピュリズムとは何か 欧州にみる龍谷大学法学部教授・松尾 秀哉
- 「 国民主権政府 」の旗の下 、突き進む韓国の李在明新政府聖公会大学研究教授・李昤京
- 限界に直面する先進工業諸国G7の20世紀自由民主主義世界像上智大学教授・サーラー・スヴェン×本誌代表編集委員・住沢 博紀
- 外交は好評だが、内政で苦労しているメルツ新首相在ベルリン・福澤 啓臣
- 2025参院選――組織された細切れの「民意」大阪公立大学人権問題研究センター特別研究員・水野 博達
- 労基研「労使コミュニケーション」は労基法破壊全国一般労働組合全国協議会 中央執行委員長・大野 隆
- 自発的結社とは何か 企業別組合への挽歌労働運動アナリスト・早川 行雄
- 昭和のプリズム-西村真琴と手塚治虫とその時代ジャーナリスト・池田 知隆