コラム/経済先読み

甲辰(きのえたつ)歳の世界経済

グローバル総研所長 小林 良暢

2024年、甲辰(きのえたつ)の歳が明けた。

「甲」は種子が厚い皮に守られている状態から、その生命や物事の始まりを意味し、物事がはっきりとする様を現わしている。

日経平均、1月2,822円高

2024年の東京証券取引所は、約34年ぶりの3万6,000円台を超える高値で明けた。

卯年の1月の日経平均株価は月間で2,822円(8.4%)上昇した。上昇率は23年11月(8.5%)以来2カ月ぶりの大きさだった。東京市場は、ハイテク株を中心とした値上がりに加えて、米国株の上昇が波及したほか、円安・ドル高の進行にそって新たな少額投資非課税制度(NISA)の開始も追い風にして、日経平均は、22日の終値で3万6000円台を回復し、33年11カ月ぶりの高値を更新した。1月の日経平均株価は月間で2,822円上昇し、月末には3万6286円で終え、このまま春に向けて、かってのバブル期の水準への期待をつなぐ場面も垣間見られた。

これから春に向けての相場展開については、兜町界隈からは証券ジャパンの大谷正之調査情報部部長のように「年初から円安の進行で外国人投資家の買いが再び入ったことや、新NISAを通じた資金の流入による需給面の改善が大きい」と、前向きの相場観を指し示す専門家も増えてきている。

ジム・ロジャーズの2024世界経済

こうした見立ては、アメリカの著名投資家ジム・ロジャーズがかねて予想した通りの相場展開である。しかしながら、同氏は一方で「2024年は世界で経済的な危機が起こる」ことを、世界に発信していた。

ジム・ロジャーズが全文を特別公開したメルマガ『世界三大投資家ジム・ロジャーズの”Make Japan Great Again”』創刊号によると、アメリカや日本の株価について、いま最もエキサイティングな3つの国を取り挙げて、日本人の円安・インフレ感をご紹介している。

ここでは、まずジム・ロジャーズのプロフィールを紹介しておこう。1942年、米国アラバマ州生まれ。イェール大学で歴史学、オックスフォード大学で哲学を修めた後、ウォール街で働く。ジョージ・ソロスとクォンタム・ファンドを設立し、10年間で4200%という驚異的なリターンを上げる。37歳で引退した後、コロンビア大学で金融論を指導する傍ら、テレビやラジオのコメンテーターとして活躍。ウォーレン・バフェット、ジョージ・ソロスと並ぶ「世界三大投資家」と称される。

日経平均4万円台の裏でETF推奨

ロジャーズは日本の株式市場について、「新年数ヶ月のうちに、1989年12月に記録した史上最高値を4万円近くまで回復する」と見立てている。その理由は、次の2つある。

ひとつは、2024年から日本では非課税優遇制度の新NISAがスタートすること。加えて日銀がETFを購入する余力がまだ残っている。ETF とは、東京証券取引所などの金融商品取引所に上場している投資信託のことで、特定の指数、例えば日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)等の動きに連動する運用成果によって、日経平均株価が過去最高を超える可能性があると証券筋が推奨している商品だ。

これは同時に、日本だけでなく、世界で経済的な危機が起こるとも予想する見立てもある。世界最大の株式市場であるアメリカは、既に株価指数は史上最高値に近い。株式市場は、リーマン・ショック以降は過去14年間ずっと好調だ。これはアメリカ史上最長の期間で、この状態が40年も絶対に続かないとは言い切れないが、これまでは続いたことはない。

強気相場の終盤

すでに強気相場の終盤に起こる兆候が現れている。既に新しい投資家が参入しており、アメリカでは上位7銘柄が上昇の大部分を牽引するという事態が起きていて、新規上昇する銘柄がどんどん少なくなってきている。

こうしたことはすべて、過去にもあったことで、だから2024~25年のうちに、強気相場は終わりを迎えるのではないだろうかと予測する向きも多い。すでに「終わりの始まりになっている」かもしれない。アメリカで問題が起これば、日本も含めてすべての国へ問題は波及するだろう。

例えば、中国市場に関しては、コロナと不動産バブル崩壊ですでに株価が落ち込んでいるともみられる。2024~25年には、世界の大半は現在のようにはうまくはいかないだろうとの見立てが増えつつあり、2025~27年には破裂すると見立てる人々が増えつつある。

こばやし・よしのぶ

1939年生まれ。法政大学経済学部・同大学院修了。1979年電機労連に入る。中央執行委員政策企画部長、連合総研主幹研究員、現代総研を経て、電機総研事務局長で退職。グローバル産業雇用総合研究所を設立。労働市場改革専門調査会委員、働き方改革の有識者ヒヤリングなどに参画。著書に『なぜ雇用格差はなくならないか』(日本経済新聞社)の他、共著に『IT時代の雇用システム』(日本評論社)、『21世紀グランドデザイン』(NTT出版)、『グローバル化のなかの企業文化』(中央大学出版部)など多数。

第37号 記事一覧

ページの
トップへ