特集 ●混迷する時代への視座

迷走する連合は出直し的再生をめざせ

芳野会長は出処進退を明らかに! 政権交代ではじめて実現する政策がある。これが連合の政治方針

労働運動アナリスト 早川 行雄

「連合の政治方針」(第13回定期大会(2013年)確認)には、連合の求める政治として政権交代可能な二大政党的体制をめざすことが明記されている。連合は第3回定期大会(1993年)で最初の政治方針を確認して以降、一貫して政権交代のある政治の実現を掲げてきた。具体的には反自民非共産の政治枠組みで政権交代可能な野党の共闘体制確立を目指すもので、神津前会長時代まではこの政治方針が堅持されてきた。

事態が一変するのは昨年10月に芳野友子新会長が就任した以降である。総選挙時に「反共演説」などで選挙妨害を繰り返した芳野会長は、今次参院選でも応援演説に訪れた新潟でテレビ局のインタビューに答えて「もし共産党が入ってきたとするならば共産党の票は入るかもしれませんが、逆に“連合票”が逃げる可能性がありますので。私ども連合としてはこれまでも申し上げた通り、共産党との関係はありえない」と公言しており、全く反省の色など見えない。その参院選は、新潟選挙区での森裕子候補落選が象徴するように、立憲民主党は改選議席を6議席下回る17議席に止るなど、先の総選挙に引き続き総じて野党の敗北に終わった

本稿は、対政府の政策制度要求を掲げ、その実現に向けた主要な手段として政権交代を目指してきた「連合の政治方針」自体の是非を問うものではなく、芳野新会長下における連合の政治活動、とりわけ国政選挙に関わる会長の言動が、従来の「連合の政治方針」に基づく取り組みから逸脱し、却って政権交代の障害となっていった背景を、外部的政治情勢および連合を構成する産別の組織事情などから明らかにしようとするものである。

Ⅰ.政権の固定化を目論む政府自民党

自民党の引き返せない一本道

2012年に成立した第2次安倍政権およびそれを継承する菅政権や岸田政権は、第1次安倍政権における右翼的政治姿勢が不評であったことを踏まえ、黒田日銀と連携した「アベノミクス」や「新しい資本主義」などの経済成長政策を表看板に人気取りをしてきた。その一方で実際の立法(法案成立)過程などを振り返ると下にみるように、情報統制による治安立国と軍事大国化に向けて急速に舵を切って来たことが分かる。

2013年12月:特定秘密保護法

2014年7月:集団的自衛権合憲の閣議決定

2015年9月:安全保障関連法案(安保法制)

2017年6月:共謀罪法

2020年9月:日本学術会議会員候補任命拒否

2021年5月:デジタル改革関連6法

2021年6月:重要土地利用規制法(戦前の要塞地帯法に相当)

2022年3月:サイバー警察局創設(改正警察法)

2022年5月:経済安全保障推進法

こうした流れは政府自民党にとって、政権固定化すなわち実質的な独裁政治に向けた引き返すことのできない一本道であり、議会制民主主義の根幹をなす政権交代の可能性を徹底して排除することが目論まれている。政治学者の中野晃一(上智大学教授)や白井聡(京都精華大学教員)らは、こうした今日の政治状況を単なる自民党政権の継続ではなく、政権獲得の意思も能力もない万年野党(社会党)を前提に、自民党が常に政権与党であり続けることで成立していた「55年体制」になぞらえて「2012年体制」と名付けている。中野はそこにおける社会統制や大衆教化のイデオロギーを「国家保守主義」と呼び、白井はこの体制を日本社会の全般的劣化の帰結ととらえ、あるべき政権交代が不可能になり、政権の固定化や腐敗が進むとしている。

いずれにせよ、どのような政権であっても選挙で敗れて下野することを避けたいと考えるのは当然であうが、何としても政権交代を阻止し、引き返すことのできない一本道の治安立国、軍事大国化を推し進めたい自民党は、議会制民主主義の根幹である政権交代を可能とする政治制度そのものを機能不全にすべく、司法・検察の忖度機関化、メディアの懐柔・翼賛化、労働組合活動・市民運動への介入などあらゆる手段を駆使してきた。そこで残された最大の脅威となるのが野党共闘に対する有権者の支持拡大である。

野党共闘による政権交代を考える場合に焦点となるのは共産党との選挙協力である。政治学者の中北浩爾(一橋大学教授)は近著『日本共産党』の中で、いま共産党史を書く理由として「共産党の一切の関与なき政権交代を考えることが難しくなっている」ことを挙げている。事実2009年の政権交代を実現した総選挙や、その前哨戦とも言うべき2007年の参院選において、高木剛元連合会長がいみじくも「目に見えない共闘」と表現した共産党との選挙協力が大きな勝因となっていた。すなわち政権交代に向けた反自民非共産の野党共闘を組織し、そこと共産党との協力関係のあり方に創意工夫をこらして、選挙に勝ち抜くための勝利の方程式を解いてゆくというのが連合政治方針の正しい運用の仕方であった。

また、立憲民主党が惨敗したかのような一面的な報道が見みられた昨年10月の総選挙においても、自民党で比例復活した候補の半数が前回は小選挙区で勝っていたことからも明らかなように、日経新聞が「自民、目立つ薄氷の勝利」と報じているのが実態である。総選挙結果を正しく分析すれば、非共産野党と共産党の選挙協力は、自民党の心胆を寒からしめる効果を発揮したというのが、データに裏付けられた客観的な総括である。

いま治安立国化、軍事大国化、原発温存のエネルギー政策をなりふり構わず推し進めようとしている政府自民党は、雇用政策(非正規雇用対策)やジェンダー平等政策においても、すべてを成長戦略の従属変数として経済政策の文脈でのみ扱うため、「成果」は企業の効率化や利益拡大としてのみ現れ、働く者の権利拡大や女性の尊厳回復はなおざりにされたままだ。家計の将来不安に対しては自助努力の「貯蓄から投資へ」で資産倍増を促すのみである。いままさに、危機に立つ支配層の延命に向けた自民党の悪政が働く者の未来に立ち塞がっており、これに対して連合は、総選挙結果を予断なく総括し、平和的に生きる権利を持ったすべての労働者の代表として明確な対抗軸を示すことで、政権交代に向けた強固な政治闘争を組織しなくてはならなかった。しかし遺憾なことに、共産党との協力が総選挙の敗因であるかのごとき歪んだ総括を下敷きにしたため、参議院議員選挙でも勝利の方程式を解くことができなかった結果、政府与党にむざむざ勝利を持ち去られる結果を招いてしまった。

自民党に見込まれた連合会長

従来の連合会長とは異なり、芳野会長は政権交代など眼中になく共産党を含む野党共闘に何かと異論を差し挟んで妨害することが最大の関心事となっており、その限りでは自民党と全く同じ政治的立ち位置に立っている。これは明らかな連合政治方針からの逸脱である。後日、自民党の遠藤選対委員長が「連合の会長(芳野友子氏)が共産党(との共闘は)ダメよと、そんな話をしていたこともあって勝たせていただいた」とほくそ笑んでいたことが、この間の事情を象徴している。安河内賢弘JAM会長(連合副会長)は「自民党との連携は私の労働運動への侮辱です」と述べているが、これは連合政治方針の下で政権交代を目指してきたすべての連合組合員および野党共闘を支えて政権交代に挑んできた無数の市民が共有する思いである。そのとき「自民党と認識に大きな相違はない」と公言して憚らない人物が連合会長であって良いはずがなかろう。

自民党は非共産野党と共産党との連携を最も警戒し、両者の間にくさびを打ち込みたいと策を弄してきたが、そこに共産党との連携をアレルギー的に嫌悪して妨害活動まで行う、願ってもない人物が連合会長に就任するという事態が出来したのであるから、これを最大限に利用しようと画策することは当然であろう。一部に、連合が変わったのではなく、自民党の方が接近してきているだけだという意見もあるようだが、ある意味で事実としてそうした側面もある。ハト派からタカ派まで様々な派閥の集合体でありながら、冷戦時代由来の反共主義を唯一の結集軸としてきた自民党と、連合芳野会長の反共主義が共鳴し合い、自民党からは以前の連合会長とは明確に異なる思想的な同調者として見込まれているわけである。

実際に自民党は去る3月に決定した運動方針に「連合など労働組合との政策懇談を積極的に進める」と明記して、野党の支持母体である連合に揺さぶりをかけ、さらなる野党分断工作を進めている。芳野会長の野党共闘への介入が昨年の総選挙結果に影響したとうのは衆目の一致するところで、そうした負の遺産が今次参院選結果にも影響したであろうことは想像に難くない。

ところで、参院選投票日直前に起こった安倍元首相狙撃事件の容疑者が統一教会に深い怨恨を持っていたことから、政府自民党と反共カルト教団の関係が俄かにクローズアップされている。統一教会は韓国に本部を置き、反日的排外主義の色彩が強い団体だが、「反共の絆」はそうした障害を乗り越えて日本保守層と結びついた。戦後冷戦時代における、アメリカを中心とした西側陣営の政治プロパガンダとして拡散された反共思想は、日本においても与党自民党はもとより一部野党や労働界、宗教界にも深く浸透している。

学術分野では、1974年に統一教会が主導する世界平和教授アカデミーが創設された。初代会長には政治学者の松下正寿(立教大学総長、民社党参議院議員)が就任しているが、松下は富士社会教育センターの2代目理事長も務めた。芳野会長が反共思想を習得した富士政治大学は同センターの教育部門である。本稿の主題ではないが、戦後史における冷戦期反共思想が戦後民主主義に敵対してきた反動的役割については、今後予想される改憲論議の中でも詳しく考察される必要があろう。またそのような文脈の中に位置づけることで、芳野反共思想の危険性ないしは有害性も一層克明に理解することができよう。

確信犯としての芳野会長

芳野会長の言動は、単なる経験や知識の不足による軽佻浮薄な振る舞いではない。人並みの知性があれば、自分の言動がどのような影響を与え、誰を利するのかは大方理解できるはずであり、それが分った上で利敵行為を働く者を確信犯と言う。このところピンクのマスクが芳野会長のトレードマークのようになっているのだが、連合関係者によれば、あるときピンクのマスクを茶化されたことがあり、それ以降、意地になって着用を続けているのだという。芳野会長の意固地な性格をよく現したエピソードだが、単なる性格の問題ではなく、思想そのものの頑迷さは本人や周囲の発言からも確認できる。

例えば、昨年10月1日(連合会長就任直前)に収録され、いまでもJAMのHPで視聴できる安河内JAM会長との対談の中で、芳野会長は「私は私でいたい」とした上で「立場が変わると人も変わると言われるが、自分で気が付かないうちに変わってはいけない。おかしいよと言ってくれる仲間=マイサポーターと繋がりながら変わらずにいたい」と言っている。普通に聞けば、ありきたりの殊勝な発言のようだが、その後の経緯を顧みると、富士政治大学で学んだ極右的反共思想に基づく政治路線を連合会長になっても断固貫徹してゆくという決意表明であったことが分る。

芳野会長のマイサポーターの一人と思われる連合東京の斉藤千秋事務局長は、New York Times紙のインタビュー(2022.2.16)で芳野会長を評し、“Japanese newspapers are saying that she’s a puppet, but it makes me laugh”(操り人形とは笑わせる) と語り “If someone thinks they can control her, they should give it a shot.”(コントロールできると思うならやってみな)と付け加えた。芳野会長と親しい周囲の盟友の眼にも、頼りがいのある確信犯として映っていることが分る証言だ。

経験や知識の不足であれば周囲からの「輔弼(ほひつ=大日本帝国憲法において天皇の大権行使に誤りがないように意見を上げる行為)」を含めて、なんとでも対処のしようもあるが、「諫議大夫(かんぎたいふ=中国唐代において天子の誤りを諫めることを職責とされた官職)」の助言にも耳を貸さないような確信犯にはつける薬がないのである。

地方連合の中には、政党間の選挙協力には関知しないという連合方針に反して、共産党や市民連合と立憲民主党の協力関係に介入し、実質的な選挙協力には消極的な姿勢に出ているようなところもある。これらの動きをけん制しながら、野党間協力の前進を図るのが連合政治方針に忠実な連合本部の姿勢であり、事実神津前会長は「“野合”で何が悪いのかくらいの思いです」とも述べながら野党の選挙協力を側面から支援してきた。

然るに芳野会長は、自ら共産党との選挙協力への反対を公言して、一部の反共色が強い地方連合の消極的態度を助長したのみならず、先の総選挙に際しては神奈川13区で地方連合の頭越しに、連合本部が直接選挙妨害的に介入することまで行った。こうした芳野会長の言動には同氏が活動してきた連合東京の影響も大きいと思われる。芳野会長自身が産経新聞のインタビューで、共産党と選挙協力する候補者に対する地方連合の対応について問われた際に「例えば連合東京は特にシビアに考えているようだ」と答えているように、連合東京の政治スタンスは地方連合の中でも際立った反共姿勢で知られている。富士政治大学で学習した芳野会長の反共思想が、連合東京的な体質の下で確固たる「信念」に成長していったようだ。何れにしても、芳野会長による一連の野党共闘批判が総選挙や参院選における野党敗北の一因となったことは疑いなく、その責任は厳しく追及されねばならない。

Ⅱ.国策依存に傾斜する民間産業労使

産別と政権与党との関係のあり方

原発問題を抱える電力産業に加え、EV(電気自動車)化に出遅れ、カーボンニュートラルに水素エンジンなど複数の選択肢での対応を模索する自動車産業や、半導体分野で国際競争力を喪失し、外資とも連携した国内製造基盤の確立で安定供給を目指す電機産業など、国の産業政策に強く依存することなしに企業の将来展望を描くことができない産業分野が拡大している。こうした産業・企業を巡る情勢の転換を受けて、国策依存を強める経営陣に同調する形で政府与党との距離を縮めようとする組合も現れてきた。典型的事例は先の総選挙で、政策実現のため自民、公明両党も含めた超党派で連携する必要があるとして、6期18年務めた組織内議員(現在は愛知県副知事に就任している)を引退させることでトヨタ労使が引き起こした「トヨタショック」である。

しかし国策依存といっても、それが必ずしも連合政治方針の政権交代と矛盾するわけではなく、どの党が政権の座にあっても、時の政権与党と連携して行ければ産業政策的には問題がない(少なくとも対応可能)のではないかと思われる。従って、時の政権与党とパイプを持つことと、反共を党是とする保守政党自民党と連携を強めることは本質的に異なる政治対応である。

自民党は連合と連携するとした運動方針どおりに、去る4月には芳野会長を党主催の研究会に招き、芳野会長はそこで講演した後、認識を共有できたとエールを交換した。こうした異例の行動は芳野会長の立ち位置を象徴するものだが、連合関係者によれば、こうした行動について事前に連合内での議論がある訳ではなく、会長判断で行われているのが実態だという。産業政策として国策との連携を重視する産別であっても、芳野会長のように反共イデオロギーから発する火遊び的自民接近に下手に同調することで、却って産別が進めようとしている産業政策の将来に禍根を残すことにならないか、しっかり足下を見据えるべきではないか。

政権交代なくして実現しない政策がある

この間の野党の再編と共闘に関わる紆余曲折の概略を示すと以下のようになろう。

2015年 安保法制闘争 市民連合と野党共闘成立 共産党国民連合政府構想

2017年 希望の党騒動 民進分裂、立憲民主結党 総選挙

2019年 参院選 組織内議員当選者:立憲5/5、国民3/5

2020年 立憲・国民統合 新立憲民主 一部国民民主残留(新国民民主)

2021年 総選挙 反共ネガキャン 立憲比例で後退

2022年 参院選 野党敗北 野党協力の後退

一昨年の旧立憲民主と旧国民民主の統合に際して、玉木代表ら国民民主の一部が合流せずに残って今日に至る問題については、小沢一郎(立憲民主党衆議院議員)が、これには連合にも責任があると言っているように、連合傘下の4産別の組織内参議院議員が玉木代表の新国民民主党に所属している(電機連合は今次参院選で議席を失った)。この段階で一部の産別においては、政権交代よりも政権与党と連携した産業政策実現を優先する傾向が浮上してきたのであろう。これら産別が積極的に芳野会長選出に動いたという話は聞かないが、芳野会長は就任以降こうした政権交代を軽視する流れに棹差していることは明らかである。

国民民主党に組織内議員を抱えるUAゼンセン同盟の松浦昭彦会長は、国民民主党が政府予算案に賛成の方針を公にした段階の定例記者会見で、「我々は労働者の立場に立つ反自民非共産の野党の一つのかたまりを政権交代可能な軸にしていきたいという考え方を持っている。そのことから外れることのないようにしてもらいたいと(国民民主に)申し上げている」と述べている。またUAゼンセン同盟の高木剛顧問(元連合会長)は連合の分裂を憂慮し、「月刊日本」誌のインタビュー(2022年6月)において「これまで小異を捨てて大同につくという方針で来たのだから、それを維持してほしい。連合が分裂するような事態だけは絶対に避けてほしい」とする所感を述べている。

これらは非共産野党の結集で政権交代を目指すという「連合の政治方針」に依拠したものと解してよいだろう。政治学者の山口二郎(法政大学教授)が言うように、政権交代しなければ実現できない政策があり、それは憲法が保障する基本的人権の理念を体現した連合ビジョン「働くことを軸とする安心社会-まもる・つなぐ・創り出す-」構想についても言えることだ。だからこそ連合は政権交代の政治方針を決してなおざりにできないのである。

参院選結果を受けた連合事務局長談話では「政策実現や緊張感ある政治に向けた二大政党的体制の確立をめざし、政治活動の歩みを止めることはできない」と改めて明記された。連合関係者によると今の状況で「二大政党的体制」を記載することについては議論があったという。しかし結果として、政権交代を目指す政治路線が維持されることとなった。こうした基調が参院選総括の中でどのように維持されるのかを注視しなくてはいけない。

連合各構成組織には産業政策、許認可、雇用に関わる予算措置など政権与党との関係づくりが必要となる諸事情が存在する。これらをおしなべて否定しては産別運動が成り立たなくなるのだから、直ちにこれらを連合方針に抵触するものとして斥けることはできない。とはいえ、個々の産別事情は全ての働く者の利益を代表するナショナルセンターの理念や政治方針とは別次元の問題であり、参院選で野党が敗北した後の政治情勢の下で、今一度「連合の政治方針」の根幹にある政権交代による政策実現のスタンスを確認することが何よりも重要になっている。

Ⅲ.連合は出直し的再生をめざせ

連合組織の健全性が問われている

議論と手続きを重視する、まともに機能している組織にあっては、組織のトップを含む執行部の仕事ぶりが組織目標の達成に貢献しているのか、あるいはその所業が組織の社会的信用を損なっていないかなどについて、組織の構成員の厳しい監視下に置かれ、ことと次第によっては出処進退が問われることも稀ではない。昨今の民間企業における株主総会を巡る状況を見ても、社外取締役から取締役人事案に異論が出されたり、総会議案の役員人事案に反対票が投じられる事例も報じられている。海外でも、新型コロナ感染症の行動規制中に官邸でパーティーを開いた英国のジョンソン首相は、保守党党首の信任投票で4割以上の不信任を受け、その後も閣僚や党役員の辞任が相次いだ結果、ついに辞任に追い込まれた。

事程左様に、組織のトップ人事やリーダーの行動は組織内外の厳しい監督や監視を受けるのが健全で活力ある組織の常道である。それにも関わらず連合は、会長のなり手が誰もいないからといって、能力資質を十分考慮することなく安易に女性会長を選出し、その会長が選挙妨害や政権与党への擦り寄りなどの逸脱行動を繰り返しても、十分なチェック機能を発揮することなく、事なかれ主義で続投を許している。こうした連合の現状は、到底組合員や社会一般からの理解を得られるものではなく、極めて憂慮すべき事態に陥っていると判断せざるを得ない。

今日の連合には、ミャンマー(ビルマ)民主化支援をはじめとした国際連帯活動や社会貢献活動で、ナショナルセンターとしての役割を果たしてきた側面もある。芳野会長の一連の逸脱行為やそれを咎められない執行部の対応は、こうした国際連帯や社会貢献で社会からの信頼を得てきた連合の活動を台無しにして余りある失態というほかない。連合内の求心力についても、毎日新聞の報道によれば、連合職員の中から「芳野さんが何をやりたいのか分からない。働く者と横につながるでもなく、説明もなく一人で進む。とてもじゃないが一緒にやれる人ではない」との声も聞かれるという。連合が組織の健全性を回復するには、組織の内外から批判にさらされ続けている会長の処遇で、明確なけじめをつけることから始めなければならない。

批判には運動実態で応えよう

連合結成に際しては総評三顧問( 太田薫 ・市川誠・ 岩井章 )が連合主導型労働戦線統一に反対し 、「労戦統一に関する要望書」を発表するなど、労働戦線の右翼的再編であるとの批判もあった。連合結成後のすべての働く者をめぐる環境は、非正規労働者比率が4割に迫り、実質賃金は労働生産性の上昇にも関わらず全く上がっていない。さらに女性の社会的地位を示すジェンダーバイアス指数(世界経済フォーラム作成)はOECD諸国の最低ラインを低迷し続けている。

右翼的再編との批判を運動の成果で明確に否定することができていないため、今日に至っても連合は政府自民党の補完勢力ではないのかといった類の、予断に基づく批判が後を絶たない。また連合は発足当初から、大衆運動の圧力よりも審議会対応などのインサイダー的対政府交渉に傾斜してきたとの批判もある。そしていま、政権交代よりも反共主義を優先して自民党から寵愛される「獅子身中の虫」的人物が会長職に就いているのである。

連合は結成30余年にして、先人たちが成し遂げた労働戦線統一の真価を問われる事態に立ち至っていると言えよう。批判に対しては机上の反論ではなく、運動実態をもって応えて行くことが求められる。政治活動に関して言えば、連合構成産別にはそれぞれの組織事情もあろうが、官公労も公益産業労組も国の政策に依存する産別も、多大な時間と労力を懸けて全体で合意形成してきた「連合の政治方針」の原点に立ち返るべきである。既述のように、戦後冷戦期反共思想は政界、宗教界さらに学術分野や労働界の一部にも深く浸透して、今日の政治状況にも少なからぬ影響を与えている。この反共思想を自民党と共有する芳野会長の下では、「連合の政治方針」が掲げる政権交代は実現不可能と言うほかない。

本誌前号に掲載された拙稿には様々な意見が寄せられたが、少なくとも芳野反共思想を正面から擁護するような者は一人も現れなかった。連合各構成組織は芳野会長のイデオロギーに偏重した冷戦期的反共思想とは明確に一線を画して、連合運動全体の出直し的な再生に着手すべきことを強く訴える。

はやかわ・ゆきお

1954年兵庫県生まれ。成蹊大学法学部卒。日産自動車調査部、総評全国金属日産自動車支部(旧プリンス自工支部)書記長、JAM副書記長、連合総研主任研究員などを経て現在、労働運動アナリスト・中央労福協幹事・日本労働ペンクラブ幹事・Labor Now運営委員。著書『人間を幸福にしない資本主義 ポスト働き方改革』(旬報社 2019)。

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