特集 ● 続・混迷する時代への視座

ドイツでは間もなく脱原発が終了し、全ての原発が廃炉作業へ移行

福島から10年/ゴアレーベンからの教訓(基準の明確化と公衆参画)

専修大学准教授 岡村 りら

8月に3年ぶりにドイツを訪れた。目的はドイツ大手電力会社RWEが所有する二つの発電所、間もなく閉鎖される原子力発電所エムスランドと、閉鎖してから10年が経過したビブリスを視察すること、そして高レベル放射性廃棄物の最終処分場選定の進捗状況を確認することであった。今回のドイツ滞在で感じたことは、「10年」という時間で多くのことが達成できること、そして過去や経験から学ぶことの重要性である。

1.ドイツの原子力、エネルギー政策概観(ロシアのウクライナ侵攻前とその後)

ドイツは2022年末と定めていた脱原発の期限を2023年4月まで延長したが、日本での報道とは異なる内容もあるため、まずはドイツのエネルギー政策について簡単に触れる。ドイツでは2002年に当時連立政権を担っていたSPD(社会民主党)と緑の党の下で原子力法が改正された。それにより原発の新設禁止とともに、当時稼働していた17基の稼働期間がそれぞれ規定され、最後に残る3基エムスランド、 イザール2、 ネッカーヴェストハイム2の運転許可期間が2022年12月31日までとなった。

しかし2010年10月、当時のメルケル政権が原発の運転期間を延長する原子力法の改正案を成立させたことにより、脱原発が2030年代まで先延ばしとなった。しかし半年後の2011年3月に福島第一原発の事故が発生したことをうけ、6月には最後の3基の運転許可期間を再び2022年末に戻すことを決定した。日本では「ドイツはメルケル首相が福島の事故をうけて脱原発を決定した」との説明を目にすることが多いが、脱原発への道筋を決定したのは2002年のSPDと緑の党である。

2021年9月ドイツでは連邦議会選挙が行われ、16年続いたメルケル政権に代わり、12月にSPD、緑の党、FDP(自由民主党)の連立政権が誕生した。そして2022年末、SPDと緑の党は自分たちが決定した脱原発の完了を見届ける予定だった。しかしロシアのウクライナ侵攻に対する制裁の一環として、ドイツのみならずヨーロッパは「脱ロシア」対応に追われることになる。天然ガスの供給不足により(注1)エネルギーの価格が高騰し、筆者がドイツにいた8月も最後の3基の運転期間を延長すべきかどうかの議論が毎日のように繰り広げられていた。

そして10月に入り、12月31日に廃止が予定されていた3基の原子炉全てを2023年4月15日まで稼働させることが発表された。しかし日本で一部報道されているような数年単位での延長ではなく、新しい核燃料が装荷されることもない。ドイツを始めヨーロッパでは核燃料の大部分はロシアおよび親ロシアのカザフスタンからのものである。そのため核燃料の購入も控える必要があり、ドイツでは「脱原発」は「脱ロシア」にもつながると認識されている。

また今年の夏は原子力発電の危険性と不安定さが再確認されることとなった。ロシアがサポリージャ原発を占拠、攻撃対象としたことにより原子力発電所がテロや戦争の攻撃目標となることが現実となり、その危険性をより身近に、そして深刻に受け止められるようになった。原子力大国であるフランスでは、熱波により川の水位が低下し水温が高まったことで、出力を下げる必要が生じ電気代が高騰した。このような状況も鑑みて、ドイツにおいて原発回帰の選択肢はなく、今後のエネルギー安定供給の鍵を握るのは再エネの拡大である。

例えばドイツでは公共および民間の建物に太陽光発電システムを設置する法案が既に2021年に可決されていた。これを受けて州には条例により設置を義務化する権限が与えられ、2022年3月時点で16州あるうちの3州が義務化、2023年から4州がそれに続き、その他3州も義務化を検討中である。内容は州ごとに異なるが、新築のみならず、既存の建物への義務化、対象となる建築物も公共の建物だけではなく住宅・非住宅も含められる場合が殆どである。

水素に関しても以前から注目されていたが、今回「脱ロシア」戦略として、水素シフトが加速したと言える。ヨーロッパでは再エネ由来のグリーン水素が基本であり、再エネ拡大とともに今後増える余剰電力を用いた水電解を目指しており、2でも述べるがRWEエムスランド/リンゲンでも大型の水素プロジェクトがすでに進められてる。

日本ではEUがタクソノミーにおいて原子力を含めること、また今回ドイツが原子力発電を延長することばかりに注目が集まっているが、脱ロシアの先の脱炭素を達成するエネルギー源として最優先されるのは再生可能エネルギーといえる。

(注1)2022年10月22日時点で、ドイツの天然ガス貯蔵量は97.2%まで戻すことが出来ている。

2.脱原発への10年、閉鎖後の10年

エムスランド原発(脱原発への10年)

大手電力会社RWEが所有するエムスランド原子力発電所は、ドイツ北西部ニーダーザクセン州に位置し1988年に稼働を開始した。年間約110億kWhを生産し、約350万世帯に電力供給を行っている。1で述べた通り2011年に2022年末の閉鎖が決定されたが、2023年4月まで運転が延長されることとなった。2011年以降の約10年間、エムスランド原発は2つの目標をかかげ準備を整えてきた。一つが2022年末まで安定した電力供給を行いつつ、期限通りに安全かつ確実に発電所を閉鎖させること、もう一つは閉鎖後速やかに廃炉作業を開始させることである。

原子力法により電力会社に発電所の廃炉と解体が義務付けられており、同法の第7条3項に「運転が終了したプラントは遅滞なく廃止、解体されなければない」と明記されている。原子力発電所が閉鎖されると、業務の内容は発電から廃炉作業へと大きく変わる。脱原発がゴールのように捉えられることが多いが、閉鎖後の発電所からは放射性物質を含む廃棄物も大量に排出されるため、廃炉作業を安全かつ迅速に行うことは一大プロジェクトである。

エムスランドもこの10年間で2023年に滞りなく廃炉作業に入るための準備を行ってきた。部署の配置転換、従業員の再教育、技術開発、廃炉作業に向けての許可申請等のソフト面と併せて、施設の改造や新設など多岐に渡る。

ソフト面でRWE エムスランドが細心の注意を払ったことの一つが従業員数のスマート化である。10年という時間をかけたことにより、業務上(発電所の閉鎖)の理由による解雇はない。定年に達した従業員が毎年職場を離れ、それに対する人員補充を必要最小限に留めることで、解雇を避けることができた。これは経営陣と従業員代表委員会による決定事項である。廃炉作業のために新たな部署が設置され、従業員はそれぞれ自分の担当分野へと配属される。従業員の仕事内容には大幅な変更が生じるため、新しい課題に対応できるよう、技術、IT等それぞれの分野で充実した研修、教育プログラムが提供されている。

廃炉プロセスは解体、加工・処理、リサイクルからなるが、円滑に作業をすすめるためにハード面でも準備が進められてきた。エムスランドでは解体により排出される廃棄物の総量は約32万トンと見込まれている。そのうち約98.5%を占めるのが建築物の解体から排出されるコンクリート、建築廃材であり、放射性物質を含むパイプラインの鉄鋼などは必要に応じて除染を行ったあとにリサイクルされる。残り1.5%が使用済み燃料や原子炉の圧力容器など高レベルの放射性を含む廃棄物である。使用済み核燃料に関しては敷地内の中間貯蔵施設で保管する(注2)。施設の解体作業は2035年に終了する予定である。

解体作業には大型重機の投入が不可欠であり、1日に数トンの廃材が排出されるため、既存の施設だけでは廃材処分に十分なスペースを確保すること、放射性廃棄物の処理を行うことは不可能である。そのため廃炉プロセスを安全かつ迅速に進めるため、技術とロジスティックを集約した施設も既に原発敷地内に建設されている。この施設は2019年にニーダーザクセン州の環境省に許可申請を提出し、2023年から使用可能となっており、廃炉作業終了後には、この施設を引き続きRWEの施設として、水素バリューチェーンGET−H2 Nukleus(注3)などに使用出来るような構造となっている。施設内では廃炉によって生じる低・中レベルの放射性廃棄物の解体、処理、運搬が行われるが、使用済み燃料等の高レベル放射性廃棄物はこの施設内での作業は行われない。2023年の閉鎖後には既存の施設、建物も廃炉プロセスにあわせた改装工事が予定されている。

またRWEは脱原発後の脱炭素化の戦略として水素にも力を入れており、エムスランドと隣接するリンゲン発電所はその水素戦略において重要な役割を担っている。RWEはGET H2において、ドイツおよびヨーロッパのパートナーと協力して、競争力のある水素市場を構築するために超域的な水素インフラを確立する。2024年までに100MWの水電解プラントを建設し、北海の洋上風力発電所で発電した電気からグリーン水素を製造し、生産した水素を近隣の工業地帯へパイプラインで送る。リンゲンからルール地方、オランダ国境からザルツギッターまで及ぶネットワークは、グリーン水素の製造、輸送、貯蔵、産業を結びつけるものである。今後は供給範囲を拡大し、2030年までにヨーロッパの水素経済の中核を築く計画である。

またRWEは川崎重工と共同で、リンゲンのガス火力発電所において水素で発電する実証運転を行う。出力34MWのプラントは2024年半ばに稼働開始の予定であり、このクラスの商業規模としては世界初となる水素燃料100%のガスタービン実証プロジェクトとなる。

筆者が現地視察を行った時期は、まだ連邦政府から原子力発電の稼働延長は正式に公表されていなかった。延長の可能性についてエムスランドの担当者に質問をした時に「RWEとしては、正直なところ延長して欲しくない。この10年間、私たちは2022年末の閉鎖に向けて準備をしてきた。来年からは私たちの新たな挑戦を始めたい。」との答えが返ってきた。発電所の閉鎖、廃炉、そして脱原発後の水素戦略に至るまで、明確な目標をたて、それを実現させるための準備を整えてきたこの10年間の自信がうかがえた。

(注2)ドイツは使用済み燃料の中間貯蔵に関しては、電力会社ではなくBGZ(連邦放射性廃棄物機関)の管轄となる。

(注3)水素バリューチェーンのコンソーシアム RWEは BASF、イギリスBP等と提携。

ビブリス原発(閉鎖から10年)

ドイツ南西部ヘッセン州に位置するビブリス原発もRWEが所有し、ビブリス Aは1974年、ビブリスBは1976年に稼働を開始した。ヘッセン州の消費電力の約6割を担っていたが、福島事故をうけ2011年8月6日の第13次改正原子力法の施行により閉鎖が確定した。先述のエムスランドとビブリスの一番の違いは、ビブリスは福島の事故後、新しい状況に対応するための準備期間がなかったことである。

1で述べたように、CDUとFDPの原子力発電の稼働延長への方向転換により、ビブリスAは2019年、ビブリスBは2020年まで稼働する予定であった。ビブリス原発はドイツの中でも古い原子力発電所であり、運転延長を前提として安全対策等の投資も済ませたばかりであった。約700名いた社員は2015年には約半数の380名程度まで削減され、現在では約280名のRWE社員が働いている。削減の多くは移動や早期退職などで達成されたが、契約途中の解雇も記録されており、下請け労働者はさらに厳しいリストラに直面することになった。

廃炉作業に関しては州政府からの認可が必要である。そのためエムスランドとは異なり閉鎖後すぐに廃炉作業に着手することは出来なかったが、2017年3月30日にRWEはビブリスA・B号機の廃炉・解体の認可を取得し、現在原子炉の解体作業は順調に進んでいる。使用済み核燃料の取り出しに関しては2015年から開始され2019年には取り出しが作業が終了し、全て敷地内にある中間貯蔵施設で保管されている。

新たな天然ガス発電施設も建設され、2022年中に稼働が開始される予定である。出力30MWのタービン11基が完成すると、電力が不足した場合の予備電源として機能することになる。筆者が視察に訪れた時も敷地内の駐車場には多くの車が止まり、人の移動も見られた。閉鎖から10年が経ち、廃炉作業や新たな発電事業が軌道にのりつつある様子がうかがわれた。

ビブリス原発周辺地域の財政や産業はこの10年でどのような変化があったのだろうか。40年間原発とともに過ごしてきたビブリス町が、突然の閉鎖により経済的な打撃を受けたことは否めない。原発の労働者を相手に商売をしてきた地元の商店、レストラン、ホテルなどは苦境にたたされた。ビブリス町の事業税による収入も大幅に減少し、毎年RWEから受けてきた寄付もなくなったことで、豊かな自治体であったのが経済的に弱い地域となってしまった。人口の推移を見てみると2011年時点で約9000人程度であったのが、現在は約8800人と若干の減少は見られるが大きな変化はない。この要因としてはビブリスは原発だけに雇用が集中していたわけではなく周辺地域へ労働力が分散していることがあげられる。

ビブリスはラインマインおよびラインネッカーという二大都市圏の間に位置しており、周辺には自動車や化学、半導体等の工場が立地している。北部にはフランクフルト、南部にはマンハイムなどがあり、これらの都市への交通の便が良い。マンハイムへは電車で約20分、フランクフルトへも約40分でアクセスすることが可能で、住民の多くはこのような近隣都市で勤めている。ビブリスが属するベルクシュトラーセ郡には国際的にも名高い大学や研究機関があり、自動車、ITや物流などの産業、そして農業も盛んである。またハイデルベルクなどの古城や修道院が点在する観光名所もあり、ドイツの中でも豊かな地域に属する。

ベルクシュトラーセ郡において原発閉鎖にともなう人口減少や経済の悪化は見られず、むしろ雇用や税収も増加傾向にある。IT関連の成長も著しく、企業、大学、研究機関がネットワークを構築することで、雇用の創出にもつながっていく。しかしこの地域の問題点として挙げられることが住宅不足であり、フランクフルトやハイデルベルクなどでは家賃が高騰している。ビブリスは周辺地域の成長をチャンスととらえ、交通アクセスがいいこと、家賃等も周辺都市に比べて安いことから、都市圏のベットタウンとしての活路を見出そうとしている。

またビブリス原発の解体・廃炉が完了した後に、跡地に工業団地の建設も計画しており、企業を誘致することで、中・長期的に町の税収増加、経済の安定化を図っていく予定である。しかし計画実現には中間貯蔵で保管されている高レベル放射性廃棄物の搬出が不可欠となるが、まだドイツでは最終処分場の候補地は決定していない。

ビブリス町も10年前の突然の閉鎖による混乱からは脱し、少しずつ原発のない現状、そして未来のビジョンが見えてきている印象を受けた。

3.高レベル放射性廃棄物最終処分場の選定プロセス

ドイツでは間もなく脱原発が終了し、全ての原子力発電所が廃炉作業へと移行する。使用済み燃料は燃料プールで約5年間冷却された後に、原則各発電所の敷地内にある中間貯蔵施設で管理される。2でも述べた通り、廃炉後の跡地利用には高レベル放射性廃棄物の搬出が不可欠であり、最終処分場の必要性がより認識される段階となっている。2022年夏の原子力発電所の稼働延長に関する議論においても、高レベル放射性廃棄物問題を含めて議論は行われていた。ドイツのサイト選定プロセスは、地上調査サイトの決定、地下調査サイトの決定、最終的なサイト決定と3段階を経て、段階的に複数の候補から絞り込みが行われる。2031年に最終処分場建設サイトを決定し、2050年頃に操業を開始する予定であるが、現在は3段階の選定プロセスの第1段階の後半となっている。

福島以降の10年で、最終処分場の選定プロセスに関しても、法改正等を行って候補地選定に向けて動いている。2011年には福島原発事故後に高レベル放射性廃棄物地層処分の将来的な方針に関して連邦政府と州政府の作業部会が設置された。2013年にはサイト選定法施行、2014年にはサイト選定法に基づくサイト選定委員会が発足し、委員会の提案をまとめた最終報告書をもとに2017年にサイト選定法が改正された。

ドイツでは一度ゴアレーベンが最終処分場の候補となったが、明確な基準の欠如と、参画システムの枠組みが不十分であったことからコンセンサスが欠如し、数十年にわたる長い議論の末、撤回されることとなった。「ゴアレーベンからの教訓」が現在の選定プロセスの根底にあり、2017年の改正にも反映されている。

基準の欠如に関してはサイト選定法により科学的な選定基準が明確化された。2020年9月に連邦放射性廃棄物機関(BGE)は地質学的に処分場の設置に好ましいサイト区域を公表した。ゴアレーベンでは最初から候補地を絞り対立構造を生み出したことから、現在の選定プロセスでは国内全ての地域を検討から除外せず、いわゆる「白地図」の段階から立地候補地を絞り込むことが定められている。地球科学的な除外基準、最低要件、衡量基準に基づいて90の候補地域が抽出され、国土の約54%が好ましい条件を有していると示された。この数値はあくまで「科学的基準による地層に関しての条件」であり、今後補充的に適用される地域計画に関する衡量基準を考慮して、地上調査を行う地域が公衆参加プロセスを経て選定される。

意思決定の枠組みに関しても、早い段階から地域(地域会議)、地域横断(地域専門会議)、連邦(国民参加委員会)の3つのレベルで公衆が選定プロセスに係る制度が担保されている。

地上調査を実施する具体的な候補地が提案されると、その当該地域に設置されるのが地域会議である。この地域会議は最も重要な住民参加型諮問機関との位置づけになっている。地域会議の活動期間は第1期間最後(地上調査決定)から当該地域が選定プロセスから除外されるまでである。

地域会議の結成後、地域専門会議が設立される。地域専門会議は、地域会議の代表および放射性廃棄物が一時的に保管されている中間貯蔵施設立地自治体の代表者で構成される。地域専門会議の目的は、候補地選定に超地域的な立場から地域会議に同行し、立地地域の相反する利益のバランスをとることである。活動期間は処分場が決定する最終段階までとなる。

連邦レベルではすでに公衆参加はスタートしている。立地選定手続きの初めから最終的な候補地決定まで、国民参加を支える国民参加委員会(NBG)が2016年末より活動を開始している。NBGは独立機関で、処分場選定過程における信頼獲得と処分場選定プロセスの監視的役割を目的として設置された。委員会メンバーは18名、うち連邦議会選出の専門家が12名、全国民を対象とし無作為で抽出された市民代表委員が6名となっている。市民代表委員のうち2名は将来世代を担う16~27歳の若者が加わることが定められている。

前述の2020年9月に提出された「白地図」のレヴューを行い、地上調査の候補地確定方法に公衆からの提言を反映させることを目的としてにサイト区域専門会議が設置された。2021年2月から8月の間に計3回、対面とオンライン併用のハイブリッド形式で開催され、ドイツ全土から合計4481名が参加した。会議で議論されたことをまとめた最終報告書を2021年9月7日にBGEに提出し、サイト区域専門会議は解散した。サイト区域専門会議の提言を踏まえてBGEは2022年3月に絞込み方法の検討案、具体的な地上調査サイトの地名を公表する予定であったが、1でも述べたロシアのウクライナ侵攻による混乱もあり、予定よりも公表が遅れている。法律ではサイト区域専門会議の解散後、地上調査開始まで地域会議の設置は規定されていないが、市民参加の継続が必要であるとの強い意見からサイト区域専門フォーラムが設置されることとなった。

サイト区域専門フォーラムは地域会議が開催されるまで市民参加を担保する橋渡し的な役割を果たす。実施主体BGEの監視役、市民参加を促進するため​ 情報交換、意見形成の場を提供​する。一般市民、自治体、科学者、社会団体が参加し、若者の参加枠も確保されている。2022年5月20、21日にマインツで開催された会議には、対面とオンラインのハイブリッドで約380名が参加し、​8つのワーキンググループに分かれて議論​を行った。

このように3段階を通じて地域、超地域、連邦レベルで参画システムが確保されている。ゴアレーベンの教訓を活かし、早い段階から市民参加を担保し、現在までは参画が機能していることは評価に値するが、今後具体的な候補地域が示された後、ドイツでは強い反対運動が起こることが予想される。その時この参画システムがどのような役割を果たし得るかが注目すべき点である。筆者が視察した時はまだ具体的な地上調査のサイト名は公表されていなかったが、白地図で適地とされている地域では、すでに反対運動の準備を進めているグループもあると聞いた。また公衆参加を強化したことで候補地選定の議論、プロセスが長期化することも予想され、実際に地上調査の具体的地名を公表するのが遅れている。

その間にスイスが2022年9月12日に最終処分場建設候補地として、北部レーゲルン地方を提案した。アールガウ州とチューリヒ州にまたがりドイツ国境から極めて近い地域となっているため、このスイスの決定が今後のドイツの選定プロセスにどのように影響するかも興味深い。今後ドイツでもサイト名が公表され、地域会議、地域専門会議が設置されるが、そこからが本格的な意味での公衆参加となるため、引き続き注視していきたい。

おかむら・りら

学習院大学大学院政治学研究科を経て、ベルリン自由大学環境政策研究所で博士号取得。専修大学准教授。

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