特集 ● 続・混迷する時代への視座

立憲「ネクスト内閣」で岸田自公内閣と対峙へ

分散・分権型のエネルギー自立政策を軸に、地域再生プランを統一地方
選のテーマに

キーパーソンに聞く(第11回)⸺田嶋要さん

語る人 立憲民主党衆議院議員・「次の内閣」経産大臣 田嶋 要

聞き手 本誌代表編集委員・日本女子大学名誉教授 住沢 博紀

1.民間企業から海外事業を経て民主党公募候補に

住沢 この立憲民主党「キーパーソンに聞く」というシリーズでは、主として党の要職にある政治家を対象としてきました。田嶋さんに今回お願いしたのは、一つには、復活した「次の内閣」の経産大臣に就任されたので、その課題と仕事について語っていただくこと。もう一つは、エネルギー危機や経済安全保障など、グローバル経済の転換期に際して、経産大臣の新しい役割について議論したいという事にあります。背景には、ドイツ緑の党のハーベック経産大臣が、ショルツ首相以上の存在感を示していることがあります。

このインタビユーでは、冒頭に、政治家を志した動機やきっかけ、さらには抱負などをお聞きしています。学生時代からお願いします。

田嶋 四十歳が人生の節目で、四十歳以前の企業の中での社会人としての時代と、四十歳以降の政治家としての時代に分かれます。

まず、社会人の時代に関してですが、東大法学部卒業後の1985年に、民営化第一期の NTTに入社しました。まさに官から民への、ネオリベラリズムの最盛期というタイミングでの入社です。その時、初代社長の真藤恒さんに薫陶を受けました。真藤さんは臨調の土光敏夫さんの流れだったと思いますが、そのような中で国際的な感覚を身につけたいという気持ちが強くて、早くから留学準備をしました。

財務官僚とか通産官僚などと一緒に、人事院派遣という形でワシントンへの留学のチャンスを得たのが29歳の時です。その後、途上国のことや、開発援助に関心があったので、私は日本に戻らない決断をし、世界銀行グループの IFC(国際金融公社)の民間セクターの出資融資の分野に行きました。帰国した時には、そのときの経験を買われて、フィリピンの NTT グループの投資案件を担当して、フィリピンに5年も暮らすことになりました。海外が都合10年、30代はずっと海外生活が長かったですね。

ワシントン時代に親交があった方の中には、現在日本で政治家になっている方もいます。彼らは最初から政治家志望だったかと思います。僕だけは当時、政治には関心があまりありませんでした。

私は民間企業でむしろ国際的なビジネスマンの感覚を養いたかったのですけども、そういう海外から日本を見る機会をもらって、ワシントンの人脈で色々出会う中で、少しずつ世のため人のためという気持ちが芽生えました。日本に戻ったらサラリーマン生活をそろそろ終えようと考えていたころ、ちょうど40歳の時に民主党の公募に出会いました。

日経新聞に1面大の民主党の広告があって、ほぼ初めての公募に私も応募しました。かなりの方が応募されたそうで、聞いた話ではそのうち8人ほどが受かって、最終的に議員になったのは岡山の津村啓介氏と私です。その時民主党は右肩上がりでした。私は2003年に初当選し、その後、2009年には政権交代も経験しました。私も強運があったので一度も落選することなく、今7期目です。

住沢 民主党の公募に応じるなかで、何を一番主張されましたか?

田嶋 自民党はこういう統一教会の問題が出ても出なくても、ダメだと思ったのです。よく野田佳彦氏が「政権交代可能な二大政党制のようなものを時間がかかってもつくる」ということを仰っていますが、日本はまだそこまで民主主義が行き着いてない国だという感覚がありました。なので自民党か民主党、どちらに身を投じるかと言われたら、私には自民党は選択肢にはなかったのです。

政治家として過ごすなかで、私は永田町にはグローバルな経験と民間のビジネスセクターの経験が欠落していると感じました。私は官僚の友人も多いですし、民間にも行ったことがありますし、国際経験も積んできましたので、政治家は人生後半の仕事だと思いました。学校の先生と同じで、社会経験を積んでからの方が絶対良いです。

野田氏が先日の国会での安倍元首相の追悼演説で述懐していた通り、野田氏が初当選した時、安倍氏も当選していて、安倍氏の方にはカメラがいっぱいいたそうですが、あれと同じですよ。私のようなサラリーマン上がりの議員と、世襲議員を比べたら、全然スタートラインは違いますが、それでも私はその永田町にビジネスマインドやグローバルなセンスを吹き込みたいっていう気持ちを強く持っていました。その意味ではNTT の経験もIFCの経験も生きています。

ただ今思うとたとえば、英語を話せる人がこの10年、20年で増えたのにびっくりしました。ようやく少し普通の世界に近づいているという感じがします。自民党も含めて世襲議員だらけですが、グローバルキャリアの人もずいぶん増えてきている感じがしますね。やっぱり同じような感覚の人たちは党派を超えて親しくなります。

住沢 NTT入社後、大前研一さんの一新塾に入塾されたりしています。この時期、NTT民営化や大前さんが提唱したネオリベラルの構造改革論が最盛期の時代ですが、田嶋さんはこの時代とどのように向かい合いましたか。

田嶋 私がNTTに入った理由の一つとして、官から民の流れを中から体感してみたいという部分もありました。そのため、いわゆる官僚になるという人生の選択肢は考えていませんでした。大前研一氏はある意味では反骨じゃないですか。長妻昭氏とかいろんな人と『平成維新』(講談社 1989)の源流を作ったわけですから。

だから政治家になってからも実は大前氏とも、みんな苗字に”ま”がつくのですが、田嶋、長島氏、長妻氏、その3人と大前氏。その四人で「まの会」を作って、月1で意見交換をしていました。大前氏は元々NTTの民営化時代の時のご縁です。今でも大前レポートという雑誌が毎月事務所に届きます。

ただ当然ながら、アメリカやイギリスも官から民への民営化の時代はありましたが、全体的に今は先進国もちょっと軌道が変わってきて、北欧諸国のような「ゆりかごから墓場まで」というような成長と分配の社会の方向に、ピケティも含めて、変わっていっているような印象があります。今の私たちの立憲民主党の立場も、むしろその官の部分が小さくなりすぎて、なんでも民営化ということで弊害が強くなったという考えです。

2.菅直人首相のもと、経産省政務官と福島現地対策本部長の経験

住沢 2010年5月、菅第一次内閣から翌年9月まで、経産省政務官に就任されており、福島原発事故に際して、6月に福島で現地対策本部長に就き、除染対策や避難民一時帰宅オペレーションなどを担当したと経歴に記されています。この時期の体験を、(1)TPP(環太平洋パートナーシップ協定)をめぐる大臣の間での意見対立に関して田嶋政務官の対応、(2)原子力事故をめぐる経産省の行政組織との体験、と2つの点でお願いします。

田嶋 当時、経済産業副大臣が二人で政務官が二人、政務官の一人が私だったのですが、TPP に関してはどちらかというと経産省の方は攻めですよね、農水省ラインが守りなのです。党内でも農水部会の方と経産部会、JAと経団連もすごく対立していました。だから今でもそうですが、農業関係者を守ろうというスタンスの方はどちらかというと自由化路線には慎重なわけですが、私などは、日本は自由化とか自由貿易を活発化させることに国益があるという基本線に関しては、全くゆるぎはありません。ただ、その場合、輸入関税の問題で農業関係者が不安にならないようなプロテクションについては常に議論してきました。当時は交渉参加の事で揉めていたわけですが、この問題は結局3・11が起こったことで、棚上げになってしまいました。

その後、第二次安倍政権以来、自民党がやってきたことに私たちは必ずしも反対をしてきたわけではありません。基本線は外交と一緒で、自民党がやって来たことと我々が考えていることにあまり大きな差があるとは思っていません。基本的には保護主義になるのではなくて、グローバルな経済の一環の中で国益を高めていくという考え方は、私は変わらないと思います。韓国などに比べてまだ貿易の比率も非常に低いので、日本が1億2000万人を超えた人口だったから、これまではそれで良かったかもしれないですが、これからの未来はもっと日本が貿易で、一次産業を含めて輸出産業を育てていくっていう方向に行かないといけない。

東電問題は、いろいろ国有化の議論などがありました。仙谷さんご存命の頃、私もその議論の中にいました。結局、当時のゴタゴタの中で、現場を分かっている人がいないということで、東電を今は潰せないということになってしまいました。株価も低迷状況ですし、今でもそれは戻ってくる議論だと思います。ただ原子力関係で今また空気が変わってきています。これも引き続きのテーマですね。

住沢 脱原発・再生エネルギーへの転換問題は後に触れるとして、TPPなど日本の通商政策に関して、数年前に中国の「一帯一路」戦略をめぐる国際シンポジウムがあり、中国の研究者がデータを示しながら、「TPPも含め、日本は多くの多国間協定を結びながらも、その成果は少ない」といっていました。私も、協定締結をめぐる議論をしても、その後の進捗状況をめぐる検証が国会でもメディアでも少ないのではと思っています。

田嶋 先程言った3.11以来、本当に何もかも変わってしまった中で、私はずっとライフワークとして自然エネルギーをやっています。ただ、現状、化石燃料は貿易の収支では大きな部分を占めていて、それだけでも巨大な分野ですし、当然ながら自動車産業にも関わる話です。私はエネルギー面のアプローチから中心にやらせていただく中で、おっしゃる通りTPPのそういったことに関して追究の余地はあると思います。

たまたま本国会の外務委員会で、自動車や豚肉とかの関税の話が出ますけれども、確かに日本全体が静かな感じはしますね。とりあえず、例えば今回のセーフガードにしても、あまり国内の農業にダメージが考えられないということで、賛成の方向になると思います。

もう一つ物足りないのは自民党が、自動車関税の撤廃に関しては何にも進んでいないので、おっしゃる通りそこは何やってんだと言っていかねばならないと思うのです。いつから交渉ができるのか、バイデン政権はもうほとんど棚上げ状態になっていますので。

私は先程申し上げた通り、自民党と立憲民主党の間で通商政策に関して大きなスタンスの違いはないと考えています。ただ、おっしゃる通り、中国の一帯一路などで中国と経済的つながりを強めている国々が相当多い中で、日本は少し内向きになってしまっているきらいはあるのかなという印象です。半導体の凋落から始まって、原発のことなども含めて本当に問題が多いと感じています。

一昨日(2022年10月26日経済産業委員会)私も、委員会質疑で西村大臣に言いましたが、半導体はもう今ほとんど総崩れで、自動車産業が崩れるんじゃないかという危惧を持っています。テスラなんてもう背中も見えないですよ、日本からしたら。自動車産業が傾いたら本当にどうなるのかなという気持ちが今あります。電池も完敗のようですからね。経産省の資料に、このままいくと電池産業が消えるかもしれない、と書いてありました。だから、それを見た時に、無責任というか、第二次安倍政権以来この10年何をしていたのだろうと思いました。民主党政権をボロクソに言いますが、あなた達が政権を取ったこの10年は全然違う経済にできたのですかと言いたいです。国際競争力ランキングもさらに落ちて、デジタル面でも過去最低となってしまいました。

3.第2次泉執行部の編成とその意義

住沢 2021年10月総選挙では、数少ない小選挙区選出議員(千葉一区)の一人となっています。枝野執行部から泉執行部になり、立憲民主党はどのように変わりましたか。また泉執行部も参議院選挙の後、岡田幹事長、安住国対委員長、長妻政審委員長とベテラン議員が党の要職に復帰しました。まだ国会が始まったばかりですが、田嶋さんの評価はどうでしょうか。

田嶋 あっという間の10年だったなという一方、本当に野党生活が長くて、それがちょっと残念ですね。そういう中で右に行き過ぎたり左に行き過ぎたり、若手ばかりに任せ過ぎたり、色々振り子を振った中で、だんだん真ん中辺に収斂してきているという感覚があります。岡田克也氏がまた檜舞台に来て非常にやる気を出して頑張っておられるのは分かるし、長妻氏も同じですね、あと安住氏もですね。ようやく老荘青というか、いろんな失敗をし続けた中で長すぎますけど、海江田代表、蓮舫代表時代からようやくここに来て、政権を目指すぞっていう気持ちがまた上がってきている印象は私も持っています。

だけど私は、私なんかの世代じゃなく泉氏が40代で代表になったからこそ、ああいう一個の振り子を極端に振ってみる実験ができたと思うんです。参議院選後は泉代表を引きずり下ろそうという動きもありました。だけど彼は踏ん張って、泣いて馬謖を切りながら、人事交代をしましたよね。私はよく決断できたと思います。結果を色々批判することは簡単ですが、やってみた結果、試行錯誤で今ここに来ているのですから、私はあまりこのプロセスをネガティブには評価をしたくないですね。古い顔ぶれがいるのは確かにその通りですが、彼らだって苦しい時代を乗り越えてきているのですから、前と同じではないと思います。

4.「ネクスト内閣」経産大臣への就任と野党の「閣議」の意義

住沢 今回、「ネクスト内閣」の経済産業省大臣に就任されました。この関連で以下の質問にお答え願います。

第一に、「次の内閣」の開催に関する記事を見ますと、閣議の体裁をとり、報告事項と審議事項があるようですが、実際の閣議では法案の原案は管轄省庁で作成します。「次の内閣」では、審議事項は党の政策審議会や委員会から提出されるという印象をもちますが、田嶋「経産大臣」の政策立案グループは存在するのでしょうか。

田嶋 「ネクスト内閣」は久しぶりの復活でした。しばらく中断していたというよりは、もう転落した時から、「政権交代」なんて口に出したら馬鹿にされるような時期が長く続いていたのです。さすがに海江田代表や蓮舫代表の時代には、「ネクスト内閣」は考えられませんでした。

統一教会は後から出てきたことかもしれないですが、だんだんと時間の経過と共に、自民党権力の負の部分が拡大してきました。世論がやはり次の政権交代の可能性に備えろということで、私たちはプランBを考えるキャビネットってことになると思うのです。だけどそれは、ある意味では見かけ上のハリボテで、舞台裏が全然違うのは、それはおっしゃる通りです。お金だって全然ないしね。

私のやっている環境エネルギー政策に関して言えば、幸い個人のつながりで、政府を批判しながら私たち側の応援をしてくれる有識者がかなりいるのですよ。だから私は色々と繋がっていますが、それはどなたも在野の人です。ですが、少なくとも官僚と二人三脚でやっている与党に比べたら、私たちは在野の人の本当の声が聞こえていると思っています。先程のEVの件も含めて非常に心配しているのは、結局そういったことに思い切り取り組めない今の政府のやり方では、負け戦になるのではないかと懸念しています。要するに、かつてはプラトンという企画もありましたが、日本の野党側に政策立案のいわゆるシンクタンクがないのです。これはもう何十年も前から言われてきました。

住沢 現状での野党のシンクタンク作りは、私は単なるビジョン作成か報告書作りに終わると思います。それよりも、個別のプロジェクトチーム、喫緊の課題に答える具体的な政策を提案できるグループでの作業が大事だと思うのですが。

田嶋 私も同感です。私は大風呂敷を広げる立場にはなかったので、少なくとも環境エネルギーの道を選んで、そこで地保を固めていこうという方針をとりました。今ネクスト経産大臣になっても、先程申し上げたように、私の所には環境エネルギーに関しては、携帯ですぐ相談できる有識者がたくさんいるのです。なので、少なくとも私のこの限られた環境エネルギーの領域は、そういう形がバーチャルにできつつあります。

住沢 第二の質問です。田嶋さんがエネルギー転換政策に関して専門家などのネットワークを活用できても、それが私的なものに留まるのか、それとも「ネクスト内閣」で、そうした立案の制度化を図るのか。もう一つは立憲民主党の長妻さんの政務調査会との関係です。

田嶋 それを今、議論をし始めているところです。僕の盟友の長妻氏が政調会長になられているので、今おっしゃる形に持っていけるかどうかが次のポイントです。そこにはお金の話もでてくるし、本当にいいメンバーをしっかりと組織として、個人じゃなくて、どういう風に組織として次のステップアップをするべきか、ということは私も今試行錯誤しています。

ちょうど今、私がネクスト経産大臣で、近藤昭一先生がネクスト環境大臣なのですが、その両方をまたぐ環境エネルギー PTというものができました。環境エネルギーに関しての議論をそこに集約する場です。それぞれの選挙区で原発の問題が出てきているので、原発を抱える自治体を選挙区とする先生方にPTの役員になっていただき、これを国民の議論に付すような、そういう場を作っていこうと話をしているところです。

5.分散型エネルギー自立政策にたつ、それぞれの地域再生プランを

住沢 分散・分権型のエネルギー政策による経済再生という戦略は、金子勝さん、飯田哲也さんの提言(『メガ・リスク時代の「日本再生」戦略-「分散革命ニューディール」という希望』筑摩書房 2020)に通じるものがあります。しかしその前提として、電力や重電など経団連の旧来型大企業システムと対決する必要があります。現在、岸田政権は三菱重工などを含む次世代型原発の開発や新設に向けた方針を採用し、また日経新聞も「原発、国指導で再構築を」を提言しています。そこでは明確ではないにしても、現在の電力会社による維持・管理システムの限界も示唆されています。こうした極めて対決型の政策論争ができるテーマが浮上していると思われますが、立憲民主党はどこまでその準備ができていますか。

田嶋 環境エネルギー面は、私も現在座長にさせていただいているので、ここで頑張ろうと思っています。その中でも、特に菅直人氏も政治家最後の仕事にしたいともおっしゃっている、ソーラーシェアリングというものがあります。現状では、ソーラーシェアリングは、やりたい人の任意の努力に任せているので良い結果が出てきていません。ですが、先日、飯田哲也氏から、昨今の危機的な温暖化のことを考えると、国策的に農地を活用した一次産業を支える形での国民運動的なソーラーシェアをやっていかねばならないというお話を伺いました。

農水省の所管部署はやる気なんだそうですが、菅氏に言わせると、農水省のもっと力のある部署の方はまだ後ろ向きだそうですし、経産省は端から原発なので、そういう戦いを私たちがやっていかないといけないのです。今いわれた通り、よりリアルに計画に落としていかなきゃいけないと思います。それなら法律を通して、義務化であれば法律を通さならければいけないし、農業委員会とか農協とかそういうことも含めてやっていかないと、地域は動いて行かないですよね。そこは同じだと思いますね。

住沢 ドイツの経産大臣のハーベックさんは、緑の党の人ですが、EUのエネルギー危機の時代にあっても、ショルツ首相以上の信頼を国民から得ています。グリーン革命という原則を持ち、しかしリアルに現状を訴え、嘘をつかずに妥協すべきは妥協している。最近の政治家では貴重な資質の持ち主です。

田嶋 今お伺いしていたドイツのようなことを考えた時に、私がライフワークとしてこれからも頑張り続けるこの環境エネルギーっていうのが、そうやっていつの日かグレタ・トゥンベリさんじゃありませんが、日本の若者たちの耳目を集めて、私自身ももっと今よりも出て行く場所が増えるようにしたいと思っています。

今原子力関係で岸田政権が、非常にある意味では一歩踏み込んで来たので、いわれているように戦いですよ、これは。もちろん既得権益の関係者も含めて敵に回すわけで、敗れる可能性ももちろんあるけれども、それは私自身も菅氏と同じように政治生命をかけて、残りをやろうと思っています。ただ私は原発のない社会の方が、はるかに日本と世界を幸せにできると確信を持ってやっています。そこは不退転の決意でね。本当に経済合理性も含めて日本はまた道を間違える入り口に今いるような気がします。

自民党政権も、原発の問題に対する国民のアレルギーが強いので、結局エネルギーをあんまりテーマにするとプラスにならないから、この間ずっとステルスで来ていたような気がするのですよね。ところがウクライナ危機が起こり、この機に乗じていきなり今まで何も言わなかった岸田首相が、原子力をもっと活用する方向に舵を切って勝負をかけてきたような感じがする。

あんまり野党の議論が見えないっていうのは、多分政権与党側もそういうのを目立たない形でこの10年間やってきたのではないのかなと私には思えるんです。他方で日本の外では、当然フランスやアメリカやイギリスなど原発を活用している国が大国としてあるので、そちらはもう一定の説得力を持ってしまっていますね。他方で私はデンマークとかドイツにもっと学ぶべきだと思っています。そこのせめぎ合いは簡単には結論はつかないですが、いつ論争になっても議論ができるように知識などの備えを続けていくしかないのかなと思いますね。

他方で、これから年末年始にかけて、党の役員の選挙区を中心に、来年の統一地方選挙もありますので、全国で環境エネルギーをテーマの切り口にしたタウンミーティングをやろうかという話を今しています。

悔しいのは風力もソーラーも、現在、全部輸入になってしまっていることです。これがこの10年間の大きな失敗です。電池もこれから輸入になっていく可能性があって、日本勢がもう韓国や中国の会社に負けてしまっているっていうのは、この10年間の非常に悔しいところなんですよね。そこもやっぱりもっと政府が主導して、設備投資をもっと進めていく形をとらなければいけない。これは何度も言っていますけど、この間、国主導の産業政策ということを少し忌避するような、遠慮するような時代が長く続いたという事ですね。

中国とか韓国はそうじゃなくって、もっと民間と政府が一体化して産業を強くしているということで、もう一度そういう時代になってきたっていう感じです。TSMCは熊本に来たわけですが、あちらは外資で、初任給が28万円とかって言っていますけど、結局は日本の企業がたとえ無理でも、日本の国内にサプライチェーンをしっかりと持つために、もっと政府が目標設定とそれから金を出すことをしないと、この国はジリ貧なような気がしています。

住沢 市場や企業に委ねずに、政府による産業政策の推進という、あるいは次世代テクノロジーへの財政的な投資という提言はあっても、現に政府や省庁の政策は、東芝の原発政策をとってみてもことごとく失敗しています。市場にかわって政府の役割を拡大するという事ではなく、なぜ90年代からことごとく政策的な失敗を重ねているのかという、失敗の検証から始めるべきではないでしょうか。

田嶋 その通りです。同じ日本の霞ヶ関がやっていれば、結局失敗が続くんじゃないかっていう危惧感は私自身も持っているので、それは民間だけの問題じゃなくて霞ヶ関の問題でもある。一つ私が非常に問題だと思っているのは、2年単位で役所の人事が変わってしまうことです。もっとフルコミットしてほしい。少なくとも私たち政治家は選挙に落ちない限りずっと一つのことを追いかけられるわけですよ。ところが霞ヶ関はジェネラリスト養成だから、経産省であっちこっち移動していくんだけど、そうこうしているうちに半導体とか自動車が全部弱くなっていくような気がしています。もっと人としてコミットして欲しいなっていう感じはする。これも霞ヶ関全体の人事制度の問題だし、こういうところから手をつけないといけない。

あとは大学ですよね、大学の研究開発力の衰えはもうずっと言われていて、日本の大学の競争力というか研究力も、世界の中でちょっと寂しい状況のランキングがしょっちゅう発表されていますよね。ああいうところも含めて、もう一度考え直していいかないと、教育力全体が弱っていることが、回りまわって産業力にも繋がっている。民主党時代から、立憲民主党も言っていますけど、教育予算を2倍にしろというのも、私も19年ずっとそういう思いでやっていますけれど、自民党はそこを変えない。結局それがボディブローのように効いてきているのが、今の日本の産業力の低下じゃないかなと思う。

住沢 経産ネクストと環境ネクスト、田嶋さんと近藤さんの両方にまたがる「環境エネルギーPT」で、来春の統一地方選挙に向けて、国家レベルの枠組みや、そのために必要な人や資本などの資源を策定し、それぞれの地域で実現可能なプランを提示され、争点が明確な選挙戦を戦われることを期待します。

たじま・かなめ

1961年生まれ。東京大学法学部卒業。1991年米国にて経営学修士(ウォートンMBA)。NTT、世界銀行グループ(IFC)などで17年間の職業経験を持つ。2002年民主党次期衆議院選公募に合格。2003年11月、第43回衆議院選挙にて初当選の後、2021年10月に行われた第49回衆議院総選挙まで7期連続の当選を果たした。2010年9月、第1次菅改造内閣にて経済産業大臣政務官に就任。東日本大震災後の2011年6月から3か月間、政府の原子力災害現地対策本部長として福島市に常駐。
 現在、衆議院経済産業委員会委員、原子力問題調査特別委員会委員。立憲民主党内では、ネクスト経済産業大臣や、環境エネルギーPT座長を務める。

すみざわ・ひろき

1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、フランクフルト大学で博士号取得。日本女子大学教授を経て名誉教授。本誌代表編集委員。専攻は社会民主主義論、地域政党論、生活公共論。主な著作に『グローバル化と政治のイノベーション』(編著、ミネルヴァ書房、2003)、『組合―その力を地域社会の資源へ』(編著、イマジン出版 2013年)など。

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