特集 ● 続・混迷する時代への視座

統一教会問題とは日本社会にとって何なのか

元信者であり、著名な社会哲学者である仲正昌樹さんに聞く

語る人・金沢大学教授 仲正 昌樹

聞き手・本誌編集部

編集部の課題設定

国益を擁護し伝統保守に立つと称する自民党、さらに政治家・安倍晋三のご都合主義政治が、旧統一教会との関係をめぐり暴露されつつある。個々の政治家のいい加減さと、カルト的宗教団体との互助関係をめぐり、日々、「新事実」が報道される。国会での審議やジャーナリズムの手で、事実関係は徹底して追及されるべきであるが、安倍元首相の銃撃から現在に至るまで、岸田政権の旧統一教会への対応は、世論やメディアへの対応策に終始している。宗教法人の認証にかかわる法令違反問題として旧統一教会に立ち向かうには、立憲主義と法治国家のもとでのいくつかの原則を、政治家は国民と共に確認していく必要がある。

問題なのは旧統一教会と日本社会との関係である。それは二つの点で重要である。一つは、脱宗教化が進行する日本で多くのカルトに類する宗教がはびこり、その背景には救済を求める多くの人々がおり、またその「信仰」により被害にあう多くの人々も存在すること。もう一つは、安倍襲撃からの一連の経過の中で、「日本社会の総意」とまでマスメディアでは称される、旧統一教会を批判する世論の高まり。これは岸田内閣の支持率低迷まで突き進むが、今一度、冷静に日本社会の抱える問題として考察する必要がある。

このため編集部では、「元統一教会信者」として『統一教会と私』(論創社 2020)という著書があり、今回の問題に関しても、朝日新聞への寄稿や『文藝春秋』10月号において、「統一教会と創価学会」というタイトルで、3人の研究者・ジャーナリストとの対談を行っている、仲正昌樹金沢大学教授に、以下の10の問と追加の問に答えてもらった。

編集部の見解では、今回の旧統一教会をめぐる数多くの議論やマスメディア・SNSの発信の中で、仲正教授は11年半の入信生活での体験に基づく、旧統一教会のリアルな活動と実態に知悉されており、冷静でバランスのとれた論点を提起されていると思えるからである。

自民党・安倍元首相と旧統一教会をめぐる問題

問1⸺自民党と旧統一教会の「負の連鎖」

旧統一教会と自民党保守派にとって、7月8日以後の「負の連鎖」とでもいうべき現象です。自民党岸田首相・茂木執行部も、また「家庭連合」の日本組織も、山上容疑者による安倍元首相への銃撃の背景がメディアで報じられても、現在のような岸田政権、あるいは「家庭連合」の「危機的」状況を招くとは思っていなかったのではと想定できます。安倍政権のさまざまなスキャンダルも、政権へのダメージ、ましてや政権支持率の劇的な低下には至りませんでした。それが選挙期間中の安倍元首相への銃撃という、自民党の元総裁を当事者とする「悲劇」にもかかわらず、なぜこうした「負の連鎖」に至ったとお思いですか。

仲正⸺いろんなレベルの答えが考えられますが、私の専門に近いところで言えば、これまでの近年の自民党、安倍元首相がらみのスキャンダルとは、「物語性」の面で決定的に違った、ということになるでしょう。モリカケ問題では、一時期流行語になった「忖度」という言葉に象徴されるように、権力者である安倍氏の意向を慮って、閣僚や官僚が正規の手続きを省いて、特定の事業者に利益を図ったと言えるか、実際に図ったとすれば、そうした忖度の余地があるような霞が関の体質を醸成することに安倍氏自身に責任があったか、というかなり形式面での細かい問題が取りざたされたので、いくら野党やマスコミが攻めても、巨悪が日本を動かしているような物語は、少なくとも報道だけを見ているだけでは、描きにくかったように思えます。

その一方、近年SNSを中心に、トランプ大統領と「ディープ・ステイト」との闘いとか、ウクライナ戦争はウクライナ側が仕掛けたというような、海外の、陰謀論的な大きな物語に惹き付けられる人は少なくなかった。冷戦崩壊に伴ってマルクス主義の長期低落が始まって以降、日本には、ポジティヴなものであれネガティヴなものであれ、社会を根底において動かしているものをめぐる、「大きな物語」が欠如していたのだと思います。社会に動きがない、全般的に停滞している感じがする、しかし、それを誰のせいにしたらいいのか分からないことにいら立ちを覚えていた人は少なくなかったのではないでしょうか。誰かのせいにしにくいコロナ禍で、その苛々が更に募っていった。

そういう状況下で、安倍元首相の暗殺という、一九三〇年代の政情の混乱を連想させるようなショッキングな事件が起こり、その犯人の動機形成に、韓国生まれで、安倍氏と関係が深いらしい統一教会という奇妙な宗教が関与していた、ということが報道されて、いろいろ物語的な連想が働きやすくなったのでしょう。安倍氏は、統一教会との関係を通じて、自らの死の原因を作ったのではないか。そこから更に、アベノミクスの下での格差拡大、「美しい国」という標語の下での右傾化など、安倍政治の負の要素が、全て統一教会との関係から生まれてきた、「統一教会問題」こそが、日本を長年にわたって苦しめてきた元凶ではないか、という、負の大きな物語が発生したのではないか、と思います。

元信者の私から見れば、統一教会にそんな力があるなんて、妄想もいいところですが、多くの人にとっては、統一教会の実力よりも、日本の不幸を生み出した悪の根源をめぐる、一貫性のあるように見える「物語」があることが重要なのでしょう。

勝共連合や世界日報などを介しての、統一教会と保守派の繋がりを過大評価して、勝共連合に賛同しているだけの⸺宗教的にはむしろ、統一教会と相容れない⸺保守政治家や学者を、“統一教会信者”と呼んで攻撃するのは、私が信者だった頃の、学内の左翼のやり口だったので、正直またか、と思っているところがあります。

記者会見で田中会長や勅使河原改革本部長、福本弁護士などが、「左翼」を不用意に強調していた気持ちは分かる気がします⸺福本氏とは、東大CARP時代に、同じホームに住んでいたことがあります。ただ、当時の左翼は、KCIAが、統一教会を影で操っていたと言っていましたが、今回はそれに当たるものがなくて、統一教会自体がディープ・ステイトみたいになっていますし、当時の左翼学生は、学内での統一教会排除が韓国差別に繋がらないよう、「原理研が活動していると、在日の学生の政治思想に関する情報が、KCIAに伝わってしまう」などと言っていましたが、今回の統一教会叩きには、露骨に韓国嫌いな人たちが加わっている感じです。

日本の信者の献金の大半が、韓国の本部に吸い上げられているのが気に入らない人が多いようですね。とにかく、左右双方が、日本の現状に対して抱いている不満が、「統一教会とアベ」をめぐる大きな物語を生み出しているような感じがします。

問2⸺リスクを抱えた自民党の対応

茂木幹事長は、『文藝春秋』10月号で、田崎史郎さんの質問に答えて、「旧統一教会及び関連団体とは一切関係を持たないこと」を党の方針として決定し、各議員に遵守を求めるとしました。この方針に従わない人は党にいてもらうことはできない、とまで言い切り、たとえば 高市早苗大臣は関連団体の明確な規定がない限りむつかしいと、反論しています。仲正さんはある雑誌記事で、「旧統一教会と自民党保守派の『乾いた共存関係』」と述べていますが、そうであれば、この茂木自民党執行部の組織決定は、自らをさらに追い込んでいるように思えますが、どうでしょうか。

仲正⸺そうだと思いますが、自民党にとってどの程度のダメージになるか分かりません。先程もお話ししたように、自民党の議員は、不平不満を言わないで、選挙のお手伝いをしてくれる要員がほしくて、たいして考えもしないで、旧統一教会に媚びを売っていただけです。信仰で結び付いているわけではありません。少なくとも、今名前の挙がっている国会議員に信者はいないでしょう。

信者になるには少なくとも、教義を一通り聞いて、文夫妻を真の父母と認め、彼らから祝福を受け、その後も彼らの導きの下で生きていくと誓うことが必要です。天皇だって堕落人間です。その一方、選挙の手伝いなどをしてくれる若い二世信者は、原罪なしに生まれてきた神の子です。そんな教義を、保守的な思想を持っていて、プライドが高い議員たちが簡単に受け入れるでしょうか。宗教に理解のない左翼の人たちは、“信者”という言葉を簡単に使いすぎます。同じ信者であれば、いざという時に信用できるが、ただのギブ・アンド・テイクの関係だと、いつ裏切るか分かりません。私がいた頃、日本の幹部たちは、普段懇意にしている政治家や役人に不信感を抱いていました。

ひょっとすると、隠れ信者が議員になっている可能性はありますが、そういう人は党内で確固とした地位を築くまで、目立たないよう、軽率な言動は控えるし、教会側もそういう人を下手に表に引っ張り出したりしないでしょう。私がいた頃、衆院選で自民党の公認候補になった人がいたけど、落選していますし、有力議員の秘書から県会議員にまでなった人がいますが、統一教会の信者であることが週刊誌で報道され、次の選挙で落選しています。

統一教会としては、将来、日韓関係や南北朝鮮統一の関連で、統一教会固有の政策を通すとか、天宙平和連合を準公的機関のようなものにするとか、いろいろ目標はあったのでしょうが、そうした目論見が具体的な成果をもたらす前に、自民党にほぼ一方的に尽くしただけで切られた感じでしょうから、恨んでいるでしょう。自民党がサタン、つまり容共的な党内左派に乗っ取られ、神側である自分たちと敵対するようになったと思っているかもしれません。

かといって、自民党と完全に袂を分かち、維新の会も同じスタンスを取っている以上、旧統一教会と組んでくれる有力政党などないことは彼らもよく分かっています。独自の政党をつくっても、元々信者数が少ないうえに、これだけ悪い評判が立っている以上、幸福実現党の半分以下くらいの票しか得られないでしょう。だから何だかんだ言われても、ほとぼりが冷めるのを待ってまた自民党にすり寄ることになるかもしれない。

ただ、お金とか人材の面で、旧統一教会自体がもたない可能性も結構あるのではと思います。統一教会が信者から巻き上げたお金を自民党に貢いでいるように言う人もいますが、ほとんどのお金は韓国に行っているので、貢いでいるとしても、大企業の政治献金と比べたら大した額ではないでしょう。選挙応援をする若い信者だって、そんなにたくさんいるわけではないでしょう。

問3⸺明確にすべき安倍・細田・下村の責任

接点を持つ議員にも信者はいないという仲正さんの見解ですが、少なくとも細田博之衆議院議長(日本・世界平和議員連合懇談会名誉議長、22年8月末解散)、下村博文元文科大臣、安倍晋三元首相の3人については、国会で事実関係を明確に調査する必要があり、また萩生田議員は地域・地方議員の代表例として、さらには虚偽発言に関して、「政治と宗教団体の関係」として調査する必要があるおもいますが、どうでしょうか。

仲正⸺嘘をついたり、胡麻化したりすると、宗教と政治の関係について疑惑を抱く人が増えるので、どういう関係だったのか明らかにする必要はあるでしょう。この三人は確かに代表的なケースになるでしょう。ただ、宗教団体には政治活動をする自由はあります。誤解している人が多いようですが、政教分離は、宗教組織が公的機関と一体化して、権力を行使することを禁じていますが、宗教団体が中心になって政党を作ったり、支援したりすることまで禁止していません。宗教団体に政治活動を禁止している国などありません。

問題は、勝共連合とか天宙平和連合、世界日報などの関連組織が間に入ることで、政党と宗教団体の関係が、国民の目から見て曖昧になることでしょう。宗教団体からの支援を得ているというのは、その宗教の意向を反映した政策作りをしたり、宗教法人としての利益を守ってやったりする可能性があるということなので、有権者にとって重要な情報でしょう⸺ただ、宗教法人としての正当な利益であれば、それを擁護することに問題はないので、どういう利益か詳しく知る必要があります。そうは言っても、どういう情報を開示すべきか、どういう宗教・思想団体との付き合いは要チェックか、というのは法律で一概に決められることではないので、橋下徹氏の言うように、各政党が自主的に基準を作って公開するしかないと思います。

また、宗教との付き合いについて情報公開するという場合、個々の秘書やボランティアの宗教チェックにまで発展してはいけません。統一教会に関しては仕方ないだろう、という言い方をしている人もいますが、それはとんでもなく危険な発想です。就職や進学に際して、宗教・信条を調べることを正当化することになりかねない。自分の事務所内、及び、関連した行事を利用した布教禁止、政策実現のための活動を、無断で宗教の宣伝に利用することを禁止するといったことを明示すればそれでいいと思います。内心には立ち入らないで、具体的行為だけ禁止するようにしないといけません。

あと、議員が信者獲得の広告塔になっているという話をする人がいますが、私はそれに懐疑的です。教会系のイベントに参加するハードルは多少下がるかもしれませんが、これから入信して、「真の父母」に従って生きていく、というような重大な決意を前にして、議員のメッセージとか表敬訪問のことなど考慮に入れるでしょうか。そんな人がいるとしたら、物凄く他人に影響されやすいということなので、統一教会でなくても、同じような団体に狙われ続けるでしょう。

因みに、私は東大入学当初、駒場寮に住んでいましたが、「君、原理に通っているんじゃないの」、と真夜中にしつこく問いただしてきた、同室の民青の学生が、私の入信の“後押し”をしてくれました。何がきっかけになるか分からないものです。反対活動をしている人はやり方を考えた方がいいです。ごく少数、私のような人間もいるので。

問4⸺勝共連合と日本会議の違いとは

仲正さんは1980年代に、「世界日報」記者や信者として11年間ほど活動されたそうですが、そのころ「日本会議」も組織化を進めています。学生や青年組織の間で、教義の原点を韓国に置く統一原理と、日本回帰にたつ日本会議の間で、同じ「勝共」という立場でも、対立点はなかったですか。90年代半ばで安倍晋三たち保守派政治家を取り込んでゆく「日本会議」とは、少し時代のずれはありますが。また80年代には左翼運動から信者になる人もいたという事ですが、彼らはその後どうしましたか。

仲正⸺後にオウム真理教の幹部になった学生が東大CARPのホームを訪れて、原理講義を受けたことはありますが、日本会議とはあまり接点がありませんでした。「日本会議」というのは、いくつかの神道・仏教系の宗教団体が集まって創設した保守系の政治組織で、それ自体としては、宗教団体ではなく、教団を維持するための、布教・献金の仕組みは持っていないので、統一教会とはかなり性質が異なると思います。統一教会の「勝共」は、統一教会の教義をベースにした、勝共理論に基づく活動なので、単に反共系の団体が集まっただけの日本会議とは、イデオロギー的背景が全然異なります。日本会議の人たちは、「勝共」なんて妙な言葉は使わないでしょうし、彼らからしてみれば、韓国人をメシアとし、日本を罪深いエバの国と位置付けている統一教会なんて邪教でしょう。

問5⸺ソウルでの「家庭連合」世界会議での安倍追悼

2022年8月12日のソウルでの「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」による世界会議での安倍元首相追悼については、韓国から見た旧統一教会側からの一方的な式典と仲正さんは位置付けています。それは正しいと思いますが、このYouTubeには5万近くのアクセスの中で、500人強のコメントがあり(決して多い方ではありませんが)、驚くべきことはそのほとんど全部が、「安倍の国葬は韓国で行われた」、「安倍と統一教会のずぶずぶの関係をしめす」など、安倍批判で溢れています。本来であれば、安倍支援のネット民(リベラル派のYouTubeには一般的)がここでは逆なので驚かされます。これはこの間の世論の流れを反映しているのか、それとも一部の者の見解なのか、さらには一時的な現象なのか、どのように解釈されますか。

仲正⸺こういうコメントをする人の普段の思想傾向は分からないので、トレンドが変化したかどうかについては何とも言えません。YouTubeでもヤフコメでは、普段は右寄りなのに、一部の記事だけ極端に左に傾くというのはよくあることです。いずれにしても、単純に、「宗教」とはどういうものか分かっていないのでしょう。護国神社にクリスチャンの自衛官が合祀されたからといって、キリスト教と自衛隊がずぶずぶなんて言いません。宗教は、信者であれそうでない人であれ、他人の死を利用します。

私にとってむしろ問題に見えるのは、プロであるはずのマスコミのジャーナリストたちでさえ同じような反応をしていることです。統一教会問題だけが、宗教問題ではありません。イスラム教をめぐる問題がありますし、ロシアとウクライナをめぐる問題にも宗教が絡んでいますし、靖国・護国神社をめぐる問題もまだ終わっていません。ジャーナリズムの第一線に宗教に無理解な人が増えているのは深刻な問題です。

ジャーナリストではない、一般ネットユーザーであっても、自分は宗教など信じない、宗教にハマる奴はバカだとか言っている内に、それに近いもの、例えば、サブカルと融合したスピリチュアル系のサークルとか、トランプとディープ・ステイトとの闘いを支援するネット上のサークルとかにハマっているかもしれません。現に、ネット上の統一教会批判のクラスターの中には、どっちがカルトだと言いたくなるようなひどく、粗雑な物語を拡散しているのが結構あります。現代人にとって、宗教体験自体は必要ではないかもしれませんが、「宗教」とはどういうものか、ある程度知っている必要はあるでしょう。

韓国発のグローバルな複合組織としての旧統一教会の問題と実態

問6⸺北朝鮮との関係

世界平和連合(FWP)と国際勝共連合(IFVOC 令和4年)のそれぞれの5大標語は類似していますが、異なる点を挙げると、

   (2)日米韓結束でアジア太平洋を守ろう(勝共連合:インド太平洋)
   (3)中国共産党の覇権主義を許すな(勝共連合:北朝鮮の核、ミサイル開発 を追加)
   (5)新憲法制定のための議論を推進しよう(勝共連合:憲法改正を推進しよう)

となっています。

北朝鮮との関係で、いくらドル資金援助があるとはいえ、これで旧統一教会は金北朝鮮との友好な関係を継続できるのでしょうか。また制裁下にある北朝鮮への外貨支援は、いかにして可能なのでしょうか。

仲正⸺北朝鮮に具体的にどうやってお金を渡しているか知りません。日本から直接送金しているのではなくて、韓国あるいはアメリカの教会に送金してから、合弁事業に投資する形になっているのではないかと思いますが、おっしゃるように、国連の制裁が厳しくなっているし、旧統一教会自体にお金がなくなっているので、お金の流れは止まっている可能性はあると思います。

旧統一教会が反共路線のまま、北朝鮮と友好関係を保つのは確かに矛盾しているように思われます。しかし、現にそれを三十年以上にわたって続けているわけです。どちらも本当は宗教もマルクス主義も関係なくて、利害と民族感情⸺ご存知のように、文夫妻はいずれも、植民地時代に北朝鮮に生まれています⸺だけで結び付いていると言ってしまえばそれまでですが、どちらにも一応、自分の立場を正当化する理屈はあります。

北朝鮮は、主体思想はマルクス主義の唯物論を越えているので、旧統一教会の勝共理論による批判は自分たちに当てはまらないと言えますし、旧統一教会側は、勝共理論は単なる反共ではなく、共産主義を理論的に克服したうえで、共産主義者たちが過ちに陥った原因を分析し、彼らを愛によって屈服させようという思想だ、単純に敵対し、非難するだけでなく、彼らに愛をもって接することで、心情を解放していく、というやり方もある、と言うでしょう。サタン=天使長は滅ぼすものではなく、愛によって屈服すべき対象です。

ミサイル開発批判は多少ひっかかるでしょうが、それほど前面に押し出して強調しているわけではないし、レトリックに聞こえるでしょうが、北のミサイル開発への反対を掲げているのは、勝共連合であって、家庭平和連合ではありません。対北朝鮮の窓口になっているのは、天宙平和連合もしくは家庭平和連合であって、勝共連合ではありません。

これまでも、教科書問題や従軍慰安婦問題など、韓半島⸺統一教会では、「韓半島」と言います⸺に対するスタンスと、反共路線の間で矛盾が生じる時は、関連組織ごとに、基本スタンスを使い分けるということをやっていました。「統一教会」を名乗っていた割には、グループの組織の間で、公式見解をちゃんと調整していないことがしばしばありました。各組織を束ねている幹部たちが、教祖に対する忠誠争いをしていて、仲が悪いんです。それが結果的に、棲み分けになって、幸いするということもあったのではないかと思います。

問7⸺韓国発のグローバル複合組織としての旧統一教会

旧統一教会は、世界、平和、統一(文明、諸宗教など)、家族、女性など(最近では環境やSDGs)をキーワードとして、多くの国際的な、あるいは日本国内で組織を作っています。そのいくつかは、国連経済社会理事会の総合協議資格を持つ国連NGOを売り物にしています。典型例が文鮮明と妻の韓鶴子を創始者とするUPF(天宙平和連合)であり、各国での平和大使の任命や「ピースロード」の開催などです。

集金組織・信者組織と教会本体、さらには数多くの関連団体と外部の政治家、有力者などとの関係など、複合的な組織体であり、これに事業などもくわえると、ジャーナリスト有田芳生さんのいう宗教組織の形をとるビジネス組織、あるいは韓国発のグローバル事業体ともいえます。すると信徒のなかでは、地域の「家庭連合」という宗教組織はどのような位置づけになるのでしょうか。

仲正⸺連合という名前が付いているので、天宙平和連合、勝共連合、世界平和連合が並列しているように聞こえるかもしれませんが、家庭連合が旧統一連合そのものです。実際、宗教法人になっているのは、家庭平和連合ですし、教義の確信になっている「祝福」を管轄しているのは家庭平和連合です。

関連団体の職員のほとんどは献身者と呼ばれる専従の信者だと思いますが、各関連団体は、家庭平和連合=旧統一教会から、教義に基づく大まかな方針だけを与えられて、具体的な日常業務はそれぞれの組織の判断でやっていると思います。私がいた頃は、統一教会本体、勝共連合、世界日報、CARP、世界平和教授アカデミーなどを率いる幹部は、それぞれ教祖直属で、教祖からの指示で動いていました。

各地区の統一教会が、勝共連合やCARPに直接指図をすることなどありません。ただ、祝福・家庭関係のことは統一教会本体が管轄していますし、教祖の家族とか韓国人の幹部とかが来日して集会を開く時などは、統一教会が取りしきるので、そういう時は、教会の指導下に入ります。無論、組織間の人事異動はあります。世界日報は多少専門性があるので、他の組織との異動は少ないですし、CARPの学生・院生は卒業・修了するまでは、異動はないです。今はどうなっているか分かりませんが、私の頃は、CARPとは別に、統一教会の学生部がありました。

カルト的宗教の規制と信者の基本的人権をめぐる問題

問8⸺宗教団体としての旧統一教会の内実

信者数ですが、仲正さんはコアな信者は2万人前後、一般信者数は多く見積もっても10万人前後と述べています。かつてサリン事件以前のオウム真理教に関して、宗教学者島田裕巳さんは、「出家者が1000人以上いて仏教系としてはすごい」と評価していました。とすれば仲正さんが体験したような活動をする信者が2万人近くいるという事は大変なことですが、当時の体験から、また現在の伝えられる情報から、宗教法人としての「家庭連合」は、縮小してきていますか。

仲正⸺普通の仏教の場合は、出家して、僧侶になっている人は全信者数に対して圧倒的に少なくて、ほとんどの人は普段は特別に宗教的な活動はしない在家信者です。財政的に支えてくれる在家信者の人数が多いので、少人数の僧侶で回しているわけです。というより、自分で経済活動をしない出家の人数が多すぎると、財政的にもたないでしょう。本当にできたばかりの新興宗教の場合、どうしても、全体の人数が少ないので、アクティヴに布教や教団のための経済活動に専従する人が多く必要になります。その専従の人たちが、教団を維持・拡大するために無理をすることになるわけです。無理をするので、ついていけずに、やめていく人も多い。旧統一教会の場合、韓国やアメリカでの活動のためにお金と人材を提供しないといけないので、余計にきつい。

統一教会はマインドコントロールしているので、やめられないという人がいますが、やめる時にすったもんだがあるのは、本人が教団に愛着をもっているか、一般社会の中で生きるのが嫌で、帰りたくないという気持ちが強い場合です。信仰歴が浅い人や、あまり多額の献金をしていない人、いわゆる手に職があって、教会から独立に活動している人、周囲に信者になっていることがあまり知られていない人は、比較的簡単にやめます。次第に教団から距離を取って幽霊信者化する人もいます。二世信者で幽霊信者化している人が結構いるようですね。

私がいた頃は、二世信者が中心になったら、教会の基礎は固まると思われていましたが、実際はその逆のようです。新しい信者はあまり増えないし、二世で教会の指示に従って熱心に活動する人の割合は結構低いようですから、次第に先細りになっていくでしょう。

御存じのように、教祖の子供たちは荒れた生活を続けたあげく亡くなったり、分派活動をしたりしています。教祖夫人の後を継ぐ人はもういないかもしれません。誰かが形式的な後継者になるでしょうが、残った教団をまとめるのは難しいでしょう。

問9⸺霊感商法・高額寄付の被害

全国霊感商法対策弁護士連絡会によると、1987年から2021年までの霊感商法による「被害件数」は3万4537件で、総額は1237億円に上ると報告されており、また2012年以後も、900人以上の高額寄付者の問題が寄せられているといわれています。

世論の旧統一教会と自民党政治家への怒りは、教義上、韓国に貢がなければならない日本と、その送金を韓国や世界での活動資源とする構造にあると思われます。他方で、旧統一教会は、韓国では財閥の一つとして数えられ、ソウル近郊で多くの不動産を持ち、自前の資金もあるのではと推定できます。現在でも旧統一教会とその関連組織は日本からの送金に依存しており、したがって、現在の旧統一教会への世論やメディアの厳しい批判が続けば、組織として存続が危なくなると思われますか。

仲正⸺そう思います。日本の教団組織が生き残るには、韓国への送金をやめて、信者からの献金を記者会見で言っていたようなレベルにまで抑制するしかないでしょうが、そのためには、韓国の教会、教祖の継承者との関係を根本的に見直すしかありません。しかし、向こうには、祝福の権限を持った特別な存在がいます。日本の側から関係を変えるよう申し入れても、教義を立てに却下されるでしょう。現行の教義でも、解釈改憲のような感じで、解釈とそれに基づく実践を大きく変更して、韓国と日本の関係を本当に対等なものにすることは不可能ではないでしょうが、韓国側が難色を示すでしょう。ただ、教祖の後継者がいなくなったら、関係は変化せざるを得ないでしょう。

ただ、再臨のメシアの名の下に信者たちに無茶ぶりして、この世界をサタンから取り戻す大いなる闘いに動員する教祖あってこその統一教会です。韓国からのプレッシャーがなくなり、二世信者たちの仲良しグループみたいなものになったら、教団としての求心力はなくなるでしょう。現役の信者たちはそうなることを身をもって感じているでしょう。だから今必死になっている。今表に出ている人たちを見ると、人材不足なのが分かるでしょう。世界日報なんか、七十近い人たちが未だに幹部として表に立たざるを得ない。

問10⸺宗教に救いを求める人々と基本的人権

政治学者の中島岳志さんはNHKの番組で、秋葉原事件の加藤智大と今回の山上徹也容疑者に共通する孤独な個人の問題、過去20年のネオリベラルな時代のロスジェネ世代の問題を、テロと結び付けて議論しています。中島さんが言及する大正末期からの世相との類推は別にして、また「政治と宗教」をめぐる「宗教法人規制」の制度化の問題とは別に、カルト宗教によるマインドコントロールと、その個人の基本権擁護の課題は、霊感商法の弁護士会でも提案しています。

とりわけ旧統一教会は、仲正さんも詳しく書かれているように、宗教やその教義を隠す形でだんだんと信者に染めてゆく手法は際立っており、とりわけ若い世代に対してなんらかの対応が必要とされています。これは旧統一教会に限定されない、常に新しく生まれるカルト宗教に対する法制的な人権擁護の問題でもあります。この点に関して、仲正さんはどのように思われますか。

仲正⸺布教の際に宗教名をはっきり告げることを義務付けるとか、無理な献金をさせないよう制限を設けるといったことはできるし、必要だと思いますが、マインドコントロールを定義して、一律に禁止するというようなことはできないでしょう。マインドコントロールの学問的な定義など確立していません。仮に定義できたとして、それをどう使うのでしょうか。マインドコントロールされているということは、操られていて自分の意志でやっていないということです。それは責任能力がないということでしょう。責任能力がない人が責任能力のない人を操って違法行為、不当な布教や献金強制をしたということにしかならないでしょう。

若者が不安に駆られて、危ないことをやらせる宗教に惹きつけられないよう、宗教と関係なく、話を聞いてもらえる場所、話相手がいる場所を作るのは大事ですが、教義内容について、こういうことを信じてはダメというようなことをやりだしたら、あっという間にビッグ・ブラザーの社会になっています。他人に具体的な害を与えない限り、最終的には、何を信じるかは本人に任せるしかありません。どんな不愉快な教えでも、その実践が関係ない人に害を与えない限り、認めねばなりません。それが「寛容」です。

日本人は、新興宗教が問題を起こすと、こんな邪教禁止しろ、と言い出します。その際に「教義」を信じること自体は禁じられないし、禁じようとする発想が危険だということをほとんどの人が分かっていません。LGBTや民族的マイノリティ、特定の病気の人を差別することに激しく怒る人が、ヘンな宗教を信じるのは自己責任だ、どんどん叩いてやめさせろ、それが本人のタメだ、という態度を取る。本当にそうでしょうか。仮に統一教会は無理にやめさせてもいいとして、イスラムはどうでしょうか、エホバの証人の場合はどうか。世間的にはヘンな教義の宗教だと分かっていても、それにすがらざるを得ない心理状態になっている人がいるとは思わないのか。

本当のリベラルであれば、宗教をオタクの趣味みたいに扱うのはやめるべきです。この言い方もよくないかもしれません。オタクの中にも、その趣味を取りあげられたら、本当に生きるのがきつくなる人もいるでしょうから。

定まらない岸田政権の旧統一教会問題への対応(追加の問)

旧統一教会問題をもっと厳しく追及するべしという世論や、内閣支持率低下が止まらないこともあり、岸田首相は、10月17日に、永岡文部科学大臣に対して、宗教法人法に規定される「質問権」の行使による調査を実施するように指示しました。仲正さんは現段階でのこの首相の指示をどのように位置づけますか。ネガティブ、ポジティブの両面から語っていただけますか。

仲正⸺質問権が行使されることによって、今までいろいろ曖昧になっていたことが明らかになるのは、教団にとってもいいことだと思います。個々の信者にとっても、自分の信じている宗教の教団が、日本の法律から見てどういう存在に見えるのか客観的に認識できる機会になるかもしれません。無論、法律的な問題を指摘されたからといって、納得して信仰をやめる人はあまりいないでしょう。解散という結論が出れば、不満は残るでしょうが、第三者的に自分たちがどう見えているか知ることは重要です。

ただ、首相が国会で野党に追及された形で出てきた発言がきっかけになると、「解散」ありきに見えてしまいます。信者たちには、自分たちはスケイプゴートにされた、とか、宗教迫害だという印象が残るでしょう。特殊な状況なので仕方ない面もありますが、どういう客観的基準に従って質問するのか明確にする必要があります。他の宗教に比べて、霊感商法等によるトラブルがひどいというのであれば、どういう風にカウントするのか、件数か額か。事案ごとの性質や信者数に対する割合なども考慮に入れるのか。組織的な関与があるという場合、何をもってそう認定するのか。

本当なら、そういう客観的基準が先にあって、それに従って各種のトラブルの件数などをモニタリングする第三者機関のようなものがあって、そこの諮問に基づいて、質問権を行使するというのが本来あるべき形だと思います。

今の宗教法人法は、「質問権」についても抽象的ですし、強制の立ち入り検査、証拠の押収のようなことも想定されていません。想定されていても、捜査する能力はないでしょう。統一教会のように、いろんな関連団体をもった宗教の組織活動の実体を捉えるのは、警察や検察、税務署などのプロでさえ難しいのに、文化庁の職員の質問で解明できるとは思いません。

教団の財務状況を調べないと、被害者に対する弁償もできません。莫大な債務を抱えていないか、不動産が抵当に入っていないか。多分、韓国への送金のために大した資産はないでしょうが、ちょっとでも資産があれば、関連団体とか個人の所有ということにして隠そうとするでしょう。解散は、関連団体には及びません。不当な迫害によって解散させられると思って、いろんな手を打つでしょう。

今の宗教法人法には、そんな規定はありませんが、本当なら、解散かどうか判断する前に、問題が多そうな教団を厳重な管理状態に置き、財務や人員配置を把握したうえで、具体的な改善命令を出し、実際変化があったかどうか確認するというようなプロセスを経るべきだと思います。破産の前に、倒産手続きもある、というような感じで。

そういうプロセスを経ても改善できる見込みがないから解散ということであれば、信者でも社会的常識のある人であれば、状況を把握し、自分はどうするのか考える機会が与えられると思います。

今は、教団をやめた元信者の意見はマスコミを通じてよく聞かれているけれど、現役信者の話は全然聞かれていない状態です。このまま、教団のごく少数の幹部への質問だけで、解散が決まれば、彼らは、私たちには信教の自由はないのか、やはりみんなサタンに操られている、という思いを強めるだけでしょう。統一教会は、自分たちは聖書の義人たちや「お父様」のように迫害の道を耐えていかねばならない、といって、叩かれるたびに、信仰を強めてきた教団です。今、教団は追い詰められていますが、彼らにとって、殉教者気分になって信仰を強める好機でもあります。お金もなく、世間の目が厳しく、宗教法人でもない状態で、信仰を強める二世、三世信者たちはどうなっていくのか。

そういう人間を増やさないための質問権の行使だということを忘れないでほしいと思います。

なかまさ・まさき

1963年広島県生まれ。金沢大学法学類教授。東京大学教育学部卒業。専門は政治思想史、法哲学、ドイツ文学。演出家あごうさとしに協力し、演劇の創作にも関わる。主な著書に『現代哲学の最前線』『現代哲学の論点』『悪と全体主義』(以上、NHK出版)『《日本の思想》講義』『カール・シュミット入門講義』『ドゥルーズ+ガタリ〈アンティ・オイディプス〉入門講義』『ニーチェ入門講義』(以上、作品社)『人はなぜ「自由」から逃走するのか』(KKベストセラーズ)『統一教会と私』(論創社)等。

特集/続・混迷する時代への視座

第32号 記事一覧

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