特集●日本を問う沖縄の民意

一帯一路と伙伴(パートナー)関係

新型国際関係と一帯一路 FTA構築への中国の布石

(財)国際貿易投資研究所研究主幹 江原 規由

一帯一路倡議(一帯一路イニシアチブ、以後、「一帯一路」)とは何か。いろいろな見方が出来るが、要は、「五通」と「三共」(詳細:下記表1)にほぼ集約される。すなわち、「五通」とは、新型国際関係の構築、インフラ建設、新タイプFTAの構築、人民元の国際化、文化・人材交流の強化などを目的とする「一帯一路」の事業内容であり、「三共」とは、ウインウイン関係の構築を目指す「一帯一路」の理念(精神)である。

表1 一帯一路をみる視点

理念(精神):三共(共商・共建・共享:共に話し、共に作り、共に分かつ)/
合作共贏(ウインウイン)
事業:五通(政策溝通・設施聯通・貿易暢通・資金融通・民心相通/
政策協調・インフラ整備・貿易円滑化・資金調達・文化交流等)
視点:改革開放の国際化、国際公共財、朋友圏伙伴関係(パートナーシップ・ネットワーク)
行方:①新型国際関係の構築のためのプラットフォーム,グローバルガバナンス改革、人類運命共同体建設注1
②新タイプのFTAの構築のためのプラットフォーム

筆者作成

2013年に習近平国家主席によって提唱された「一帯一路」は、今年(2019年)で6周年を迎えるが、すでに世界100余ヵ国が支持・参加する21世紀を代表する国際的プロジェクトといえる。2017年5月には、北京で世界29 ヵ国の元首・政府首脳、140 余ヵ国・80 余の国際組織から1,600 余名の代表が一同に会した第1回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(2017年5月14日、15日)が開催され共同建設協力文書が交わされたが、最近、その実行率が96.4%と発表された(2019年1月、国家発展改革委員会発表)。具体的には、第1回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムの成果のうち、269件がすでに完成または常態化し、10件が進行中とのことだ。実行率の高さに驚かされる。その主要事業の成果内容をみると、

政策協調:関係国及び国際組織と調印した「一帯一路」共同建設協力文書が積極的に実行に移され、「一帯一路」のコミュニティーが拡大している。「一帯一路」国際協力サミットフォーラム諮問委員会及び連絡事務局が正式に発足し「一帯一路」建設促進センターが運営を開始した。

インフラ整備:①中国ラオス鉄道、および、②中国タイ鉄道の第1期工事協力が進展し、③ジャカルタ―バンドン高速鉄道の重点工事22カ所が着工し、④ハンガリー―セルビア鉄道のセルビア側区間が着工した。7カ国の調印した「中欧班列協力の深化に関する協定」が実行され、国際定期貨物列車「中欧班列」による国際協力が進展した。2018年末までに「中欧班列」は累計1万3000便運行し、中国と15ヵ国・49都市を結んでいる。

貿易円滑化:「『一帯一路』貿易円滑化推進協力イニシアティブ」注2を実行し、経済・貿易協力の制度化を推進した。第1回中国国際輸入博覧会注3(2018年11月)を成功裏に開催した。

資金調達:シルクロード基金の1000億人民元の増資を完了するなど、対外投資における人民元の使用に具体的進展があった。中国―国際通貨基金共同能力開発センターが正式に始動した。

文化交流など:南南協力援助基金注4に10億ドルを増資し、シルクロード沿線民間組織協力ネットワークのメンバーが310組織にまで拡大した。教育、科学技術、文化、衛生、環境、シンクタンク、報道メディアなどの分野での協力の成果が上がった。

上記成果事例はほんの一部ではあるが、「一帯一路」事業が着々と実行されつつあることだけは認められよう。

なお、2019年4月25日から27日まで、第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラムが開催され習近平国家主席が同フォーラムの開幕式に出席して基調講演を行う予定。今年のサミットフォーラムはより高いランク、より大きな規模、よりバラエティ豊かなイベントになる、との発表がなされている(2019年3月31日現在)。

一帯一路は新型国際関係および新タイプのFTA構築のためのプラットフォーム

提起以来6年目となる「一帯一路」の行方であるが、2点に集約できる。すなわち、①新型国際関係の構築のためのプラットフォーム、および、②新タイプのFTAの構築のためのプラットフォームの形成である。例えば、「一帯一路」の主要事業である「5通」の政策協調で各国の発展戦略注5との連携が強調されている点は新型国際関係構築への布石であり、この新型国際関係の構築は、中国が目指す公正で客観的なグローバルガバナンスの改革、人類運命共同体(注1参照)の建設への布石でもある。

新タイプのFTAの構築については、2017年1月、スイスのダボス会議での基調講演で、習近平国家主席が、“「一帯一路」に輻射するFTAネットワークを構築する”と宣言していることからも明らかである。実際、中国のFTAネットワーク(交渉中を含む)をみると、「一帯一路」沿線国とのFTA構築が大勢を占めていることがわかる。すなわち、2018年1月時点、中国は15ヵ国・地区およびASEANと15FTAを締結済であるが、そのうち、「一帯一路」沿線国とは、7ヵ国・地区およびASEANと7FTAが構築済で、「一帯一路」が中国のFTAネットワークの軸になっている。

新型国際関係の構築、新タイプのFTAの構築に大きくかかわっている(かかわってくる)といえるのが、伙伴関係(パートナーシップ・ネットワーク)であるが、詳しくは後述する。

「三通」精神で「五通」事業をやるための中国の智慧

さて、「一帯一路」の理念(精神)としての「三通」であるが、“共に”が強調されているところが斬新である。「五通」との関連でいえば、「三通」精神で「五通」事業をやるということである。そのための「中国の知恵」が前述の伙伴関係(パートナーシップ)の構築に込められている。この伙伴関係の構築は「一帯一路」沿線国・関係国に限られたことではないが、中国と世界、中国と「一帯一路」との関係をみる重要な視点となる。

筆者が調べたところでは、伙伴関係は16種類注6(戦略、全面、合作、協作、全天候、全方位、互恵、創新、友好の9の冠語の組合せから組成)ある。伙伴関係とは、中国と一定の信頼関係を構築しており、重大な問題について基本的に意見を異にしない関係を指し、その最大の特徴は、①拘束力のある条約や協定によって構築されるではなく、元首(首脳)の信頼関係に基づく共同声明をもって構築され、②随時見直し(格上げなど)される注7など、当事国の経済状況や事情をより反映できる融通性があるところといえる。

伙伴関係を国家間交流の指導原則に

先に、「一帯一路」を、①新型国際関係と②新タイプのFTAの構築のためのプラットフォーム(表1)とした。その根拠として、前者については、「五通」事業の政策協調(各国の発展戦略との連携)との関連から、また、後者については、習近平国家主席のスイスのダボス会議の基調講演に求めたが、伙伴関係の構築は両者を実現するための「カギ」といえる。

伙伴関係について、習近平国家主席は、“中国は、何よりも伙伴関係の構築を国家間交流の指導原則と定める(2017年1月:国際連合ジュネーブ事務局訪問時講演)。”とした。伙伴関係が国家間交流の指導原則としているところが重要である。伙伴関係の構築が新型国際関係の構築の重要なプロセスとなっているといっても過言ではない。その伙伴関係が、「拘束力のある条約や協定によって構築されるのではなく、元首(首脳)の信頼関係に基づく共同声明をもって構築される」とされているところが斬新・特異であり、筆者が新型国際関係とみる所以である。

中国が伙伴関係を構築している国については公式には発表されていない。注6の伙伴関係構築表は、報道などから筆者がまとめたものである。習近平国家主席は、国際連合ジュネーブ事務局訪問時講演で、“現在90余ヵ国・地区と伙伴関係を構築している”としたが、このうち、ASEAN、アラブ首長国連邦、AU、ラテンアメリカ・カリブ諸国共同体などの地域組織の加盟国をすべてカウントすれば、伙伴関係構築国は180ヵ国ほどとなる。今や、伙伴関係は世界的ネットワークを構築済であることから、その構築より、その見直し(格上げ、強化、発展、深化)が中心となっている。

なお、伙伴関係の構築は、習近平国家主席の専売特許ではない。すでに、1990年代から構築されてきているが、伙伴関係が、その見直しも含め最も多く構築されたのが2016年であった。その実績があったからこそ、習近平国家主席が翌年1月のスイスダボス会議で、“伙伴関係を国家間交流の指導原則とする”との発言になったことは想像に難くない。

習近平国家主席の外遊時、海外首脳の訪中時の首脳会談、スピーチなどで決まって主要テーマとなり強調されるのが、「一帯一路」と伙伴関係の構築・見直し、その今後の方向への確認である注8。伙伴関係の構築の積極姿勢から、①新型国際関係を構築し、②グローバルガバナンスの改革を行い、そして、③人類運命共同体の建設を図ろうとする習近平国家主席の執念が見てとれよう。

共同声明で構築・見直される伙伴関係

伙伴関係の最大の特徴は、拘束力のある条約や協定によって構築されるではなく、元首(首脳)の信頼関係に基づく共同声明で構築される点であるが、「一帯一路」の事業、経済協力(特に経済連携)にかかわる内容が少なくない注9

さて、「一帯一路」が新タイプのFTAの構築のためのプラットフォームとしたが、経済発展水準に大きなバラツキがあり、かつ、多様な宗教、民族、価値観、そして、利害が複雑に交差する一帯一路沿線各国とFTAを締結するのはそう簡単ではない。そのカギは、伙伴関係が握っているといっても過言ではない。

習近平国家主席は、「北京フォーラム」の基調講演で、“中国は、「一帯一路」関係国と、「ウインウイン」の経貿伙伴関係の構築によって「一帯一路」FTAネットワークを構築する”とした。新タイプのFTAとは、伙伴関係に基づく経済圏(FTA)ということである。すなわち、「一帯一路」沿線のどの国・地区・組織にとっても、“参加が容易な開かれたFTA”、“加入のハードルが高くないFTA”の構築、すなわち、新タイプのFTAの構築を目指しているということになる。この点、伙伴関係が共同声明をもって構築され、随時見直し(格上げなど)されるなど、当事国の経済状況や事情をより反映できる融通性がある点が特筆されよう。同時に、中国が「一帯一路」で朋友圏注10を拡大し、国際公共財としての「一帯一路」を提供とするとの主張(表1)にも合致している。

やや大胆に言えば、伙伴関係は16種類あることから、すでに、16のメガFTA(大経済圏)の予備軍が存在しているといえる。

一帯一路は改革開放の国際化のためのプラットフォーム

中国経済のみならず、世界経済における「一帯一路」経済のプレゼンスは、今後ますます高まっていくと考えられる。

筆者は、「一帯一路」を、中国経済の発展に大きく貢献してきた改革開放の国際化とみる。この点、「五通」でインフラ整備が強調されているが、改革開放でもまずインフラ整備が先行していたことなど、両者には多くの点で共通点が認められる注11。さらに、資金調達でも人民元決済や人民元調達による事業実施(第3国協力事業など)が推進されているなど、人民元の国際化へ向けた布石が着々と打たれている。

また、文化交流などでの拡大強化で、中国と「一帯一路」沿線国・関係国との連携、協力強化が進めば、中国のソフトパワーの発揮が期待できる。そうなれば、世界における中国の好感度アップにつながり、グローバルガバナンスの改革で「一帯一路」沿線・関係国から支持が得られると期待できるのではないだろうか。

注1 中国の指導者による人類運命共同体構築の理由に関わる言及については、習主席を筆頭に、“枚挙に暇なし”であるが、楊潔国務委員(副首相級、前外務大臣)の下記(人民日報 2017年11月19日の掲載文、テーマ:「人類運命共同体の構築を推進する」)が中国の本音を語っているとみられる。以下はその要点。

“人類運命共同体の構築は当代の中国の世界に対する重要思想・理論・貢献である”。

“世界は多極化し、経済はグローバル化し、社会は情報化し、文化は多様化しており、新興市場と広大な発展途上国のプレゼンスが増してきている。国際構図は西側が握り、西側の価値観に基づく国際関係は、新たな時代の潮流に適応しきれていない。国際社会は新たなグローバルガバナンス理念を必要としている。新たな公正で合理的な国際体系・秩序を構築し、人類に素晴らしい発展ビジョンを切り開く”。

“人類運命共同体の構築はグローバルガバナンスに貢献するための「中国智慧」であり「中国方案」である“。

注2 中国による、国際輸入博覧会の開催、今後5年内に、①2兆ドルの商品輸入・沿線国・地区への1500億ドルの投資などが主内容。

注3 2018年11月、上海で開催。172ヵ国・地域から3600社以上が参加、40万人以上の国内外の購買担当者が商談。総入場者数は80万人超。日本企業の参展が最多。

注4 2015年9月、習近平国家主席がニューヨークで開かれた国連サミットに出席し、発展途上国への支援に向け設立を発表。中国は手始めに20億ドルを拠出するほか2030年までに後発開発途上国への投資を120億ドル(約1兆4440億円)にすることを目標に掲げた。

注5 カザフスタンの“光明の道”発展戦略、ロシア主導の“ユーラシア経済連盟”の発展戦略、サウジアラビアの“2030ビジョン”、エジプトの“振興計画”、ユンケル欧州委員会委員長提起の投資計画など。

注6 伙伴関係構築表(2018年4月末時点)

筆者が各種資料から作成(伙伴関係ネットワークは公式には未発表)

注7 中国が構築した伙伴関係の見直し(格上げなど)推移(韓国との事例)

1992年 国交正常化

1997年 合作伙伴関係(金大中大統領訪中時)

2003年 全面合作伙伴関係(盧武鉉大統領訪中時)

2008年 戦略合作伙伴関係(李明博大統領訪中時)

注8 2019年の習近平国家主席の初外遊は、3月のイタリア、モナコ、フランスへの公式訪問であった。そこでも、「一帯一路」と「伙伴関係」が、首脳会談の主要テーマであった。

中国側の発表により筆者作成

注9 中ロ全面戦略協作伙伴関係をさらに深化することに関する共同声明(要点)

発表年月(見直し時期):2017年7月
協力要点:「一帯一路」とロシアが主導するユーラシア経済連盟との連携、地域一体化を推進するためのユーラシア経済伙伴関係の構築に関わる措置、知的財産権の保護、インフラ整備協力、欧州に至るシベリヤ鉄道貨物輸送条件の改善協力、宇宙開発協力、さらに、中国とロシアが主導しているBRICS関連では、BRICS新開発銀行の運営やPPP事業の国際展開における協力強化など。
構成字数:5300字(中国語)。内訳:政治互信(500字)、実務協力(2000字)、安全協力(350字)、人文交流(1000字)、国際協力(800字)、その他(650字)。

※ 実務協力、すなわち、経済交流に関わる記述が他を圧倒している。

筆者作成

注10 伙伴関係は、“对话而不对抗,结伴而不结盟”的新路(対話し対抗しない、友となっても契りを交わさない新たな関係)とされる。今風に言えば、まさに朋友関係ということになる。

注11 「一帯一路」の「五通」事業でも、貿易暢通(貿易円滑化)など、「一帯一路」経済圏(FTAネットワーク)の構築にかかわると内容が織り込まれている。

えはら・のりよし

1950年生まれ。東京外国語大学外国語学部卒業。日本貿易振興会(ジェトロ)入会。香港大学研修、日中経済協会出向などを経て、1993年大連事務所初代所長、2001年北京・センター所長、2010年上海万博日本館館長。現在、(財)国際貿易投資研究所研究主幹。 主な著書に『大連に暮らす』『職在中国』(ジェトロ)、『大中華圏』(共著、岩波書店)、『中国経済36景』(中国外交出版社)『中国経済最前線』(共著、ジェトロ)など。

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