コラム/沖縄発

南西諸島で進む自衛隊配備

奄美大島、宮古島、石垣島が戦争の最前線に

新聞うずみ火記者 栗原 佳子

辺野古新基地建設と同時並行的に、国は南西諸島への自衛隊配備を強行している。「防衛の空白を埋める」といういわゆる「南西シフト」。今年3月26日には宮古島と奄美大島に新しい基地が開設された。石垣島でも造成工事が始まった。現地で何が起きているのか。

<住宅のすぐ近くに弾薬庫>

宮古島駐屯地内に並ぶ軍用車両。後ろに地域の人たちの信仰の聖地・御嶽(うたき)がある=筆者撮影

宮古島のほぼ中央部、ゴルフ場「千代田カントリークラブ」(宮古島市上野野原)跡地に3月26日、駐屯地が開設された。名称は「宮古島駐屯地」警備部隊380人が先行配備され、いずれは地対空・地対艦ミサイル部隊も配備される。700人から800人規模になるという。

クリーム色の外壁に沖縄の赤瓦を配した真新しい隊舎。駐屯地が開設されてまもなく1カ月になろうかという土曜日、フェンス沿いに車を走らせた。催しでもあるのか、連れ立って歩く何組もの家族の姿がある。隊員は地元自治会に所属、子どもたちが通う小学校は1学年のクラスが増えたという。

開設はしたが、駐屯地は未完成。工事車両があちこちで動き回り、大勢の作業員が働いていた。巨大な盛り土はグラウンドになるという。そのすぐ横にはピラミッド型の緑の大型構築物。弾薬庫だ。それらはフェンスにも近く、しかも、住宅や畑はフェンスにへばりつくように隣接している。

国は2010年の防衛大綱と中期防で、中国を念頭に南西地域の防衛力強化を打ち出した。中国を封じ込めるという日米共同の軍事戦略に基づく作戦だ。大隅半島から与那国島までの約1200㌔。14年には沖縄・与那国島、宮古島、石垣島、奄美大島への部隊配備を明記した。与那国島には16年3月、陸自沿岸監視隊が新設されている。

宮古島市には15年、防衛省から正式に打診が来た。千代田カントリークラブと、弾薬庫・射撃場として北部の大福牧場。しかし宮古島は飲み水全てを地下水に依存する稀有な島で、牧場の真下に水源があることから市民の反発は大きく、下地敏彦市長は「千代田」に限り受け入れを表明した。しかし防衛省は既に島東部の保良地区を新たな候補地に選定、地対艦、地対空ミサイル部隊のミサイル本体をここに置くとしている。最も近い家で200㍍以内。地元は大反対している。

<ごまかし重ね「最前線」に>

17年10月末、千代田カントリークラブに突然重機が入り駐屯地の造成工事がはじまった。着工以来、「ミサイルいらない宮古島住民連絡会」などの住民有志は工事車両が出入りするゲートの前で抗議・監視を続け、情報公開や専門家による調査などを積み重ねながら、防衛省の「虚偽説明」をいくつも暴いてきた。

例えば、敷地内には辺野古のような軟弱地盤があり、空洞もあること。そこは、100㌧の燃料タンク7基を埋設したエリアであり、断層も走っているということ。タンク7基のうち4基はジェット燃料であり、グラウンドはヘリパッドとしても使われること。小型の「保管庫」と説明されていたものが実は大型弾薬庫だったことなどだ。

そもそも防衛省は「弾薬庫は作らない」と住民に説明していた。「ミサイル本体は置かない」とも。みな虚偽だった。警備部隊の装備である中距離多目的誘導弾が搬入されていたことがメディアで大きく報じられると国はあわてて撤去に動いた。撤去作業に、住民が求めた立ち合いは認められなかった。

駐屯地の正門前のビニールハウスでは、メロン農家の仲里正繁さんが作業中だった。「とにかく住民無視、人権無視。燃料タンクの下に軟弱地盤があり、タンクと弾薬庫は100㍍しか離れていない。地域住民にとって大きな不安材料。辺野古でも地盤にあれだけの問題があるのに杭を打つといって進めている。ここは規模が小さいし、政府としては何も感じてないんじゃないか」。

仲里さんは「住民連絡会」の代表。一昨年、市民対象の説明会で「どんな基地になるのか」防衛省に質問したことがあった。「前線基地」という答え。さらに「最前線ということか」突っ込むと具体的な回答はなく、それからは「初動基地」と言い回しを変えてきたという。しかし4月7日、駐屯地で行われた開設記念式典では岩屋毅防衛大臣自らが「わが国防衛の最前線」とはっきり訓示している。

<奄美は「南西シフトの兵站基地」>

鹿児島県の奄美大島でも3月26日、駐屯地が開設された。奄美市名瀬大熊の奄美駐屯地と、瀬戸内町節子の瀬戸内分屯地の2カ所である。

奄美駐屯地は山間にあるゴルフ場「奄美カントリークラブ」の一部30㌶を国が買い上げ、16年9月着工。警備部隊と地対空ミサイル部隊350人が配備された。建物の色は独特のグリーン。駐屯地開設から3日後、隣接する道路からはずらりと並んだ軍用車両や、くるくる回る車載レーダーらしきものが見え、運用がはじまったことを実感させた。現地で監視行動を続ける上島啓さんによると「宮古島で撤去したとされる中距離多目的弾道弾も配備済み」。弾らしきものを発射台に積み込む様子も見えたという。なお、1月に私がここに来たときは目の前をオスプレイ2機が横切った。米軍普天間基地所属。奄美上空では日常的に訓練しているのだという。

瀬戸内分屯地は山がちな島の中でも最も山深い原生林の森にある。奄美市から車で約1時間半。トンネルの開通で交通量が減った旧道沿いの町有地28㌶を2地区に分け、片方に隊舎やグラウンドなど、もう一方に大規模弾薬庫を整備するという計画だ。配備されたのは警備部隊と地対艦ミサイル部隊200人。林道沿いの駐車場には軍用車両が並び、搭載されたミサイルも見える。瀬戸内分屯地も未完成。山を掘削するなどの大規模な工事が続く。

防衛省は開設式典に合わせ基地の概要を発表した。奄美駐屯地の面積は約50㌶。伝えられていた30㌶という数字は大幅に膨れ上がっていた。町有地28㌶だとされていた瀬戸内分屯地も48㌶に上方修正された。しかもそのうち31㌶は大規模弾薬庫。防衛省は「貯蔵庫」「火薬庫」などと呼称しているが。いずれにしても31㌶といえば東京ドーム6つ分、それだけで宮古島駐屯地の約1.5倍の規模だ。

「南西シフト」の問題に早くから警鐘を鳴らし、現地を取材してきた軍事ジャーナリストの小西誠さんは防衛省の隠ぺい体質を批判、「南西諸島に投入されるすべての部隊の武器・弾薬を中心とした兵站基地になるのではないか。奄美大島から種子島・馬毛島が南西シフトの機動展開拠点であり、兵站拠点と位置付けていると思う」と警告する。

<日の丸の歓迎でパレード>

奄美市、瀬戸内町には14年、配備要請があった。奄美市では活性化などを求める12団体の要請を受けるかたちで市長が受け入れ。過疎化対策などのため誘致を進めてきた瀬戸内町も応諾した。説明会は地域で1回ずつだけ。工事差し止めの訴訟を続けてきた「戦争のための自衛隊配備に反対する奄美ネット」(城村典文代表)など地道な反対運動があり、配備を不安視する市民も少なくないが、官民こぞっての歓迎ムードで、声を上げにくいという。奄美駐屯地で開設式典が行われた3月31日はブルーインパルスが飛び、前日の30日朝には瀬戸内町古仁屋のメインストリートで分屯地の開設パレードが行われた。音楽隊の先導で隊員が制服で行進、「歓迎」ののぼりが林立し、沿道の住民が日の丸の小旗を振っていた。

古仁屋には海上自衛隊の基地があるが、地元はさらなる誘致に動く。空港近くには航空自衛隊の分屯基地が存在するが、防衛省は島最高峰の湯湾岳に通信施設の配備を計画する。ブルーインパルスは民間空港の奄美空港から離発着、翌日には同じ滑走路に海自の新型輸送機C2が飛来した。陸海空の一体化。地ならしが着々と進んでいるのを実感する。

奄美大島は毎年、西部方面隊の実動演習「鎮西」の舞台になるが、14年には大島海峡に浮かぶ江仁屋離島で離島奪還を想定した陸海空の統合訓練が行われた。昨年の「鎮西」では、観光地の真横でミサイル部隊がものものしい展開訓練を行っている。こうした訓練が日常的に生活圏で行われる可能性はないのか。4月半ば、奄美の地元紙に駐屯地、分屯地の両トップのインタビューが掲載されたが、どちらも、慎重な言い回しながら、敷地外の訓練について否定しなかった。

<「アセス逃れ」で駆け込み着工>

石垣島の配備予定地では3月5日、掘削作業が始まった。地元紙は「本格着工」と報じた。

市街地から北へ車で約15分。傾斜した道を大きく曲がると「ジュマール・ゴルフガーデン」のエントランスにさしかかる。この奥が工事現場だ。「正式着工」から約1週間。設置された柵の向こうには緑のコースに重機が並んでいるのが見えた。

「どうしても3月中に駆け込みで工事をしたかったということ。アセス逃れのために」。入口で監視・抗議に立つ男性が怒りを込める。

沖縄県は昨年10月、「環境影響評価条例」を改正。土地造成に伴う20㌶以上の事業がアセスの対象になった。施行は今年4月だが、それまでに着工すれば適用外という経過措置がある。昨年7月に正式な受け入れ会見をした中山義隆市長は、なぜこの時期か問われ、条例適用回避のための判断と示唆した。アセスの対象になれば少なくとも3年はかかるという。

予定地は46㌶。市有地と民有地が半々で、民有地の13㌶をジュマールの土地が占める。着工したのはそのうちわずか0.5㌶。なおゴルフ場のオーナーは与党・自民会派の石垣市議だ。ちなみに議会の議決を有する市有地はまだ取得できていない。

一帯は国の天然記念物カンムリワシなど希少な生き物の宝庫だが、防衛省は土質調査や環境に関する現況調査についても明らかにしていない。島全体の飲料水に影響するとして、専門家からも指摘されてきた水源地の汚水問題も手つかずのまま。特に周辺の4地区などの農村地域にとっては死活問題だ。

防衛省が「尖閣」などを理由に正式に配備を要請したのは15年。地対艦、地対空ミサイル部隊、警備部隊約600人を配備するとして候補地に平得大俣という地名が示された。特に衝撃が走ったのは周辺4地区。嵩田、於茂登、川原、開南。それぞれ戦前から戦後にかけ沖縄本島や宮古島、与那国島、台湾などから入植した人たちが血のにじむ努力で切り開き、島を代表する生産地に育て上げた農村集落だ。

断固反対の立場を貫く4地区と防衛省が初めて「面談」したのは着工直前の2月27日。防衛省側はまともに疑問に答えず、再面談を求める住民の要望も聞き届けられず、翌日にはジュマールに資材が運び込まれた。住民の合意がないままなし崩し的に進む配備計画の賛否を問うべく、若者たちが奔走し、有権者4割の署名を集め実現させようとした住民投票も棚上げになったままだ。

嵩田の果樹農家、金城哲浩さんを訪ねると、ハウスの中はマンゴーの花が満開だった。心躍る季節に違いないのに、表情は浮かない。「国がやることには民主主義がないね。戦前に戻っていくような気がしてならない・・・」。候補地が浮上した時の公民館長(自治会長)。「石垣島に軍事基地をつくらせない市民連絡会」の共同代表でもある。予定地との距離は300㍍しか離れていない。

地対艦ミサイル部隊は、侵攻部隊の母艦を撃破するとされる。相手側にすれば最初に撃破すべき目標。それを防衛するのが、航空機や巡航ミサイルに対抗する地対空ミサイル部隊だ。それらミサイル部隊を防衛するのが警備部隊になる。どう言い繕おうが、南西諸島につくられつつあるのは有事を想定したミサイル基地。年末の新防衛大綱では、「上陸した敵を周辺の島から射撃する」という高速滑空弾部隊が明記され、最近も「敵に侵攻された場合」を想定した空港復旧部隊の創設が報じられたばかりだ。どちらも石垣、宮古という具体名とともに。南西諸島の人たちに具体的な恐怖が迫りつつある。それを見過ごしていいのか。

くりはら・けいこ

群馬の地方紙『上毛新聞』、元黒田ジャーナルを経て新聞うずみ火記者。単身乗り込んだ大阪で戦後補償問題の取材に明け暮れ、通天閣での「戦争展」に韓国から元「慰安婦」を招請。右翼からの攻撃も予想されたが、「僕が守ってやるからやりたいことをやれ」という黒田さんの一言が支えに。酒好き、沖縄好きも黒田さん譲り。著書として、『狙われた「集団自決」大江岩波裁判と住民の証言』(社会評論社)、共著として『震災と人間』『みんなの命 輝くために』など。


新聞うずみ火

ジャーナリストの故・黒田清氏が設立した「黒田ジャーナル」の元記者らが2005年10月、大阪を拠点に創刊した月刊のミニコミ紙。B5版32ページ。「うずみ火」とは灰に埋めた炭火のこと。黒田さんがジャーナリスト活動の柱とした反戦・反差別の遺志を引き継ぎ、消すことなく次の世代にバトンタッチしたいという思いを込めて命名。月刊一部300円/年間3600円。

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