編集委員会から
編集後記(第24号・2020年秋号)
―――菅強権政治の厳重監視を/トランプは世界の反面教師/
「都構想」否決、維新・公明に大打撃
◆コロナ禍はいまだ衰えず、世界で感染者が5200万人、死者が128万人を突破し(11/12)、さらに猛威をふるいつつある。南北戦争以来かと言われるアメリカ社会を二分し、深刻な分断国家の実相を曝け出した大統領選は民主党バイデンの勝利に終わった。否、トランプを拒否するアメリカ人の良識がかろうじて勝ったと言えるだろう。銃器所持が自由で政治テロ・暗殺の暗い過去を持つアメリカ。バイデンやハリスへの暗殺を危惧している。中間層が解体され下層に転落した労働者層がトランプを支持しているのとの分析がある。トランプが下層労働者の味方とはとても思えないが、アメリカ社会の富の偏在は深刻。今のラストベルトの原因にせよ米中経済戦争にせよ、仕掛けたのはアメリカ。80~90年代のアメリカや日本の土砂降り的中国進出で暴利を貪ったなれの果てである。仕掛けたのはアメリカの資本家であり政治家だ。アメリカに見られる社会の分断は欧州や日本も無縁ではない。世界を覆った新自由主義の結果であり帰結、資本主義の末路ではないかと思う。
資本主義の壮大な歴史論を展開されている水野和夫さんに今号も登場願った。「コロナ後 世界経済と資本主義が大転換」と重大な分析・提起。また毎号、大統領選―トランプを執筆願ってきた金子敦郎さんにバイデンが選挙人270人超えとなったギリギリの局面で分析頂いた。「バイデン大接戦制し、米民主主義の危機救う」と分析の第一弾。
◆転じて日本。最長・最悪と批判されたアベは病気と称して二度目の政権投げ出し。“病気は気の毒”と、日本的感傷で支持率があがり、いたって元気そうで、憲法を改正したいなどと政治発言も目立つ。知性も常識もない同類のトランプとともに静かに去れと言いたい。さてアベの継承を掲げて自民党内のウルトラ派閥談合で成立の菅政権とは何者か。所信表明演説で、理念なきスカスカ政権とすでに揶揄されている。しかし就任早々の9月、学術会議会員の任命拒否の暴挙は、アベと一体となって進めてきた危険な強権政治の露呈である。戦前の特高警察的政治、戦後のレッドパージを想わせる。スガは自民党や御用評論家を総動員で問題のすり替えに必死になっている。読者のみなさんと注意を共有したく本号の特集タイトルとした(学術会議問題では本誌編集委員会も声明を発したー本号にも掲載)。就任早々、携帯料金の値下げや印鑑廃止などの個別の人気取り政策を矢継ぎ早に打っているが、その本質は強権政治。それも陰湿な公安警察的手法だ。戦前の特高警察的支配の様相は陰に陽に社会の諸領域に及ぶ。NHKを先頭にメディアへの硬軟おりまぜた支配介入の現実は深刻だ。メディアに対する厳重な監視も極めて重要である。そして最大のブレーンが、あの竹中平蔵先生。この御仁、今や学者の領域を超えて立派な政商。この男は歴史の審判に付すべき人物である。
日本政治の課題や野党の課題について、「キーマンに聞く」連載で、野党統一へ国民民主党内で奮闘、立憲新党に合流。代表選にも立候補した次世代のホープで現政調会長・泉ケンタさんに本誌・住沢さんが聞く。また日本でも秋が深まり感染急増のコロナ。本誌・橘川さんがコロナの続編「細部には悪魔も潜んでいる―政治と科学の問題でパンデミックが明らかにしたこと」を論じる。日本の環境問題の論客である松下和夫さんは、菅の「2050年までに、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする」との発言と日本の遅れを分析する。
◆コロナ禍、日本社会でも深刻な危機が進行している。何時の世も被害は弱者からしわ寄せされる。それは日本の勤労者中40%にも達する非正規雇用(不安定雇用)労働者層だ。もう真っ先に首を切られ生活に困窮する層だ。中間層の没落は世界を席巻した新自由主義の結果であり末路、米国・欧州・日本と共通。コロナ禍に悪乗りし黒字企業でも本工(正規社員)も含め首切りが横行する日本。そんなことで社会が成立し成り立っていくのか。為政者も己の任期中のみよければよしの日本的サラリーマン経営者は真剣に考えよ。もとより強欲オーナー経営者も。
本誌に労働運動でいつも寄稿頂いている田端邦博さんは、労働運動はもう過去の産物なのか、と問う。欧米や日本を覆った新自由主義の大波の下で後退に後退を重ねた現実。かつての労働運動黄金時代には殆んど存在しなかった非正規雇用が急速に拡大し、労働組合は有効な歯止めをかけられていない厳しい現実がある。かつての労働組合は、働く者の希望の星、正義の味方であった時代もあった。労働運動はもはや生き残ることはできないのだろうかと問い、イギリスの労働組合(TUC)の取り組みに、「ネオリベラルの政府や資本の攻撃の下に労働組合が戸惑い、受け身の後退を続けた時代はほぼ終わりつつある・・。新しい時代の労働運動が目覚めはじめたと言ってもよい」と、一条の光があることを論じる(乞う熟読)。日本の労働組合の第一線で苦闘する大野隆さん(本誌編集委員)は、深刻な非正規雇用の労働者の現実を前に「言葉だけの『同一労働同一賃金』はいらない―最低賃金を引上げ、非正規にも生活できる賃金を!」と訴える。また今はやりのテレワークについても、「人と接触しないで人と繋がる社会は成立するのか」と鋭く問う。
◆大阪「都構想」―住民投票で否決、維新・公明に大打撃! しかし維新は新たな策謀を開始
アメリカの大統領選ほどではないが大阪の街を騒がせた、いわゆる大阪「都構想」(大阪市を廃止し、4つの特別区を設置する案)の2回目の住民投票が11月1日に実施された。今回は、公明党を賛成に引き込んでの実施で賛成多数が予想されていた。しかし大阪市民は11,717票の僅差で2度目の否決。それも最後の1週間での逆転であった。公明が賛成に転じたのは、衆院議員がいる選挙区には維新候補を立てないとの破廉恥な密約があったことが暴露される。公明は山口代表も大阪に送り込んだが、支持者の多数は反対に投票したようだ。維新、公明に大打撃で松井大阪市長・維新代表は3年後の引退を表明。近々の総選挙で大阪の党から全国政党をめざす維新の会への打撃は計り知れない。作家の適菜収さんは、“維新の解散こそが最大の「ムダ排除」だ”と指摘。左高信さんの言葉を借りれば“公明党に仏罰を”だ。
しかし維新は、またもや破廉恥にも1週間もたたない内に新たな策謀をはじめる。大阪市を残した上で、「広域行政一元化条例」を府と市で作るという。吉村知事は「事業を一本化するのだから、当然その費用は大阪市に出してもらう」と述べ、形を変えて大阪市の財源と権限を大阪府に吸い上げる方針である。また、公明党が「都構想」の対案として提案していた24の区を八つの区に統合する「総合区」をたたき台にして検討しようと提案もしている。公明を抱き込んで敗北の痛手を回避する作戦だ。このどちらも、住民投票は不要で消防事業など幾つかは総務省との協議はいるが、議会の決定で実施できる。さて「都構想」で反対の市議団と賛成に転じた府議団に分裂した自民党はどうするのか・・。
「維新政治を終わらせる闘いは続く・・・コロナ危機の中で闘われた住民投票勝利の成果をうやむやにさせない闘いは続く」と、本号で「近代を問う!排除されて来たケア労働」執筆の大阪の水野博達さんから便り。水野さんは『橋下現象 徹底検証―さらば、虚構のトリックスター』(インパクト出版)の執筆陣。「橋本現象研究会」のメンバー。早速次号での執筆を依頼。
◆本号の発行・発信予定は当初11月1日でしたが、アメリカ大統領選などもあり遅らせました。ご容赦下さい。次号(25号)は2月1日を予定しています。年初の衆院解散も語られ、さてどうなりますか。それにしても選挙は怖いです。大阪都構想の住民投票、2週間前は賛成多数が予測され、大阪生まれの小生なども、こらアカンわと思った。しかし最後の一週間で逆転。選挙は怖いです。近々の総選挙でも、それぞれやれることは最後まで努力しよう、これが一番です。(矢代俊三)
季刊『現代の理論』[vol.24]2020秋号
(デジタル24号―通刊54号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)
2020年11月14日(土)発行
編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会
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