編集委員会から

編集後記(第30号・2022年春号)

―――ウクライナ危機に乗じた火事場泥棒的軍拡論に抗し、
非戦平和を考える時

▶歴史は逆流するのか。歴史の転換点はどのようにころがっていくのか。予測しがたい局面に暗澹たる気分になる。それだけは無しだと思われた“核の使用”が単なる脅しではなく現実味を帯びている。アメリカ・ロシア・ウクライナ・イギリス・・・と真贋織り交ぜた情報・諜報戦。ロシア・プーチンは戦術核を使用するのか。人類で最初に原爆を使用したのはアメリカ。それも日本の降伏を察知しながら急ぎ広島・長崎に投下したのだ。あのベトナム戦争の張本人もアメリカ。そして自国の諜報機関(スパイ機関)の情報に惑わされ、イラク戦争を仕掛けたのもアメリカ(これなど、自分に都合のいい諜報機関の情報のみを取り出し繋げて政治判断したお粗末と指摘されている)。今回のロシアのウクライナ侵略に対し“お前が言うな”のアメリカ批判も理があるのも当然であろう。“お前が言うな”の日本代表は、あの無知を絵にかいたようなアベ晋三である。ロシアのウクライナ侵攻は、まぎれもなく侵略である。昔風に言えば“ロシアの帝国主義的侵略”であることは厳然たる事実だ。プーチンが自国防衛のためと如何に強弁しても“帝国ロシアの復権”を夢見た他国侵略であることを消すことはできない。ロシアのウクライナ侵略について、本号で橘川俊忠、住沢博紀、金子敦郎、冨田武、福澤啓臣さんが多角的に論じる。

▶それにしてもロシアのウクライナ侵略、歴史は逆流するのか、繰り返すのかを想わざるを得ない。日本にとってそれは、自らが辿った道ではないか。あの昭和初期から10年代―満州事変から日中戦争、それはまさに日本が満州・中国を〝軍靴“で踏みにじり、侵略し異民族支配した歴史である。”満州は日本の生命線“と満州国をでっち上げ、日本軍を常駐させ(満州の関東軍と称す)。昭和12年以降の中国侵略―日中戦争では中華民国政府(蒋介石国民党政権)を追い出し、首都南京に傀儡政権を樹立する(汪兆銘政権)。蒋介石は南京から内陸部の重慶に逃げ政府を維持。対して日本軍は無差別な絨毯爆撃を繰り返す。これまた明らかな日本の戦時国際法違反。これらは一部軍部の暴走などではない。政党もマスコミも労働組合も、そして民衆も拍手喝さいをして“一億総侵略者・鬼の日本”と化したのである。よく知られ有名な「馬賊の歌」はこう唄う。

“俺も行くから君も行け
  狭い日本にゃ住みあいた
  海の彼方にゃ支那がある
  支那にゃ四億の民が待つ“

 また貧しい地方の農民対策ととして、“満蒙開拓団”が組織された。長野県を先頭に東北などから27万人に及ぶ農民や家族が満州や蒙古、北支に移住したという。開拓ではなく中国の農民から安く買いたたいた農地の分配も多かったという。1945年の敗戦時、ソ連の参戦で逃げまどうことになる。多くの日本軍は農民を守らず先に“転進”(逃げ出す)。捕らえられた農民はシベリア送りとなり二重の辛酸をなめもう悲惨であった。それが日本の歴史なのだ。“五族協和”なる空疎なスローガンの下、中国・満州、蒙古、朝鮮、台湾、東南アジアを軍靴で侵略し植民地支配を行った日本。ウクライナーロシアで起こっていることと約100年前に日本が他国・他民族を侵略・支配し、そして敗れ、辿った道と相似形のようだ。まさに歴史は繰り返すのであり、人間の浅はかさを曝け出している。

 ロシア・プーチンを批判し猛省を促すことは正しい、同時に現在と未来を正しく生きるために過去の歴史に真摯に学ぶことは決定的に重要だ。日本人特有の“のど元過ぎれば”思考は危険。我らの親や爺さんの時代、日本はアジアを土足で踏みにじった侵略者であり、支配者であったことを歴史の真実として自覚すべきだ。そして敗戦。その結果として現在の「日本国憲法」を得ることになる。いま日本国憲法が脅かされている。絶対的な非戦平和の追及を目指す憲法の理念を、まさに今の国際関係にどう生かせるか我らの営為が試されている。

▶浅学菲才な編集子の言ではなく、碩学の言を紹介したい。京都大学名誉教授で『憲法9条の思想水脈』や『キメラー満州国の肖像』の著書がある歴史学者の山室信一さんは「ウクライナ侵略戦争の経過は、日本が1931年の満州事変から敗戦に至る過程とまさに二重写しに見えます・・・ロシアがドンバス地方の二つの『人民共和国』を承認し、武力で拡張していく過程は、満州事変や満州建国から日中戦争への歩みを想起させます。さらに日本は大東亜共栄圏の建設を唱えましたが、プーチンがめざすユーラシア主義による広域支配に重なります」「平和主義にも、相手を上回る軍事力を持つことで平和を維持しようとする武装中立論と、軍備撤廃を説く非戦平和論があります」「世界最終戦争論を唱えて満州事変を首謀した陸軍の石原莞爾は・・・広島と長崎の被爆地を訪れ、核兵器が出現した以上、人類滅亡を避けるには戦争放棄しかないと9条を支持します。戦争の実態を知る軍人が行き着いたのが非戦平和論でした」(朝日新聞オピニオン欄、4月29日)。

▶それにしても、無知で恥知らずのアベ。火事場泥棒的暴論を連発。積極的平和主義に始まり、敵基地攻撃論、核共有の見直し、先制攻撃は中枢部にも、防衛費の2%突破など連日吹きまくっている。こうした自民党の右派、右翼に岸田なども完全に煽られている。自民党の保守リベラル層の退潮も深刻。これに反岸田の悪しき自民党右派の別動隊・維新の会が連動、憲法改正論議の推進から、行き着く先は新自由主義的効率論・自己責任論で「日本の核武装化」を俎上にあげるのではないか(その理屈も目に浮かぶよう。核武装の方が日本に取って安上がりだとか)。また、自民党の麻生に酒を飲まされて喜んでいる、ただの反共主義者、連合会長・芳野友子の愚行も犯罪的、それに一日も早く自民の連立に入れてほしい玉木国民民主党。玉木に対抗して維新との野合にかじを切る前原との確執はもう末期とか。

 一方、野党共闘がうまく行かず苦悩を深める立憲民主、7月参院選の苦戦は必至だが、その“敗北からの踏ん張り”が勝負どころだ。心ある国民は見ている。狼狽えることなく野党の生命線である「政府・権力批判」を徹底して貫徹し、必要なら対案や理念を提起だ。本誌本号の「キーパーソンに聞く」で立憲民主党の辻元清美さん、有田芳生さんがウクライナ情勢に絡み、「危険な敵基地攻撃・核論議、強い野党の存在が戦争を防ぐ」と強調されているのは慧眼である。参院選でお二人の必勝を期したい(比例区での個人名投票)

▶そしてこの5月15日1945年の敗戦後、長く続いたアメリカによる沖縄の支配から施政権返還―本土復帰して50年。本誌では沖縄を重視し紙面化してきたが、沖縄は今、新たに自衛隊を軸に軍事要塞化が進んでいる。米軍の辺野古基地問題も解決せず。自民党や保守派が、またメディアが日本の安全保障環境の悪化・危機を盛んに煽っている。そうならば真っ先に攻撃されるのは、またもや沖縄だ! 復帰50年とは何であったのか、沖縄の人たちとともに本土の人間として、しっかりと考えたい。(矢代 俊三)

季刊『現代の理論』[vol.30]2022年春号
   (デジタル30号―通刊59号<第3次『現代の理論』2004年10月創刊>)

2022年5月3日(日)発行

編集人/代表編集委員 住沢博紀/千本秀樹
発行人/現代の理論編集委員会

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