論壇

受難の時代へ  問われる介護支援専門員

介護労働者の権利のために(その2)―良心貫くケアマネか、サービス抑制の実行者か

大阪市立大学共生社会研究会 水野 博達

1.疲弊するベテラン介護支援専門員

「欠員が一人出て、土曜日も日曜日も働き続けてる。認知症や病気の困難ケースの依頼が殺到してて、私、死にそう。とっても集会で発言する余裕ないわ。」

やっと、連絡が取れた古い友人・Wの電話の声だ。11月に予定した学習会に発言をお願いするメールを送っていたが、返事がなかった。夕方、デイサービスの事業の終わる頃、電話をする。「外出中です。携帯で連絡が取れるはずです」と、事業所の返事だった。彼女に携帯電話をかけ、やっと繋がった。

Wは、在日外国人も多く居住する大阪市内の地域で長く訪問看護の仕事をしてきたベテランのケアマネジャーだ。近年デイサービスを新たに立ち上げた。地域診療所を中核にした訪問看護と訪問介護、そしてデイサービス事業と、その地域では拠点的な医療と介護を繋ぐ事業を展開している。地域の信頼も厚く、困難ケースが持ち込まれる。だから、欠員が出ても休みもなく働き続けることになる。

誰もが、住み慣れた地域で自分らしく生きていける街を作る夢と希望をもって地域で活動をしてきたW。昔から元気で、何処へでも出かけ、高齢者に寄り添い、精一杯できるケアを創り出してきた彼女もすでに60歳後半だ。「私、死にそう」という彼女の声に、改めて介護支援専門員の置かれている困難な状態を思い知らされる。

介護保険制度の「誰もが、住み慣れた地域で自分らしく生きてける」という目標を実現するためには、良心的で援助技術と経験をもった介護支援専門員の存在が不可欠である。しかし、近年、資格を取得し介護支援専門員になろうとする人が減っている。高齢者の人口が増え、介護サービスの需要が増大しているのに、ケアマネジメントの仕事から離職する人も多くなっている。新規の就労がなく、介護支援専門員の仕事も高齢化の波をかぶっている。地域包括センターや介護支援事業所の職員定着率も落ち、欠員状態で事業展開をせざるを得ない状態が広がっている。地域における「草分け」的な人材が、なお理想を捨てずに頑張ろうとした時、「私、死にそう」とWが言うような状態に追い込まれる事態が確実に広がっているのだ。

介護支援専門員受難の時代が来ている。このことを今回は、報告することにする。

2.介護支援専門員は不可欠な存在

介護保険は、法第1条で「加齢に伴って生ずる心身の変化に起因する疾病等により要介護状態」となった「これらの者が尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付」を行うものとし、そのサービスの給付に当たっては、ケアプランに基づいてサービスを提供することになっている。(法第8条の一の24、26、二の16)

さて、介護保険は、従来の措置制度とは異なり、サービス提供に市場原理を導入した。市場原理だからといって、保険料を支払った被保険者は、誰でも介護サービスを受けられるわけではない。需要と供給の関係を市場の自由競争に任せてはいない。介護保険料、サービスの種類とその内容(人員基準、設備基準、提供時間等)、利用料金などについて、細部にわたって国が定め、地方自治体と事業の管理・統制を行う「准市場」だ。

保険事業だから、介護サービスが必要か否か。「保険事故」を有しているか否かの要介護認定審査を受けないといけない。保険者(地方自治体)による要介護(あるいは要支援)か否か、その介護の必要度はどれ程かの認定である。一人ひとりの要介護度を判定する<要介護認定>は、集めた保険財源を被保険者一人ひとりにどれだけ配分するか、しないかを管理・統制する「水道の蛇口」だ。国と地方自治体は、保険財源である「水道の貯水量」を税と保険料でどれだけ徴収するかも決めている。 

被保険者が、介護サービスを受けようとすれば、まず、要介護認定審査を申し込むことになる。要介護認定が下りれば、サービス受給の限度額と利用できるサービスの種類を考えて、サービスを提供してくれる指定事業者を選定し、事業者とサービス内容の調整を行い、契約をすることになる。

要介護認定の申請から、ケアプランの作成、事業者の選定とサービスの調整の一連の過程を被保険者と家族が自力で行ってもよい。所謂「マイ・プラン」策定である。しかし、現実には、介護保険の度重なる改定で制度は複雑化し、サービスの種類の多様化、介護事業者の増大と選択・選定の困難さ、要介護度によるサービスの制限や利用料計算の煩雑さなどがあって、専門的な知識と資格のある介護支援専門員に依頼せざるを得ない。

つまり、今日では、介護サービスを受けようとする場合、介護支援専門員(以下「ケアマネ」と略す)の介在は不可欠となっている。

3.人手不足が押し寄せるケアマネ業務

介護サービスを受ける上で不可欠な存在であるケアマネの現状はどうか。

ケアマネは、同法第7条第5項において「要介護者又は要支援者(以下、要介護者等)からの相談に応じ、及び要介護者等がその心身の状況等に応じ各種サービス事業を行う者等との連絡調整等を行う者であって、要介護者等が自立した日常生活を営むのに必要な援助に関する専門的知識及び技術を有するものとして介護支援専門員証の交付を受けたもの」と位置づけられている。

ケアマネの仕事を大まかに見ると、①居宅介護支援事業所などに所属して、在宅介護支援(ケアプランの作成、サービス事業所の選定、サービス調査等)の仕事 ➁介護施設に所属し、施設でのケアプランを作成しサービスを調整する仕事 ③地域包括センターに所属し、予防介護計画の作成や地域資源の開発などの仕事、④保険者等から委託を受けて要介護認定審査の調査員の仕事の四つである。①の居宅介護の支援の仕事がどんなキツイものであるかは、後に述べる。

ケアマネの年齢構成は、2018年10月の(財)介護労働安定センターの調査によれば、40代が一番多く40.9%、30代が26.7%、50代が26.1%で、平均年齢は50.7歳。訪問介護員の49.8歳よりも高く、高齢化が進んでいる。居宅介護支援事業所のケアマネの従業者数は10万人を超えているが、人材について30.9%の事業所が「不足感がある」と回答している。今後更なる高齢化に伴ってケアマネ人材の不足がより深刻になることが予測される。

ケマネ資格の受験者数が2018年、前年の13.1万人から4.9万人と37.6%に激減し、合格者数も1.5万人から0.5万人と3分の1(合格率21.5%から10.1%)に縮小している。新規のケアマネ数が先細りとなり、人材補給が困難となって来る。

受験者・合格者の減少の理由は、介護職場全体の人材の欠乏と疲弊であり、高齢化である。ケアマネの受験者を送り出してきた介護職場の水源が枯渇しているからだ。かつては、20代後半から40代位までの介護職員がケアマネ資格を求めて大量に受験し、合格率も2004年までは40%~30%であった。2005年から、介護労働者の求人倍率が徐々にあがり、慢性的な介護の仕事の人手不足によって、資格取得の受験勉強の時間的余裕や意欲が介護職場から奪われて来た。

職員の年齢構成(5年刻み)では、訪問介護職員では、45歳未満が13.9%で、一番多いのは65歳~70歳で14.7%であり、介護職員では、45歳未満が42.8%で、一番多いのは40歳~45歳が12.5%、次いで45歳~50歳が11.8%である。これに加えて、合格と更新研修のハードルが高くなった(試験内容の変化、更新研修や主任ケアマネ資格取得などの料金の高さと研修時間の長さ)こともあり、受験意欲が削がれている。結果として、現状では、ケアマネの基礎資格は、看護師が41.7%で一番多く、介護福祉士が35.1%と二番目となっている。

更に、後に述べるが、国、地方自治体(保険者)のケマネ業務に対する統制の強化が進む中で、ケアマネの仕事に誇りとやりがいを見いだせず、離職・退職する傾向が広がりそうである。

4.介護サービスの「穴」埋めをケアマネが

極めて多忙な居宅介護支援の業務は、利用者宅を訪問して、介護の課題を分析することから始まる。①(介護の)課題分析、➁利用者宅の訪問、③ケアプラン作成、④ケアプランの説明と利用者の同意を得る、⑤ケアプランの利用者への交付、⑥ケアプランのサービス担当者への交付、⑦ケアプランの見直し、⑧サービス担当者会議の開催、⑨サービス担当者への意見聴取、⑩介護支援経過の記録、⑪モニタリングと業務が並ぶ。

(財)介護労働安定センターの継続的調査からみると、①の課題分析、④⑤⑥のケアプラン作成後の手続き、そして、⑧の会議の開催や⑩の支援経過の記録と⑪のモニタリングが「時間がない」という理由で、やり残されていることが多い。

ケアマネ一人当たりの担当(常勤換算)している利用者の数の平均は、2005年では37.6人であったが、その後26.9人(2008年)26.8人(2011年)と減少していたが、2014年には、31.6人となり、増加に転じている。こうして、休日出勤や時間外勤務をするケアマネは50~70%で、サービス残業で何とか業務をこなしたり、作業の遅れを取り戻したりすることになる。

問題は、ケアマネは、介護保険の法令が求める業務をこなしているだけではない。ケアマネは、何よりも利用者の日常生活に寄り添って業務を遂行する。だから、必要に迫られて、国が定めた業務を後回しにしてでも対応が求められる雑多な役割・仕事を日々行っている。本来業務でない多種多様な役割を担わざるを得ないのだ。

2018年度に行った「介護と人権の共同調査・研究事業」(大阪市ボランティア活動振興基金福祉課題に取り組む調査研究支援事業)では、「必要に迫られて行うこと」では、「緊急対応」を72%のケアマネが行っていると答えている。「各種手続きの代行」を67.1%が、「安否確認」を54.9%が、「通院介助」46.3%、「介護保険以外のちょっとしたお手伝い」37.8%、「利用者家族の支援」を36.6%のケアマネが行っており、「大掃除や片づけ」も25.6%のケアマネが対応しているのである。

「通院介助」などは、終日時間が取られることもあり、深夜から朝までといこともある。利用者の生活を支えるため、ケアマネは、誰かがせざるを得ない福祉制度間・介護保険サービス間の狭間を埋める役割を当然のように、無報酬で長時間にわたって担っているのだ。このことの意味を押さえておきたい。

介護保険サービスは、高齢者の支援を幾つもの種類のサービスに機能分化して市場化(商品化)した。高齢者のトータルな生活を支えようとすると、制度化されたサービスとサービスの「境界」面に生まれる穴を埋めることが必要になる。この穴を誰がどう埋めるのかを制度設計は無視、ないしは見逃してきた。この制度上の欠陥を高齢者の生活を支えるために、やむを得ず埋めているのがケアマネである。この現場の現実を見もしない学者たちを使って、ケアマネの「力量アップと効率化」や「お世話型のプランではなく、自立支援のマネジメント」と強調する国の姿勢を私たちは批判しなければならない。

また、上記の調査で、超多忙なケアマネに「業務上で困難や疑問に感じていること」を聞いている。(複数回答)

ダントツの一番は、「書類作成の煩雑さ」が84.5%で、「雑務の多さ」が53.5%、「介護保険制度の複雑さ」が48%、「認定審査の結果」が46%となっている。それに続いて「実地指導時の書類偏重」と「介護保険サービスで可能なことの範囲」が42.3%、「(医療上位の)医療連携」が40.8%、「認審査員の調査の仕方」が38%、「自立支援を過度に強調したプランの作成」36.6%と続いており、「事業所の運営方針との板挟み」は、18%と低いものであった。

ケアマネが困難や疑問に感じることを並べてみると、ほとんどが国の介護保険の制度設計とその運用施策が、介護現場の現実から乖離していることを表しているのだ。

5.ケアマネを介護サービスの抑制の尖兵に

ケアマネは、既に述べたように、介護保険のサービスを受ける被保険者にとって、不可欠な存在である。だから、国は、ケアマネジメント業務の在り方を再編・統制することによって、サービス供給の量・質を抑制・管理することに舵を大きく切っている。

ケアマネ業務の管理・統制の責任を保険者である地方自治体に「保険者機能の強化」を義務付け、わずかな「交付金」の飴によって自治体相互に競争をさせる仕組みを一層強化しようとしている。国が定めた評価指標による自己点検・評価で、要介護度の軽減、維持が図られているか、要介護認定の比率が他の自治体と比較して逸脱していないか(全国的平準化=低位平準化)などを図る仕組みである。これらの手法は、本誌2019年春号・19号の「介護保険、変貌する制度の『持続性』」の拙稿において「『軽度者(要介護2以下)』切り捨てへあの手この手の策謀」の節で論じた。

すでに2018年4月には、すべての自治体で、要支援などのいわゆる「軽度者」は、介護保険サービスから地方自治体の責任で実施する「総合事業」へサービスの移行が行われている。この移行・転換を「介護保険からの卒業」等と称して、サービスの切り捨てを強引に進める自治体も現れている。

財務省主導で国は、第8期介護保険事業から介護保険制度の持続性を担保するために要介護2以下の「軽度者」は、介護保険から切り離し、「総合事業」へ移行させよと主張している。当面、「軽度者(要介護度2以下)」の「生活支援サービス」は、有資格者でなくてもできるとして、ボランティアを軸とした「総合事業」へ組み換え、コストカットをする方向へ制度の改変を目論んでいる。

ケアマネジメン業務の再編・統制する国の論理は、「お世話型サービスから自立支援型へ」であり、また、ケアマネジメントの「標準化」である。

既に日常業務の中で、ケアマネは、「自立支援・老化防止プラン」の作成を求められ、「地域ケア会議」等でプランの評価・点検がなされ、助言・援助という名でプラン内容の誘導・統制が始まっている。また、標準化という名目で、訪問介護の回数の抑制も強化している。国が決めた複数回を超えるプランは、報告義務が課せられるのだ。投薬管理や見守りのためなどで一日に数回訪問して在宅生活を維持するためのプランの自主規制をケマネに押し付けている。それらは、「認知症の人とその家族の会」が批判するように、認知症や単身の高齢者の健康で安心・安全な生活を維持することを困難にする。

しかし、国はこの流れを第8期介護保険事業では、一段と強化することを計画しているのだ。

6.ケアマネの良心が問われる受難の時代

介護サービスの本人負担料を2~3割に引き上げることを含めて、ありとあらゆる手段・方法を使って、介護保険サービスの抑制・切り捨てを財務省・国は断行しようとしている。その結果、ケアマネジメン業務を再編・統制する国・自治体の動向や事業経営者の方針に対して、ケアマネの職業的な良心・倫理と仕事への誇りややりがいが問われる時代が訪れているのだ。

問われる幾つかの問題点を見よう。

その一つは、「利用者への説明責任」の拡大である。

サービス提供事業者の選定を含めたケアプランの利用者への説明に当たって、複数事業者のサービス内容と利用者負担の利用料(加算減算による差等)を説明することが義務付けられようとしている。一見それは、利用者がサービスを選択する上で、必要な情報の提供を行うことを強調している様に見える。

しかし、複数の事業者の利用料を説明させることを義務付けることは、ケマネが介護サービスの安売り競争に加担することを義務付けることになる。介護報酬は、サービス内容と水準を引き上げる目的で様々な加算・減算の仕組みが組み込まれている。介護報酬の収入を少しでも増やす手段としてサービス事業者は、加算を得ることをすすめてきた。複数の事業者の利用料を説明させることは、事業者に加算を取ることを抑制させ、さらには、国が定める報酬基準額よりも低い額で提供することを勧める結果に繋がる。この説明責任をはたさなかった場合は、運営基準減算を行うとしている。まさに、サービスの安売り競争に加担することの強制である。

だが、介護サービスの「安売り競争」は、本当に組織されるであろうか。一般に、供給が過剰になっていれば、安売り競争は起こり易い。しかし、介護保険は、介護労働者不足によって、介護ニーズ(需要)に十分答えられない。ケアマネは、サービス提供事業者を見つけ出すことでキュウキュウとしているのが現状だ。サービスを提供してくれる事業所を発掘することが難しくなっているのに、受けてもらえない複数の事業者の情報を集め、説明すると言うことは、ケアマネに苦痛と徒労感を与えるだけである。

その二つは、ケアマネジメントの有料化である。

国は、マネジメントが無料であることが、マネジメントに対する利用者の認識を明確にすることを阻んでいるとする。利用者の「業務の質へのチェックが働きにくい構造」を改めるためにも有料化が必要としている。

介護保険は、公的保険制度であり、被保険者が「尊厳を保持し、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるよう、必要な保健医療サービス及び福祉サービスに係る給付」を受ける権利を法で定めている。生活保護の支給に当たって、ケースワーカーが様々な相談や支援策を検討する。生活保護を受ける住民の権利を保障するためのマネジメントの費用を有料化し、生活保護の給付額から差し引たりはしない。それと同じように、介護保険でマネジメントを有料化することは、この権利を阻害することになる。

むしろ、マネジメント料金の支払いによって、利用者とケアマネの関係が変化し、尊厳を保持し、公正・無私の立場でケアマネ業務を行うことを困難にする。4の「介護サービスの『穴』埋めをケアマネが」の節で述べたように、ケアマネは、業務外の様々な役割を負っている。しかし、その多くは、利用者との力関係によってなされているのではない。公正・無私の立場に立って、利用者の生活を支え尊厳を保持するために不可欠であると感じるから無報酬で行っているのである。関係性が変化すれば、これまでの業務外の様々な役割は、「ケアマネ料金の内だ」と考える人も出てくるので、保険外の仕事が増えかねない。また、過剰で不要なサービスプランを求められることも多くなるであろう。

国は、マネジメントを有料にして費用の削減、収入増を考えているだけで、国が言う「利用者・ケアマネジャー・保険者が一体となって質の高いケアマネジメントを実現する」とは、真逆の事態が生まれることが十分予測されるのだ。

その三つは、マネジメントの標準化である。

国は、今、介護保険関係や医療保険関係のビッグデータを集め、AIを使って「科学的に自立支援等の効果が裏付けられたサービスの具体化」に取り組んでいる。どのようなアルゴリズム(『計算可能なもの』を計算する手続き」)によってビッグデータが演算されるかは、今後問題となる。

介護保険の要介護認定の骨格である1次判定システムは、2000年当時のADL中心の施設介護実践の要素と高齢者の状態像を統計的に組み合わせたコンピュータの演算であった。そのため認知症や精神疾患を持った人の判定には対応できていないことが露呈した。これと同じで、自立支援とはどの様なことなのか、その構成要素は何なのか、その要素の組み合わせは幾通りあるのか、個人の成育歴や希望・願いなどを組み込んだものか、などなどAIを使ったとしても簡単に解は出ない。『計算可能なもの』を計算する訳だから、医療モデルのように因果関係が明快な要素の分析になりそうでもある。個人の多様な生活上のニーズを理解し、納得のいく解が出されるかは、大いに疑問である。

2016年から検討が始まった「ケアマネジメント手法の標準化」では、自立支援・重度化防止を目的とした「適切なケアマネジメント手法の策定」を行うとしてきた。要介護認定の原因疾患の上位である「脳血管疾患」と「大腿部頸部骨折」にスポットを置き、退院後の在宅生活の標準的マネジメントについてアセスメントやモニタリングの「項目」を解析・整理した。この項目でアセスメント及びモニタリングをすれば、適切なケアプランにたどり着けるという手法を目指したのである。

こうした「ケアマネジメント手法の標準化」は、定められた項目をチェックさえすればいい、それから外れるのは良くない、というマネジメンの機械的な画一化になる危険性がある。個人個人の多様な生き方やニーズよりも、設定された(医療モデル型の)項目の道筋に沿ってマネジメントをすることが一般化し、やがてそれに従うことが求められるようになる。これは、ベテランケアマネにとっては、これまで蓄積してきた技能や観察力・洞察力が否定されることになり、仕事への誇りややりがいが削がれることになる。

四つは、居宅介護支援事業の「実地指導のチェック項目の大幅削減」の罠である。

国は、網羅的な実地指導をやめて、そのチェック項目の大幅削減を行うという。これによって、ケアマネの仕事が簡素化されると考えるのは、間違いである。その狙いは、あくまで、実地指導する行政の側の仕事の簡素化であり、重点化である。

27項目の内、「人員」は人員配置等4項目だけ。残りの「運営」23項目を見れば、「利用者・家族への説明・同意手続き」「定期的モニタリング」「サービス担当者会議の開催と担当者からの意見聴取」「集合住宅へのサービスプラン」等であるが、それは、5節で述べた地方自治体の「保険者機能強化」とセットの項目の重点化である。

すなわち、ケアプランの内容の点検・統制は、「地域ケア会議」や生活支援サービスプランの届け出などの別の形で実施できるので、居宅支援事業所の実地指導では、ケアプラン作成過程で家族やサービス提供者へ十分な説明と連携をしているかを問うことである。つまり、サービスの抑制に関わる業務をケアマネジメントの過程でキチンとこなしているかを見ることに重点を置くことだ。例えば、「利用者・家族への説明・同意手続き」で、複数の事業者の利用料を含めて説明していなければ、減算処分になる。「マネジメントの標準化」を進めるための定期的モニタリングやアセスメントができているかなどを点検することである。   

だから、「実地指導が楽になる」のではなく、国の方針に沿って、サービスの「適正化」という抑制・切り捨てをサービス担当者会議の開催などを通じてサービス提供の指定事業者を巻き込み、所属ケアマネが行うように指導することなのである。

7.「良心的なケアマネの会」(仮称)を各地で作ろう

以上見て来たようにケアマネ受難の時代の到来に対して、職業的な良心とケアマネとしてのプライドを守っていくことが求められるようになった。

介護支援専門員協会は、従来ケアマネ有料化には明確に反対の立場を取って来たが、その立場が揺らいでいる。やはり、これまで厚労省に育てられ、その下請け団体のような機能と役割を果たしてきた団体に、現状では、多くは期待できない。

ならば、職業的なプライドを守って仕事をしようとする意思を持ったケアマネが声を掛け合って集まり、共に調査・研究や交流を行い、自らの権利と要求を明確にし、それを社会的に表明することが必要だ。介護支援専門員協会を内と外から改革していく営みである。

みずの・ひろみち

名古屋市出身。関西学院大学文学部退学、労組書記、団体職員、フリーランスのルポライター、部落解放同盟矢田支部書記などを経験しその後、社会福祉法人の設立にかかわり、特別養護老人ホームの施設長など福祉事業に従事。また、大阪市立大学大学院創造都市研究科を1期生として修了。2009年4月同大学院特任准教授。2019年3月退職。大阪の小規模福祉施設や中国南京市の高齢者福祉事業との連携・交流事業を推進。また、2012年に「橋下現象」研究会を仲間と立ち上げた。著書に『介護保険と階層化・格差化する高齢者─人は生きてきたようにしか死ねないのか』(明石書店)。

  

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