コラム/沖縄発

防衛省の忖度と沖縄米軍基地

流通経済大学教員 宮平 真弥

1、連日の沖縄への理不尽な弾圧

2018年3月13日から15日にかけて、沖縄で理不尽かつ不愉快な出来事が続いた。3月13日、沖縄県が国を相手に岩礁破砕の差し止めを求めた訴訟で、 那覇地裁は、県の訴えは裁判の対象にならないと却下した。3月14日、那覇地裁が山城博治さんたち3名の微罪に対して、有罪判決を下し、司法の独立はどこへいったと嘆きたくなる 不当判決が続いた。

そして3月15日、沖縄県収用委員会は「駐留軍用地使用裁決申請事件(普天間飛行場)第3回公開審理」を宜野湾市で実施した。ここからが本題である。 米軍に基地用地を提供するのは沖縄防衛局(防衛省の地方組織)だ。沖縄防衛局が地主から土地を借り上げ、その土地を米軍に無償で提供するのである。地主の中には契約を拒む者も いる。しかし、沖縄防衛局が法務局に供託金を納めれば、契約拒否地主から土地を借りることができてしまうという、あきれた仕組みになっている。年に数回、契約拒否地主と沖縄防衛局との 間で話し合いがもたれるが、これを「公開審理」と称しており、だれでも傍聴はできるので、ぜひ1度聞きに行ってほしい。

辺野古崎から上の内海が大浦湾。反対側の名護地区付近の海が名護湾。
名護湾側の名護漁協が大浦湾の漁業権を放棄し、政府は工事を強行した

今回初めて公開審理に参加したが、そこで、地主側代理人の河村雅美さん(インフォームド・パブリック・プロジェクト代表)の質問で、大変な事実が明らかになった。 河村さんは次のように質問した。すなわち、防衛省が2013年に発表した「沖縄における在日米軍施設・区域に関する統合計画」 (http://www.mod.go.jp/j/approach/zaibeigun/okinawa.html) に、 普天間基地返還のための8つの条件が記載されているが、そのうち「隣接する水域の必要な調整の実施」「施設の完全な運用上の能力の取得」の2点が分かりにくい、具体的にはどういうことか。 これに対して沖縄防衛局の本多宏光管理部長は、水域の調整については「代替施設建設に伴い、キャンプ・シュワブに新設する既存の水域を再編成するために必要な調整」と説明し、 完全な運用上の能力については「代替施設の建設後に普天間を返還する」と返答した。つまり、代替基地を作ってそれが「完全な運用上の能力」を持つまで、普天間基地の土地は返さない とも解釈できるのである。河村さんや地主たちは「辺野古新基地完成後も米軍が『まだ完全ではない』と言い続けるのではないか」、「永久に普天間に居座るのではないか」という内容の質問を たたみかけた。沖縄防衛局から明確な回答はなく、沖縄県収用委員会から5月7日までに回答するようにとの指示があった(『琉球新報』2018年3月16日)。

辺野古新基地建設について、「普天間基地返還のためにやむを得ない」と考えている方が沖縄県内外に多数おられると思う。しかし、「代替施設」を作っても 普天間基地を返還するかどうか怪しくなってきた。「返還条件」といいながら、返還しなくてすむ条項を設定し、あいまいな表現で隠し通そうとしていた米軍、沖縄防衛局。

また、2017年度の第1回公開審理から、地主側は「普天間基地周辺から、高濃度の有機フッ素化合物-PFOS・ピーホスという有害物質が検出されている、 米軍に基地内での保管について照会するなど調査を実施してほしい」と要求しているが、沖縄防衛局からは「米軍は日本環境管理基準に基づいて運用していると我々は承知している」 という意味不明な回答しかない。現に有害物質が検出されているのに、「米軍はきちんと管理しているはずなので大丈夫」とは、実に非論理的である。枯葉剤やピーホスなど沖縄県内の 有害物質については、河村さんのウエブサイト http://ipp.okinawa/category/event を参照されたい。

普天間基地の返還条件をあいまいにして隠蔽しようとする、有害物質が垂れ流されているのに米軍にまともに抗議しない。沖縄防衛局は、米軍になにか 言われるまでもなく、先回りして米軍の立場を慮っている。

2、外務省の忖度-「最低でも県外」騒動

2009年7月に民主党鳩山由紀夫が「普天間基地移設は最低でも県外」と発言、すかさず8月に在米日本大使館職員は、米国の国会議員秘書等約10名に 説明会を実施した。その内容は「日本の民主党が普天間代替基地を辺野古以外に見直すとの公約を掲げているが、それは難しいだろう」というもので、民主党関係者に会ったら合意変更は 難しいと伝えるよう促した。政権交代後、鳩山が首相になると、外務省が作成したと思われる政府文書で、「沖縄からヘリコプター部隊を移設する条件として、沖縄から65カイリ(約120キロメートル) 以内とする基準が存在する」と説明された。徳之島を候補地に考えていた鳩山政権はこれで追い込まれ、「辺野古回帰」を決断する。しかし、2013年、琉球新報の取材に対して、在沖海兵隊は、 「65カイリ基準はない」と答えている。これらはほんの一例で、官僚の数々の「忖度」が、県外移設を阻んだことが知られている(宮城大蔵・渡辺壕『普天間・辺野古 歪められた20年』、集英社。 琉球新報「日米廻り舞台」取材班『普天間移設 日米の深層』青灯社)。

3、沖縄は忖度を吹き飛ばす

沖縄では防衛省、外務省の忖度に負けない動きが活発だ。辺野古ゲート前に500人集まれば、工事を止めることができる。2018年4月23日から28日まで「6日間連続500人で座り込もう」との呼びかけがなされている(https://henoko500.hatenablog.jp/)。 沖縄には、昆布土地闘争、104号線超え実弾演習阻止、安波ハリアーパッド建設など、「非暴力の抵抗運動」で基地拡張、新設を阻止してきた経験がある。辺野古の埋立ても大幅に遅らせてきた。基地を沖縄に押し付けている日米の市民には、結集する意義と責任があろう。

昨年、世界とのつながりで明るいニュースがあった。「辺野古新基地建設は米文化財保護法(NHPA)に違反するとして、日米の自然保護団体などが米国防総省に同法を順守するまで工事停止を求めた『沖縄ジュゴン訴訟』の控訴審判決が米サンフランシスコ控訴裁判所であった。判決は『原告には訴訟を起こす資格(原告適格)があり、請求は政治的でない』として一審の連邦地裁判決を破棄、審理を地裁に差し戻した」(琉球新報、2017年8月23日)。日米の自然保護団体が協力して辺野古大浦湾の自然を守ることに奔走している。 今後の「ジュゴン訴訟」に注目したい。

カンパ要請のお知らせ

漁師も立ち上がった。2017年11月24日、名護市東海岸(辺野古大浦湾)の住民約30人が「名護市東海岸漁業協同組合」(以下、東海岸漁協とする)の設立を 目指し、県へ認可申請した。名護市東海岸の埋め立て予定区域は、名護漁協(多くの組合員は西海岸-名護湾の漁民)が漁業権を放棄し、これを理由に国は沖縄県知事の岩礁破砕許可 は不要と主張し、工事を強行している。東海岸漁協の発起人は、大浦湾の漁師たちで、本来の漁業権者である(なお、稲嶺進前名護市長も相談役顧問に就任した)。これまで主に西海岸の 漁民たちで構成されている名護漁協にのみ大浦湾の漁業権があるかのように扱われていたことが問題なのだ。詳細は、熊本一規さんのウエブサイト http://www.geocities.jp/kumamoto84/ を参照されたい。 法律上、海を工事するにはすべての漁業権者の同意が必要となる。 東海岸漁協が認可されると、埋立て工事に影響を与えるだろう。認可するのは沖縄県だが、東海岸漁協に対して財政の改善などを求めているといわれる。権利を侵害されている漁業権者に たくさんの人たちが協力することで、大浦湾の自然を守り、持続可能な海の利用が実現する。東海岸漁協は以下の金融機関で寄付を募っている。 振込先「名護市東海岸漁協設立 準備委員会」、 沖縄銀行名護支店・普・1738019、琉球銀行大宮支店・普・628244、ゆうちょ銀行店番708・普・2030222。

みやひら・しんや

1967年、沖縄県生まれ。東京都立大学社会科学研究科博士課程(基礎法学)満期退学。現在、流通経済大学法学部教授。専門は日本近代法史(入会権、水利権、温泉権等)。著書に、『リーガルスタディ法学入門』(共著、酒井書店)、『部落有林野の形成と水利』(共著、御茶の水書房)、『現代日本のガバナンス』(共著、流通経済大学出版会)など。

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