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『資本主義の終焉と歴史の危機』(水野和夫著 集英社新書、2014年)

歴史の危機に「成長主義」を鋭く批判
―「水野史観」の集大成

蜂谷 隆 経済ジャーナリスト


出だしからドキッとさせられる。

「資本主義は死期が近づいているのではないか」

資本は、フロンティアを広げながら利潤率を高め、自己増殖を推進していくが、BRICsなど新興国の登場で、そのフロンティアがなくなってきているため、行き詰まっているというのだ。

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水野氏は、銀行系シンクタンクのエコノミストから民主党政権時代の経済政策のブレインとして活躍、現在は日本大学で教鞭をとっている。同氏は10年前に「100年デフレ」(日本経済新聞社)を出版、「現在のデフレは歴史的必然」とする同氏の見方は、日本経済のデフレ論争に大きな波紋を投げかけた。それから10年、8世紀から9世紀という長い世界史の時間軸の中でとらえる「水野史観」は、本書を読む限り、ひとつの理論として集大成しつつあるように思う。

水野氏が本書で強調している点は以下の3点である。ひとつは、「無理やり利潤を追求すれば、そのしわ寄せは格差や貧困という形をとって弱者に集中」する。しかも、「圧倒的多数の中間層が没落する形で現れる」という点である。人々を豊かにするための成長政策は、逆の結果を生むというのだ。世の中に蔓延する「成長教」に対して警鐘を乱打している。

二つ目は、成長著しい新興国の近代化についてである。BRICsなど新興国が成長を続けることは、歴史の流れからすれば、皮肉にも「資本主義システムが「限界」に向かって、さらにスピードをあげる」ことを意味すると指摘している。しかも新興国の近代化は、先進国並みの豊かさを享受することなので、原油などのエネルギーの需要が飛躍的に拡大し、エネルギー価格は高騰する(「価格革命」と指摘している)。先進国も高いエネルギーで新興国向けに安い製品を売らざるを得ない。ここにも行き詰まりがある。

三つ目は、資本主義システムが終わりに近づいているが、「脱成長モデル」の必要性を唱えていることである。「ゼロ成長社会」あるいは「定常状態」という言葉に置き換えてもよい。「ゼロ金利、ゼロ成長、ゼロインフレ」が長く続く日本は、「定常状態」に最も近いところにいる。このポジションをアドバンテージとしてとらえ、生かせと主張している。

日々我々は、「経済成長」を前提にした空気の中で生きている。経済論争はその最たるものだ。もちろんこうしたことに対して批判する人も少なくない。日本経済だけでなく時代そのものが行き詰まり状況になってきていることもあって「定常型社会」論を主張する人は増えつつあるように思う。水野氏もこうした論客の1人には違いないのだが、水野氏の特徴は、やはり大胆に「資本主義は終焉する」と言い切っている点であろう。

さて、そこで多くの読者が聞きたいことは「資本主義の次に来るシステムは何か?」ではないだろうか。同書では「『より速く、より遠くへ、より合理的に』という近代資本主義を駆動させてきた理念もまた逆回転させ、『よりゆっくり、より近くへ、より曖昧に』と転じなければなりません」と述べ、新しいシステムの理念のあり方を示唆している。ただ、これが新しいシステムの理念なのかどうかまでは言及していない。

次の著作では、是非とも新しいシステムに言及していただきたいものだ。

(はちや・たかし)