コラム/今日この頃

架空請求詐欺被害の顛末

皆さんもくれぐれもご用心

本誌編集委員 池田 祥子

「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「かあさん助けて詐欺」など、巷で盛んに騒がれている。私もまた、それを知らないわけではない。初めの頃は、私自身、そういう詐欺に騙されるのは、「騙される方が悪い」「被害者は愚か者だ」と思っていた節がある。しかし、親しい友人が「娘の名前を騙る“父さん、母さん、助けて詐欺”」にもう少しで引っかかる所だった時に、「いや~、私がそんな詐欺に騙されるなんて夢にも思っていなかったのに・・・」「人間、分からないものだね~本当に冷や汗出たし、心配して動き出したんだよ、危なかったな~」としみじみ語るのを聞いた。

そうか、「敵もさるもの」。このご時世に、ありとあらゆる情報を利用して、人間の心理も研究?して、日夜研鑽に励んでいるのだな・・・と改めて思ったものだった。それにしても、やはりこの3月10日以前、「詐欺」事件は私には遠かった。

事件の発生―3月10日 13:59

この日は土曜日。珍しく家でパソコンを開いていた。ケイタイが鳴ったので見ると、SMSが届いていた。

「コンテンツ利用料が未払いです。本日ご連絡無き場合、少額訴訟の手続きに移行致します。 窓口 03-6368-5006」 

後から、家族や周りの友人たちから言われたことは、「こういう得体のしれないメールに手を出すのは馬鹿。詐欺だというのは明白!」というものだった。

しかし、「利用料が未払い?」「少額訴訟?」身に覚えもないし、大体意味が分からない。窓口の電話番号が明記されているし、私は迷わずテルしたのだ!(ここからが問題の始まり)

池田:心あたり全くありません。何のことだか、未納金についても文書でもらわなければ納得できません。
田中(と名乗る男性):こちらはあくまでも収納代行です。お客さんの事情は先方との間のことです。私たちに言われても困ります。私たちは、お客さんに今日の3時までに未納金を払ってもらうこと、払ってもらえなければ裁判に移行する、その手続きをするだけです。

(~~~~「コンテンツ利用料」とは何か? それは、動画や音楽を取り入れるオプションのサイトだとか・・・そんなのは知らない、お客さん、それは消費者の責任ですよ、など、延々とやり取りが続く)。途中で、私が黙ってしまう時間が続いた時に、その田中は声を荒げて「何で分からないんですか!」そう言った後で、すぐさま、「いや、ちょっと感情的になってしまって失礼しました」と謝って来た。・・・そして、

田中:じゃ、払ってもらわなければ裁判に切り替えます。いいですね。裁判になると年金も一時ストップされます。

(ここで、「はい、どうぞ裁判にでも回してください!」とキッパリ言いたかったのだが、ひょっとして、ネット上で何かの契約ボタンを押したかもしれないという自己不信と、万一裁判が始まると、韓国行きを控えているし、休めない会議もあるし。しかも万々一裁判に負けたらお金の負担も出て来るし、年金は命綱だし、困るよな~という思いがよぎって、何とも 煮え切らない沈黙を続けていた)。

田中:(3時まで、時間がなくなってくる。)お客さんがそれほど抵抗されるというのなら、こちらで少し調べて見ますから、しばらく待っててください。
田中:いま調べましたら、この一年間、お客さんはこのコンテンツを一度も使用していないことが分かりました。ということは、この契約はウイルスによるものか、あるいは事故ですね。そうなると、契約そのものの不成立ということになりますので、この未納金はナシということになります。
池田:そうですか!よかったです。初めからそう言ってたんですが。だったら、この未納金の支払い自体も必要ありませんよね。
田中:いえ、そうではありません。まだ、分かってもらえないんですね。私たちは収納代行を任せられている立場ですから、今日の3時までに、一旦お支払いして頂かなくては次のステップに入れません。

ということで、この「架空の未納金」は、一旦コンビニの「セブンイレブン」に払い込んだ後で、払い戻してくれる、ということになった。時間は「3時」まで。間に合うか?

この間、正直に言って、「これはひょっとして詐欺?」と思わないわけではなかった。胸が苦しくなった。それでも、13桁の番号を知らされ、払込先が「Amazon.co.jp(収納代行ウェルネット)」と言われ、もう後には戻れない、と観念した。

     払込票番号 7191-03724-6172

     未納金   298,000円

ただ、なおも変だな~と思ったのは、「コンビニで払い込みが終わるまで、ケイタイを切らないで欲しい」と言われたことだ。「どうしてですか?」と聞いたら、「3時までに払い込みを終えて欲しいので、お客さんと確実に連絡をとれる状態にしておきたいのです。ケイタイを切ると、他の用件が入り込む可能性があるし、そちらにかかりきりになると困るのです」。

コンビニの「セブンイレブン」でその13桁の番号を示すと、すでに「イケダサチコ様」宛ての領収書ができていた。それでも、お金を手渡す時に、レジにいた若い女性に「こういう形の詐欺はありますか?」と聞いてみた。その彼女は首を傾げただけだった。胸に「リー」という名札をつけていた。韓国か、中国の人かな・・店のマスターだったらよかったのに・・・。

「これは詐欺!」だという確信

田中とのケイタイでのやり取りの最後は、「あと、20分か30分後に、お客様への返金の日にちが分かりますので、もう一度ご連絡します」というものだった。

払い込んだ後、なおも半信半疑。もうこれっきり連絡はないのでは・・・とも思った。

ところが、ほぼ20分後にテルあり。今度は 03-6368-5834。名前は「木村」と名乗った。

田中も木村もよくある苗字だが、どちらも20代後半から30代後半の「若い」声らしかった。木村の方が、どちらかといえばおとなしい声色だった。

木村:お宅様の銀行口座に3月20日、一部手数料が引かれますが、返金されることになりました。
池田:それは、有難うございます。
木村:ところで、お客様の状況を調べましたら、同じようなケースがあと2件出てきました。1件は287,000円。もう一件は198,000円です(合計485,000円)。これも、同じように処理させていただきたいのですが、よろしいですか?
池田:(何ということ!)はい・・・(仕方ないですね・・・)
木村:先ほどの未納金については、手数料を差し引いた額の返金になりますが、この2件については、未納金全額の返金になるよう手続きをいたします。ただ、お支払いただくのは「セブンイレブン」でなければできない上に、一件の限度額がありますので、この金額では、あと2軒の「セブンイレブン」を見つけていただきたいのです。え~と、鷺宮には駅前にもう一軒ありますが・・・あと一軒、ちょっと調べますね。
池田:鷺宮には、あとは「ファミリーマート」くらいです。「サンクス」は代わりましたし。・・・いいですよ、阿佐ヶ谷にバスで出ましょう。阿佐ヶ谷には軽く2,3軒はありますから・・・。

こうして、私は杖をつきながらバス停まで急いだ。ただ、急ぎながらもやはり腑に落ちない思いは募った。それで、木村に訊ねてみた?!

池田:あの~これは詐欺ではないのですね?
木村:はい、今はいろいろな形の詐欺が横行していますが、私どもはそのような被害にかかるお客様へのヘルプの仕事をしています。
池田:そうですか・・・疑うようなことを言って失礼しました。

そして、ケイタイを閉じたら、すぐに木村からテル。「池田さん、ケイタイは切らないでください。」「アラ、切っていませんよ。フタをしただけですが・・・」「あ、そのケイタイはフタをすると切れるんです。」「え~、フタをしないまま持って行くんですか!」

バスはすぐに来た。乗って10~15分くらいか。座席に坐って周りの景色を見ながら、私はやはり「我に返った」のだろう。

いくら何でもおかしすぎる。あれほど焦った「3時まで」というのはどうなったのか?先ほどのお金と追加のお金と合わせると、私にとっては大金じゃないか!そうか、30万円近くのお金を気前よく振り込んだ私は「いいカモ」だ。足元を見られたな・・・。あと2件ありましただと?その内容は言わないままだったし。そうか、ケイタイを切るな、というのは、家族や警察に連絡するのを防ぐためなのだな・・・

そう確信した私は、木村と繋がっているケイタイを持ったまま、阿佐ヶ谷の交番に飛び込んだ。木村は木村で驚いただろう。いきなり警官が返事をして、相手のことをいろいろ詮索し始めたのだから。(この直後、木村の03-6368-5834は、先方が直ちに抹消したようだ)。

その後は、中野区の野方警察署に行き、詳細を話し、そこで Amazon の「カスタマーサービス」に連絡をした。警察の受理番号「281」を告げると、Amazonの電話応対者(坪井、二度目は高橋)は、242,027円の返金を約束した。差額の 55,973 円はどうなったのか、私が首を傾げていると、刑事たちは、「返って来るだけでもラッキー。ここは、これ以上何も言わないで返金してもらってください」と。詐欺と分かっていながら、動きは鈍いな~と思いつつ、もちろん七、八割でも返って来るのは有難いので、その場は素直に従った。そして、約束通り、アマゾンからは3月22日、言われた金額は返金された。

その後の経緯

返金分が私の口座に戻った後、私は改めて中野区野方警察署刑事課に「被害届」を出した。被害届番号は「37」だ(3月27日)。

そこで分かったのは、最初の田中の電話番号 03-6368-5006 もまた、先方が抹消したようで、警察が辿ろうとしてもできなくなった、ということだった。

それと前後して、13桁の「払込票番号」がはっきりと分かっている訳だから、戻って来ない 55,973円はどうなっているのか、調べれば分かるはずだと思い、ネット上でAmazonに問い合わせた。

「3月22、約束通り確かに 242,027 円返金を確認しました。その限りでは誠実な対応ゆえ、感謝です。ただし、詐欺被害において、55,973 円の『手数料』は法外だと思います。ゆえに説明を求めます」(3月27日)。

それに対する Amazonカスタマーサービス泉氏からの返答は次のようなものだった。

「お客様から教えていただいた振り込め詐欺の件、当サイトで保全できた金額242,027円をお客様の銀行口座へ返金するよう手配いたしました。/しかしながら、55,973 円は当サイトが『手数料』として頂戴したわけではなく、振り込め詐欺を計画した第三者が既に不正利用しており、保全できなかった金額でございます。わかりづらい点があり、ご心配をおかけしておりますことをお詫びいたします。この 55,973 円につきましては、当サイトで返金などをお受けすることができません。お手数をおかけいたしますが、警察など第三者機関へのご相談をお願いいたします。」

その後、中野区や新宿区の無料法律相談で複数の弁護士からの助言を得て、再度、Amazon に次のような質問を出した(4月2日)。

1 「第三者が不正利用」とあるが、詐欺犯が引き出したということか。
2 詐欺犯ではなくウェルネットが「手数料」名目で引き出した可能性はないのか。
3 被害者(池田)は13桁の支払証(受取人はウェルネット)を保管している。この13桁の番号に基いて追跡調査はできないのか? その時の引き出し記録は残っているはずだ。
4 この辺りの事実関係の詳細を具体的に説明してほしい。
5 ウェルネット自身は全く関与していないのか?この13桁の件に関して、アマゾンからウェルネットに問い合わせしてほしい。

しかし、Amazon からは、折り返し次のような返答があっただけである。

「誠に恐れ入りますが、当サイトは調査部署でないことや、全ての参加者の個人情報を保護する必要があることから、これ以上の調査を承ることができかねます。/本件に際しての追加のご相談は警察などの第三者機関へお申し立てくださいませ。また、ウェルネットにつきましても当サイト同様、手数料を頂戴することは一切ございません。」

このやり取りから分かるのは、「詐欺犯にも個人情報保護が適用される」というアマゾンの企業態度である。それは「騙される被害者は愚かである」という切り捨ての態度にも通じ、私には、非常に反倫理的な企業態度だとしか思われない。したがって、いま一度、アマゾンのトップに対して、3月10日の13桁に関するお金の出し入れを調査するよう申し入れようと思っている。同時に、詐欺犯に振り込んだお金の7,8割が、なぜアマゾンに「保全」できているのか、さらに、「明らかな詐欺犯に個人情報保護を適用する」という企業態度の問題性をも問いただしてみようとも思う。

さらに、「収納代行ウェルネット」社に対しても、アマゾンの応対を引き合いに出しながら、次のような要望を文書にしたためて郵送した。

「(経緯その他略)ところで、詐欺犯は貴社の名前を騙りました。騙られた貴社に責任がないのは承知しております。その上で、先の13桁の『7191-03724-6172』を手がかりにして、貴社の方で調査をしていただけるよう要望いたします。

3/10の午後3時、この13桁の番号で振り込まれたお金の一部が、ウェルネットの名前で引き出されたのか、あるいは、引き出したのは、どのような別の『名前』の個人なのか会社なのか・・・貴社もまた、名前を騙られ、企業としての信頼を失くすという意味で『被害者』だと思います。何とぞ、よろしくお願いいたします」。

この顛末記を書いている4月15日、またもや詐欺犯からのテルが届いた。番号は03-6741-7404(今度はメールではなくいきなり電話だ)。ネットで調べると、この電話番号による詐欺行為は4月12日から突然増えている。私の個人情報はすべて詐欺犯に教えてしまっているから、「いいカモ」なのだ。十分に注意しながら、警察にも4月15日の電話の事実と電話番号を知らせようと思う。アマゾンとウェルネット社に詐欺犯割り出しの協力を要望しつつ、やはり、警察にもっと本気で動いてもらいたいと思っている。みんなに呆れられながら、せっかくここまで明らかな詐欺犯の手がかりをつくったのだから。

この間、札幌市の70代の女性が 2,500万円の詐取被害―3月15日。世田谷区の70代男性が 2,300万円の特殊詐欺被害に遭ったと報道されるー4月2日。これまでだったら、「こんな大層なお金がよくあったもんだ・・・」などと、平気でうそぶいていたかもしれないが今は違う。被害者の深刻な状態が痛ましいし、何よりも詐欺犯への怒りが募る。だからこそ、警察に対しても、ただ「警告」を発するだけでなく、具体的に詐欺犯撲滅のために、知恵と力を使ってほしいと思う今日この頃です。

いけだ・さちこ

1943年、北九州小倉生まれ。お茶の水女子大学から東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。前こども教育宝仙大学学長。本誌編集委員。主要なテーマは保育・教育制度論、家族論。著書『〈女〉〈母〉それぞれの神話』(明石書店)、共著『働く/働かない/フェミニズム』(小倉利丸・大橋由香子編、青弓社)、編著『「生理」――性差を考える』(ロゴス社)、『歌集 三匹の羊』(稲妻社)、『歌集 続三匹の羊』(現代短歌社、2015年10月)など。

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